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四章 超能力者達(秋菜視点)43

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夏生の超能力によって手錠が解かれた。手足を動かすだけで鎖が外れ、動ける状態だ。秋菜はナイフが二階に移動し、パイプのロープを切断したのを見た。山岸の動きを止めた隙に鍵を使って解錠。鍵はの在処はソナーで特定し、どこかのタイミングで奪ったのだろう。
 秋菜は今まで、夏生の超能力を見てきたからこそ、状況を冷静に把握できていた。しかし秋菜は動こうとはしなかった。本当は今すぐにでも山岸の攻撃を受け、吹き飛んだ夏生に駆け寄りたいところだ。その思いをぐっと堪える。
 なぜならこの状況で意表を突けるのは秋菜だけだからだ。山岸にとっては、無能力者は取るに足らない存在である。誘拐され、尋問の中で、秋菜はそのことを理解した。加えて手足が拘束されていれば当然、警戒心は薄くなる。手錠を解錠しておらず、一目見ただけではわからないだろう。
 地面についた左肩と腰が痛い。また、山岸の炎以外は灯りがないため、暗闇の中、解除されているかどうかまでは分からないだろう。強いて言うなら窓から刺す月明かりが、廃倉庫内を照らしている。
 入り口に吹き飛ばされた夏生と目が合う。身体はボロボロだったが目は、諦めていなかった。
 秋菜ものんびりと戦況を眺めていたわけではない。山岸の超能力について分析をしていた。彼は熱や炎を操ることができる。対象物に対し温度を上昇させ先ほどのパイプのように変形させたり、人体には高熱を出させることが可能だ。
 弱点はないだろうか、と秋菜は考える。夏生は二本ナイフを操り、壁沿いにあるパイプのロープを切断したように、複数の対象物に超能力を使うことができる。
 対して、山岸はどうだろうか。超能力は強大だが、目覚めてからは一年と言っていた。その期間で複数操作ができるとは思えない。
 付け入るとすればそこだった。現に山岸は熱と炎の操作を別々に行なっていた。手から生成する火球と、燃え盛る炎を操った同時攻撃などもできそうだがそうはしていない。そういうことなのだ。秋菜は息を吸い、叫ぶ。「夏生、この男は超能力の複数操作ができない。だから落ち着いて一つ一つの動きを見切れば大丈夫。起きて!」
「てめえ、何話してんだ」山岸が火球を放とうと手を秋菜に向けた。ああ、死ぬのか、ぎゅっと目を瞑る。
 何かが当たる音と、山岸の悲鳴が聞こえた。目を開けると、入り口に西田が立っていた。山岸の足元にはボールが転がっている。「二人とも、大丈夫か?」近場に居た夏生に駆け寄った。肩を揺すっている。
「西田……どうしてここに」気を失っていたため、西田を見た夏生は驚いている。「来るなって言ったじゃん」
「すまん。轟音がすごくてさ、居ても立ってもいられなくなって来ちまった」西田は悪びれる様子もなく答える。
「捕らえた男達は大丈夫なの?」
 西田は一瞬目を逸らしつつも「大丈夫」と答えた。
「野球男、てめえ、ざけてんじゃねぇぞ」山岸が手を向ける。体温の上昇技だ。「危ない、西田!」と秋菜が叫ぶ。
「ああ、大丈夫だ」西田が威勢よく返事をし、投球した。ボールが山岸へ、吸い込まれるように飛んでいく。
「ぐっ」山岸が苦痛の声を上げる。蹲り、「なぜ効かねえ……」と呟く。
 西田は間髪をいれずに走り、間合いを詰めた。能力を使用した直後のため、山岸の対応が遅れる。「おらっ」と西田がバットを振るう。直撃した山岸は、床を引き摺り、転がっていく。
「クソが」山岸が火球を生成し、放つ。
「うおっ。これは無理っ」苦笑し、西田は攻撃を躱わす。
