※以下の文章はAI学習や転載など厳禁です※
無言のまま山から一番近い村へとやってきたものの、がらんとしていて、誰もいない。以前訪れたときは、村やお店の人のかけ声とかとか食事処の香りとかしてたのに。
村長さんの家に行くと、周囲を警戒しながら早くはいるようにと促される。
「よく来たね、フラン。話は魔女から聞いたかね」
「はい。急にドラゴンが現れて食料を奪ってるって」
「その通り。こちらとしても理由が分からなくてね。困っているんだ」
「夏には何もなかったんですよね」
「ああ。何も変わらずのどかに暮らしてたんだよ。冬になって突然、あのドラゴンが」
『フラン。どこから来てるのか聞いてくれ』
「そのドラゴンはどこからきたんでしょうか」
「この村からだと、いつも北東から来てるように見えているよ」
こ、この村からだと、って。どういう意味なのかしら。
「他の村や町だと違うんですか」
「聞いた話だけど、人によって違うらしい」
『惑わしの魔法かもしれねぇな。北東に行ってみようぜ』
「あ、うん。じゃあ私たち、北東に行ってみますね」
「気をつけるんだよ。ああ、必要なものがあったらお店の裏口へ行っておくれ。話をしておこう」
「ありがとうございます」
お家をでてから荷物を確認すると、大丈夫そうなので帰ってきたらにしよう。
『こっから北東に何があったっけか』
「山と洞窟かなあ。冬に洞窟はめったに行かないって聞いたことある」
『狩りしねぇもんな。よし』
次の目的地が決まり、歩いて行く。
途中、妖精が道が分岐するたびに魔法を使った。幻を見せる魔法らしく、方向感覚がくるってしまうんだって。
山道の入口にある休憩小屋の場所をおさえたあと、私たちは洞窟の中へと入って行った。中は不思議と暖炉があるのかと思うぐらいに暖かい。
それに、何かしら。この香り。しかも、歩けば歩くほど、暑くなってく気がする。
「ふんふふーん。ふふんふーん」
鼻歌と一緒に漂う匂いは、テーブルいっぱいに並べられた伝統料理からだった。ところ狭しと並べられた料理は規則正しくきれい、なんだけど。
妖精に視線を送ると、巨大な鍋の中身を棒らしきモノでかき回してる子供に、ゆっくりと近づいていた。
『おいコラ、何してやがんだ』
「わっ。な、なんだ、キミか。おどかさないでよ。もう」
『もう、はこっちのセリフだっつうの。で、何で人間界にいる』
顔を近づけて威圧する妖精。五歳ぐらいの子供は、目に涙を浮かべながら、
「だだ、だって。ことしは、にんげんたちのたべものが、すくないってきいたから。かわいそうだと、おもって」
『あん? そうなのか』
「れ、例年に比べると少ないわね。越すのにギリギリの量だって」
「わあ、にんげんだっ。こんにちは、ぼくのこと、みえる」
カラン、と棒を投げ飛び降りる子。駆けよってきた笑顔は、純粋そのものね。
「み、見えるわよ。私、妖精と契約できたから」
「そうなんだ。すごいね、はじめましてっ」
『そ、れ、で』
ずい、と再度顔を近づける妖精。
『匂いからして、妖精界のモンいれてんな』
「うん。りょうをふやそうとおもって。ふゆならキミがくるとおもったし」
『つーまーり。オレに料理を凍らせて保存させようって魂胆かよ』
「こんたん?」
首をかしげる子供。うーん、さすがに難しい言葉かしらね。
『あのなあ。妖精界のものを人間が口にしたら、どうなるか知ってるだろ』
「うん。だから、おじいさまにたのんで、まほうをかけてもらったの。おなかいっぱいになりますようにって」
