商談16 ええやん咖喱
ー/ー
「入間、久しぶり!」
彼は俺の友人、島津竜朔だ。言い忘れていたが、俺の旧姓は『入間』なんだ。
「久しぶり! 今日は非番だったんだなぁ」
彼は高校時代の同期で、現在は刑務官として奉職している。職業柄なのか、気さくな言葉とは裏腹に眼光鋭い。もちろん、彼はそれについて無自覚である。
「積もる話は後だ。とにかく、まずは飯にしよう!」
島津は足早に階段を下りる。この店舗は雑居ビルの隙間を縫うように建てられており、その構造から地下へ続く狭い階段を降りなければならない。うっかり食べ過ぎると、腹が壁に挟まってしまい身動きが取れなくなる。その様子から、常連客はこの階段をウツボカズラと呼んで恐れている。おそらく、芳香に誘われて虫が出られなくなる花にあやかった呼び名であろう。
そんな階段を、比較的細身な島津は颯爽と降りていく。一方、中年太りをした俺は早くも腹が痞えそうだ。
階段の先で、一足先に島津が店の扉を開ける。そこから、強烈な香辛料の芳香が漂ってくる。そして、その芳香は俺の腹を強烈に抉ってくる。こんなところで挫けていられるか!
俺は自分に喝を入れ、気合と根性でその階段を下りきった!
「遅いぞ、入間!」
必死だった俺のことなど気にもかけず、島津は既に皿へライスを盛っている。この店は基本的にビュッフェスタイルで、テーブルに盛られたカレーの中から好きなものを選択して盛り付けていく。その他にもサラダやナンが食べ放題、ラッシーや紅茶などが飲み放題である。食べ盛りの学生には特にありがたい。
さて、俺も島津に続くか! と思ったが、ここで何故か急に便意を催す。これは一旦退避!! 俺は手洗いへ駆け込んだ。
「......ふぅ」
魔物は俺の腹から出ていった。この店舗は手洗いも非常に狭く、壁の圧迫感が強い。
「このカード、まだ飾ってあるのか。懐かしいなぁ」
手洗いの扉には、1枚のトレーディングカードが額縁内に飾られている。それは『カレーええやん!』と書かれたカードで、某ボードゲームのプレイングカードとして使用できる。何と、このカードの元ネタを提供したのはここの店主なのだという。それに誇りを持った店主は、今でもこのカードを大切に飾っているそうだ。
俺の記憶だと、このカードは少なくとも20年以上前からここに飾られていることになる。その割にほとんど遜色がないのは実に不思議だ。俺の思い出は、今でもここにある
さて、懐古はここまでにしよう。この扉の先で、カレーが俺の帰還を渇望しているのだから!
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彼は俺の友人、島津竜朔だ。言い忘れていたが、俺の旧姓は『入間』なんだ。
「久しぶり! 今日は非番だったんだなぁ」
彼は高校時代の同期で、現在は刑務官として奉職している。職業柄なのか、気さくな言葉とは裏腹に眼光鋭い。もちろん、彼はそれについて無自覚である。
「積もる話は後だ。とにかく、まずは飯にしよう!」
島津は足早に階段を下りる。この店舗は雑居ビルの隙間を縫うように建てられており、その構造から地下へ続く狭い階段を降りなければならない。うっかり食べ過ぎると、腹が壁に挟まってしまい身動きが取れなくなる。その様子から、常連客はこの階段を|ウツボカズラ《・・・・・・》と呼んで恐れている。おそらく、芳香に誘われて虫が出られなくなる花にあやかった呼び名であろう。
そんな階段を、比較的細身な島津は颯爽と降りていく。一方、中年太りをした俺は早くも腹が|痞《つか》えそうだ。
階段の先で、一足先に島津が店の扉を開ける。そこから、強烈な香辛料の芳香が漂ってくる。そして、その芳香は俺の腹を強烈に|抉《えぐ》ってくる。こんなところで挫けていられるか!
俺は自分に喝を入れ、気合と根性でその階段を下りきった!
「遅いぞ、入間!」
必死だった俺のことなど気にもかけず、島津は既に皿へライスを盛っている。この店は基本的にビュッフェスタイルで、テーブルに盛られたカレーの中から好きなものを選択して盛り付けていく。その他にもサラダやナンが食べ放題、ラッシーや紅茶などが飲み放題である。食べ盛りの学生には特にありがたい。
さて、俺も島津に続くか! と思ったが、ここで何故か急に便意を催す。これは一旦退避!! 俺は手洗いへ駆け込んだ。
「......ふぅ」
魔物は俺の腹から出ていった。この店舗は手洗いも非常に狭く、壁の圧迫感が強い。
「このカード、まだ飾ってあるのか。懐かしいなぁ」
手洗いの扉には、1枚のトレーディングカードが額縁内に飾られている。それは『カレーええやん!』と書かれたカードで、某ボードゲームのプレイングカードとして使用できる。何と、このカードの元ネタを提供したのはここの店主なのだという。それに誇りを持った店主は、今でもこのカードを大切に飾っているそうだ。
俺の記憶だと、このカードは少なくとも20年以上前からここに飾られていることになる。その割にほとんど遜色がないのは実に不思議だ。俺の思い出は、今でもここにある
さて、懐古はここまでにしよう。この扉の先で、カレーが俺の帰還を渇望しているのだから!