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三章 熱意 19

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「今はシャッター街になっちゃって、お客さんは減る一方。あの頃に比べると活気がなくなって、寂しくなったねえ」田辺は残念そうに商店街を見渡した。
「やはり、減ってきていますか」
「そうねえ。若者はどんどん外へ行ってしまうから」田辺は頷いた後で、慌てて否定した。「いいのよ。若者には可能性があるんだから」
 亮佑は苦笑する。「大丈夫ですよ、気を遣わなくて。俺は戻ってきたんですから」
 田辺は安心したように表情をほころばせた。「あら、そうなの。嬉しいわ」
「ありがとうございます。ちょっと、仕事が上手くいかなくて」頭を掻く。
「お仕事だもの、色々、あるわよね。大丈夫!まだ若いんだから。まずはゆっくりして自分を見つめ直すのがいいわよ」田辺は店内に行き、レジ袋を手に戻ってくる。「ほら、これでも食べて元気だして」
 中身を見るとお菓子の詰め合わせが入っていた。思わず噴き出してしまう。「ええ、悪いですよ。こんなにもらっていいんですか」
「いいのいいの。」と田辺は胸を張る。「わざわざ会いに来てくれて、嬉しかったんだから」
「ありがとうございます」亮佑は深々と頭を下げる。素直に、受け取ることにした。田辺の嬉しそうな表情を見ていると、無下に断ることはできなかったからである。「こんなに、お菓子をもらうなんて久しぶりだな」
「案外、悪くないでしょう」
「そうですね」亮佑は頷いた。どうやら、うまい棒で喜べる男だったらしい。
 
「あら、そのお菓子、どうしたの?」母は袋の中身を覗くと目を丸くした。
「駄菓子屋に行ったらさ、おばちゃんから貰ったんだ」中身を確認してみる。伸びるグミや口の中でパチパチと弾けるお菓子が懐かしい。亮佑はうまい棒の味を見て小さく驚く。「チーズ味じゃないか」
「あら、亮佑が好きな味、覚えていたのね」
「すごいな」
「そりゃ、そうでしょうね」母が懐かしそうに声を上げる。「毎日のように行ってたもの。私も近所の人から『亮佑君見ましたよ』って声をかけられていたんだもの」
「ああ」と亮佑は苦笑する。「同じようなことを駄菓子屋のおばちゃんも言ってたよ」
「でしょうねえ」
 亮佑はテーブルに置かれたフリーペーパーを手に取る。広報誌だ。数ヶ月に一度発刊され、島の様子やお店の宣伝などが掲載されている。うまい棒を食べながら、なんとはなしにページをパラパラと捲ると、観光案内所の特集が組まれていた。働く人へのインタビュー記事である。ライター時代の癖で、つい読み込んでしまう。
 内容は島の高齢者を対象にしたシニアツアーについてだ。亮佑が島にいる時からそのツアーはやっていたらしいが、知らなかった。意識をしていなかったからだろう。それにしても、と表紙をもう一度確認する。島の海で沈む夕陽を撮影した写真だった。そしてインタビュー記事にページを戻す。おじいちゃんやおばあちゃん達が楽しそうに歩いている写真が載っている。どれも自然体の瞬間を切り取ったようで、見入ってしまうのだ。思わず唸ってしまう。
 広報誌は島の抱える問題についても触れられていた。亮佑が生まれるよりも前の話だが、『海を一望できる島』と銘打ち、移住者を募ったことがあったのだ。しかし結果は振るわず、空き家だけが無情に残されていた。そして巻末の人口数の増減を記載したページに辿り着く。これほど少なくなっていたのか、と亮佑は驚いた。シャッター街になってしまうのも当然だった。そんなことを考えていると、スマートフォンが振動した。
 
「ごめんな、急に連絡して」大志は礼を言いながら助手席に乗り込んでくる。「それに、車まで出してもらってさ」
「いいよ。別に暇だったし」それよりも、と亮佑は駄菓子が入ったレジ袋を渡す。「これ、後で食べようぜ」
「駄菓子のおばちゃんか?」大志は中身を見て察したらしい。懐かしいな、と笑っている。「今度、お礼を言わなきゃな」
 亮佑はアクセルを踏み、車を発進させる。夜のドライブだ。先ほどの連絡は、大志からだった。『今日の夜に会わないか?』と。彼は車は(おろ)か、免許すら取得していない。そもそも、島に住む人が免許取得をすること自体、珍しかった。散歩しながら会うこともできたが、亮佑は運転をしたかったのだ。
「どうしても運転したいの?」
「うん。免許あるのに、運転しないのは勿体無いじゃないか」
 父の部屋で、交渉をしていた。壁には本棚があり、小説や実用書が並べられている。小説の冊数が以前より増えた、亮佑はそんなことに気づく。父は笑って、車の鍵を渡してきた。
「気をつけて、運転しろよ」
 亮佑は礼を言い、部屋から出ようとすると、呼び止められた。
「そういえば、次の仕事の方向性は、決めているのか?」
 亮佑は頭を掻く。「いや、まだ決めてない」
「書くことは、もうしないのか?」
「うーん、どうだろうね」
「そっか。まあ慌てても仕方ないし、ゆっくり考えなよ」曖昧な返答に、父が一瞬悲しそうな表情を浮かべたのを、亮佑は見逃さなかった。


