二章 未来 14
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互いの感情を打ち明け、颯太には少し距離が縮まったように思えていた。お酒が入っていたことが後押しになり、気になっていたことを訊ねてみる。「つかぬことをお聞きしますが、京介先輩とは、付き合ったりはしないんですか?」
「はあ?」と愛菜は目を丸くし、全力で首を振った。「あいつと?ないない。弟みたいなものだし」
颯太は気取られないように、内心で胸を撫で下ろす。「ていうか」と愛菜は続ける。「最近、新入社員の女の子が入ってきたって京介が喜んで話してたよ。ほら、どこも人手不足だし、ありがたかったみたい」
「そうなんですか?本人から聞いたことないんですけど」颯太は声が裏返り、早口になってしまう。
「島の外から来た人らしいよ。まあ京介も、誰彼構わずに色恋について自分から話すタイプじゃないしね」ああ、でも、と彼女は続ける。「今だったら、潰れてるし、なんでも話してくれるかもよ」
「ちょっと後で、尋問してきます」
「やっちまえ」愛菜は笑う。その後でそういえばね、と思い出したように話し始める。
「仕事を始めた時にね、びっくりしたことがあったのよ。このご時世で、ネット通販もしてるのに、わざわざ会いに来る人がいたんだよ。お父さんの顔を見にきたんだって。喜んでいる二人の顔を見ていたら、この仕事をやっている甲斐が、意味があるんだなあって思ったんだよね」愛菜はすくっと立ち上がり、伸びをした。「そんなことを忘れてしまうくらい、辛いこともあるけれど、今やっていることは無駄じゃないんだよね」
「そうですよ。僕たちのやっていることは、必ず未来に繋がってます」
「臭いセリフ」愛菜が指を向け、苦笑する。
「お酒のせいですよ」颯太も同じように立ち上がり、伸びをする。「真似しないでよー」と笑う彼女の声が、夜の闇に溶けていった。
二日後の日曜日、仕事を終え、帰宅した颯太は携帯電話と向き合っていた。自身は小難しい表情を浮かべるが、相手は機械だ。無表情を貫いている。
颯太は自室のベットに転がり、メールの文面を書いては消しての作業を繰り返す。先日の飲み会の後、愛菜と連絡先を交換したのだ。天にも昇るような気持ちで颯太は上機嫌になり、浮き足立った。
『飲み会が楽しかったです。よかったらご飯でもどうですか』この内容を送るのに颯太は文面をいじくり回し、三十分以上もかかっていた。カチカチと打ち込み、何度目か分からないやり直しを経て、納得のいく文面が完成した。あとは少しの勇気だけだ、と自身に言い聞かせる。
カーソルを『送信』に合わせ、あとは指先で決定ボタンを押すだけだった。爆発物のスイッチを目の前にしているような気分になり、しばらく固まっていた。いつまでも続くような膠着状態を破ったのは、携帯電話の振動である。颯太は驚いた拍子に送信ボタンを押してしまい、「あっ」と情けない声を上げてしまう。画面が切り替わり、発信者の名前が表示されていた。
卓人である。思わず頬が緩み、力が抜けたように笑ってしまう。「ほんと、こいつは空気が読めないんだから」颯太は思いつく限りの皮肉めいた言葉を思い浮かべ、電話に出た。
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「はあ?」と愛菜は目を丸くし、全力で首を振った。「あいつと?ないない。弟みたいなものだし」
颯太は気取られないように、内心で胸を撫で下ろす。「ていうか」と愛菜は続ける。「最近、新入社員の女の子が入ってきたって京介が喜んで話してたよ。ほら、どこも人手不足だし、ありがたかったみたい」
「そうなんですか?本人から聞いたことないんですけど」颯太は声が裏返り、早口になってしまう。
「島の外から来た人らしいよ。まあ京介も、誰彼構わずに色恋について自分から話すタイプじゃないしね」ああ、でも、と彼女は続ける。「今だったら、潰れてるし、なんでも話してくれるかもよ」
「ちょっと後で、尋問してきます」
「やっちまえ」愛菜は笑う。その後でそういえばね、と思い出したように話し始める。
「仕事を始めた時にね、びっくりしたことがあったのよ。このご時世で、ネット通販もしてるのに、わざわざ会いに来る人がいたんだよ。お父さんの顔を見にきたんだって。喜んでいる二人の顔を見ていたら、この仕事をやっている甲斐が、意味があるんだなあって思ったんだよね」愛菜はすくっと立ち上がり、伸びをした。「そんなことを忘れてしまうくらい、辛いこともあるけれど、今やっていることは無駄じゃないんだよね」
「そうですよ。僕たちのやっていることは、必ず未来に繋がってます」
「臭いセリフ」愛菜が指を向け、苦笑する。
「お酒のせいですよ」颯太も同じように立ち上がり、伸びをする。「真似しないでよー」と笑う彼女の声が、夜の闇に溶けていった。
二日後の日曜日、仕事を終え、帰宅した颯太は携帯電話と向き合っていた。自身は小難しい表情を浮かべるが、相手は機械だ。無表情を貫いている。
颯太は自室のベットに転がり、メールの文面を書いては消しての作業を繰り返す。先日の飲み会の後、愛菜と連絡先を交換したのだ。天にも昇るような気持ちで颯太は上機嫌になり、浮き足立った。
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卓人である。思わず頬が緩み、力が抜けたように笑ってしまう。「ほんと、こいつは空気が読めないんだから」颯太は思いつく限りの皮肉めいた言葉を思い浮かべ、電話に出た。