商談28 国の顔
ー/ー
「勝負あり!」
主審の号令で俺達の戦いに幕が下りた。時間にすればせいぜい6分程度だろうが、精神的には果てしない戦いを経験しているに等しかった。
試合を終えた俺は正座で面を外し、頭に着けていた手拭いで汗まみれの顔を拭う。額からは滝のように汗がとめどなく流れている。島津は仮にも全国大会を戦い抜いている猛者。そんな男との戦いはたとえ数分であっても精神的な重圧は尋常でない。そういう意味で、この戦いは実に熾烈だった。
しかしながら、この前掛けはえらく丈夫だ。あれだけの激闘にも拘わらず、胴部分には傷一つ見当たらない。もしかしたら、ダイヤモンドコーティングが施されているのかもしれない。まぁ、垂れ部分と接続されていては防具袋への収納は難しいだろう。
「いやぁ、さすがだねぇ! 神殺しと鹿児島の火竜の戦い、今も色褪せない戦いぶりだった。ブラボー! ブラボー!!」
健作は俺達の戦いに称賛の拍手を送る。剣道オタクもとい剣豪の講評は上々の様子。そんな俺達の背後から、何やらスーツ姿の男が現れた。あれ? この男、どこかで見たことあるような......?
「鈴木君、待たせて済まない」
男は申し訳なさそうに詫びを入れている。この男もしかして......いや、そんなはずないだろう!?
「遅かったですねぇ岸部さん? 僕は首を長くして待っていましたよ。いやぁ、伸びる首ないんですけどねぇ。ハハッ!」
健作は軽くジョークを交えているが、相手は国会議員である岸部雄三。いや待て! 相手は内閣総理大臣だぞ!? そんな男がどうしてこんな所に!!?
「鈴木君、君は相変わらず剣道愛に溢れているね」
岸部総理はえらく感心しているが、仮にも国を代表する人物がこんな所で油を売っていたらさすがに不味いんじゃないか!? 健作といい、政治家は不祥事なんてお構いなしかっ! ここはある意味でスキャンダルの巣窟かもしれない。
「剣道こそ日本を代表する国技ですからねぇ? それより、込み入った話の続きは教官室でしましょうか?」
健作はさりげなく教官室へ岸部総理を招き入れ、自身もその一室へ消えていった。おそらく、俺達がいた手前バツが悪かったのだろう。どうでもいいが、日本には国技と定義される競技は法律上存在しない。それはたとえ国技館と呼ばれる施設が存在していてもだ。
俺は何だか見てはいけないものを見てしまったような気がする。とりあえず見なかったことにするか。
......そうだ、島津にゼッケンのことを問い詰めないと!
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「勝負あり!」
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試合を終えた俺は正座で面を外し、頭に着けていた手拭いで汗まみれの顔を拭う。額からは滝のように汗がとめどなく流れている。島津は仮にも全国大会を戦い抜いている猛者。そんな男との戦いはたとえ数分であっても精神的な重圧は尋常でない。そういう意味で、この戦いは実に熾烈だった。
しかしながら、この前掛けはえらく丈夫だ。あれだけの激闘にも拘わらず、胴部分には傷一つ見当たらない。もしかしたら、ダイヤモンドコーティングが施されているのかもしれない。まぁ、垂れ部分と接続されていては防具袋への収納は難しいだろう。
「いやぁ、さすがだねぇ! 神殺しと鹿児島の火竜の戦い、今も色褪せない戦いぶりだった。ブラボー! ブラボー!!」
健作は俺達の戦いに称賛の拍手を送る。剣道オタクもとい剣豪の講評は上々の様子。そんな俺達の背後から、何やらスーツ姿の男が現れた。あれ? この男、どこかで見たことあるような......?
「鈴木君、待たせて済まない」
男は申し訳なさそうに詫びを入れている。この男もしかして......いや、そんなはずないだろう!?
「遅かったですねぇ岸部さん? 僕は首を長くして待っていましたよ。いやぁ、伸びる首ないんですけどねぇ。ハハッ!」
健作は軽くジョークを交えているが、相手は国会議員である岸部雄三。いや待て! 相手は内閣総理大臣だぞ!? そんな男がどうしてこんな所に!!?
「鈴木君、君は相変わらず剣道愛に溢れているね」
岸部総理はえらく感心しているが、仮にも国を代表する人物がこんな所で油を売っていたらさすがに不味いんじゃないか!? 健作といい、政治家は不祥事なんてお構いなしかっ! ここはある意味でスキャンダルの巣窟かもしれない。
「剣道こそ日本を代表する国技ですからねぇ? それより、込み入った話の続きは教官室でしましょうか?」
健作はさりげなく教官室へ岸部総理を招き入れ、自身もその一室へ消えていった。おそらく、俺達がいた手前バツが悪かったのだろう。どうでもいいが、日本には国技と定義される競技は法律上存在しない。それはたとえ国技館と呼ばれる施設が存在していてもだ。
俺は何だか見てはいけないものを見てしまったような気がする。とりあえず見なかったことにするか。
......そうだ、島津にゼッケンのことを問い詰めないと!