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「今はシャッター街になっちゃって、お客さんは減る一方。あの頃に比べると活気がなくなって、寂しくなったねえ」田辺は残念そうに商店街を見渡した。
「やはり、減ってきていますか」
「そうねえ。若者はどんどん外へ行ってしまうから」田辺は頷いた後で、慌てて否定した。「いいのよ。若者には可能性があるんだから」
 亮佑は苦笑する。「大丈夫ですよ、気を遣わなくて。俺は戻ってきたんですから」
 田辺は安心したように表情をほころばせた。「あら、そうなの。嬉しいわ」
「ありがとうございます。ちょっと、仕事が上手くいかなくて」頭を掻く。
「お仕事だもの、色々、あるわよね。大丈夫!まだ若いんだから。まずはゆっくりして自分を見つめ直すのがいいわよ」田辺は店内に行き、レジ袋を手に戻ってくる。「ほら、これでも食べて元気だして」
 中身を見るとお菓子の詰め合わせが入っていた。思わず噴き出してしまう。「ええ、悪いですよ。こんなにもらっていいんですか」
「いいのいいの。」と田辺は胸を張る。「わざわざ会いに来てくれて、嬉しかったんだから」
「ありがとうございます」亮佑は深々と頭を下げる。素直に、受け取ることにした。田辺の嬉しそうな表情を見ていると、無下に断ることはできなかったからである。「こんなに、お菓子をもらうなんて久しぶりだな」
「案外、悪くないでしょう」
「そうですね」亮佑は頷いた。どうやら、うまい棒で喜べる男だったらしい。
「あら、そのお菓子、どうしたの?」母は袋の中身を覗くと目を丸くした。
「駄菓子屋に行ったらさ、おばちゃんから貰ったんだ」中身を確認してみる。伸びるグミや口の中でパチパチと弾けるお菓子が懐かしい。亮佑はうまい棒の味を見て小さく驚く。「チーズ味じゃないか」
「あら、亮佑が好きな味、覚えていたのね」
「すごいな」
「そりゃ、そうでしょうね」母が懐かしそうに声を上げる。「毎日のように行ってたもの。私も近所の人から『亮佑君見ましたよ』って声をかけられていたんだもの」
「ああ」と亮佑は苦笑する。「同じようなことを駄菓子屋のおばちゃんも言ってたよ」
「でしょうねえ」
 亮佑はテーブルに置かれたフリーペーパーを手に取る。広報誌だ。数ヶ月に一度発刊され、島の様子やお店の宣伝などが掲載されている。うまい棒を食べながら、なんとはなしにページをパラパラと捲ると、観光案内所の特集が組まれていた。働く人へのインタビュー記事である。ライター時代の癖で、つい読み込んでしまう。
 内容は島の高齢者を対象にしたシニアツアーについてだ。亮佑が島にいる時からそのツアーはやっていたらしいが、知らなかった。意識をしていなかったからだろう。それにしても、と表紙をもう一度確認する。島の海で沈む夕陽を撮影した写真だった。そしてインタビュー記事にページを戻す。おじいちゃんやおばあちゃん達が楽しそうに歩いている写真が載っている。どれも自然体の瞬間を切り取ったようで、見入ってしまうのだ。思わず唸ってしまう。
 広報誌は島の抱える問題についても触れられていた。亮佑が生まれるよりも前の話だが、『海を一望できる島』と銘打ち、移住者を募ったことがあったのだ。しかし結果は振るわず、空き家だけが無情に残されていた。そして巻末の人口数の増減を記載したページに辿り着く。これほど少なくなっていたのか、と亮佑は驚いた。シャッター街になってしまうのも当然だった。そんなことを考えていると、スマートフォンが振動した。
「ごめんな、急に連絡して」大志は礼を言いながら助手席に乗り込んでくる。「それに、車まで出してもらってさ」
「いいよ。別に暇だったし」それよりも、と亮佑は駄菓子が入ったレジ袋を渡す。「これ、後で食べようぜ」
「駄菓子のおばちゃんか?」大志は中身を見て察したらしい。懐かしいな、と笑っている。「今度、お礼を言わなきゃな」
 亮佑はアクセルを踏み、車を発進させる。夜のドライブだ。先ほどの連絡は、大志からだった。『今日の夜に会わないか?』と。彼は車は|疎《おろ》か、免許すら取得していない。そもそも、島に住む人が免許取得をすること自体、珍しかった。散歩しながら会うこともできたが、亮佑は運転をしたかったのだ。
「どうしても運転したいの?」
「うん。免許あるのに、運転しないのは勿体無いじゃないか」
 父の部屋で、交渉をしていた。壁には本棚があり、小説や実用書が並べられている。小説の冊数が以前より増えた、亮佑はそんなことに気づく。父は笑って、車の鍵を渡してきた。
「気をつけて、運転しろよ」
 亮佑は礼を言い、部屋から出ようとすると、呼び止められた。
「そういえば、次の仕事の方向性は、決めているのか?」
 亮佑は頭を掻く。「いや、まだ決めてない」
「書くことは、もうしないのか?」
「うーん、どうだろうね」
「そっか。まあ慌てても仕方ないし、ゆっくり考えなよ」曖昧な返答に、父が一瞬悲しそうな表情を浮かべたのを、亮佑は見逃さなかった。