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四章 超能力者達(山岸視点)41

ー/ー



山岸は壁に激突し、よろよろと立ち上がる。全身に凄まじい衝撃を受けた。吸っても吸っても、全身に酸素が巡らない。過呼吸のような状態だった。頭が、回らない。
 夏生が暗闇の中、月明かりに照らされ、近づいてくる。「どういうことだ……」山岸は呟く。確か、秋菜のノートに人体には超能力が使えないと書いていたはずだった。彼女に目を向けるが、当人も驚いた表情を見せている。
 どうやら、予想外の出来事のようだった。理由は分からないが今の現状を受け入れるしかない。酸素が巡り、徐々に身体の調子が戻ったところで、山岸は状況を整理する。
 ビー玉が飛んできた、と思うのも束の間、突然の衝撃に襲われ、山岸は吹き飛んた。衝撃波のようなものだろうか。浮遊していたはずのビー玉の数は、いつの間にか二つになっている。床を見ると、砕けた破片のようなものが散らばっていた。
 理屈は分からないが、衝撃波による攻撃は残り二回のようだった。加えて、夏生の体温を上昇させることはできない。あの時、空間が歪むのを山岸は見た。
 常に、自身の周囲にバリアのようなものを張り巡らせ、検知したものは防ぐ仕組みだ、と山岸は検討をつける。「そうこなくっちゃなあ」と山岸は叫ぶ。身体の痛み以上に、昂る感情を抑えきれなかった。「どうだ?ここに来る前の戦闘は準備運動になったか?」
「準備……運動?」夏生は憤った表情を浮かべた。
「あの人達は自分以外の誰かのために戦ったんだ。それなのに……山岸、お前は。人を何だと思ってるんだ」怒りで震えていた。山岸は昂った感情に水を浴びせられた気分になる。ため息をつく。興醒めだった。
「人生の落伍者だよ」
「は?」
「教えてやる」と山岸は夏生に指を向けた。「あいつらはなあ、生活が立ち行かなくなって手段を選べなくなった人達だ。汚れ仕事はなんでも引き受けてんだよ。酒飲みで家族と縁を切られた男いるし、借金で首が回らなくなった奴もいる。そういったろくでなしを集める組織から、派遣されたんだよ。あいつらも誰かを悲しませ、利用してきた。だったら俺も同じように利用して何が悪いんだ?」
 救いようのない人間は、この世に存在すると山岸は思っている。矢吹の元で働いていた頃はそのような人間をを沢山見てきたからだ。平気で他人を傷つけるが、自分が傷つけられた時は騒ぎ立てるような連中だった。虐げる者と虐げられる者の存在。それが、山岸が見てきた社会の縮図だった。ならば、力を得た自分はこれまで我慢してきた分、自由に使い、虐げる側に回ればいい。山岸はそう考えるようになった。
「人は誰でも失敗して、後悔をするんだ。それでも生きていくしかないの。あんたの言う通り、あの人たちは許されないことをしたのかもしれない。けれどあなたが裁いて利用する権利はないのよ」夏生は激情に駆られ、黄色と青のビー玉を飛ばしてくる。
 山岸は避けるが、ハエのように飛び交い、煩わしい。加えて速度も速い。左肩に、ボールが直撃したような痛みを感じる。超能力を使う暇を与えない技だった。「ああ、鬱陶(うっとう)しい」
 山岸は人差し指に、ビー玉と同等の火球を生成した。火球は山岸がよく使用する技だった。ビー玉程の大きさであれば、意識の集中は必要なく、容易に生成することができた。時間をかければかけるほど、火球は大きくなっていく、単純ではあるが強力な技の一つだった。
 放った火球がビー玉に直撃する。しかし勢いは止まらずに顔面に直撃した。そうか、と山岸はよろめきながら納得をする。ビー玉は、その製造工程で高温で熱されている。超能力とはいえ、山岸の炎で溶かすことはできないのだ。山岸の超能力との相性は最悪だった。
 山岸は飛び交うビー玉を抜けて、夏生の元へと走り出す。遠距離で攻撃されるなら、超能力者本人を叩けばいい、と山岸は判断した。懐に入った山岸は手の平を近距離で向け、生成していた火球を放出した。夏生は腕で防ぎ、後退する。
