三章 熱意 24
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「人気者ねえ」母が嬉しそうに目を細めた。「帰ってくると、いつも何かをもらってきてる」
亮佑の手には、野菜が入った袋が握られている。悦子から、帰り際にもらったのだ。「別に俺、何にもしてないんだけどな。こんなにもらっちゃって悪いよ」
「いいからもらっておきなさい。但し、あとでしっかりお礼を伝えること。相手はそれが一番、嬉しいんだから」
「そうだね」亮佑は頷く「また今度、駄菓子屋と悦子おばちゃんのところに、顔出してくるよ」
母は小さく驚き、納得するように頷いている。何も言わずに見てくるので、亮佑は鳥肌が立ったように全身を両手で抱く仕草をする。「なんだよ、気持ち悪い」
「それが人柄なのね」急に褒めてくる母に亮佑は苦笑する。
「急になんだよ。褒めても何も出ないって」
「何よその返し」母が笑う。「島のおばあちゃん達の癖、移ったのかもね」
亮佑は言葉に詰まる。確かに、会話をしていく中で移ったのかもしれない。
「亮佑、ご飯にするからお父さんを呼んできてよ」
「はいはい」亮佑はリビングを出ようとすると、母から呼び止められた。「なに?」
「表情、明るくなったわね」
父の部屋に行くと、明かりはついているが中にはいなかった。本棚が気になり。中に入ることにした。新しい小説はあるかな、と。
記憶を遡ると、いつも本を読む父の姿があった。勧められたわけでもなく、物心着く頃には亮佑は、絵本を読み始めていたらしい。えだまめがそら豆のベットを作る話や、焼き芋で怪物を作る話など、物語が温かみを持った記憶として残っていた。
「お、亮佑、どうしたんだ」父が部屋の前で声をかけてくる。トイレにでも行っていたのだろう。
「あ、母さんがご飯だって」
「オッケー」と父は一階へと降りていく。
亮佑は机に近づく。机には備え付けの小さな本棚があり、文庫本が置かれている。それらに混じり、フラットファイルが並べられていた。小学校の頃、配られたプリントに穴を開けてまとめていたのを思い出す。本棚の中で明らかに異質で、目を引いた。周りを見渡してから開く。
「あ」と亮佑は無意識に呟いていた。中身は、亮佑がこれまで担当してきた記事だった。プリントアウトされ、日付順にまとめられている。いつも不器用で口数の少ない父は、気難しい顔をしていることが多い。けれど、わかりやすいのだ。亮佑が帰って来た日には運転席で、寝たふりをしていた。気づかれていないと思っていることが微笑ましい。態度とは裏腹に、本心では心配し、応援をしてくれているのだ。
亮佑は深呼吸をし、ファイルを閉じる。気がつくと、頭が冴え渡っていた。これまでの出来事が、繋がっていく。やるべきことが見つかったのだ。それは雷に打たれたように突然閃いたのではない。無くしたものが見つかったような気分だった。『あ、そこにあったのか』と。不安が消えて残ったのは、ふつふつと湧き上がる熱意だった。
自室へと向かおうとすると、父の声が飛んできた。
「亮佑、降りて来ないのか?」
「ごめん。ちょっとやることがある。後で食べるって母さんに伝えてて」
亮佑はパソコンを開く。起動時間すらもどかしい。今の気持ちをメモ用紙に書き殴る。『俺はこの島が大好きだ』と。
凛と大志の想い、寂れた商店街と空き家、悦子の話と歩美。沢山の写真、父がプリントアウトしていた記事、そして佳作の作文。様々なことが脳裏に駆け巡っていた。その先の光景に、亮佑は苦笑してしまう。叶えるには、やるべきことが沢山あった。パソコンが立ち上がり、画面には雲ひとつない青空と草原が広がっていた。
亮佑は深呼吸をし、やるぞ、と呟く。無機質な音が、耳に心地よく響いていた。
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亮佑の手には、野菜が入った袋が握られている。悦子から、帰り際にもらったのだ。「別に俺、何にもしてないんだけどな。こんなにもらっちゃって悪いよ」
「いいからもらっておきなさい。|但《ただ》し、あとでしっかりお礼を伝えること。相手はそれが一番、嬉しいんだから」
「そうだね」亮佑は頷く「また今度、駄菓子屋と悦子おばちゃんのところに、顔出してくるよ」
母は小さく驚き、納得するように頷いている。何も言わずに見てくるので、亮佑は鳥肌が立ったように全身を両手で抱く仕草をする。「なんだよ、気持ち悪い」
「それが人柄なのね」急に褒めてくる母に亮佑は苦笑する。
「急になんだよ。褒めても何も出ないって」
「何よその返し」母が笑う。「島のおばあちゃん達の癖、移ったのかもね」
亮佑は言葉に詰まる。確かに、会話をしていく中で移ったのかもしれない。
「亮佑、ご飯にするからお父さんを呼んできてよ」
「はいはい」亮佑はリビングを出ようとすると、母から呼び止められた。「なに?」
「表情、明るくなったわね」
父の部屋に行くと、明かりはついているが中にはいなかった。本棚が気になり。中に入ることにした。新しい小説はあるかな、と。
記憶を遡ると、いつも本を読む父の姿があった。勧められたわけでもなく、物心着く頃には亮佑は、絵本を読み始めていたらしい。えだまめがそら豆のベットを作る話や、焼き芋で怪物を作る話など、物語が温かみを持った記憶として残っていた。
「お、亮佑、どうしたんだ」父が部屋の前で声をかけてくる。トイレにでも行っていたのだろう。
「あ、母さんがご飯だって」
「オッケー」と父は一階へと降りていく。
亮佑は机に近づく。机には備え付けの小さな本棚があり、文庫本が置かれている。それらに混じり、フラットファイルが並べられていた。小学校の頃、配られたプリントに穴を開けてまとめていたのを思い出す。本棚の中で明らかに異質で、目を引いた。周りを見渡してから開く。
「あ」と亮佑は無意識に呟いていた。中身は、亮佑がこれまで担当してきた記事だった。プリントアウトされ、日付順にまとめられている。いつも不器用で口数の少ない父は、気難しい顔をしていることが多い。けれど、わかりやすいのだ。亮佑が帰って来た日には運転席で、寝たふりをしていた。気づかれていないと思っていることが微笑ましい。態度とは裏腹に、本心では心配し、応援をしてくれているのだ。
亮佑は深呼吸をし、ファイルを閉じる。気がつくと、頭が冴え渡っていた。これまでの出来事が、繋がっていく。やるべきことが見つかったのだ。それは雷に打たれたように突然閃いたのではない。無くしたものが見つかったような気分だった。『あ、そこにあったのか』と。不安が消えて残ったのは、ふつふつと湧き上がる熱意だった。
自室へと向かおうとすると、父の声が飛んできた。
「亮佑、降りて来ないのか?」
「ごめん。ちょっとやることがある。後で食べるって母さんに伝えてて」
亮佑はパソコンを開く。起動時間すらもどかしい。今の気持ちをメモ用紙に書き殴る。『俺はこの島が大好きだ』と。
凛と大志の想い、寂れた商店街と空き家、悦子の話と歩美。沢山の写真、父がプリントアウトしていた記事、そして佳作の作文。様々なことが脳裏に駆け巡っていた。その先の光景に、亮佑は苦笑してしまう。叶えるには、やるべきことが沢山あった。パソコンが立ち上がり、画面には雲ひとつない青空と草原が広がっていた。
亮佑は深呼吸をし、やるぞ、と呟く。無機質な音が、耳に心地よく響いていた。