大魔法使い候補
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1年に1度、各国の魔法学園の学園序列上位の生徒は大魔法使いになるための試験を受けることになる。この日はその試験の大詰め。『大魔法使い候補』とされた者たちが、本当に大魔法使いたる気質を持っているかどうかの査定が行われる。
現大魔法使いたちによって。
「……あのバカはまだか」
「ジョカが時間通りに来るわけがないでしょう」
「誰もバカが獄蝶のジョカとは言っていないぞ」
円卓を囲んで、何人かの大魔法使いが席に座る。5つの席は既に3つが埋まっていた。
トリウス。変生の大魔法使い、『ウォールド・ダーウィン』。獄蝶のジョカをバカの呼んでいた彫りの深い顔をした大男だ。身長は200cm近く、鎧のような筋肉質な身体が特徴的な魔法使いらしくない大魔法使いだ。
「もう10分も過ぎているぞ。あれの手綱はお前が握っているじゃないのか、月詠の」
「知りません」
「ったく。よくもこんな会議に遅刻できるものだな」
ノーチェスからはアステシアと獄蝶のジョカの2人が代表してこの会議に参加することになっている。だが、どれほど待っても獄蝶のジョカが会議に顔を出す気配はなかった。
「あんな気分屋に合わせていても仕方ない! ノーチェスからは2人来ているんだろ。早く始めよう」
「……まぁいいんじゃないですか? 私は賛成です」
「私も」
せっかちなウォールドの提案に2人の大魔法使いの賛成する。
「変生、旋律、月詠。過半数の意見を承りました、会議を開始します。」
過半数の意見を優先し、進行役は会議を始めた。砂時計がくるりと回り、時を刻み始める。しんと静まった空間に、さらさらと砂の落ちる音が微かに聞こえた。
「まずはフィラメニアから」
フィラメニア。トリウス、ノーチェスと同じ魔法国家。特にノーチェスとの関わりは深く、昔から交流が多くある国だ。
フィラメニアの大魔法使いはウォールドとは対照的に細身で小柄な女性だ。真面目そうな語り口ではあるが、机に肘をついてつまらなさそうにしているようにも見える。獄蝶のジョカと同じ、掴みどころのない不思議な性格をしている。
名を、メロディア・ヴァリエンテ。『旋律の大魔法使い』としてフィラメニアを統治する大魔法使いだ。
「依然、序列に変化はありません。特に1位、『風花』は大魔法使いとしても申し分ない実力を持っています。試験も無事クリアできるでしょう」
態度は決していいとは言えないが、口調は丁寧だった。メロディアは『風花』以外の魔法使いについては語ることはなく、早く終われと言わんばかりに床に届かない足をぷらぷらとさせている。
進行役もそれ以上を聞くことを諦めたのか、次の応答に移る。
「よろしいでしょう。では次はトリウス」
「うちも活きがいいのが1人だけいる。俺の弟子だ。だが、あいつは俺よりも強くなるぜ」
「他の序列は?」
「面白味のないやつらって感じだな。良くも悪くもない」
恐らく、メロディアが序列1位以外の大魔法使い候補につい話さなかったのはウォールドと同じような理由だろうと、アステシアは小さくため息をついた。
時代が変わり、魔法使いの数は多くなったが進歩はなかった。魔法使いの強さが格段に変わるわけでも、新たな魔法が発見され、人類の発展に貢献されることもなかったのだ。
だから大魔法使いたちはこうして、新たな時代を創る新世代の大魔法使いを育てている。より強い魔法使い。より聡い魔法使いを。育て、鍛え、繋げる。それが大魔法使いの役割でもある。
「あなたの教育不足な気もしますが……まぁいいでしょう。次はノーチェスです」
進行役がそういうと視線がアステシアに集まる。本当のところ、アステシアは獄蝶のジョカの付き添いに来ただけで会議に参加する気はこれっぽっちもなかったのだ。ところが、仕事を丸投げするつもりだった獄蝶のジョカは遅刻し、未だに現れる気配がない。
アステシアはとうとう諦め、その場で必死に頭を動かしてそれらしい言葉を並べていく。
「『心』、『識』、『正義』。3名とも実力は申し分ありません」
「……なにか含みのある言い方ですが?」
アステシアの言い方に違和感を感じたのか、進行役がアステシアに問いかける。もちろん、本人にそんなつもりで言った意思は無い。完全に進行役の勘違いだったが、アステシアは続けた。
「私個人の意見としてはあの子たちを大魔法使いには推薦できません」
「それはなぜ?」