「何を、綺麗事言ってんだ安藤夏生、お前も思ってるんだろ、どうして能力がある人間が我慢しなきゃならないんだ。って」秋菜に目を向ける。「この女から聞いたぞ、四年超能力を制御して使ってないんだってな。俺だったら気が狂ってるぞ」
 夏生の表情が苦しそうに歪み、山岸から目を逸らす。山岸はその隙を見逃さなかった。「否定しないってことはお前も思うところがあるんだろう?」
「あんたの言う通り、不公平感を味わって悩むことはあった。私も自分のために使おうとして、道を踏み外しそうになることはあったよ。でも」夏生が走り出す。距離を詰めてきた。
 防いだ腕が火傷の痕を残しているが目は、諦めていない。「私は、違う。気が狂ってるのはあなたよ」
「何言ってる。自分のために生きることが動物の本能だ?狂っているのはこの世界だ」山岸は叫んだ。
 我慢を強いられ、窮屈そうにしている夏生の姿を想像して、山岸は苛立ちを覚える。過去の自分と、重なっているからだ。我慢の先に幸福は待っていない。力がある者は勝ち取らなければいけないのだ。「お前もこっち側に来い。助けてやる」
「あなたの言ってること、ひとつも理解ができない。大っ嫌いよ」夏生が山岸の懐に入り、腕を引いた。
 同時に戻ってきた黄色いビー玉が、山岸の前で静止する。衝撃波が放たれる寸前だが、山岸は笑みを抑えきれなかった。この瞬間だ、と山岸は指先を動かす。
 野球ボール程の火球が、夏生の背中に直撃し、叫び声を上げた。夏生は技を放とうと構え、防御はしていない。完全に意表を突いた攻撃だった。夏生は山岸の足元に倒れ込んだ。
「夏生!」と秋菜が叫び声が聞こえる。火球の生成したのは指先ではなく、爆弾で燃えた炎だった。徐々に自身のフィールドが、盤上が、完成していくのを感じる。青と黄色のビー玉が、山岸の足元に転がってきた。「安藤夏生、まだ死なないでくれよ」


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山岸は壁に激突し、よろよろと立ち上がる。全身に凄まじい衝撃を受けた。吸っても吸っても、全身に酸素が巡らない。過呼吸のような状態だった。頭が、回らない。
 夏生が暗闇の中、月明かりに照らされ、近づいてくる。「どういうことだ……」山岸は呟く。確か、秋菜のノートに人体には超能力が使えないと書いていたはずだった。彼女に目を向けるが、当人も驚いた表情を見せている。
 どうやら、予想外の出来事のようだった。理由は分からないが今の現状を受け入れるしかない。酸素が巡り、徐々に身体の調子が戻ったところで、山岸は状況を整理する。
 ビー玉が飛んできた、と思うのも束の間、突然の衝撃に襲われ、山岸は吹き飛んた。衝撃波のようなものだろうか。浮遊していたはずのビー玉の数は、いつの間にか二つになっている。床を見ると、砕けた破片のようなものが散らばっていた。
 理屈は分からないが、衝撃波による攻撃は残り二回のようだった。加えて、夏生の体温を上昇させることはできない。あの時、空間が歪むのを山岸は見た。
 常に、自身の周囲にバリアのようなものを張り巡らせ、検知したものは防ぐ仕組みだ、と山岸は検討をつける。「そうこなくっちゃなあ」と山岸は叫ぶ。身体の痛み以上に、昂る感情を抑えきれなかった。「どうだ?ここに来る前の戦闘は準備運動になったか?」
「準備……運動?」夏生は憤った表情を浮かべた。
「あの人達は自分以外の誰かのために戦ったんだ。それなのに……山岸、お前は。人を何だと思ってるんだ」怒りで震えていた。山岸は昂った感情に水を浴びせられた気分になる。ため息をつく。興醒めだった。
「人生の落伍者だよ」
「は?」
