四章 超能力者達(夏生視点)36
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山岸は夏生が超能力者だと知っていた。だから秋菜を攫うという大胆な行動をとった。山岸の『超能力を溜め込むのはストレス』という言葉を思い出す。
彼の話す通り、超能力が使えずにストレスが溜まっていたことは事実だ。それに関して秋菜に、弱音を吐いたこともある。人前で使わないように常に気を配っていても、西田との件のように、一瞬の気の緩みで全てが水の泡になってしまう。
そのプレッシャーは夏生に深くのしかかり、ピークだったのが中学の頃だった。今では暴発することは無くなったが新たな問題が発生した。それを超能力を私利私欲のために使わず、自制をすることだ。
夏生は一度だけ、自分の復讐のために超能力を使おうと考えたことがある。母屋でくつろいでいた時、ゴミ箱に『安藤夏生様へ』と封筒に書かれた手紙を発見したのだ。偶然だった。祖母にゴミ出しを頼まれた際、『様へ』と書かれた文字が袋の中から見えていた。
ぐしゃぐしゃにされ、溜まったゴミの底に押し込められていた。手紙は生臭くて湿っていた。ゴミ捨て場で夏生は、臭いに顔を顰めながら取り出し、家で開いた。
あの男からの手紙だった。後悔と懺悔が綴られた内容で、見る限り、今までに何通も送っていたらしい。祖父母が配慮し、夏生の目に触れないように処分していたようだった。
三年が経過し、立ち直れそうと思い始めていた矢先、夏生は再び、どん底に突き落とされた。それからのことは覚えていない。気がつくと夏生の目の前に男がいた。
透明の仕切りの先に座る中年の男。対面する夏生自身。あとは意識を集中し、念じるだけ。夏生は男に手を平を向ける。両親の命を奪った男。両親との約束。約束……秋菜との遊園地。夏生はハッと意識を取り戻す。伸ばした手が震えていた。椅子が音を立てて倒れる。夏生は急いでその場を後にした。これから自分は、一生この力と向き合っていかなくてはならない。自身の目的ではなく、大切な人のために使おうと夏生は決めたのだった。
どこから情報が漏れたのか見当もつかない。心当たりがあるとすれば直近で超能力を使用した今、夏生が走っている河川敷だった。けれど、目撃者はいなかったはずだ。強いて言えば野球少年だったが山岸と結びつかなかった。
とにかく、今できることは反省ではなく、秋菜の元へ向かうことだ。きっと心細さと恐怖と秋菜は戦っている。それらを押し殺して「来ないで」と夏生を突き放した。超能力は関係ない。本当に強い人は彼女のような人なのだ。
焦燥感を尻目に、日が暮れていくのがもどかしい。走っても、山岸の指定した廃倉庫に到着する頃には夜になっている。こんな時、物を浮かせる超能力などなんの役にも立たない。瞬間移動の超能力が、喉から手が出る程に欲しかった。せめて、徒歩以外の移動手段が欲しかった。
背後からクラクションが鳴らされる。振り向くと、ライトの明るさに夏生は目を細めてしまう。青色のスクーターは夏生の横に止まる。野球のユニフォームを着た男が乗っていた。ヘルメットを取ると、「あっ」と夏生は声を上げる。超能力を使った瞬間を目撃され、危うくクラス中にバレそうになったのだ。忘れたくても忘れられない男、西田だった。
「早く乗れ」西田は事情を説明せす、白色のヘルメットを渡してくる。「え?え?」と夏生が状況が掴めず戸惑っていると「松原のところへ行くんだろ」と話すため、慌てて後部座席へ乗る。スクーターがエンジンを吹かせて、夕日が沈んでいく方向へ進んで行った。
景色が、眺める暇もなく過ぎ去っていく。夏生は西田の腰を両手で掴み、必死で吹き飛ばさそうな勢いに耐えていた。日々の過酷な練習で引き締まった身体、男の子なんだなあ、と夏生はぼんやりと思った。
