「浮気癖は治んないよ、
利留。暴力とか借金も根っこは一緒。所詮、そういう性根のやつだってことなんだから」
友達にはそう諌められた。
はっきり口には出さなくても、別れた方がいいって忠告されたんだ。
彼女たちが心からわたしのために言ってくれたのもわかってる。それでわたしを怒らせても、嫌われても、友達として黙ってられなかったんだよね?
逆の立場なら、きっとわたしもそうするわ。「あんな男にこだわらなくても、あんたなら他にいくらでも」って、同じ言葉を口にしたと思う。
わたしはそんなたいした人間じゃない。せいぜい盛って中の上の、ごく平凡な女だって自覚してる。
そのわたしの目にも、周人は「どこがいいの?」って訊かれても即答できない程度の男だった。
ううん、以前は「見た目も頭も特別なとこないけど、真面目で優しくてわたしにはすごくいい彼氏なのよ」って平然と惚気てた。
今思い返したら恥ずかしくて堪らない。みんなの記憶から消してほしいくらい。
たとえ一時の気の迷いだって、浮気には変わりないわ。
わたしは裏切られた。傷つけられた。
この程度の男に、って余計に悔しかった。あんなに好きで好きで、相性もいい二人だって考えてたのに、一気に酔いが冷めたみたいな。
でも恋愛は、……人間関係は、汚れたマットを捨てるように簡単なものじゃない。
──それとも、その気になれば簡単に捨てて前を向けるものなのかな。わたしにはできなかっただけで。
「迫られて拒みきれなくて。もうあの子とは会わない。本当に悪かった!」
私の部屋で正座して床に額がつくくらいに頭を下げて謝る周人の姿に、同情心が湧いたのよ。
一回きりなら。誰にだって間違いはあるわ。こんなに謝ってるんだから許してあげよう、って。
……もうすぐ三十になる身で、今更何年も付き合った男を逃したくなかった、のも否定できない。
しばらくはぎくしゃくしたものの、周人はそれまで以上に優しくてわたしを気遣ってくれた。
だから最近は、浮気なんて完全に昔のことになって思い出すこともなかったのよ。
だけど情けなんか掛けるんじゃなかった。
結局、時間を無駄にしただけじゃない。二十代最後の貴重な一年を、くだらない浮気症の男に浪費させられてさ。
時の流れは止められない。あっという間に三十歳になって、そこから先は猛スピードで過ぎて行く、って職場の先輩が零してた。
取り戻せない、わたしの時間。
わたしの最大の欠点よね。いつもぐずぐず、悩んで迷ってなかなか思いきれない。
「そこが利留のいいとこでもあるよ」って友達は慰めてくれる。「思いやりがあって情が深いってことでしょ?」って。
その通りかもしれない。けど、もううんざりなの。
結局、だから彼にも舐められるんだわ。
どうせこいつは、
周人から離れる決断なんかできない。ちょっと反省してるとこさえ見せれば丸め込めるんだからちょろいもんだ、って下に見てるんでしょ?
わたしはトロくて鈍いだけの女じゃないこと、思い知らせてやる。
冒険も賭けも無縁の人生歩んでたからって、それが永遠に続くわけじゃないのよ。あてが外れて残念だったわね、周人。
愛して信じた分だけ、恨みが募るってあなたは知らないの?
「利留、お先〜。お前も入れよ」
周人がお風呂から上がって来て、わたしの思考は中断する。
いつになく頭の中がクリアになってた。
謝られたらきっと揺らいで、許してしまう。
わたしは自分を知ってるの。もう三十年近く、この優柔不断な性格で生きてきたんだから。
──だったら謝らせなければいいんだ。その前に、一世一代の勝負に出てやるわ。
周人が教えてくれた、野球の戦術を思い出す。
ボールがバットに当たったら、その瞬間にホームに向かって走る『ギャンブルスタート』。「どうしても
一点が欲しい」ときの、勝率の低い賭けなんだって。
後先考えずに、とにかくスピードだけを重視してスタートする。今の私の心境にはぴったりじゃない?
無意識に口角が上がっていた。笑みを浮かべたように見えるわたしに、彼も微笑む。
笑顔で終わるのもいいかもね。