「えーっと。結局どういうことなの」
妖精は一連の流れについてまとめる。
この子は妖精界の王子の一人で、誰かからか人間界の話を聞いたのだそう。
それで気の毒に思った王子は、こっそり人間界に降りて食べ物を分けようとした。しかし、妖精が食べる物と人間のそれは少々異なっている部分があるんだって。
妖精が口にする食べ物には実体がなく、自然エネルギーのかたまりとして取りいれているらしい。つまり、目の前のお肉は、妖精にとってお肉の形をしたエネルギーなんだそう。
本来、妖精が口にする食べ物は、人間がとるのを禁忌としてる。とりすぎてしまうと、人間界にいられなくなり、妖精の力を帯びてしまうからなの。そうなると魔法が使えるようになるのだけど、人間はいい人ばかりじゃない。悪い人間が力をつけて他国を侵略したことが、過去に何度もあると習った。
だからこそ見張りをかねて、生まれた時に適性がある人間が季節の妖精と契約をし、差しせまった場合にのみ妖精が魔法を使う。私自身はただの人間で、単純に妖精とコンタクトがとれるだけなのよ。
『おじいさまっていうのは、人でいう皇帝みたいな立場なんだが。孫が可愛くてつい手を貸しちまったんだろ』
妖精は鍋の中身をいつの間にか握ってたスプーンで味見をした。うん、と納得した顔で、
『大丈夫だ。妖精界の力は消えてる。完全にただのかさ増しになってるよ』
「おじいさまのまほうだもん。だいじょうぶだよっ」
『ってか勝手に人間界に来やがって。陛下からの許可取ってねぇだろ』
「そ、それは」
『ったく。勝手に変化の魔法も使いやがって。報告するからなっ』
「ええっ。だめだよ、ぼくおこられちゃうじゃないかっ」
『当たり前だバカタレ。今頃大騒ぎだぞ、きっと』
「ふええん。おねえちゃん、たすけてっ」
ええっと。どうすればいいのかしら~。
『フラン、気にすんな。もう伝えたから捕まえにくる』
「そんなあっ。ぼく、わるいことしてないのにぃっ」
『心遣いはな。ただ、掟を破った点は、許されるモンじゃねぇぞ』
「お、おねえちゃぁぁんっ」
『力のある妖精が好き勝手に人間界に来ること自体が危ねぇんだ。さらわれて殺されるかもしれない』
「え」
『あー。まだ歴史ならってないか?』
「いま、えをかいてる」
『まだそこか。人間にもいい奴もいれば悪い事する奴もいるんだよ。知らない奴についていくなっていわれてるだろ』
「うん。にんげんもこわいんだね」
『そうだ。ああ、フランは大丈夫だから心配すんなよ』
二人の様子を見ていると、入口のほうから、数人の声が聞こえてくる。
『いたいた。王子っ』
「うわっ」
『全くもう。ご両親が心配なさっておいでです。帰りますよ』
「いやだよ。ここのおりょうりを、にんげんたちにたべてもらうんだもんっ」
『僕と彼が引き受けますから。さあ、他の人間に見られる前にお帰り下さい』
「やだやだっ。いっしょにたべたいよおっ」
『そう来やがったか』
はあ、と、一斉にため息をついた妖精たち。どうしたものかと頭を悩ませていると、
「おやおや。季節の妖精たちが勢ぞろいじゃないか」
全員の視線が集まると、若い姿の魔女がいた。
「冬のお嬢ちゃん。預けた鐘を振ってごらん」
「え。あ、はい」
カラン、カランと、授業が始まる合図に似た音が奏でられると、ボウワン、と、煙とともに効果音がなる。手ではらうと、一人の男の人がでてきた。え。誰。あの子はどこいっちゃったの?
