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後編

ー/ー



 でもやっぱり断った方が、私の精神衛生上は良かったのかもしれない。もう遅いけれど。
 植物園へ来るまでも、来てからもずっと、リリちゃんはゆきちゃんにべったりだ。
 リリちゃんがゆきちゃんに(かま)われたがって、話しかけているあれもこれもを、私達も、嫌でも間近(まぢか)で見聞きする。私はあっという間に、イライラしてきた。

 ゆきちゃんがリリちゃんに手一杯(ていっぱい)なので、結果的にルキちゃんが私へ、いつも以上にたくさん話しかけてくれていた。それは、そこだけ見れば「ラッキー!」以外の何者でもない。
 だが、私は聞こえてくるリリちゃんの声や、目に入るリリちゃんの様子にイライラするせいで、好きなルキちゃんへ半分かそれ以下しか集中できていなかった。我ながら、あまりにも勿体(もったい)ない。

 リリちゃんから(はる)か遠くへ離れたい。リリちゃんをゆきちゃんに任せて、ルキちゃんと二人で、先に行くことができれば楽だろうと思った。私はルキちゃんともっと仲良くなりたいのだから、二人で行動できれば大チャンスだろう。

 でも、ゆきちゃんを置き去りにして「リリちゃんと二人きり」にしない限り、私だけルキちゃんと行動するのは無理だった。ゆきちゃんはリリちゃんと「二人きり」になりたくはないだろう、という気がとても、した。
 ゆきちゃんが、リリちゃんと二人でも平気なら、今日会ってすぐから「ゆきちゃんはどう思う?」「ゆきちゃん、あれを見て!」「ゆきちゃんこっち!」と何度も「私を」会話へ巻き込もうとはしていない気がした。リリちゃんはゆきちゃんと「だけ」話せればいいようだったが、ゆきちゃんは、私やルキちゃんとも会話したいのだ。

 もう、リリちゃんと離れる方法は、「私一人で」離れる以外にない。突然、思い当たった。そこで、「この先を見てくる」と、三人を置き去りにして、来てしまった。

 温室の通路は、意外と起伏があって、曲がりくねっている。いろんな色や形の植物が、大きさや高さも様々、立体的に植えられている。次々、目の前へ現れるように工夫されて、景色の変わる感じが面白(おもしろ)い。少し、落ち着いてきたかもしれない。

 もう出口に近いはずのカーブを曲がった。そこで足が止まり、「わあ」と声が出た。

 ポインセチアの展示だ。赤や白、ピンクの「花」を付けた(かぶ)が、ビッシリ並べてある。壮観(そうかん)だ。
「すごい。百個以上ある?!」
 (ひと)(ごと)して見回す。百個というのは「花」の数ではなく、鉢の数が、だ。「花」は、だから何百もあるだろう。

綺麗(きれい)! 大きいし、おんなじ種類ばっかりじゃないし……」
 街で見かける花壇や商業施設の飾り物は、そもそも本物じゃないことも多い上、大抵は背の低い鉢で、同じ赤と緑のものがズラーッと並んでいる。背景装飾みたいで、あまり面白くはない。ここは違う。

「見た目、こんなに色々あったんだ」
 ポインセチアの鮮やかな「花」は、色だけでなく形も多様だった。「花弁(はなびら)」みたいな部分が細長いものや丸っこいもの、ヒイラギの葉のように(ふち)がギザギザしていたり、立体的に盛り上がってねじれ、薔薇(ばら)を思わせる形のものもある。
 葉の色や模様も一様(いちよう)ではない。濃い緑一色から()入り、白に緑の筋がレースのようなのもあった。
「ポインセチアの印象、変わっちゃったな」
 感心し、見渡して、ふと思う。

(これ、花じゃないよね。葉っぱ? (がく)? 紫陽花(あじさい)みたいな?)
 浮かんだ疑問に答えるかのように、鮮やかな「花」達の向こうには、大きめのパネルがいくつか立ててある。読んでみた。
「萼じゃなくて……(ほう)、って言うのか。葉っぱの変形した器官。ふーん、紫陽花じゃなく水芭蕉(みずばしょう)の白いとこみたいなものか……」

