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四章 超能力者達(夏生視点)42

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目を開けると、ビー玉が床に転がっていた。その先には山岸の足があった。背中が、燃えるように熱い。奥にいる秋菜と目が合った。心配そうな表情を浮かべている。助けなければならない。夏生は身体を立ち上がらせた。
「だよなあ。そうこなくっちゃ」山岸が笑う。
 まったく、と夏生は苦笑してしまう。常人であれは大怪我では済まない傷を互いに負っている。それなのに立ち上がっているのだ。夏生は確信する。超能力者というのは能力を使うほど、耐久力が増していくということを。
 初めは自分だけだと思っていたが、それは山岸も同様だったらしい。神が存在するとすればなぜこの力を与えたのか、と夏生は糾弾したくなる。まるで戦うために与えられた力ではないか、と。
 ビー玉を再び浮遊させる。この攻撃は秋菜に教えていない。自身の超能力は人体には使えない、と説明していた。修行の(かたわら)、秋菜が熱心にノートをまとめてくれていたのは知っていたが、外部に漏れることを夏生は危惧していたのだ。
 次第に、漏れた時のことを考慮し、一部の内容を隠すことにした。敵を騙すにはまだ味方から、という諺の通りだった。秋菜を裏切るようで申し訳なかったが山岸の不意を突き、衝撃波を直撃させることができた。
 
 夏生の超能力は主に「圧縮」と「浮遊」がある。圧縮の場合、対象物に意識を集中させることで潰したり、割ることができる。初めのうちは加減が分からずにグラスをいくつも割ってしまった。
 浮遊は対象物を浮かせることができるが、自身の手の平の前にかざせば、空気で押されたような推進力で一気に突き飛ばすことができる。対象物の背後にあるものにも使えるのでは、と思い始めたのは夏生一人での修行がきっかけだった。浮遊させた小石を大岩に向かって放ったところ、大岩がぱっくりと割れ、小石が砕けたのだ。その時に超能力には衝撃波のようなものが働いていることを夏生は知った。
 かなりの高威力で非常に有効な攻撃手段だが、普段から小石やボールなどを持ち歩くわけにもいかず、頭を悩ませていた。ある日、ビー玉を使ったヘアゴムの存在を知り、常に身につけることにした。数少ない夏生のおしゃれであるし、怪しまれることなく自衛の手段を得ることができた。
 初めて超能力者相手に使用したが、効果は絶大だ。その威力故、ビー玉は耐えきれずに割れてしまった。残り二発が夏生の有効打だった。
 ビー玉は衝撃波のみではなく、撹乱(かくらん)としても有効に活躍した。相手に超能力を使う暇を与えず、じわじわと攻撃を加える。また、炎系の能力とは相性がよく、手応えの良さに夏生は油断をしていた。山岸も一枚上手で爆弾によって燃え残った火を操り、攻撃を受けてしまった。
 能力の特性を知らずに攻め過ぎた、と夏生は反省する。山岸は自身の背後に拘束された秋菜を配置することで夏生の動きを制限していた。狡猾な性格だった。まずは秋菜の拘束を解き、戦場から離れてもらわなくてはならない。
 山岸の周囲を黄色と青、二つのビー玉を操作し、再び撹乱(かくらん)させる。「またか」と腕を振り回す。一瞬の隙があれば十分だった。夏生は腕を引き、黄のビー玉を目の前で静止させる。目と鼻の先、ゼロ距離だ。
「くっ。させるかよ」山岸もそのまま攻撃を受ける男ではなかった。直撃の瞬間、山岸は指先に野球ボール程の火球を生成し、放つ。相打ちだった。互いに吹き飛び、床を転がっていく。
 黄のビー玉が砕け散る。残り一発だった。夏生は攻撃の体制をとっていたため、防御や受け身を取れず直撃だ。直撃は二度目だった。全身が、焼けるように熱い。今すぐにでも気を失いたかった。だが、まだ終われない、と夏生は自身に言い聞かせる。立ち上がり、足を引きずりながら出口の方へと歩いていく。
「おい、逃げんなよ」山岸も立ち上がり、身体をよろめかせて近づいてくる。超能力者は耐久力が上がっているとはいえ、互いに二度も直撃すれば致命傷らしい。明らかに疲弊している。
 山岸が廃倉庫の中心に来たあたりで、夏生は意識を集中させた。二階に置いていた二本のナイフを浮遊移動する。男達から奪ったナイフだった。二度目の撹乱の際に、二階へと移動させていたのだ。ナイフがロープを切断した。灰色のパイプの拘束が解かれ、がらがらと音を立て山岸へと落下していく。秋菜には当たらないように、超能力で調整をした。
