――ここは、どこだ?
んぉっ、なんだ!? 身体が動かねぇ!
「おーい! 助けてくれぇーッ! ……おーい、誰かいねぇのかぁあ!?」
必死に叫んでも、一面を囲む断崖絶壁に響くだけで、誰かにこの声が届くとも思えねぇ。どうすりゃいいんだ、一体俺に何が起こったんだ。
こんな砂漠のド真ん中で、首から下を埋められてるなんてよ。
遡ること4日前。
「なぁドーン、この装置はどこに置くんだい?」
「ウォルドンさん、シーン21のロケハンについてなんですが」
「監督、ミックスジュースが入りました。どうぞ」
現場を一歩進むごとに、色々な奴が話しかけてきて忙しない。日本では
聖徳太子って歴史上の人物が、一度に10人の声を聞き分けたというが俺は絶対に嘘だと思う。どう頑張ったって2人くらいが限界だろ。
1つ1つ端的に答えながら、俺は現場に必ず設置されてあるマイチェアを見つけると、どっしりと腰を下ろした。受け取ったジュースを恰幅のいい腹へと流し込み、気合いを入れる。
「さぁ皆、今日もよろしくな!」
高らかに叫んだ号令への応答が、新作映画の撮影真っ只中のキャニオンランズに響き渡った。
今日のロケ地である『デッドホースポイント州立公園』は、アメリカのユタ州にある有名な観光スポットだ。グランドキャニオンのような赤い岩の大地と、600メートル下を流れるコロラド川が見どころだろう。
特に夕日が有名で、赤く染まった絶景は一度目にしたら一生忘れらんねぇもんだ。映画監督になると決めてから、ずっとあの夕日をバックに撮ることが俺の夢だった。
あぁ。映画界に彗星の如く現れ、ヒット作を何本も生み出す期待の新星ディレクター、ウォルドン・クランクたぁ俺のことだ。親しい奴は〝ドーン〟と呼ぶが、好きに呼んでくれりゃ構わねぇ。
パーソナルアシスタントにお代わりのジュースをバナナ多めで頼むと、撮影準備に取り掛かった。
「よーし! 今回は、主人公と甥が秘宝の地図を頼りに砂漠を彷徨うところから、地底遺跡への入り口を見つけるまでのシーンだ。カリーナ、調子は万全かい?」
「えぇ、勿論。本当に冒険が始まるみたいで、ワクワクしてるわ」
赤みを帯びたカッパーブラウンのウェーブヘアを揺らし、一人の女性が少し興奮気味に答える。小麦色の肌に、露出度高めのアーミーな衣装に身を包んだ姿が、なんとも色っぽい。
彼女はカリーナ・デュヴァル。本作の主人公を演じる、ハリウッドの人気女優だ。ダメ元のオファーだったが、意外にもすぐに承諾の返事が来て驚いたもんだ。どうやら俺の前作を見てファンになったとか。
「あと……ん? おい、レオンはどこ行った? 撮影が始まるってのに」
もう一人の主要人物の姿が見当たらず、辺りをキョロキョロした。
イタズラ好きのアイツのことだ、きっとどこかに隠れ――。
「やぁ監督! ここだよ~」
「ッぷぎゃァアアア!?」
突如、足の間から子供の顔が現れて、俺は椅子から転げ落ちそうになった。
足元から脅かすのは流石に反則だろ。
「レオン、勘弁してくれッ! 心臓が止まったらどうすんだ」
「あっはっは! ごめんなさーい、もうしないよ」
椅子の下から這い出した少年は、零れそうなほど大きな蒼い目を細めて笑った。
このガキはレオン・ラングレー。主人公の甥を演じる7歳の子役だ。ブロンドヘアにコバルトブルーの瞳、鼻周辺のそばかすが可愛いと人気があるためオファーした。
役者としては大人顔負けだが、普段はトンでもねぇイタズラ坊主で手がかかる。俺にも同じくらいの息子がいるが、こんなに手を焼くもんか? しばらく会ってないから分からねぇが……家族に構ってる暇はない。今は映画に集中しねぇと。
「レオーン? あんまり監督を困らせちゃダメよ」
カリーナに宥められると、レオンは大人しく言うことを聞く。ガキでも男なら美女に弱いってか?