 状況を分析し、なぜ、西田が立ち向かえたのか秋菜は納得する。体温を上昇させる超能力には時間差があるのだ。秋菜が受けた際も、行動不能に陥るまで五秒から十秒ほどのタイムラグがあった。それまでの間に、攻撃などで意識を逸らせれば良いというわけだ。
 しかし、対策を講じたとしても、無能力者が立ち向かうのは簡単な話ではない。西田の投球技術と胆力(たんりき)が、それを可能にしていた。なぜ西田が超能力の弱点を知っているのか、と秋菜は不思議に思ったが、先程の会話を思い出す。夏生とここへ向かう際に話し合っていたのだろう。
 夏生が西田の元へ近づく。が、膝から崩れ落ちた。山岸の呼吸は荒く、肩を上下させている。超能力の乱発で、体力を消耗したのだろう。互いに、満身創痍だった。
「お前ら、いい加減にしろよ」山岸がポケットに手を入れる。取り出したのはスマートフォンだった。操作をすると、天井に張り巡らされた配管が開き、灯油が辺りに飛び散っていく。
 山岸は火球を放ち、灯油に引火させた。その炎は廃倉庫の壁に沿って燃え上がり、秋菜達は逃げ道を失った形になる。ぱちぱちと燃え盛る音と伝わる熱。壁の近くに居た秋菜は身が焼ける恐怖を感じる。身を(よじ)らせ、壁から離れようと動き出す。
「金がかかったんだぞ、この仕掛け」山岸の高笑いが聞こえる。秋菜からは背中しか見えないが愉悦的な表情を浮かべているのだろう。「お前達はここから逃げられないぞ。残念だったなぁ」
「確かに逃げられないけど、それはあんたも同じだろう?死にたいのか?」西田が問う。軽い調子だが表情は焦っている。
 くくっ、と山岸は笑う。「死ぬ、か。それもいいが、俺の能力を忘れてないか?炎を操れるんだぞ」
「山岸、あんたって奴は」夏生は厳しい表情を山岸に向けた。夜に燃え盛る炎は影を大きくし、表情の陰影を明らかにさせる。
「お前らはもう負けだ」山岸は手の平を夏生と西田に向けた。周囲の炎が、山岸の手元へと集まっていく。
「まだ、俺たちは負けてねえよ」西田は臆せずに一歩踏み出し、投球する。しかし山岸は難なく躱わす。「体温が上昇する前に意識を逸らせる作戦だったんだろう?タネが分かれば怖くない。当たらなければ意味がないんだよ」
「夏生、なんとかならないか?」西田が夏生に問いかける。当の本人はダメージと体力の消耗でビー玉一つ浮かせられない状態だ。夏生は悔しそうに唇を噛む。片膝をつき、上がる息を必死で抑えている。秋菜はその様子を見て違和感を覚えた。本当に消耗していれば、夏生は立つこともままらないはずだ。
「超能力を使いすぎるとね。動けなくなるの」修行の後、地面に寝そべる夏生はそう話していた。息が上がり、胸が上下する。激しい運動とも違う疲れ方だった。
 精神力と肉体、両方を使うのだから疲れは尋常ではないのだろう。秋菜は以前、「大袈裟なんだから」と強引に夏生の手を引っ張り、立たせたことがある。夏生は生まれたての子鹿のように足を震わせ、秋菜の胸へ倒れ込んだ。
 現在の夏生に改めて目を向ける。片膝をつき、深呼吸をしているのだ。何より、技を放とうとしている山岸を見る目が絶望していなかった。何かまだ考えが、打つ手があるはずだ。
 秋菜は隙を窺っていたが、それは今、この瞬間なのではないか、と思い始めていた。今、手足の拘束を解き、走り出したとしても足音で気付かれ、反撃を受けるだろう。分かっていた。身を投げ打ってでも時間を稼ぐべきだ。夏生なら勝てる。近くで見守ってきたからこそ、秋菜には、分かっていた。そのためにはなんだってする。超能力を打ち明けられたあの日から、決めていたのだ。
「終わりだ」山岸が告げる。その声には敬意が込められているように感じた。いつの間にか火球は、山岸の背中越しでも見えるほどに大きくなっていた。周囲の炎は滴る灯油で未だに燃え続け、その勢いを増している。
 ああ、行くしかない。秋菜は手錠を解き、走り出そうとした。その時、至近距離で花火が爆発したような音が、廃倉庫内に響いた。山岸が驚き、技を止め、音の方向に目を向けている。気がつけば秋菜は拘束を解き、駆け出していた。