 じゃあ花はないのかな、と思ったら、妙なキャラクターのイラストが目に入った。カモノハシのような、かっぱのような、黄緑色の変なやつだ。黄色くて大きな楕円のクチバシを、ぱか……と開いて斜め上を見ている。間抜けな感じのキャラクターだ。『こんな妖精さんが、ポインセチアの中にたくさんいます。探してみよう』と書いてある。
「これが? 変なの」
 可笑(おか)しく思いながらも「花」の方へ戻り、試しに(かが)んでよーく見ると、
「いた! 妖精さんだ! いや、なんだこれ?」
 妖精ではない。ポインセチアの一部分だ。

 それは確かに、妙なイラストのキャラとびっくりするぐらい似ていた。でも思ったよりずっと小さい。一センチもない緑色のずんぐりむっくりだ。頭に花冠(はなかんむり)をのせたカッパのような、黄色い大きなクチバシをぽかんと開けたカモノハシのような、とても小さな「妖精さん」が、ポインセチアの真ん中にいくつも付いている。本物には、イラストと違って目はないが、ぱか……と開いた笑える黄色い口元はイラストそっくりだ。

 もう一度、解説パネルに戻って読んでみた。
 ポインセチアの、色づいた「苞」の真ん中にあるものは、本当は小さな花の集団で「花序(かじょ)」というらしい。
「真ん中に雌花(めばな)が咲いて、その周りに雄花(おばな)がある。ふーんじゃあ、あの妖精さんが花か! お(わん)みたいなずんぐりむっくりの、椀状(わんじょう)花序。黄色いクチバシは、受粉者のハチドリを呼ぶための、蜜腺(みつせん)

 解説を読んでからまた、ポインセチアを(のぞ)き込む。
「ハチドリ待ち、なんだねえ……」
 日本にハチドリはいないけれど、どうやって受粉するんだろう。「妖精さん」の花序は小さく目立たないが、大きく華やかな苞が受粉者を呼んでいる。
 花序の黄緑のずんぐり頭には、とても小さな雌花が一つ咲いている。雌花を囲んでもっと小さな雄花がぐるり、ポヤポヤと、小さな冠か逆立った毛のように咲いている。そして目立つ黄色いぱか……としたクチバシ、蜜腺が上向いていて、透明な液体が満たされ光っている。
「あれはヨダレじゃなくて、蜜かー。甘いのかな……」
 それは解説に書いていなかった。でも、蜜というからには甘いんだろう。どれぐらい甘いのかな。考えていると、私の口に少し、ヨダレが湧きそうだ。

 苞の色が赤いと、「妖精さん」の頭の天辺(てっぺん)の花たちも赤い。ピンクだとピンクだ。白やクリーム色だと白っぽい。
「うーん。ポインセチアの花は、大きな口の妖精さんかー。おしべめしべ、じゃなくて、頭に生えてるちっちゃいポヤポヤが、いちいち花なんだ。なんか面白い。可愛(かわい)いな……」
「何が面白いのー?」

 いきなり声をかけられてびっくりし、体を起こした。リリちゃんが間近にいた。さっきから独り言が声に出ており、聞かれたようだ。
「二人は?」
 (あわ)てながら、ゆきちゃんとルキちゃんを探して見回した。いない。
「ゆーちゃんは、お手洗い。もう一人の人が転んで、服が汚れたから、ゆーちゃんが手伝ってきれいにしてる」
「転んだ? ルキちゃんが!」
 大変なことだと思ったのに、リリちゃんは平然としている。
「んー、道が濡れてて、ずべっ! って尻餅(しりもち)付いただけ。お尻が汚れたから、ゆーちゃんが手伝ってあげてる」
「大変だ」
 引き返そうとするとリリちゃんは、
「待ってれば来るよ、そんなに汚れてなかったもん。これ、クリスマスによく見る花だねー。花言葉、何だっけー」
 と、のんびりポインセチアを見つめた。動く様子はない。

「じゃあ待ってて、私は行ってくる……」
「ダメだよ。リリと話そ」
 なんだそれは、とちょっと怒りを覚えかけて彼女を見ると、リリちゃんは珍しく、私をはっきり見つめていた。そして、
「話があるんだ、ゆーちゃんのこと。ゆーちゃんはあなたを好きだけど、私はゆーちゃんのことが好き。だから、あなたにはルキちゃんとくっついて欲しいんだ」
 と言った。