ようやく役者二人がアシスタントと立ち回りの確認を始め、待っている間に俺は煌々と輝く太陽を見つめて唸り声を上げた。
いま撮っている映画は、トレジャーハントものだ。考古学者兼冒険家が、砂漠に埋もれた帝国の在りかを記す地図を見つけ、秘宝を求めて甥と共に冒険へ出るというストーリーである。そんな冒険映画を撮影するには最適の天気だが……。
「ドーン! オッケーだ、始めよう」
「お、おう。じゃあシーン17……、アクション!」
煮え切らない気持ちの中、俺の号令でカメラが美女と少年を追いかけ始めた。
地図を片手に断崖の岩々と乾いた大地を前にして、息を飲む二人。カリーナとレオンは快適な5月の気候の中で、さも真夏の炎天下を彷徨っているかのような演技を披露した。霧吹きで汗を演出しているが、こっちまで蒸し暑く感じる。
疲弊した二人が砂漠の中で、水筒の水も底を尽きて途方に暮れるまでが、序盤のこのロケ地での撮影だ。
ここからの展開は、地底遺跡へ繋がる秘密の扉を発見する流れだ。突然の嵐で舞い上げられた砂漠の下に扉が現れる仕掛けだが、これはスタジオでグリーンバックを使って撮影し、VFXを駆使して仕上げることになっていた。
『
Visual Effects』は、現実の映像にCGを合成する視覚効果のこと。映画業界でいち早く取り入れられたこの技術は、最近ではどこまでが実体か分かんねぇくらい高精度だ。
凄いもんだが俺はグリーンバックでの撮影は、つまらないから好きじゃねぇ。やっぱり
本物を撮るのが醍醐味ってもんだろ。
「皆、お疲れさん! 一旦メシにしよう」
ひとまず撮影を切り上げて、食事が用意されている会場に足を運んだ。近づくにつれ香ってくる良い匂いに、腹の虫が盛大に合唱を始める。ウチは豪華に料理人を雇っているから、毎回出来たての食事を味わうことができると人気だ。
ま、そうしたのは俺が
コレを食いたいからなんだが。
「監督、相変わらずリブアイっすか?」
「うわ~、美味しそう! 私も食べちゃおっかなぁ」
「カリーナが食べるなら僕も食べる~」
鉄板焼きの前で待構えてる俺の姿を見て、続々と他の皆も後ろへ並んでいく。
リブアイステーキは俺の大好物で、毎日ほぼ欠かさず食っている。〝リブアイ〟とは牛の背中側、リブロースの中心部分にある肉のこと。柔らかくて、脂肪が多くジューシーで……考えただけで涎が出ちまう。
「カリーナは羨ましいぜ、こんなん食っても全然太んねぇから」
「ははっ、監督とは真逆だね」
レオンのツッコミに周囲がドッと沸く。確かに、俺は腹の肥やしになる一方だ。
……ってオイ。
皆、好きな料理を取り、大テーブルを囲んで食事を楽しんでいる。俺もリブアイを豪快に頬張っていると、アシスタントディレクター(AD)がこのロケ地での撮影について確認をしてきた。
「ドーン。ここでの撮影はあと夕日だけだと思うが、どこか撮り直したいところはあるか? なければ早く進んでるから夕日を撮り次第、明日以降の使用を解約するが――」
「ダメだ! もう少し待ってくれッ!」
思ってたよりも大きな声が出て、賑やかだった空気が一瞬にして止まる。しまったと思いすぐに詫びると、皆は再び歓談を再開した。その様子に胸を撫で下ろし、ADとの会話を静かに続ける。
「残りの契約日数で雨が降るかも知れねぇ。それまでは待ってくれ」
「もしかして、あのシーンをロケにするつもりか? 無茶だ、この辺りは雨なんてほとんど降らないんだぜ? ましてや嵐なんて」
