四章 超能力者達(夏生視点)45
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噴き出た水が、未だに降り注いでいる。勢いは止まることを知らなかった。夏生は、山岸に掴まれた腕を抑える。あの時の山岸の表情は辛そうで、悲痛だった。超能力に目覚めた自身の姿と、重なった。「あなたは間違っている」と糾弾することはできなかった。
流れてきた山岸の記憶、過去のいじめを受けていた経験は壮絶なものだった。人を殺める力を手にすれば、飲み込まれてしまうのも無理もない。夏生も、一歩手前まで行ったからこそ分かる。踏み止まったのは、秋菜がいてくれたからだった。いなかったら、間違いなく、踏み外していたと断言できる。
山岸は、仲間がいなかった自分の生き写しのようなものだった。彼は必死に自分の過去、弱さを隠したかったのだ。「てめえら」「許さねぇ」「殺す」強い言葉を使っていたのも、自分を守るためだったのだろう。普通の人間であれば、その姿は滑稽に映るが、超能力がその説得力の裏付けとなっていた。
「夏生」秋菜が胸に飛び込み、夏生は床に倒れ込んだ。身体が、限界を迎えていた。秋菜が制服の裾をギュッと掴む。全身が震えていた。夏生の後頭部は秋菜の手で守られている。
「遅くなってごめん。怖かったよね。よく、頑張ったね」
「ううん、大丈夫だったよ。助けに来てくれただけで嬉しかった」気丈に振る舞う姿に胸が痛んだ。夏生は「ごめんね。ごめんね」と抱き寄せ、頭を撫でる。
「取り込み中のとこ悪いけど」西田が声をかけてきた。外の状況を見に行ってくれたらしい。夏生はそこでハッと思い出す。あの銃声、二階にいたのは黒田だった。目を向けるが姿はなかった。
「黒田のおっさんから伝言をもらったぞ」
「伝言?」夏生は問う。
「俺と安藤には『おかげで目が覚めた。ありがとう』って。松原には『元気でな』と。知り合いなのか?」
「黒田……」秋菜は考え込む。すると何かに衝き動かされるかのように夏生から離れ、駆け出そうとした。
「もう、ここからは離れたよ」西田が秋菜を止める。
「そう……」秋菜は残念そうに俯き、肩を落とす。しかしすぐに顔を上げた。晴れやかな表情だった。
「お礼、言えなかったな」夏生は呟く。「でもどうして助けに来てくれたの?」黒田は拘束していたはずだ。
「それは、俺が様子を見に行こうとした時に、黒田のおっさんが行くと言ってきかなくてさ。気圧されて、仕方なく拘束を解いて一緒に向かったんだ」
「何かあったら!」と西田に詰め寄りたくなったが夏生はその思いをぐっと堪える。西田も賭けたのだろう。黒田の意思に。
あの銃撃がなかったら、と夏生は考える。走り出そうとしていた秋菜は、命を失っていたはずだ。そもそも拘束を解いた時、西田を出し抜き、逃亡することもできたはずだ。なぜ、助けてくれたのだろうか。黒田という名字に聞き覚えがあるが、思い出せなかった。
ともかく秋菜を助けることができて夏生は胸を撫で下ろす。今すぐベッドに入って寝付きたかったが、身体に鞭を打って夏生は立ち上がる。まだ、やらなくてはいけないことがあったのだ。
一歩一歩踏み出し、水が噴き出している配管へと近づいていく。水の出し方はともかく、止め方を考えてはいなかった。噴き出し口を両手で抑えるが、勢いに負けてしまう。水飛沫が飛んでくる。砂利や瓦礫を集めて拳大の塊で塞ごうとするが、上手くいかなかった。夏生は膝から崩れ落ちそうになる。止めることはできないのか。
「あーあ、派手にやったねぇ」あどけない男の声が廃倉庫内に響き渡る。目を向けると二階に、人がいた。気が付かなかった。いつの間に、と夏生は身構える。三人居た。真ん中にいる男は白髪の少年のようで、残りの二人はフードを被り、顔が見えなかった。しかし身長差があり、夏生は見分けをつける。
「秋菜、西田、私の後ろに」と夏生は言うが、正直、立つことも限界だった。