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夏生の超能力によって手錠が解かれた。手足を動かすだけで鎖が外れ、動ける状態だ。秋菜はナイフが二階に移動し、パイプのロープを切断したのを見た。山岸の動きを止めた隙に鍵を使って解錠。鍵はの在処はソナーで特定し、どこかのタイミングで奪ったのだろう。
 秋菜は今まで、夏生の超能力を見てきたからこそ、状況を冷静に把握できていた。しかし秋菜は動こうとはしなかった。本当は今すぐにでも山岸の攻撃を受け、吹き飛んだ夏生に駆け寄りたいところだ。その思いをぐっと堪える。
 なぜならこの状況で意表を突けるのは秋菜だけだからだ。山岸にとっては、無能力者は取るに足らない存在である。誘拐され、尋問の中で、秋菜はそのことを理解した。加えて手足が拘束されていれば当然、警戒心は薄くなる。手錠を解錠しておらず、一目見ただけではわからないだろう。
 地面についた左肩と腰が痛い。また、山岸の炎以外は灯りがないため、暗闇の中、解除されているかどうかまでは分からないだろう。強いて言うなら窓から刺す月明かりが、廃倉庫内を照らしている。
 入り口に吹き飛ばされた夏生と目が合う。身体はボロボロだったが目は、諦めていなかった。
 秋菜ものんびりと戦況を眺めていたわけではない。山岸の超能力について分析をしていた。彼は熱や炎を操ることができる。対象物に対し温度を上昇させ先ほどのパイプのように変形させたり、人体には高熱を出させることが可能だ。
 弱点はないだろうか、と秋菜は考える。夏生は二本ナイフを操り、壁沿いにあるパイプのロープを切断したように、複数の対象物に超能力を使うことができる。
 対して、山岸はどうだろうか。超能力は強大だが、目覚めてからは一年と言っていた。その期間で複数操作ができるとは思えない。
 付け入るとすればそこだった。現に山岸は熱と炎の操作を別々に行なっていた。手から生成する火球と、燃え盛る炎を操った同時攻撃などもできそうだがそうはしていない。そういうことなのだ。秋菜は息を吸い、叫ぶ。「夏生、この男は超能力の複数操作ができない。だから落ち着いて一つ一つの動きを見切れば大丈夫。起きて!」
「てめえ、何話してんだ」山岸が火球を放とうと手を秋菜に向けた。ああ、死ぬのか、ぎゅっと目を瞑る。
 何かが当たる音と、山岸の悲鳴が聞こえた。目を開けると、入り口に西田が立っていた。山岸の足元にはボールが転がっている。「二人とも、大丈夫か?」近場に居た夏生に駆け寄った。肩を揺すっている。
「西田……どうしてここに」気を失っていたため、西田を見た夏生は驚いている。「来るなって言ったじゃん」
「すまん。轟音がすごくてさ、居ても立ってもいられなくなって来ちまった」西田は悪びれる様子もなく答える。
「捕らえた男達は大丈夫なの?」
 西田は一瞬目を逸らしつつも「大丈夫」と答えた。
「野球男、てめえ、ざけてんじゃねぇぞ」山岸が手を向ける。体温の上昇技だ。「危ない、西田!」と秋菜が叫ぶ。
「ああ、大丈夫だ」西田が威勢よく返事をし、投球した。ボールが山岸へ、吸い込まれるように飛んでいく。
「ぐっ」山岸が苦痛の声を上げる。蹲り、「なぜ効かねえ……」と呟く。
 西田は間髪をいれずに走り、間合いを詰めた。能力を使用した直後のため、山岸の対応が遅れる。「おらっ」と西田がバットを振るう。直撃した山岸は、床を引き摺り、転がっていく。
「クソが」山岸が火球を生成し、放つ。
「うおっ。これは無理っ」苦笑し、西田は攻撃を躱わす。
 状況を分析し、なぜ、西田が立ち向かえたのか秋菜は納得する。体温を上昇させる超能力には時間差があるのだ。秋菜が受けた際も、行動不能に陥るまで五秒から十秒ほどのタイムラグがあった。それまでの間に、攻撃などで意識を逸らせれば良いというわけだ。
