商談33 枝豆売り
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爺さんを振り切ったはいいが、俺はどことなく後ろ髪を引かれる思いだった。何だろうな、心なしか寂しげな表情だった。
それにしても、この道はどこまで雑木林が広がっているのだろうか。それは天さえも覆い尽くして日の光さえ拝めそうにない。そして何より、いくら進もうとも雑木林が切れることがなさそうで、気が遠くなってくる。
そう思いながらも、俺は根気よく歩き続けた。急勾配の坂道にぬかるむ足場、果ては険しい巌などなど。この道はほとんど人の手が加わっていないと見た。
さて、どのくらいの時間歩いただろうか。スマートフォンは圏外だし、腕時計も時間を刻んでいない。全く、どうなっているんだこの雑木林は。
「腹が......減った......」
これだけ歩き続けたんだ、そりゃあ腹の一つや二つは減っても仕方あるまい。そんなことを考えていると、何やら婆さんが大風呂敷を広げているのが見えた。
「そこの旦那、そろそろ腹が減って来たんじゃないかい? 今なら枝豆、1本6文に負けとくよ!」
大風呂敷の上には、枝付きの枝豆が所狭しと並べられている。しかし、6文ってのは安いのか高いのか今一つ分からない。というより、金なんて持ってないぞ!?
「なぁにぃ? 銭がないっだってぇ?? そっか! さては旦那、馬野詣に行くんだね?? お前さん、生まれ変わりたいほど人生が辛かったんだねぇ......」
俺が何を言った訳でもないのに、婆さんは勝手に涙ぐんでいる。婆さん、少なくとも俺はさっきまで旧友と飲んでいたんだ。俺がどうしてここに来たかは覚えていないが、そういう心配は無用だ。
「ところで旦那、それは鯨の髭かい? しかし、この辺のものとは少し違うようだねぇ......」
婆さんは俺の左手に持っているものを注意深く観察している。あれ? 確か鯨の髭は我が家へ送った筈なんだが......?
「仕方ないねぇ......それ1本と枝豆10本を交換でいいかい?」
婆さんは自分で話を進めて勝手に納得している。鯨の髭1本と枝豆10本の価値が釣り合っているかは謎だが、腹が減っている手前背に腹は代えられない。ここは迷わず交換しよう。
「毎度あり! ヒダル神には気を付けるんだよ!!」
婆さんは清々しい表情で俺を見送ってくれた。婆さんにはいろいろ聞きたかったが、一方的に話を切り上げられてしまった。まあいい、進めば何かあるだろう。
「......おぉっ! 塩加減が絶妙じゃないか!!!」
その塩味は旨味を引き出し、枝豆本来の味わいが口の中に広がる。それは素朴でありながらも次々と食べ進めてしまう。思わず酒が欲しくなる味わい、これはクセになる!! 枝豆はきっと、日本人の遺伝子に刻まれた太古のファストフードに違いない。
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それにしても、この道はどこまで雑木林が広がっているのだろうか。それは天さえも覆い尽くして日の光さえ拝めそうにない。そして何より、いくら進もうとも雑木林が切れることがなさそうで、気が遠くなってくる。
そう思いながらも、俺は根気よく歩き続けた。急勾配の坂道にぬかるむ足場、果ては険しい巌などなど。この道はほとんど人の手が加わっていないと見た。
さて、どのくらいの時間歩いただろうか。スマートフォンは圏外だし、腕時計も時間を刻んでいない。全く、どうなっているんだこの雑木林は。
「腹が......減った......」
これだけ歩き続けたんだ、そりゃあ腹の一つや二つは減っても仕方あるまい。そんなことを考えていると、何やら婆さんが大風呂敷を広げているのが見えた。
「そこの旦那、そろそろ腹が減って来たんじゃないかい? 今なら枝豆、1本6文に負けとくよ!」
大風呂敷の上には、枝付きの枝豆が所狭しと並べられている。しかし、6文ってのは安いのか高いのか今一つ分からない。というより、金なんて持ってないぞ!?
「なぁにぃ? 銭がないっだってぇ?? そっか! さては旦那、馬野詣に行くんだね?? お前さん、生まれ変わりたいほど人生が辛かったんだねぇ......」
俺が何を言った訳でもないのに、婆さんは勝手に涙ぐんでいる。婆さん、少なくとも俺はさっきまで旧友と飲んでいたんだ。俺がどうしてここに来たかは覚えていないが、そういう心配は無用だ。
「ところで旦那、それは鯨の髭かい? しかし、この辺のものとは少し違うようだねぇ......」
婆さんは俺の左手に持っているものを注意深く観察している。あれ? 確か鯨の髭は我が家へ送った筈なんだが......?
「仕方ないねぇ......それ1本と枝豆10本を交換でいいかい?」
婆さんは自分で話を進めて勝手に納得している。鯨の髭1本と枝豆10本の価値が釣り合っているかは謎だが、腹が減っている手前背に腹は代えられない。ここは迷わず交換しよう。
「毎度あり! |ヒダル神《・・・・》には気を付けるんだよ!!」
婆さんは清々しい表情で俺を見送ってくれた。婆さんにはいろいろ聞きたかったが、一方的に話を切り上げられてしまった。まあいい、進めば何かあるだろう。
「......おぉっ! 塩加減が絶妙じゃないか!!!」
その塩味は旨味を引き出し、枝豆本来の味わいが口の中に広がる。それは素朴でありながらも次々と食べ進めてしまう。思わず酒が欲しくなる味わい、これはクセになる!! 枝豆はきっと、日本人の遺伝子に刻まれた太古のファストフードに違いない。