「あの子たち個人的な問題です。それが解決できない限りは、大魔法使いになるべきではないと思います」
あながち間違いでもないからいいだろうと、アステシアは嘘半分にその場を乗り切った。進行役も今のアステシアの説明で納得したのか、満足そうな顔をして前を向いている。
「何か事情があるということですか。それもいいでしょう。では次は試験内容についてですが――」
次の話題に入ってアステシアはほっと胸を撫で下ろす。だが、そんな安心もつかの間。次の瞬間、大魔法使いたちの会議に嵐が巻き起こる。
「おっまたせ〜! 遅刻しちゃってごめんね〜!」
勢いよく扉を開けて現れたのは、極東の大魔法使い、『獄蝶のジョカ』だった。突如現れた獄蝶のジョカは一瞬にしてその場にいる全員の視線を独り占めにした。
「大魔法使い候補についてはあとだ。さぁさ、話をしよう。このクソッタレな生物兵器についてね」
「それはなんだ? 獄蝶の」
獄蝶のジョカは、赤褐色の怪物を引きずって血だらけのまま部屋に足を踏み入れる。遅れは理由は明白だった。2m近いウォールドが見上げみるほどデカい怪物と、獄蝶のジョカは数分前まで戦っていたのだ。
「単刀直入に言おう。誰だ? 裏切り者」
鋭い視線が円卓を囲む大魔法使いたちに向けられる。
「んなもんがいると思ってんのか」
「いなきゃおかしいんだよウォールド。こいつは怪物だが魔獣じゃない」
「見りゃわかる! それがなんで裏切り者の存在に繋がるんだって聞いてんだ」
「この怪物、元は人間だ。」
悪夢の怪物、『ナイトメア』。旭たちを襲った怪物と同じ見た目をした化け物がそこにいた。どこからどう見ても怪物だ。目の前の怪物が元人間であることなど、その場にいる誰も受け止めることはできなかった。
ただ1人を除いて――
「聞いてんのか? 私はさっきからお前に言ってんだよ」
5人の大魔法使いが揃った。トリウスの『変生』。フィラメニアの『旋律』。極東の『獄蝶』。ノーチェスの『月詠』。そして――
「黙ってないで何とか言ってみたらどうだい? 『始まりの大魔法使い』様」
魔法使いの祖。すべての始まり。そんな人物に、獄蝶のジョカは堂々と銃口を突きつけるように殺意をむき出しにさせた。
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1年に1度、各国の魔法学園の学園序列上位の生徒は大魔法使いになるための試験を受けることになる。この日はその試験の大詰め。『大魔法使い候補』とされた者たちが、本当に大魔法使いたる気質を持っているかどうかの査定が行われる。
現大魔法使いたちによって。
「……あのバカはまだか」
「ジョカが時間通りに来るわけがないでしょう」
「誰もバカが獄蝶のジョカとは言っていないぞ」
円卓を囲んで、何人かの大魔法使いが席に座る。5つの席は既に3つが埋まっていた。
トリウス。|変生《へんじょう》の大魔法使い、『ウォールド・ダーウィン』。獄蝶のジョカをバカの呼んでいた彫りの深い顔をした大男だ。身長は200cm近く、鎧のような筋肉質な身体が特徴的な魔法使いらしくない大魔法使いだ。
「もう10分も過ぎているぞ。あれの手綱はお前が握っているじゃないのか、|月詠《つくよみ》の」
「知りません」
「ったく。よくもこんな会議に遅刻できるものだな」
ノーチェスからはアステシアと獄蝶のジョカの2人が代表してこの会議に参加することになっている。だが、どれほど待っても獄蝶のジョカが会議に顔を出す気配はなかった。
「あんな気分屋に合わせていても仕方ない! ノーチェスからは2人来ているんだろ。早く始めよう」
「……まぁいいんじゃないですか? 私は賛成です」
「私も」
せっかちなウォールドの提案に2人の大魔法使いの賛成する。
「変生、|旋律《せんりつ》、月詠。過半数の意見を承りました、会議を開始します。」
過半数の意見を優先し、進行役は会議を始めた。砂時計がくるりと回り、時を刻み始める。しんと静まった空間に、さらさらと砂の落ちる音が微かに聞こえた。
「まずはフィラメニアから」
フィラメニア。トリウス、ノーチェスと同じ魔法国家。特にノーチェスとの関わりは深く、昔から交流が多くある国だ。
フィラメニアの大魔法使いはウォールドとは対照的に細身で小柄な女性だ。真面目そうな語り口ではあるが、机に肘をついてつまらなさそうにしているようにも見える。獄蝶のジョカと同じ、掴みどころのない不思議な性格をしている。
名を、メロディア・ヴァリエンテ。『旋律の大魔法使い』としてフィラメニアを統治する大魔法使いだ。