ADは呆れているが、どうしても諦めたくなかった。彼の言うとおり可能性は限りなく低いだろうが、決してゼロじゃねぇ。雨だけでも降れば巨大扇風機で暴風を起こして嵐にすりゃいい。一番いいのはハリケーンが来ることだが、流石に嵐の中の撮影は危険だしな。
「んなこた分かってるが、そこを頼む!」
「……分かったよ。ただし、あと4日のうちに降らなかったら諦めてくれよ」
頑なにこだわる俺に、ADは盛大に溜め息を吐くも了承した。
こうして嵐のシーンは、天気待ちということになった。
この日の夕暮れ。ついに長年の夢を叶える時が来た。
燃えるように赤く染まる渓谷をバックに、ずっと思い描いていた場面を見ている俺。紫から朱に混ざる空のグラデーション、役者の顔へ徐々に落ちてく影。どれをとっても最高だ。
先にエピローグを撮るのは心境的にどうなんだと思ったが、ここも役者の力で冒険の終わりを違和感なく演出できた。あとこの
名監督の采配が抜群だという点も忘れてもらっちゃ困る。
無意識に溢れてきた涙を拭いながらカットを掛けると、周りからは拍手が巻き起こった。まだ撮影自体は山のようにあるが、良い映画ができると確信した瞬間だった。
なんだか、このまま雨も降りそうな気がしてきたぞ。
――だが、その予感は的中しなかった。
次の日も、また次の日も爽やかな青空が広がるばかりで、雨が降る気配は一向になかった。
あっという間に3日が過ぎ、最終日。今日も朝からピーカンなお天気だ。
俺と同じで太陽も働きづめだな、少しは休めよ。
「だから言っただろ? 待つだけ無駄だって」
「うるせぇ、まだ今日は終わってねぇぞ。……ちょっとコーラ買ってくらぁ」
ADの小言を一掃し、観光案内所にある売店へと向かう。ムシャクシャする時は、炭酸で頭をスカッとさせるのが一番だ。
キンキンに冷えたコーラとポテチを購入して、朝食代わりにテラスで一人貪り食った。
他のメンバーは別スタジオで、地底遺跡の探索シーンを撮影している。美術チームが製作したセットを見たが、なかなかのクオリティだった。他の撮影が順調に進んでいるだけに、嵐シーンのみ思いどおりにいかないことが歯痒い。
「クソ、スカイブルーが嫌いになりそうだぜ」
皮肉にも高層ビルの類いがない突抜けた景色だからこそ、赤い岩の大地に映える青は目に染みるほど眩しく、今の俺には疎ましさしか感じない。しかもよりによって、今日は空と同じ色のシャツを着ちまった。今すぐ破って脱ぎ捨てたいところだが、露出狂で捕まるのは勘弁だ。
そう苦悩している中、俺の独り言に反応した奴がいた。
「ヒドいなぁ。空色は僕が一番好きな色なのに」
「ぬぉ!?」
いつの間に現れたのか。金髪の少年が渓谷を背に、テラスの柵へ座っていた。
一瞬レオンかと思ったが、アイツはスタジオにいるはずだ。なにより目の前の少年からは、あのガキにはない神々しいオーラを感じた。衣装のような格好をしているのは、コイツも役者か何かってことか?
「ななななんだお前。んなとこ座ってたら落ちるぞ!?」
「平気さ。オジサンこそ、スカイブルーが嫌いなんてよく言えるよ。そんなシャツ着ておいてさ」
信じられないと言わんばかりに呆れた顔をしたガキは、ヒョイと軽やかに柵から降り立つ。超絶に綺麗な顔立ちだが、レオンに劣らぬ生意気さで反射的に警戒した。近頃のガキは皆こうなのか?