 今度こそ「なんだそれは!」だったのに、私は気を()まれて、ぽかんとした。ぼんやりフニャフニャどんくさいはずのリリちゃんが、何を言った? リリちゃんは続ける。
「あなたはルキちゃんのこと、好きでしょう。見てたら分かるよ。ルキちゃんは今のところ、誰にも恋してないけど、あなたを嫌いではないよ。多分、もっと仲良くなったらあなたを好きになる。ゆーちゃんはもう、あなたのことが好き。でもあなたは、ゆーちゃんに恋してない。だからリリに(ゆず)って。って、言ってるの」
 リリちゃんは、聞き間違えようもなく、はっきりくっきりそう(しゃべ)ってから、また「のほん」とした顔でポインセチアを(なが)めた。

「そ……んな、話は……」
 何といえばいいのかも分からなくなり、茫然(ぼうぜん)と見つめたところで、
「ごめーん、コケてた!」
 ルキちゃんが小走りで角を曲がって来て、勢いのままドーンと私に抱きついた。
「そうだってね、今聞いた! 大丈夫?」
 混乱しているのにちゃっかり抱き止めて答え、しかもしっかり嬉しい自分が、本当に現金で(あき)れる。

「もう平気。お尻、見る?」
 ルキちゃんが抱きついたまま笑う。ゆきちゃんも笑顔で追いついて来て、
「汚れは取れたよ」
 と教えてくれた。向けられたのは普通の、友情的な笑顔……だと思うけれども……変なことを聞いたせいで、微妙に確信が持てなくなる。

 リリちゃんは、すっかりいつものフニャフニャな様子に戻っていた。
「ねー、見てゆーちゃん、この絵ー。ポインセチアの妖精さんだってー。そっかー。ねえ、ゆーちゃん。ゆきちゃんはさっきここで、妖精さんと喋ってたんだよー」
 彼女は後の二人に、そんなことを言った。

(おわり)