「教えてやる」と山岸は夏生に指を向けた。「あいつらはなあ、生活が立ち行かなくなって手段を選べなくなった人達だ。汚れ仕事はなんでも引き受けてんだよ。酒飲みで家族と縁を切られた男いるし、借金で首が回らなくなった奴もいる。そういったろくでなしを集める組織から、派遣されたんだよ。あいつらも誰かを悲しませ、利用してきた。だったら俺も同じように利用して何が悪いんだ?」
 救いようのない人間は、この世に存在すると山岸は思っている。矢吹の元で働いていた頃はそのような人間をを沢山見てきたからだ。平気で他人を傷つけるが、自分が傷つけられた時は騒ぎ立てるような連中だった。虐げる者と虐げられる者の存在。それが、山岸が見てきた社会の縮図だった。ならば、力を得た自分はこれまで我慢してきた分、自由に使い、虐げる側に回ればいい。山岸はそう考えるようになった。
「人は誰でも失敗して、後悔をするんだ。それでも生きていくしかないの。あんたの言う通り、あの人たちは許されないことをしたのかもしれない。けれどあなたが裁いて利用する権利はないのよ」夏生は激情に駆られ、黄色と青のビー玉を飛ばしてくる。
 山岸は避けるが、ハエのように飛び交い、煩わしい。加えて速度も速い。左肩に、ボールが直撃したような痛みを感じる。超能力を使う暇を与えない技だった。「ああ、|鬱陶《うっとう》しい」
 山岸は人差し指に、ビー玉と同等の火球を生成した。火球は山岸がよく使用する技だった。ビー玉程の大きさであれば、意識の集中は必要なく、容易に生成することができた。時間をかければかけるほど、火球は大きくなっていく、単純ではあるが強力な技の一つだった。
 放った火球がビー玉に直撃する。しかし勢いは止まらずに顔面に直撃した。そうか、と山岸はよろめきながら納得をする。ビー玉は、その製造工程で高温で熱されている。超能力とはいえ、山岸の炎で溶かすことはできないのだ。山岸の超能力との相性は最悪だった。
 山岸は飛び交うビー玉を抜けて、夏生の元へと走り出す。遠距離で攻撃されるなら、超能力者本人を叩けばいい、と山岸は判断した。懐に入った山岸は手の平を近距離で向け、生成していた火球を放出した。夏生は腕で防ぎ、後退する。
「何を、綺麗事言ってんだ安藤夏生、お前も思ってるんだろ、どうして能力がある人間が我慢しなきゃならないんだ。って」秋菜に目を向ける。「この女から聞いたぞ、四年超能力を制御して使ってないんだってな。俺だったら気が狂ってるぞ」
 夏生の表情が苦しそうに歪み、山岸から目を逸らす。山岸はその隙を見逃さなかった。「否定しないってことはお前も思うところがあるんだろう?」
「あんたの言う通り、不公平感を味わって悩むことはあった。私も自分のために使おうとして、道を踏み外しそうになることはあったよ。でも」夏生が走り出す。距離を詰めてきた。
 防いだ腕が火傷の痕を残しているが目は、諦めていない。「私は、違う。気が狂ってるのはあなたよ」
「何言ってる。自分のために生きることが動物の本能だ?狂っているのはこの世界だ」山岸は叫んだ。
 我慢を強いられ、窮屈そうにしている夏生の姿を想像して、山岸は苛立ちを覚える。過去の自分と、重なっているからだ。我慢の先に幸福は待っていない。力がある者は勝ち取らなければいけないのだ。「お前もこっち側に来い。助けてやる」
「あなたの言ってること、ひとつも理解ができない。大っ嫌いよ」夏生が山岸の懐に入り、腕を引いた。
 同時に戻ってきた黄色いビー玉が、山岸の前で静止する。衝撃波が放たれる寸前だが、山岸は笑みを抑えきれなかった。この瞬間だ、と山岸は指先を動かす。
 野球ボール程の火球が、夏生の背中に直撃し、叫び声を上げた。夏生は技を放とうと構え、防御はしていない。完全に意表を突いた攻撃だった。夏生は山岸の足元に倒れ込んだ。
「夏生!」と秋菜が叫び声が聞こえる。火球の生成したのは指先ではなく、爆弾で燃えた炎だった。徐々に自身のフィールドが、盤上が、完成していくのを感じる。青と黄色のビー玉が、山岸の足元に転がってきた。「安藤夏生、まだ死なないでくれよ」