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噴き出た水が、未だに降り注いでいる。勢いは止まることを知らなかった。夏生は、山岸に掴まれた腕を抑える。あの時の山岸の表情は辛そうで、悲痛だった。超能力に目覚めた自身の姿と、重なった。「あなたは間違っている」と糾弾することはできなかった。
流れてきた山岸の記憶、過去のいじめを受けていた経験は壮絶なものだった。人を殺める力を手にすれば、飲み込まれてしまうのも無理もない。夏生も、一歩手前まで行ったからこそ分かる。踏み|止《とど》まったのは、秋菜がいてくれたからだった。いなかったら、間違いなく、踏み外していたと断言できる。
山岸は、仲間がいなかった自分の生き写しのようなものだった。彼は必死に自分の過去、弱さを隠したかったのだ。「てめえら」「許さねぇ」「殺す」強い言葉を使っていたのも、自分を守るためだったのだろう。普通の人間であれば、その姿は滑稽に映るが、超能力がその説得力の裏付けとなっていた。
「夏生」秋菜が胸に飛び込み、夏生は床に倒れ込んだ。身体が、限界を迎えていた。秋菜が制服の裾をギュッと掴む。全身が震えていた。夏生の後頭部は秋菜の手で守られている。
「遅くなってごめん。怖かったよね。よく、頑張ったね」
「ううん、大丈夫だったよ。助けに来てくれただけで嬉しかった」気丈に振る舞う姿に胸が痛んだ。夏生は「ごめんね。ごめんね」と抱き寄せ、頭を撫でる。
「取り込み中のとこ悪いけど」西田が声をかけてきた。外の状況を見に行ってくれたらしい。夏生はそこでハッと思い出す。あの銃声、二階にいたのは黒田だった。目を向けるが姿はなかった。
「黒田のおっさんから伝言をもらったぞ」
「伝言?」夏生は問う。
「俺と安藤には『おかげで目が覚めた。ありがとう』って。松原には『元気でな』と。知り合いなのか?」
「黒田……」秋菜は考え込む。すると何かに衝き動かされるかのように夏生から離れ、駆け出そうとした。
「もう、ここからは離れたよ」西田が秋菜を止める。
「そう……」秋菜は残念そうに俯き、肩を落とす。しかしすぐに顔を上げた。晴れやかな表情だった。
「お礼、言えなかったな」夏生は呟く。「でもどうして助けに来てくれたの?」黒田は拘束していたはずだ。
「それは、俺が様子を見に行こうとした時に、黒田のおっさんが行くと言ってきかなくてさ。|気圧《けお》されて、仕方なく拘束を解いて一緒に向かったんだ」
「何かあったら!」と西田に詰め寄りたくなったが夏生はその思いをぐっと堪える。西田も賭けたのだろう。黒田の意思に。
あの銃撃がなかったら、と夏生は考える。走り出そうとしていた秋菜は、命を失っていたはずだ。そもそも拘束を解いた時、西田を出し抜き、逃亡することもできたはずだ。なぜ、助けてくれたのだろうか。黒田という名字に聞き覚えがあるが、思い出せなかった。
ともかく秋菜を助けることができて夏生は胸を撫で下ろす。今すぐベッドに入って寝付きたかったが、身体に鞭を打って夏生は立ち上がる。まだ、やらなくてはいけないことがあったのだ。
一歩一歩踏み出し、水が噴き出している配管へと近づいていく。水の出し方はともかく、止め方を考えてはいなかった。噴き出し口を両手で抑えるが、勢いに負けてしまう。水飛沫が飛んでくる。砂利や瓦礫を集めて拳大の塊で塞ごうとするが、上手くいかなかった。夏生は膝から崩れ落ちそうになる。止めることはできないのか。
「あーあ、派手にやったねぇ」あどけない男の声が廃倉庫内に響き渡る。目を向けると二階に、人がいた。気が付かなかった。いつの間に、と夏生は身構える。三人居た。真ん中にいる男は|白髪《はくはつ》の少年のようで、残りの二人はフードを被り、顔が見えなかった。しかし身長差があり、夏生は見分けをつける。
「秋菜、西田、私の後ろに」と夏生は言うが、正直、立つことも限界だった。