「ごめんな」と西田の雑音混じりの声が聞こえる。向かい風が凄まじいのに、声がやけに鮮明だった。思わず当たりを見回してしまうがどうやら、スピーカーが付いているヘルメットらしい。
「なんのこと?それより何で、秋菜の居る場所を知っているの?」
「俺が、話したんだ。あの男、山岸に。最初は、軽い気持ちだった。何だか、超常現象とかを研究してる話を中学生にしてたからさ。安藤と松原についての話が聞こえてきて、俺も心当たりがあるから話しかけたんだ」
脈絡がなく要領を得ない説明だったが「それで?」と促した。
「そしたらあいつは、身を乗り出して松原のことについて根掘り葉掘り聞き始めた。流石に俺も怪しいと思って帰ろうとした頃には遅かった。急に身体が熱くなって意識が朦朧とした。気がついたら車に乗せられていた。多分、超能力?だろう。脅されて、俺は従うしかなかった。後から猛烈な後悔に襲われた。松原に直接会って山岸に情報を伝えたあの日、位置情報が分かるタグを車に置いたんだ」
身体が熱くなるとは、どういうことか。人体や生物に対応した温度調節ができるのだろうか。物には?と夏生は考える。
スピーカーから伝わる西田の声は震えていた。電話口で後悔し、『来ないで』と突き放した秋菜と重なった。後悔しているのは、夏生も同様である。すぐにでも秋菜から距離をおくべきだった。ぎゅっと腰を掴む手に力が入る。西田の挽回したい気持ちは立派だが、相手は超能力者だ。いくら身体を鍛えているとはいえ、太刀打ちはできないだろう。
その旨を伝えると西田は反論した。「そんなことは分かってる。お前ら二人を危険に晒したのは俺の責任だ。だから、俺が何とかする。しなきゃならないんだ。山岸は学校や家族を脅してきた。それで俺が従うと思ってる。その意表をつけるのは俺しかいないんだ」言葉と裏腹に身体と声が震えている。「刺し違えても俺が……」
「その気持ちだけで十分だよ」
「俺は本気だ」西田の語気が荒くなる。
「これ以上あなたを巻き込みたくないの」夏生はそう伝える。「ねえ西田。あなたが受けた超能力について教えてくれる?少しでも情報が必要なの」
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彼の話す通り、超能力が使えずにストレスが溜まっていたことは事実だ。それに関して秋菜に、弱音を吐いたこともある。人前で使わないように常に気を配っていても、西田との件のように、一瞬の気の緩みで全てが水の泡になってしまう。
そのプレッシャーは夏生に深くのしかかり、ピークだったのが中学の頃だった。今では暴発することは無くなったが新たな問題が発生した。それを超能力を私利私欲のために使わず、自制をすることだ。
夏生は一度だけ、自分の復讐のために超能力を使おうと考えたことがある。母屋でくつろいでいた時、ゴミ箱に『安藤夏生様へ』と封筒に書かれた手紙を発見したのだ。偶然だった。祖母にゴミ出しを頼まれた際、『様へ』と書かれた文字が袋の中から見えていた。
ぐしゃぐしゃにされ、溜まったゴミの底に押し込められていた。手紙は生臭くて湿っていた。ゴミ捨て場で夏生は、臭いに顔を顰めながら取り出し、家で開いた。
あの男からの手紙だった。後悔と懺悔が綴られた内容で、見る限り、今までに何通も送っていたらしい。祖父母が配慮し、夏生の目に触れないように処分していたようだった。
三年が経過し、立ち直れそうと思い始めていた矢先、夏生は再び、どん底に突き落とされた。それからのことは覚えていない。気がつくと夏生の目の前に男がいた。
透明の仕切りの先に座る中年の男。対面する夏生自身。あとは意識を集中し、念じるだけ。夏生は男に手を平を向ける。両親の命を奪った男。両親との約束。約束……秋菜との遊園地。夏生はハッと意識を取り戻す。伸ばした手が震えていた。椅子が音を立てて倒れる。夏生は急いでその場を後にした。これから自分は、一生この力と向き合っていかなくてはならない。自身の目的ではなく、大切な人のために使おうと夏生は決めたのだった。