「なっ」山岸は驚きの声を上げる。回避する余力はない。全て、直撃した。土煙が舞い、辺りが見えなくなる。夏生は一息つき、壁に寄りかかる。
 この攻撃で、決着がつく相手ではない。足止め程度にしかならないだろう。夏生は目を閉じ、ソナーを張り巡らせる。対象物を土煙の中へ、秋菜のいる方向へ浮遊移動させる。それは、手錠の鍵だった。
 先程の相打ちになった際、山岸のポケットから鍵を奪っていたのだ。そもそも、鍵の在処を分かっていたのは突入前のソナーだった。周囲に敵がいなかったからこそ、ゾーンに入り込み、廃倉庫の内部状況だけでなく山岸の持ち物まで把握することができたのだ。
 その時点で夏生は、鍵を奪うことは検討していた。鍵に意識を集中させ、手錠の鍵穴を探す。直接、目に見えないからこそ、感覚が重要になる。裁縫の糸を穴に通すような気分だった。
 ゾーンに入る。鍵が手錠に当たり、硬さや、ひんやりとした冷たさを感じる。柔らかいのは感覚は秋菜の手首だろう。鍵を手錠に沿わせ、鍵穴を見つける。鍵を入れ、解錠した。同様に足も解錠させる。よし、と夏生は心の中でガッツポーズをとった。あれ?と夏生は思う。秋菜はその場から離れようとしないのだ。
 
 気配を感じ、夏生はゾーン状態を解除させる。目を開くと、辺りが陽炎(かげろう)のように揺れていた。父と歩いた、パーキングエリアでの出来事が頭に(よぎ)ぎる。
「この、舐めやがって……」山岸の声が響く。何かが、焼ける音がする。土煙から、パイプが飛び出した。熱で形が変形し、ブーメランのように、くの字型になっている。
 怪我が癒えないことに加え、超能力の多用と二度のゾーン使用。夏生の身体は限界だった。避けられずに直撃した。
 夏生は壁に激突し、入り口に吹き飛ばされていた。水栓が、目に入る。気がついたら走り出し、蛇口を捻っていた。一滴の水が垂れるだけだった。夏生は、その場に崩れ落ちそうになる。
「おいおい、水が出るわけないだろう」嘲笑ったような声が聞こえてくる。火球が、飛んできた。
 再び夏生は吹き飛ばされる。意識が、朦朧としていく。水栓が火球により、剥き出しの配管を露わにしていた。夏生は、配管を見て閃くのものを感じたが、身体は錆びついたおもちゃのように動かない。山岸が土煙の中からシルエットを作り、歩いてくるのが見えた。


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目を開けると、ビー玉が床に転がっていた。その先には山岸の足があった。背中が、燃えるように熱い。奥にいる秋菜と目が合った。心配そうな表情を浮かべている。助けなければならない。夏生は身体を立ち上がらせた。
「だよなあ。そうこなくっちゃ」山岸が笑う。
 まったく、と夏生は苦笑してしまう。常人であれは大怪我では済まない傷を互いに負っている。それなのに立ち上がっているのだ。夏生は確信する。超能力者というのは能力を使うほど、耐久力が増していくということを。
 初めは自分だけだと思っていたが、それは山岸も同様だったらしい。神が存在するとすればなぜこの力を与えたのか、と夏生は糾弾したくなる。まるで戦うために与えられた力ではないか、と。
 ビー玉を再び浮遊させる。この攻撃は秋菜に教えていない。自身の超能力は人体には使えない、と説明していた。修行の|傍《かたわら》、秋菜が熱心にノートをまとめてくれていたのは知っていたが、外部に漏れることを夏生は危惧していたのだ。
 次第に、漏れた時のことを考慮し、一部の内容を隠すことにした。敵を騙すにはまだ味方から、という諺の通りだった。秋菜を裏切るようで申し訳なかったが山岸の不意を突き、衝撃波を直撃させることができた。
 夏生の超能力は主に「圧縮」と「浮遊」がある。圧縮の場合、対象物に意識を集中させることで潰したり、割ることができる。初めのうちは加減が分からずにグラスをいくつも割ってしまった。
 浮遊は対象物を浮かせることができるが、自身の手の平の前にかざせば、空気で押されたような推進力で一気に突き飛ばすことができる。対象物の背後にあるものにも使えるのでは、と思い始めたのは夏生一人での修行がきっかけだった。浮遊させた小石を大岩に向かって放ったところ、大岩がぱっくりと割れ、小石が砕けたのだ。その時に超能力には衝撃波のようなものが働いていることを夏生は知った。
 かなりの高威力で非常に有効な攻撃手段だが、普段から小石やボールなどを持ち歩くわけにもいかず、頭を悩ませていた。ある日、ビー玉を使ったヘアゴムの存在を知り、常に身につけることにした。数少ない夏生のおしゃれであるし、怪しまれることなく自衛の手段を得ることができた。
