テーブルに置いたままの周人のスマホから着信音が聞こえた。
目を向けると、
あの女からのメッセージが浮かんでいる。『Yuko』ちゃん、あなたの気持ちは彼には届かないのよ。
周人はもう浮気なんかしないんだから。
相手の女が滑稽で歪み掛けた口元が、一瞬で強張った。
《周人、無理しなくていいのよ。お母さんより今の生活を大事にして。それが何よりの親孝行なの。たまに電話して、顔見せてくれたら十分だから。》
お、母さん?
浮気相手じゃなくて、周人の母親?
メールや電話と違って、メッセージアプリの登録名は自分で決められない。だからわからなかった。
「母子家庭で、ガキの頃はやんちゃもしてさんざん苦労かけたからなぁ。俺もいい年だし、ちょっとずつでも返したいけどなかなかね」
そう呟いて苦笑いしてた。
周人は、たしかに優しい男だった。嘘も照れ隠し……?
わたしは真っ赤に染まった両の掌を見つめる。
そのまま視線を周人の胸元に移した。包丁が刺さったままの、横たわって二度と動かない、恋人の。
もう、遅いのよ。何もかも。目の縁から溢れて頬を伝う涙にも、なんの意味もない。
──考える前に動いたわたしの
スピード勝負は、見事に裏目に出たってわけ、か。
~END~