※以下の文章はAI学習や転載など厳禁です※
寒さとともにやってくるのは、何も北風だけじゃない。もちろん、雪や氷といった現象とも違う。
『いやあ、今年もようやく外に出れたぜ。まったく待ちくたびれちまったよ』
これである。悪ガキをさらに小さくしたような存在で、俗に、妖精、と呼ばれる存在である。
実際に関わる身からすると、悪鬼のほうに近いんだけど。季節毎に妖精界から降りてきて、人間たちに知恵や力を貸してくれる、一応ありがたい存在なのよ。
ただし、生まれた時に契約を結べた人間だけ、っていう条件付きだけどね。
「って、ちょっと。勝手にクッキー食べないでよ」
『ツレネーコトいうなって。久々の外なんだし』
「んもう。夏の間に出して溶かしてやろうかしら」
『何つーコトいいやがんだよっ』
半べそで抗議する妖精。ちなみに、人間のように個人を特定する名前はない。
「早速仕事があるからね。今年は多いわよ」
『んあ。何でまた』
「最近、天候がおかしいせいか、妙な現象が頻発しててね」
『他の連中は?』
「ちゃんと対処してくれてる。どうもね、季節をまたぐみたいなのよ」
『ふうん? そんな話はきてないぞ』
「え、そうなの」
『おお。人間たちの仕業じゃねぇのか』
「それが証拠がなくって」
『ふーん』
ああ、私のおやつが。また焼かないと。って、それどころじゃないわ。
「このままだと飲み水や食料がなくなるかもしれないのよ。冬を越せなくなるわ」
『そんな重要な案件なら共有されてるはずなんだが。まあいいや、お茶ちょーだい』
「あのねえ」
マイペースなのは昔からで、自由に存在しているから致し方ない。この村に何かあった際は、いつも助けてくれてるから、信頼してはいるけど。
ご要望通り冷たいお茶を持ってくると、おいしそうにゆっくり飲んでいる冬の妖精であった。
ようやく満足してくれたので、かの者を連れて問題が起こってる土地へとむかう。備蓄倉庫だ。
村長さんがいたので挨拶をする。
「おお、いらっしゃいフラン。やっぱり誰かが盗んでいるって事は無いようじゃよ」
「動物でもないのよねえ。何なのかしら、本当」
普段の半分以下となっている在庫は、日に日に少なくなっていってる。食べ散らかされてもいないし、倉庫には普段カギがかけられていて窓もない。
『あー。妖精の仕業だな、こりゃあ』
「えっ」
『確信を得るためにも、まずは北山の魔女の元に行こうぜ』
「え。今の時期だと遭難しちゃうわ」
『オレがついてるから大丈夫。念のために三日分の食料と荷物まとめてきなよ』
「わ、わかったわ」
村長さんに事情を話して、一度帰宅。ちょうど料理中だったお母さんにも伝える。とはいえ、今から出発すると途中で夜になってしまうので、明日の早朝に出発することになった。
一番ひんやりしている時間帯に外出した私は、思わず手袋の上から息を吹きかけてしまう。
山のふもとにつくと、見上げた先には吹雪が暴れ回っていた。
妖精は人には理解できない言葉をつぶやくと、私の周りがほのかに暖かくなる。寒さをよけてくれる結界だ。
『オレの後ろをしっかりついてきなよ』
「うん」
『クッキー食いたい』
「はいはい」
嬉しそうにほおばりながら、進んでいく妖精と私。さすがに視界は悪いけど、足元は結界のお陰で歩きやすい。ひざ下まであるが、ストックでバランスをとりながらでも、ゆっくりながら十分に歩ける。仕組みは謎だけど、妖精の加護って思ってるわ。
昼過ぎぐらいになり、ようやく頂上へとたどり着く。小さな一軒家には、偏屈で有名な魔女が住んでる。
悪い人じゃないけど、気まぐれで頑固なところがあるのよね。
コンコン、とノックをすると、不機嫌そうな声が、
「誰だい」
「あ、あのー。私、ふもとの村に住むフランです」
「ああ。冬のお嬢ちゃんかい。お上がり」
すんなりと入れてくれたので、ちょっと驚いたわ。以前は帰れっていわれちゃったのよね。
魔女さんの姿は会うたびに変化してる。今はおばあちゃんの姿だけど、以前は若い男性だったり、鳥だったりと。
温かいスープをだされ、お礼を言って飲みはじめる。
「お前さんが妖精と一緒に来るのは分かってたからね。単刀直入に言おう」
魔女は隣の国から突然ドラゴンがやってきて、逆側のふもとの村や町を制圧したという。虐殺こそはしないものの、水と食料をねだり、大量に消費してる、らしい。
「そんな事、初めて聞きました。本当なんですか」
「嘘をついてどうする。それで、悪いとは思ったがそちらの食料を貰ったんだよ」
『おい。だったら何故オレたちに相談しない』
「出来なかったのさ。奴はどういう訳か時空移動の魔法が使える」
見開く冬の妖精。魔女いわく、妖精の世界と人間の世界との行き来をするための魔法だとか。人間は妖精の世界に行くことができない。やっぱり、じゃあ。
「アタシが分かる事はここまでだ。ベースは人間なんでな」
『そうだな。こっちで何とかする』
珍しく真面目な顔をする妖精。テーブルにあるお菓子を手にすると、ふくれっ面をしながらほおばった。
やっぱり変わりないかも。
「ああそうだ。ちょいと待ってな」
そろそろ問題の地へ行こうかと思っていたところ、魔女が席をたち、奥の部屋で何かを動かす音をならした。
しばらくすると、鐘を小さくしたような杖を持ってでてくる。
「こいつが役に立つだろう。持って行きな」
「ありがとうございます」
天気はすっかりご機嫌になっていて、逆方面に行くには大して苦労はなかった。
ただ、近づくたびに、風景が白い銀世界から枯れはてた茶色い世界になっていったけど。これは自然現象だからいいとして、別の違和感があった。ナナカマドについてるはずの実が、ごっそりなくなっていたの。この時季ならまだ残ってるんだけど。
妖精に伝えたら、眉間のしわをより深くさせちゃった。
(C)望月 葵