『ちょ。何で今解くんですか』
「小賢しい真似するからだ。恩着せがましい」
『うう。そ、それは』
「人間も妖精も、心は同じなのさ。腹を括るんだね」
『ああ。そういう事か。ようやく合点がいった』
『おい。どういう意味だ』
『嫌だね~。このニブチンは。私は気づいてたけどね』
『うんうん。知らないの君だけじゃない』
『なっ。おい、どういう事だよっ』
『ぼ、僕に言われても。苦しいって』
『八つ当たりはカッコ悪いよ』
『ここはひとつ力になってあげましょうか』
ねー、と夏と春の妖精。ほれ、と、どつかれた新しいお兄さん妖精は、
『あ、あの。フラン、手伝ってもらえますか? ここにあるのはクリスマス用の食事なのです』
「え。じゃあ、明日の分ってことですか」
『ええ。残りは後程、もらった食料に応じて分配します。貴女の村にも、もちろん』
「わあ、助かります。これで冬が楽になるわっ」
冬の狩りってすごく大変だって聞いたら、お父さんもお兄ちゃんも喜ぶだろうな。
『それじゃあ、この辺り一帯に配ってきましょう。今から配れば余裕で間に合います』
『オレが一番しんどいじゃねぇか。覚えてろよ、この野郎』
『はい。貸しにしておきますから、お願いしますよ』
「やれやれ、全く。さて、アタシは帰るよ。」
『たまには戻られては。おじい様が寂しがっております』
「喧嘩中でな。あのスットコドッコイが謝るまで今回ばかりは許さん」
な、何があったんだろ。聞いちゃあ悪いよね。
ではな、と残して、魔女は姿を消した。
ふもとの村へ戻ってくると、空から赤や緑の大きな袋に包まれた贈り物が、降りてきていた。各家庭の入口付近に置かれると、鐘がなり響く。何事かと扉を開けた人々はプレゼントに気づくと、開けて喜びに満ちた顔になった。ひとりでに閉まった扉の向こうからは、家族と分かちあってるに違いない。
一泊泊まってから村へ帰ると、同様の出来事が起こっていた。
ちなみに私の隣には、冬の妖精の代わりに人間の姿をした王子様がいる。危ないからって送ってくれたの。もちろん、彼の正体は内緒だ。旅の人って事になってる。
家族とともに食事をしたあと、王子様が星を見ようとみんなを誘った。今日は近くにある丘から流れ星が流れるらしいんだけど。
半信半疑で行ってみたらビックリ。本当に流れ星が先のを追いかけるように次々と流れてきたんだから。
「懐かしいなあ。小さい頃、流れ星にむかってお願いごとしたっけ」
「おや。何を願ったのですか」
「昔ね。仲のいい子がいたんだけど。引っ越しちゃってさ。その子が幸せでありますようにって」
「優しいのですね」
「そんなことないわ。ただ、親切にして貰ったし、色々と助けてもらったから」
「今なら何を願うのです?」
「うーん。そうだなあ」
私はまだ流れてゆく星々を見ながら、
「お嫁さん、かな。なーんちゃってねっ」
年頃だから最近は言われることがある。当然、まだ考えてるわけじゃないけど。家族もいるし、とりあえず口にしてみただけ。
すると王子様は微笑んで、それは良かった、と言葉をだす。家族から死角になるところで、魔法を使った。手には、大きくて綺麗な宝石がある。
「差し上げます」
「え。で、でで、でも」
どう見ても貴重っぽいよね。それって。
「貴女は覚えていないかもしれませんが。僕は貴女に命を救われたのですよ」
「え」
「十年前、寒さで凍えている子猫がいたのを覚えていますか?」
「猫ちゃん? ううん、覚えてない」
「ふふ、ずいぶん昔ですからね。ちょうど今の時期に、僕と父が喧嘩をしてしまいまして」
その際、猫に化けて人間界へ飛びだしたらしい。まだ魔法を使いこなせていなかったため、人の姿はおろか、妖精にすら戻れなかったんだって。
そこを見つけたのが私だったみたい。大泣きしながら猫を抱えて、家に帰ったとか。
「僕はまだまだ未熟。一人前になったらすぐに迎えに来ます。これは、その証です」
人間と妖精の、年のとりかたは違うって聞いてる。
「あ。僕は人間に換算すると十四だそうですよ。あと数年、必要ですが」
「ええ、っと。一年で、一才?」
「ええ。そこは同じです。ただ、寿命が違うだけで」
にっこりと、見た目は年上の王子。突然のことで、頭が回らない。
「という事ですので。戻りましょうか」
握らされた宝石は、ひと際、きれいに見える。
そして、四年の時がすぎた。
王子は約束とおり、人間の法律にあわせて戻ってきてくれた。たまに遊びにきては話したり、散歩したり、とまちまちだったけど、これからはずっと一緒。冬の妖精をはじめ、他の季節や魔女も祝福してくれた。
クリスマス時期に起こった不可解な事件。
私にとっては一生忘れられない想い出になるだろう