リビングのドアを開けて、廊下に出る。人が居ないだけ少し肌寒い。すぐ隣だから、私が我慢せずに寒さを押し切って柊くんの部屋にしている和室の襖を開いた。
和室の中は綺麗に整頓されている。綺麗好きなんだよね。心が洗われる。部屋をぐるりと回る。そうすると一箇所見つけた。低く黒っぽい茶色の文机の一番上の棚が空いている事に。
見たらいけないのは分かる。分かるけど、開けてみたい。
大丈夫だろう。柊くん優しいから。
意を決して開けると、一通の綺麗な手紙が真ん中にポツンと置いてあるだけ。そのくらい。中身はこれも良さそう。見てみたら、長い文章がつらつらと書かれていた。
……ふふっ。
思わず笑みが溢れてしまった。やっぱり柊くんは私の事大好きだったんだ。素敵で詩的な表現で、でも実直さも伝わる。柊くんらしい文章だ。柊くん、本当に私の事を愛しているんだなあって強く思った。こんなに愛されてたって知ると、言葉に出来ないくらい嬉しい。柊くんがそう言ってくれるってのが一番嬉しい。
だけど、私も柊くんのこと大好きだよ。同じくらい。間違いなく。手紙には書いてたけど、不釣り合いじゃないよ。私と柊くんは最初からバランスが取れていたんだよ
そう言えば、結婚前に僕は何も出来ないって自虐的に言ってたなあ。それも間違いなく違う。だって、結婚を決めてから転職活動ひたすら頑張ってて給料も上がったし、仕事もプライベートもちゃんと両立させているよね。柊くんは運がいいって言ってたけど、その裏で頑張っているのをいっぱい見てるから。運じゃない。実力。自信を持って欲しいなあ。誰かが言うなら私は守る。そう決めた。
そしたら、甘いものを一品作ろう。嬉しいとデザートを作りたくなる。私が好きな冬の象徴のデザートを。おでんでも温まるけど、しょっぱいものの後は甘いものが効く。あと、甘いものは疲れた身体を癒せるからね。突然アレが出てきたらびっくりするだろうなあ……。その様子を想像したら頬が緩んできちゃった。じゃあ少し急いで作ろう。手紙綺麗にを元に戻してから、棚を締めてキッチンに急足で戻った。
夕食後に二人で何の目的もなくふかふかな白のソファーに座っている時だった。
「なにか、いい事あったの?」
「うーん、別に何もないよ」
「だって、お汁粉あるんだもん。美雪ちゃんがお汁粉作る時って、なにかいい事会った時だけじゃん。美味しいからすっごく嬉しいけど、心当たりがないから気になる」
ニヤニヤしながら、柊くんは聞いてくる。柊くんは私の事をもっと知っていたいって人だから、多分出して欲しいんだろうなあって感じ。教えられないから言えないけどね。
「ひみつー。今日のは教えない」
「えー。おーしえてよー」
いつもだったら教えないって言ったら引き下がるけど、今日はやけに絡んでくる。百パーセント疲れてるんだろうなあと思う。最近は珍しく残業続きだったから。仕事とプライベートの両立といっても、今は繁忙期みたいだからある程度は仕方ない。私も許容してるし、柊くんもそれは承知している。
それとなく仄めかしてみようか。気づいたら、正直に白状しよう。
「ヒントは、柊くんが私の事好きだって分かったからかな」
「好き……それって仕事に行く時も帰ってきた時もハグしたり言って……っ! さては読んじゃったな?」
「大事な手紙をしまっているのに、ちゃんと閉じておかないのが悪い」
右の口角だけをあげて答える。この表情を見た秀くんは、やっちゃったーと言っている顔をしていた。
「たまに見返したくなるのよ。あの時の自分に、今は大好きな美雪ちゃんと結婚してラブラブだぞって語るために」
「それ本人の前で言っちゃう? でも、そう言われたら、美雪ちゃんはもっと嬉しくなっちゃうし……好きになっちゃう」
私が本気を込めて言ったら柊くんは、少しだけ顔が赤らんでいた。最近呑めるようになったお酒を呑んだ時みたいだ。呑んでないのに。
「今だから言っちゃうけど、私は柊くんの事昔からずっと大好きだったよ。一度他人に靡いた癖に何言っているんだって思われるかもしれないけど」
「そんな事ないよ。僕に戻ってきて、今大好きなんだから。だから僕は何も思わないし、今でもそう思うなら僕が上書きして思い出せなくする。そのくらい、僕は美雪ちゃんが――」
言葉を途中で切って、柊くんが私の顎を右手でくいっと持ち上げる。そして甘い口付けを交わしてくれた。今日のキスはお汁粉の甘く蕩ける味だった。
「大好きだ」
柊くんの顔は雪の結晶よりも輝いて見えた。
私はこの人を好きになって、助けてもらって、結ばれて、本当に良かった。私は山野美雪は世界一幸せだ。