まだ4時か。
「お前は悪い子かね」
「いい子だ」
「……そうか、ならばよいだろう」
現在進行形で起こっている気がする。こんな話を父さんとしたような。あれ? 父さん?
9時半。ホリデーなバカンスとしては早いような、いつもにしては遅いような時間帯。
「早く朝食にしましょ? 片付かないわ」
確かに女手はイリナだけだしな。
「手伝うよ」
「そんなに手間じゃないもの。食べたらまた雪かきがんばって」
最近は晴れた日が多いけど多少は降る。新年をいい気分で迎えるにはユレヒトおじさんと雪かきしないと。
窓を見ればモービルの隣に崩れかけた雪だるまがあった。近くのコテージの子供が作ったのかな?
そんなこんなで雪かきを終わらせてコテージに戻ると、イリナが食事を用意していた。
「なんだかやけに豪華だな」
「今年は食材がかなりあまっちゃってるのよ」
「へぇ。そんなにたくさん買ったの」
「俺も人数分買った記憶しかないんだけどおかしいなぁ。桁を間違えたのかもしれない」
「だから今年は特別豪華にするのよ」
ニコリと笑うイリナに用意されたしかたくさんのクラッカーを向ける。開けられるシャンパン。解凍したターキーレッグとたくさんのシャルキュトリーにチーズ。
3人じゃとても食べきれない。余った食材はユレヒトおじさんの家に郵送するらしい。
いつしか夜もふけカウントダウンの時間になった。相変わらず電波が届かないから友達とは連絡がとれないけど、同じ時間を待ち構えていることだろう。今日だけは未成年でも夜更かしが許される。
3.2.1.Happy New Year!
1人10個ずつクラッカーを鳴らす。この音で雪崩でも起きそうな気がする。イレナと顔を見合わせていれば、ユレヒトおじさんは早くいけというように手を払った。ユレヒトおじさんはいつもどおり1人で飲むのだろう。
新年だけは特別だ。イリナを部屋に招き入れる。
こっそり2人で飲むためにグラスを2つ持ちこんだ。
改めて2人で乾杯をする。夜はいつのまにか更けていった。
そうしてその夜、ふと、目を覚ました。
「お前は悪い子かね」
「いい子だ」
何だ? 今のは。
強烈な違和感。何か大事なものを忘れているような、そんな気持ち。あれ? 俺は大事なことを忘れている気がする。
そうだ。ワジム、父さん、母さん、それに子ども達、親戚のみんな、どこにいってしまったんだ!? ……あれ? んん。
ふと窓の外を見ると相変わらず白い世界があって、スノーモービルの近くに崩れた雪の塊が2つ転がっていたのが見えた。
朝、目覚めて階段を下りてトーストをセットしてドリップコーヒーにポットから湯を注ぐ。昨夜に何かあった気が。なんだったかな。
ユレヒトおじさんと遅くまで話していて、大事なことがあったような。カップの中の黒いコーヒーから立ち上がる暖かい白い煙を見ながらぼんやりと思い出していると、階段から足音が聞こえた。
「ユレヒトおじさんおはよう」
「ああパベル。おはよう。今日は片づけだな」
「そうだね、明日の朝には発たないと」
明日スムーズに出発するには今日のうちに片づけをしないと。骨が折れる。なんでこんなに広いコテージを借りたのかな?
初日のイブに大雪が降ったせいか、あまり遊ぶ余裕がなかった。いつも尾根とか散歩に行ってた気がするんだけど。来年は行こうか。
ゴミはコテージに隣接して建てられたゴミ捨て場に置いておけば、年が明けたら管理人が片づけてくれる。ゴミ捨て場には色々なものが詰まっていた。旅行鞄やプレゼントのような箱。酷く見覚えのある小さな箱をあければ、小さな指輪が入っていた。勿体ないけど、人のものに手を付けるのはよくないだろう。
勿体ない。あれ? このゴミ捨て場って共用だっけ。そう思いつつ、ゴミを片づけていると隅の暗がりに目が行く。ゴミ捨て場の入り口から最も遠く、闇の欠片が集まるようで、少し気味が悪かった。しかもゴミ捨て場の入り口から届く陽の光を避けるようにモゾリと動いた気がした。
ものすごく嫌なことをたくさん思い出しそうな気分になり、慌ててコテージに逃げ帰る。
ともあれ掃除が完了した。これで明日は自分の荷物だけもって出掛ければいい。最後の晩の食事は簡素だ。大きな荷物も余った食材も今日のうちに全て配送した。明日は自室の片付けをしたら鍵を返して帰るだけだ。
「じゃあ、乾杯」
「乾杯。おじさん今年も楽しかった。来年もよかったらまた誘って」
「そうだな。そうしようか」
今日は早めに片付けて寝ることにした。色々と片づけをしていたら、なんだかすごく疲れている気がしたからだ。肉体的にも、精神的にも。
翌朝、部屋を片付けてバックパックを持った。
最後に火の確認と思って暖炉を見たら、暖炉の奥の方に24個の木炭のブロックが置かれていた。予備のブロックかな。緊急用とか。
24か。なんとなく、このコテージだとそのくらいの人数の方が楽しい気がする。
でもまあ、1人で静かに新年を迎えるのも悪くない。
そう思って、俺はコテージの鍵を閉めた。