どこから情報が漏れたのか見当もつかない。心当たりがあるとすれば直近で超能力を使用した今、夏生が走っている河川敷だった。けれど、目撃者はいなかったはずだ。強いて言えば野球少年だったが山岸と結びつかなかった。
とにかく、今できることは反省ではなく、秋菜の元へ向かうことだ。きっと心細さと恐怖と秋菜は戦っている。それらを押し殺して「来ないで」と夏生を突き放した。超能力は関係ない。本当に強い人は彼女のような人なのだ。
焦燥感を尻目に、日が暮れていくのがもどかしい。走っても、山岸の指定した廃倉庫に到着する頃には夜になっている。こんな時、物を浮かせる超能力などなんの役にも立たない。瞬間移動の超能力が、喉から手が出る程に欲しかった。せめて、徒歩以外の移動手段が欲しかった。
背後からクラクションが鳴らされる。振り向くと、ライトの明るさに夏生は目を細めてしまう。青色のスクーターは夏生の横に止まる。野球のユニフォームを着た男が乗っていた。ヘルメットを取ると、「あっ」と夏生は声を上げる。超能力を使った瞬間を目撃され、危うくクラス中にバレそうになったのだ。忘れたくても忘れられない男、西田だった。
「早く乗れ」西田は事情を説明せす、白色のヘルメットを渡してくる。「え?え?」と夏生が状況が掴めず戸惑っていると「松原のところへ行くんだろ」と話すため、慌てて後部座席へ乗る。スクーターがエンジンを吹かせて、夕日が沈んでいく方向へ進んで行った。
景色が、眺める暇もなく過ぎ去っていく。夏生は西田の腰を両手で掴み、必死で吹き飛ばさそうな勢いに耐えていた。日々の過酷な練習で引き締まった身体、男の子なんだなあ、と夏生はぼんやりと思った。
「ごめんな」と西田の雑音混じりの声が聞こえる。向かい風が凄まじいのに、声がやけに鮮明だった。思わず当たりを見回してしまうがどうやら、スピーカーが付いているヘルメットらしい。
「なんのこと?それより何で、秋菜の居る場所を知っているの?」
「俺が、話したんだ。あの男、山岸に。最初は、軽い気持ちだった。何だか、超常現象とかを研究してる話を中学生にしてたからさ。安藤と松原についての話が聞こえてきて、俺も心当たりがあるから話しかけたんだ」
脈絡がなく要領を得ない説明だったが「それで?」と促した。
「そしたらあいつは、身を乗り出して松原のことについて根掘り葉掘り聞き始めた。流石に俺も怪しいと思って帰ろうとした頃には遅かった。急に身体が熱くなって意識が朦朧とした。気がついたら車に乗せられていた。多分、超能力?だろう。脅されて、俺は従うしかなかった。後から猛烈な後悔に襲われた。松原に直接会って山岸に情報を伝えたあの日、位置情報が分かるタグを車に置いたんだ」
身体が熱くなるとは、どういうことか。人体や生物に対応した温度調節ができるのだろうか。物には?と夏生は考える。
スピーカーから伝わる西田の声は震えていた。電話口で後悔し、『来ないで』と突き放した秋菜と重なった。後悔しているのは、夏生も同様である。すぐにでも秋菜から距離をおくべきだった。ぎゅっと腰を掴む手に力が入る。西田の挽回したい気持ちは立派だが、相手は超能力者だ。いくら身体を鍛えているとはいえ、太刀打ちはできないだろう。
その旨を伝えると西田は反論した。「そんなことは分かってる。お前ら二人を危険に晒したのは俺の責任だ。だから、俺が何とかする。しなきゃならないんだ。山岸は学校や家族を脅してきた。それで俺が従うと思ってる。その意表をつけるのは俺しかいないんだ」言葉と裏腹に身体と声が震えている。「刺し違えても俺が……」
「その気持ちだけで十分だよ」
「俺は本気だ」西田の語気が荒くなる。
「これ以上あなたを巻き込みたくないの」夏生はそう伝える。「ねえ西田。あなたが受けた超能力について教えてくれる?少しでも情報が必要なの」