 初めて超能力者相手に使用したが、効果は絶大だ。その威力故、ビー玉は耐えきれずに割れてしまった。残り二発が夏生の有効打だった。
 ビー玉は衝撃波のみではなく、|撹乱《かくらん》としても有効に活躍した。相手に超能力を使う暇を与えず、じわじわと攻撃を加える。また、炎系の能力とは相性がよく、手応えの良さに夏生は油断をしていた。山岸も一枚上手で爆弾によって燃え残った火を操り、攻撃を受けてしまった。
 能力の特性を知らずに攻め過ぎた、と夏生は反省する。山岸は自身の背後に拘束された秋菜を配置することで夏生の動きを制限していた。狡猾な性格だった。まずは秋菜の拘束を解き、戦場から離れてもらわなくてはならない。
 山岸の周囲を黄色と青、二つのビー玉を操作し、再び|撹乱《かくらん》させる。「またか」と腕を振り回す。一瞬の隙があれば十分だった。夏生は腕を引き、黄のビー玉を目の前で静止させる。目と鼻の先、ゼロ距離だ。
「くっ。させるかよ」山岸もそのまま攻撃を受ける男ではなかった。直撃の瞬間、山岸は指先に野球ボール程の火球を生成し、放つ。相打ちだった。互いに吹き飛び、床を転がっていく。
 黄のビー玉が砕け散る。残り一発だった。夏生は攻撃の体制をとっていたため、防御や受け身を取れず直撃だ。直撃は二度目だった。全身が、焼けるように熱い。今すぐにでも気を失いたかった。だが、まだ終われない、と夏生は自身に言い聞かせる。立ち上がり、足を引きずりながら出口の方へと歩いていく。
「おい、逃げんなよ」山岸も立ち上がり、身体をよろめかせて近づいてくる。超能力者は耐久力が上がっているとはいえ、互いに二度も直撃すれば致命傷らしい。明らかに疲弊している。
 山岸が廃倉庫の中心に来たあたりで、夏生は意識を集中させた。二階に置いていた二本のナイフを浮遊移動する。男達から奪ったナイフだった。二度目の撹乱の際に、二階へと移動させていたのだ。ナイフがロープを切断した。灰色のパイプの拘束が解かれ、がらがらと音を立て山岸へと落下していく。秋菜には当たらないように、超能力で調整をした。
「なっ」山岸は驚きの声を上げる。回避する余力はない。全て、直撃した。土煙が舞い、辺りが見えなくなる。夏生は一息つき、壁に寄りかかる。
 この攻撃で、決着がつく相手ではない。足止め程度にしかならないだろう。夏生は目を閉じ、ソナーを張り巡らせる。対象物を土煙の中へ、秋菜のいる方向へ浮遊移動させる。それは、手錠の鍵だった。
 先程の相打ちになった際、山岸のポケットから鍵を奪っていたのだ。そもそも、鍵の在処を分かっていたのは突入前のソナーだった。周囲に敵がいなかったからこそ、ゾーンに入り込み、廃倉庫の内部状況だけでなく山岸の持ち物まで把握することができたのだ。
 その時点で夏生は、鍵を奪うことは検討していた。鍵に意識を集中させ、手錠の鍵穴を探す。直接、目に見えないからこそ、感覚が重要になる。裁縫の糸を穴に通すような気分だった。
 ゾーンに入る。鍵が手錠に当たり、硬さや、ひんやりとした冷たさを感じる。柔らかいのは感覚は秋菜の手首だろう。鍵を手錠に沿わせ、鍵穴を見つける。鍵を入れ、解錠した。同様に足も解錠させる。よし、と夏生は心の中でガッツポーズをとった。あれ?と夏生は思う。秋菜はその場から離れようとしないのだ。
 気配を感じ、夏生はゾーン状態を解除させる。目を開くと、辺りが|陽炎《かげろう》のように揺れていた。父と歩いた、パーキングエリアでの出来事が頭に|過《よぎ》ぎる。
「この、舐めやがって……」山岸の声が響く。何かが、焼ける音がする。土煙から、パイプが飛び出した。熱で形が変形し、ブーメランのように、くの字型になっている。
 怪我が癒えないことに加え、超能力の多用と二度のゾーン使用。夏生の身体は限界だった。避けられずに直撃した。
 夏生は壁に激突し、入り口に吹き飛ばされていた。水栓が、目に入る。気がついたら走り出し、蛇口を捻っていた。一滴の水が垂れるだけだった。夏生は、その場に崩れ落ちそうになる。
「おいおい、水が出るわけないだろう」嘲笑ったような声が聞こえてくる。火球が、飛んできた。
 再び夏生は吹き飛ばされる。意識が、朦朧としていく。水栓が火球により、剥き出しの配管を露わにしていた。夏生は、配管を見て閃くのものを感じたが、身体は錆びついたおもちゃのように動かない。山岸が土煙の中からシルエットを作り、歩いてくるのが見えた。