 しかし、対策を講じたとしても、無能力者が立ち向かうのは簡単な話ではない。西田の投球技術と|胆力《たんりき》が、それを可能にしていた。なぜ西田が超能力の弱点を知っているのか、と秋菜は不思議に思ったが、先程の会話を思い出す。夏生とここへ向かう際に話し合っていたのだろう。
 夏生が西田の元へ近づく。が、膝から崩れ落ちた。山岸の呼吸は荒く、肩を上下させている。超能力の乱発で、体力を消耗したのだろう。互いに、満身創痍だった。
「お前ら、いい加減にしろよ」山岸がポケットに手を入れる。取り出したのはスマートフォンだった。操作をすると、天井に張り巡らされた配管が開き、灯油が辺りに飛び散っていく。
 山岸は火球を放ち、灯油に引火させた。その炎は廃倉庫の壁に沿って燃え上がり、秋菜達は逃げ道を失った形になる。ぱちぱちと燃え盛る音と伝わる熱。壁の近くに居た秋菜は身が焼ける恐怖を感じる。身を|捩《よじ》らせ、壁から離れようと動き出す。
「金がかかったんだぞ、この仕掛け」山岸の高笑いが聞こえる。秋菜からは背中しか見えないが愉悦的な表情を浮かべているのだろう。「お前達はここから逃げられないぞ。残念だったなぁ」
「確かに逃げられないけど、それはあんたも同じだろう?死にたいのか?」西田が問う。軽い調子だが表情は焦っている。
 くくっ、と山岸は笑う。「死ぬ、か。それもいいが、俺の能力を忘れてないか?炎を操れるんだぞ」
「山岸、あんたって奴は」夏生は厳しい表情を山岸に向けた。夜に燃え盛る炎は影を大きくし、表情の陰影を明らかにさせる。
「お前らはもう負けだ」山岸は手の平を夏生と西田に向けた。周囲の炎が、山岸の手元へと集まっていく。
「まだ、俺たちは負けてねえよ」西田は臆せずに一歩踏み出し、投球する。しかし山岸は難なく躱わす。「体温が上昇する前に意識を逸らせる作戦だったんだろう?タネが分かれば怖くない。当たらなければ意味がないんだよ」
「夏生、なんとかならないか?」西田が夏生に問いかける。当の本人はダメージと体力の消耗でビー玉一つ浮かせられない状態だ。夏生は悔しそうに唇を噛む。片膝をつき、上がる息を必死で抑えている。秋菜はその様子を見て違和感を覚えた。本当に消耗していれば、夏生は立つこともままらないはずだ。
「超能力を使いすぎるとね。動けなくなるの」修行の後、地面に寝そべる夏生はそう話していた。息が上がり、胸が上下する。激しい運動とも違う疲れ方だった。
 精神力と肉体、両方を使うのだから疲れは尋常ではないのだろう。秋菜は以前、「大袈裟なんだから」と強引に夏生の手を引っ張り、立たせたことがある。夏生は生まれたての子鹿のように足を震わせ、秋菜の胸へ倒れ込んだ。
 現在の夏生に改めて目を向ける。片膝をつき、深呼吸をしているのだ。何より、技を放とうとしている山岸を見る目が絶望していなかった。何かまだ考えが、打つ手があるはずだ。
 秋菜は隙を窺っていたが、それは今、この瞬間なのではないか、と思い始めていた。今、手足の拘束を解き、走り出したとしても足音で気付かれ、反撃を受けるだろう。分かっていた。身を投げ打ってでも時間を稼ぐべきだ。夏生なら勝てる。近くで見守ってきたからこそ、秋菜には、分かっていた。そのためにはなんだってする。超能力を打ち明けられたあの日から、決めていたのだ。
「終わりだ」山岸が告げる。その声には敬意が込められているように感じた。いつの間にか火球は、山岸の背中越しでも見えるほどに大きくなっていた。周囲の炎は滴る灯油で未だに燃え続け、その勢いを増している。
 ああ、行くしかない。秋菜は手錠を解き、走り出そうとした。その時、至近距離で花火が爆発したような音が、廃倉庫内に響いた。山岸が驚き、技を止め、音の方向に目を向けている。気がつけば秋菜は拘束を解き、駆け出していた。