「これからどうします――? 今が4時ですから、もう少し時間がありますよ」
綺麗に梱包してもらったお土産の大荷物を車に積み込みながら、フィリップが言いました。
私とカタリナとロサルヴァは顔を見合わせ、
「少し歩きたいわ――!」
買い物の余韻で冷めやらぬ興奮を滲ませながら、3人を代表して私が答えました。
「そう仰るだろうと思いました。ーーどうします、河畔を歩かれますか。近くにデパートなんかもありますが…」
言いながらフィリップは余計なことを言ったかな、という感じで、神経質に眉をしかめました。きっと私たちをデパートなんかに行かせると時間が足りなくなると思ったのでしょう。
フィリップの思いをくみ取った私は、
「河畔だけにしましょう」
そう笑って、散策に出掛けたのでした。
微かに青味がかった灰色の石畳が、悠然とした河の流れに寄り添うように、両岸に整然と敷き詰められて伸びていました。
「こんなに大きな河が街の中を通っているのね――…」
山がちな故郷のライズソールではまず目にしたことのない壮大かつ伸びやかな光景でした。
コツコツと足音を響かせながら石畳を歩くと、河からの湿っぽい風が纏わり付くように頬を優しく撫でます。
春とはいえ、夕刻に差し掛かりつつある河畔は少し肌寒く感じられましたが、ゆったりとした河の流れを眺めながらの散歩は気持ちのいいものでした。
私は、今回のこの小さな〈旅〉の記憶を辿るように、河の流れに沿って歩きながら一人物思いにふけっていました。
(やり遂げた――…)
初めて従兄や兄たちの庇護の手から離れて、私一人での――ささやかですが――社交の舞台でした。
うまくやれたかどうかはわかりませんでしたが、とりあえず、初めての「おつかい」はどうにか無事終了しそうな気配です。
河の流れとともに、緊張もゆるゆると解け出て行くのを感じました。
「――そろそろ行きましょうか」
私の心境を知ってか、フィリップが優しい声で促しました。我に返って後ろを振り仰ぐと、三対のペイルブルーアイズが静かに微笑みながら私を見つめているのでした。
本当に、カタリナとロサルヴァ、フィリップのおかげで、今回の〈旅〉を楽しく、そして、何事もなく終えられるのです。
「ええ、行きましょう――!」
私は感謝を込めてとびっきりの笑顔を3人へ向けました。
予定通り、午後6時には空港に着き、その50分後には私たち4人は機上の人となっていました。
さすがに疲れが溜まっていたのか、2時間の短いフライトを、私はいつの間にか眠りに落ちて過ごしていました――…。
3日ぶりに戻ってきたロイシュライゼの空は夜でした。出発したときと同じ軍のエアポートに到着して、寝ぼけ眼でタラップに足を掛けた途端、
「リリヤナ――…!」
悲痛な色さえ帯びた悲鳴が響きました。
顔を上げると、そこにいたのは従兄たち――ほとんど蒼白な顔をしたエトガルと、そんな片割れにちょっぴり呆れ気味の笑顔をたたえたマティアス――でした。
「リリヤナ――…! 無事か、無事だったか――…!」
泣きそうな顔で形振り構わず私に飛びついてきたエトガルと、
「何を言ってるんだか――無事に決まってるじゃないか。――おかえり、リリ」
おおらかな笑みを刷いて、大きな腕に片割れごとを私を強く抱きしめるマティアス。
ああ、帰ってきたんだなぁ――…と思った瞬間でございましたね。
「ただいま戻りました。エトガル、マティアス――…!」
私自身、ちょっぴり感無量になって、涙を滲ませながら、従兄たちの熱烈な抱擁に応えてそう言うのが精一杯でした。
波の立つ大海も良いものですが、もうしばらく…もうしばらくだけ、このぬるま湯の中で揺蕩うていたい――…ついついそんな風に願ってしまう、どうにも甘えた18歳の私なのでした――…。