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 でもやっぱり断った方が、私の精神衛生上は良かったのかもしれない。もう遅いけれど。
 植物園へ来るまでも、来てからもずっと、リリちゃんはゆきちゃんにべったりだ。
 リリちゃんがゆきちゃんに|構《かま》われたがって、話しかけているあれもこれもを、私達も、嫌でも|間近《まぢか》で見聞きする。私はあっという間に、イライラしてきた。
 ゆきちゃんがリリちゃんに|手一杯《ていっぱい》なので、結果的にルキちゃんが私へ、いつも以上にたくさん話しかけてくれていた。それは、そこだけ見れば「ラッキー!」以外の何者でもない。
 だが、私は聞こえてくるリリちゃんの声や、目に入るリリちゃんの様子にイライラするせいで、好きなルキちゃんへ半分かそれ以下しか集中できていなかった。我ながら、あまりにも|勿体《もったい》ない。
 リリちゃんから|遙《はる》か遠くへ離れたい。リリちゃんをゆきちゃんに任せて、ルキちゃんと二人で、先に行くことができれば楽だろうと思った。私はルキちゃんともっと仲良くなりたいのだから、二人で行動できれば大チャンスだろう。
 でも、ゆきちゃんを置き去りにして「リリちゃんと二人きり」にしない限り、私だけルキちゃんと行動するのは無理だった。ゆきちゃんはリリちゃんと「二人きり」になりたくはないだろう、という気がとても、した。
 ゆきちゃんが、リリちゃんと二人でも平気なら、今日会ってすぐから「ゆきちゃんはどう思う?」「ゆきちゃん、あれを見て!」「ゆきちゃんこっち!」と何度も「私を」会話へ巻き込もうとはしていない気がした。リリちゃんはゆきちゃんと「だけ」話せればいいようだったが、ゆきちゃんは、私やルキちゃんとも会話したいのだ。
 もう、リリちゃんと離れる方法は、「私一人で」離れる以外にない。突然、思い当たった。そこで、「この先を見てくる」と、三人を置き去りにして、来てしまった。
 温室の通路は、意外と起伏があって、曲がりくねっている。いろんな色や形の植物が、大きさや高さも様々、立体的に植えられている。次々、目の前へ現れるように工夫されて、景色の変わる感じが|面白《おもしろ》い。少し、落ち着いてきたかもしれない。
 もう出口に近いはずのカーブを曲がった。そこで足が止まり、「わあ」と声が出た。
 ポインセチアの展示だ。赤や白、ピンクの「花」を付けた|株《かぶ》が、ビッシリ並べてある。|壮観《そうかん》だ。
「すごい。百個以上ある?!」
 |独《ひと》り|言《ごと》して見回す。百個というのは「花」の数ではなく、鉢の数が、だ。「花」は、だから何百もあるだろう。
「|綺麗《きれい》! 大きいし、おんなじ種類ばっかりじゃないし……」
 街で見かける花壇や商業施設の飾り物は、そもそも本物じゃないことも多い上、大抵は背の低い鉢で、同じ赤と緑のものがズラーッと並んでいる。背景装飾みたいで、あまり面白くはない。ここは違う。
「見た目、こんなに色々あったんだ」
 ポインセチアの鮮やかな「花」は、色だけでなく形も多様だった。「|花弁《はなびら》」みたいな部分が細長いものや丸っこいもの、ヒイラギの葉のように|縁《ふち》がギザギザしていたり、立体的に盛り上がってねじれ、|薔薇《ばら》を思わせる形のものもある。
 葉の色や模様も|一様《いちよう》ではない。濃い緑一色から|斑《ふ》入り、白に緑の筋がレースのようなのもあった。
「ポインセチアの印象、変わっちゃったな」
 感心し、見渡して、ふと思う。
(これ、花じゃないよね。葉っぱ? |萼《がく》? |紫陽花《あじさい》みたいな?)
 浮かんだ疑問に答えるかのように、鮮やかな「花」達の向こうには、大きめのパネルがいくつか立ててある。読んでみた。
「萼じゃなくて……|苞《ほう》、って言うのか。葉っぱの変形した器官。ふーん、紫陽花じゃなく|水芭蕉《みずばしょう》の白いとこみたいなものか……」
 じゃあ花はないのかな、と思ったら、妙なキャラクターのイラストが目に入った。カモノハシのような、かっぱのような、黄緑色の変なやつだ。黄色くて大きな楕円のクチバシを、ぱか……と開いて斜め上を見ている。間抜けな感じのキャラクターだ。『こんな妖精さんが、ポインセチアの中にたくさんいます。探してみよう』と書いてある。
「これが? 変なの」
 |可笑《おか》しく思いながらも「花」の方へ戻り、試しに|屈《かが》んでよーく見ると、
「いた! 妖精さんだ! いや、なんだこれ?」
 妖精ではない。ポインセチアの一部分だ。
 それは確かに、妙なイラストのキャラとびっくりするぐらい似ていた。でも思ったよりずっと小さい。一センチもない緑色のずんぐりむっくりだ。頭に|花冠《はなかんむり》をのせたカッパのような、黄色い大きなクチバシをぽかんと開けたカモノハシのような、とても小さな「妖精さん」が、ポインセチアの真ん中にいくつも付いている。本物には、イラストと違って目はないが、ぱか……と開いた笑える黄色い口元はイラストそっくりだ。