「依然、序列に変化はありません。特に1位、『|風花《かざばな》』は大魔法使いとしても申し分ない実力を持っています。試験も無事クリアできるでしょう」
態度は決していいとは言えないが、口調は丁寧だった。メロディアは『風花』以外の魔法使いについては語ることはなく、早く終われと言わんばかりに床に届かない足をぷらぷらとさせている。
進行役もそれ以上を聞くことを諦めたのか、次の応答に移る。
「よろしいでしょう。では次はトリウス」
「うちも活きがいいのが1人だけいる。俺の弟子だ。だが、あいつは俺よりも強くなるぜ」
「他の序列は?」
「面白味のないやつらって感じだな。良くも悪くもない」
恐らく、メロディアが序列1位以外の大魔法使い候補につい話さなかったのはウォールドと同じような理由だろうと、アステシアは小さくため息をついた。
時代が変わり、魔法使いの数は多くなったが進歩はなかった。魔法使いの強さが格段に変わるわけでも、新たな魔法が発見され、人類の発展に貢献されることもなかったのだ。
だから大魔法使いたちはこうして、新たな時代を創る新世代の大魔法使いを育てている。より強い魔法使い。より聡い魔法使いを。育て、鍛え、繋げる。それが大魔法使いの役割でもある。
「あなたの教育不足な気もしますが……まぁいいでしょう。次はノーチェスです」
進行役がそういうと視線がアステシアに集まる。本当のところ、アステシアは獄蝶のジョカの付き添いに来ただけで会議に参加する気はこれっぽっちもなかったのだ。ところが、仕事を丸投げするつもりだった獄蝶のジョカは遅刻し、未だに現れる気配がない。
アステシアはとうとう諦め、その場で必死に頭を動かしてそれらしい言葉を並べていく。
「『心』、『識』、『正義』。3名とも実力は申し分ありません」
「……なにか含みのある言い方ですが?」
アステシアの言い方に違和感を感じたのか、進行役がアステシアに問いかける。もちろん、本人にそんなつもりで言った意思は無い。完全に進行役の勘違いだったが、アステシアは続けた。
「私個人の意見としてはあの子たちを大魔法使いには推薦できません」
「それはなぜ?」
「あの子たち個人的な問題です。それが解決できない限りは、大魔法使いになるべきではないと思います」
あながち間違いでもないからいいだろうと、アステシアは嘘半分にその場を乗り切った。進行役も今のアステシアの説明で納得したのか、満足そうな顔をして前を向いている。
「何か事情があるということですか。それもいいでしょう。では次は試験内容についてですが――」
次の話題に入ってアステシアはほっと胸を撫で下ろす。だが、そんな安心もつかの間。次の瞬間、大魔法使いたちの会議に嵐が巻き起こる。
「おっまたせ〜! 遅刻しちゃってごめんね〜!」
勢いよく扉を開けて現れたのは、極東の大魔法使い、『獄蝶のジョカ』だった。突如現れた獄蝶のジョカは一瞬にしてその場にいる全員の視線を独り占めにした。
「大魔法使い候補についてはあとだ。さぁさ、話をしよう。このクソッタレな生物兵器についてね」
「それはなんだ? 獄蝶の」
獄蝶のジョカは、|赤《・》|褐《・》|色《・》|の《・》|怪《・》|物《・》を引きずって血だらけのまま部屋に足を踏み入れる。遅れは理由は明白だった。2m近いウォールドが見上げみるほどデカい怪物と、獄蝶のジョカは数分前まで戦っていたのだ。
「単刀直入に言おう。誰だ? 裏切り者」
鋭い視線が円卓を囲む大魔法使いたちに向けられる。
「んなもんがいると思ってんのか」
「いなきゃおかしいんだよウォールド。こいつは怪物だが魔獣じゃない」
「見りゃわかる! それがなんで裏切り者の存在に繋がるんだって聞いてんだ」
「この怪物、《《元は人間だ》》。」
悪夢の怪物、『ナイトメア』。旭たちを襲った怪物と同じ見た目をした化け物がそこにいた。どこからどう見ても怪物だ。目の前の怪物が元人間であることなど、その場にいる誰も受け止めることはできなかった。
ただ1人を除いて――
「聞いてんのか? 私はさっきからお前に言ってんだよ」
|5《・》|人《・》の大魔法使いが揃った。トリウスの『変生』。フィラメニアの『旋律』。極東の『獄蝶』。ノーチェスの『月詠』。そして――
「黙ってないで何とか言ってみたらどうだい? 『始まりの大魔法使い』様」
魔法使いの祖。すべての始まり。そんな人物に、獄蝶のジョカは堂々と銃口を突きつけるように殺意をむき出しにさせた。