「もう、あっち行ってろ」
シッシと追い返そうとするも、ガキはクスクスと笑うばかりで去ろうとしない。
朝から機嫌が悪い俺は腹を立てたが、コイツの次の言葉で固まることになる。
「いいの? 僕を追い返して。折角オジサンの願いを叶えてあげようと思ったのに」
「……願いだと?」
「そう。オジサン、嵐が来るのをずーっと待ってるんでしょ?」
全てを見透かしたような目を向け、可愛らしく首を傾げる少年。ロケで俺がここに来てからずっと見ていたんだろうか。いや、それより願いを叶えるたぁどうゆうことだ。
「大人を馬鹿にするなよ。天気を変えるなんて、できるわけねぇだろ」
「できるさ。だって僕は空の番人なんだから」
空の番人だぁ……? このガキ、どこまでからかいやがる。
「いいよ、信じないなら。違う人のところへ行くだけだし」
そう言ってガキは再び柵の上に立つと、あろうことか向こう側へ飛び降りた。
おいおい!? この先は崖だぞ、コイツ何考えて――。
「……お?」
血相変えて覗き込んだが、そこに人らしき影は見当らなかった。代わりに正面――つまり空中へ顔を上げれば、あのガキが何食わぬ顔をして浮いていた。
こいつぁどうゆうトリックだ。まさかスタッフの誰かが俺に嫌気を差して、ドッキリでも仕掛けに来たんじゃねぇよな。そう思って目を懲らすが、ガキを浮かせている装置も、透明な板のようなものも見当らなかった。
「どう、信じる気になった?」
「いや俺は……」
目の前で起きていることに動揺が隠せない。そんな俺を他所にガキは俺の腕を力強く握った。
「いいから番人の間においでよ、オジサン」
ガキが嬉しそうに笑ったのを最後に、俺の意識は次第に遠退いていった。
次に目覚めた時、俺は再び仰天した。
まさか自分が、空を飛ぶ日が来ようとは。
「なんだぁ!? ここは」
「やっと気づいた。なかなか起きないから心配したじゃん」
驚きのあまり座っていた椅子からひっくり返ったところで、俺自身が浮いているわけではないと分かった。足元には分厚いアクリルのような床があったのだ。
なんだよ、やっぱりトリックがあったんじゃねぇか。それにしちゃ、外の様子はどう見ても空の上なんだが。
「空の番人なんだから当然だろう? ここが僕、メネル様の拠点さ」
メネル、それがこのガキの名前か。
って、んなこたどうでもいい。困った、こんな奴の相手してる場合じゃねぇのに。
するとメネルはあからさまに深い溜め息を吐き、正面にポツンと置かれている玉座に腰掛けると、俺の目の前の机を指さした。
「せっかちな人だなぁ。じゃあ早くそこにサインしてよ、そしたら地上へ帰すから」
「サイン?」
俺をせっかちというメネルも、どこか強引だ。とりあえず椅子に座り直し、指示された紙をマジマジと見た。仕事柄こうゆうのは、ちゃんと目を通すようにしている。
そこにはサインした時点で天気変更の契約成立になること、報酬が必要なこと、メネルの記憶は抹消されることが書かれていた。しかも成立後はキャンセルも利かねぇとある。狙いは〝報酬〟か。
「おい、この報酬ってのは何だ」
「へぇ偉いね、ちゃんと読むんだ。報酬はオジサンの一番好きな食べ物だよ。あるでしょう? とっておきの好物が」
メネルは不敵な笑みを浮かべた。ははーん……コイツ、俺がリブアイを食うところを見てたってわけだな。
お前がその気なら、こっちにも考えがある。これが現実でも嘘でも嵐になれば万々歳だ。しかし俺のほぼ主食と化しているリブアイを、こんな生意気なガキに奪われるわけにはいかねぇ。あまり大人を甘く見ねぇ方がいいと教えてやろう。
「よし分かった。サインしてやるから、ちゃーんと嵐にしてくれよ? じゃないと俺の好きなハラペーニョはやれねぇからな」
「……ハラペーニョ?」
意表を突かれたように、メネルはキョトンと目を丸くした。仮に本当に奪われたとしても、ハラペーニョなら問題ねぇ。あんな辛い唐辛子は大嫌いだからな。だがコイツは本当の好物が何かなんて判断のしようもないだろう。そこを利用するんだ。
「そう、それがオジサンの好物なんだね」
「あぁそうだ。ホラ、サインしてやったぞ。早く地上に降ろして嵐を呼んでくれ」
ヒラヒラと羽ペンを揺らして挑発すれば、メネルはゆっくり俯いた。
悔しいか? ママに縋って泣きついてもいいんだぜ?
