商談30 思い出の場所
ー/ー
その後も俺達は長い時間語り合っていた。旧友との語らいは懐かしくて、ついつい時間を忘れてしまう。そして何より、仕事を考えずに時間を過ごすのは久々だった。自営業というのは、何かと公私の線引きが曖昧になりがちだからだ。
言い忘れていたが、俺はある事件がきっかけで剣道から身を退いた。それからというもの、就職活動にも身が入らず漠然と生きてきた。そんな俺が内定などもらえるはずもなく、見かねた親父は自身の経営する子会社へ俺を就職させた。いわゆる親の七光りだ。
社員研修を経て俺が配属されたのは営業部。おそらく、俺が剣道経験者ということで忍耐力があると判断されたのだろう。だが、それまでの俺は目を合わせた相手と戦うことしか考えていなかったため、人の顔色を伺ったりゴマすりなんてことは到底出来なかった。
当然、顧客など獲得できるわけもなく営業成績は常に最下位。部署内からは煙たがられ、いつしか窓際族になっていた。
そんな俺だが、当時の青木係長は俺を気に掛けてくれた。今思えば、そこはブラック企業で人間関係も最悪。グループ企業内でも離職率は異様に高く、労基署の出入りも頻繁だった気がする。そんな中で、新入社員の存在は青木係長にとって尊く思えたのかもしれない。
青木係長は給料日になると、毎回のように俺を連れ回していた。その中で足を運んだのがエデンホールというキャバクラだった。夜の世界に不慣れだった俺は戸惑っていて、それがお姉さんたちからは可愛く見えたのかもしれない。
俺はいつしか、青木係長とキャバクラへ行くのが楽しみになっていた。その時だけは、俺も仕事のストレスを忘れることが出来た。だが、終わりは突然訪れる。
青木係長は親の介護を理由に退職し、俺にとって唯一の後ろ盾がなくなってしまったのだ。その後の俺は、青木係長の喪失感を埋めるようにエデンホールへ通い詰めた。そんな折に出会ったのが、後に俺の妻となる秋子だった。
彼女は屈託のない笑顔で話を聞いてくれた。営業スマイルなのは十分承知しているのだが、それでも彼女との会話は心地良かった。言葉ではうまく説明できないが、要するに家族のような安心を実感していたのだ。
やがて彼女は実家の事情を話してくれた。故郷の母が個人商店を営んでいて、後を継ぐか悩んでいたんだ。俺はその時直感した。個人商店の営業って面白いんじゃなかろうか!? ってな。そんな訳で、俺は思い切って二人で家業を引き継ごうとごり押しした。これに乗じて彼女との結婚も申し込んだ。
秋子は突飛押しのない出来事に目を丸くしていたが、結果的にオールオッケー!
こうして、俺は会社を辞めて源家の家業を引き継ぐことになった
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言い忘れていたが、俺はある事件がきっかけで剣道から身を退いた。それからというもの、就職活動にも身が入らず漠然と生きてきた。そんな俺が内定などもらえるはずもなく、見かねた親父は自身の経営する子会社へ俺を就職させた。いわゆる親の七光りだ。
社員研修を経て俺が配属されたのは営業部。おそらく、俺が剣道経験者ということで忍耐力があると判断されたのだろう。だが、それまでの俺は目を合わせた相手と戦うことしか考えていなかったため、人の顔色を伺ったりゴマすりなんてことは到底出来なかった。
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そんな俺だが、当時の青木係長は俺を気に掛けてくれた。今思えば、そこはブラック企業で人間関係も最悪。グループ企業内でも離職率は異様に高く、労基署の出入りも頻繁だった気がする。そんな中で、新入社員の存在は青木係長にとって尊く思えたのかもしれない。
青木係長は給料日になると、毎回のように俺を連れ回していた。その中で足を運んだのがエデンホールというキャバクラだった。夜の世界に不慣れだった俺は戸惑っていて、それがお姉さんたちからは可愛く見えたのかもしれない。
俺はいつしか、青木係長とキャバクラへ行くのが楽しみになっていた。その時だけは、俺も仕事のストレスを忘れることが出来た。だが、終わりは突然訪れる。
青木係長は親の介護を理由に退職し、俺にとって唯一の後ろ盾がなくなってしまったのだ。その後の俺は、青木係長の喪失感を埋めるようにエデンホールへ通い詰めた。そんな折に出会ったのが、後に俺の妻となる秋子だった。
彼女は屈託のない笑顔で話を聞いてくれた。営業スマイルなのは十分承知しているのだが、それでも彼女との会話は心地良かった。言葉ではうまく説明できないが、要するに家族のような安心を実感していたのだ。
やがて彼女は実家の事情を話してくれた。故郷の母が個人商店を営んでいて、後を継ぐか悩んでいたんだ。俺はその時直感した。個人商店の営業って面白いんじゃなかろうか!? ってな。そんな訳で、俺は思い切って二人で家業を引き継ごうとごり押しした。これに乗じて彼女との結婚も申し込んだ。
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