 もう一度、解説パネルに戻って読んでみた。
 ポインセチアの、色づいた「苞」の真ん中にあるものは、本当は小さな花の集団で「|花序《かじょ》」というらしい。
「真ん中に|雌花《めばな》が咲いて、その周りに|雄花《おばな》がある。ふーんじゃあ、あの妖精さんが花か! お|椀《わん》みたいなずんぐりむっくりの、|椀状《わんじょう》花序。黄色いクチバシは、受粉者のハチドリを呼ぶための、|蜜腺《みつせん》」
 解説を読んでからまた、ポインセチアを|覗《のぞ》き込む。
「ハチドリ待ち、なんだねえ……」
 日本にハチドリはいないけれど、どうやって受粉するんだろう。「妖精さん」の花序は小さく目立たないが、大きく華やかな苞が受粉者を呼んでいる。
 花序の黄緑のずんぐり頭には、とても小さな雌花が一つ咲いている。雌花を囲んでもっと小さな雄花がぐるり、ポヤポヤと、小さな冠か逆立った毛のように咲いている。そして目立つ黄色いぱか……としたクチバシ、蜜腺が上向いていて、透明な液体が満たされ光っている。
「あれはヨダレじゃなくて、蜜かー。甘いのかな……」
 それは解説に書いていなかった。でも、蜜というからには甘いんだろう。どれぐらい甘いのかな。考えていると、私の口に少し、ヨダレが湧きそうだ。
 苞の色が赤いと、「妖精さん」の頭の|天辺《てっぺん》の花たちも赤い。ピンクだとピンクだ。白やクリーム色だと白っぽい。
「うーん。ポインセチアの花は、大きな口の妖精さんかー。おしべめしべ、じゃなくて、頭に生えてるちっちゃいポヤポヤが、いちいち花なんだ。なんか面白い。|可愛《かわい》いな……」
「何が面白いのー?」
 いきなり声をかけられてびっくりし、体を起こした。リリちゃんが間近にいた。さっきから独り言が声に出ており、聞かれたようだ。
「二人は?」
 |慌《あわ》てながら、ゆきちゃんとルキちゃんを探して見回した。いない。
「ゆーちゃんは、お手洗い。もう一人の人が転んで、服が汚れたから、ゆーちゃんが手伝ってきれいにしてる」
「転んだ? ルキちゃんが!」
 大変なことだと思ったのに、リリちゃんは平然としている。
「んー、道が濡れてて、ずべっ! って|尻餅《しりもち》付いただけ。お尻が汚れたから、ゆーちゃんが手伝ってあげてる」
「大変だ」
 引き返そうとするとリリちゃんは、
「待ってれば来るよ、そんなに汚れてなかったもん。これ、クリスマスによく見る花だねー。花言葉、何だっけー」
 と、のんびりポインセチアを見つめた。動く様子はない。
「じゃあ待ってて、私は行ってくる……」
「ダメだよ。リリと話そ」
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「話があるんだ、ゆーちゃんのこと。ゆーちゃんはあなたを好きだけど、私はゆーちゃんのことが好き。だから、あなたにはルキちゃんとくっついて欲しいんだ」
 と言った。
 今度こそ「なんだそれは!」だったのに、私は気を|呑《の》まれて、ぽかんとした。ぼんやりフニャフニャどんくさいはずのリリちゃんが、何を言った? リリちゃんは続ける。
「あなたはルキちゃんのこと、好きでしょう。見てたら分かるよ。ルキちゃんは今のところ、誰にも恋してないけど、あなたを嫌いではないよ。多分、もっと仲良くなったらあなたを好きになる。ゆーちゃんはもう、あなたのことが好き。でもあなたは、ゆーちゃんに恋してない。だからリリに|譲《ゆず》って。って、言ってるの」
 リリちゃんは、聞き間違えようもなく、はっきりくっきりそう|喋《しゃべ》ってから、また「のほん」とした顔でポインセチアを|眺《なが》めた。
「そ……んな、話は……」
 何といえばいいのかも分からなくなり、|茫然《ぼうぜん》と見つめたところで、
「ごめーん、コケてた!」
 ルキちゃんが小走りで角を曲がって来て、勢いのままドーンと私に抱きついた。
「そうだってね、今聞いた! 大丈夫?」
 混乱しているのにちゃっかり抱き止めて答え、しかもしっかり嬉しい自分が、本当に現金で|呆《あき》れる。
「もう平気。お尻、見る?」
 ルキちゃんが抱きついたまま笑う。ゆきちゃんも笑顔で追いついて来て、
「汚れは取れたよ」
 と教えてくれた。向けられたのは普通の、友情的な笑顔……だと思うけれども……変なことを聞いたせいで、微妙に確信が持てなくなる。
 リリちゃんは、すっかりいつものフニャフニャな様子に戻っていた。
「ねー、見てゆーちゃん、この絵ー。ポインセチアの妖精さんだってー。そっかー。ねえ、ゆーちゃん。ゆきちゃんはさっきここで、妖精さんと喋ってたんだよー」
 彼女は後の二人に、そんなことを言った。
(おわり)