だが次の瞬間、メネルが右手に持つ杖を高く振り上げると、視界が暗転した。一切の光が失われ真っ暗闇に包まれたのだ。景色どころか目の前にあった机の形すら分からない。
驚く間もなく、今度は足が沼に嵌まったような感触がし、身動きが取れなくなった。何も見えない恐怖で俺は一気にパニックに陥る。
「お、おい! 話が違うじゃねぇか。どこにいるメネル!」
すると焦っている気持ちは正反対の、子供の笑い声が周囲に木霊して響く。
「話が違うのはオジサンでしょ。そっちこそ子供と思って甘く見ない方がいいよ。僕、嘘を吐かれるの嫌いなんだよね」
「ちが……、本当だ! 俺は本当にハラペーニョが――」
「ふーん。〝あんな辛い唐辛子は大嫌い〟なんじゃなかったの?」
コイツ、俺の思考を読んでやがったのか! そんなこと一度も言ってなかったじゃねぇか。
メネルの姿は一切見えないが、声だけが四方から頭上に降ってきて見下されている気分だ。足は膝まで沈み、不安を煽っている。
「いい加減にしてくれ! 早くここから出すんだクソガキ!」
「残念だなぁ。オジサンの好きな食べ物、凄く美味しそうだったのに。よっぽど好きみたいだから、ソレは奪わないであげるよ。その代わり別の大切なモノを失うかもね」
別の大切なモノ? なんだ、何を奪うつもりだ。
俺が大切にしているのは映画だが、まさか……嫌だ。夢は叶ったが、まだこんなところで終わるわけには。
「そうだ。ねぇオジサンはさ、あの場所の名前の由来を知ってる?」
メネルは俺の様子に構う気はないらしい。沼がもう首元まで迫ってきていて悲鳴を上げているのに、普通に話かけてくる。
『デッドホースポイント州立公園』の名の由来。藻掻くことでついに頭まで沼に浸かった俺は、真っ白になる思考の中でその伝説を思い出した。
あの場所では昔、カウボーイたちが野生の馬を囲って、気に入った馬を選び売買していた。 選ばれず残った馬は解放していたが、ある時に何故か解放されず、水も食料もない状況で死んじまったと聞く。
「そう、可愛そうだよねぇ。僕は死ぬことないけど、食べ物がないなんて想像するだけでゾッとするよ。……同じ目に遭って、僕を騙そうとしたことを反省するといいよ。ウォルドンさん」
最後は冷たく言い捨てたメネル。
大切なモノは命だったか……と再び薄れゆく意識で、子供相手に傲慢な態度を取ったことを後悔しても、もう遅い。思えば自分の息子にも優しく接したことなんてなかった。こんな親父でごめんな。
――俺はもう、死ぬんだ。
***
「あーあ。あの時は、特上のお肉が手に入ると思ったのになぁ」
文句を垂れながら、僕は仕事をサボって地上のとあるシアターで一本の映画を見ている。地底遺跡を舞台に秘宝を探す博士とその甥の冒険アクションだ。なんとこの遺跡、撮影地で偶然発見された本物なんだって。
その経緯も面白くてさ、砂漠の真ん中で首から下を埋められた変なオジサンがいて、救助するために掘ってみたら……下に遺跡が隠されていたんだ。世紀の大発見に世界中が驚き、騒然としてたよ。
埋まっていたオジサンも時の人になった。彼は元々、この冒険映画を撮ってた有名な監督だったんだけど、自分が監督である記憶だけ失っていたんだ。しかも何故あんなところに埋まっていたのかも、覚えてないと言う。
少なくとも意識が戻ってから3日間、誰にも発見されず、飲まず食わずで随分衰弱していたそうだよ。お気の毒さま。
結局、映画は別の監督が指揮を取って、発見した遺跡の発掘を進めながら長い年月をかけて撮影した。サウンドをオーストリア出身の人気作曲家が手掛けた効果もあり、予定より大幅に遅れて公開されたけど大絶賛のようだ。主演の役者さんも賞を獲ったりしてさ。
……これって、僕のお陰じゃない? まさかあの人に与えたオシオキがこんな結果になるなんて、思いもしなかったよ。
「へぇ、オジサンも見に来てたんだ。なんか以前より、生き生きしてるじゃん」
映画館から出て行くウォルドンさんは、これから食事に向かうらしい。きっと舞台となった岩山のような、彼の大好物である分厚い肉を食べに行くことだろう。
「僕も食べてみたかったよ。またいつか、他の誰かから手に入れられるかなぁ」
精霊たちの呼び出しを食らい、僕は風に乗って空の上へと戻る。
思っていた結末とはかなり違うけれど、今回はこれで良しとしよう。
彼と一緒に歩く男の子が、とても嬉しそうな顔をしているから。