四章 超能力者達(夏生視点)35
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「え、秋菜は学校に行ってないの?そもそも夏生ちゃんの家に泊まってるんじゃ?」
春奈と冬美に頼まれた帰り道、夏生は遠回りをして秋菜の家に向かった。話によると秋菜は昨夜から帰っていないとのことだ。陽子は不安そうな表情を浮かべている。
「昨日は夏生ちゃんの家に泊まるって連絡がきてたけど」
陽子がメッセージアプリの画面を見せてくる。陽子にメッセージが送られた時間は二十一時を回っていた。帰り道の途中だろうか。
「何かに巻き込まれたのかしら?最近、忙しいから送り迎えは大丈夫だよ、っていうあの子の言葉に甘えてたわ」陽子が狼狽する。
秋菜から、日々の仕事の忙しさについて、夏生は話を聞いていた。だからこそ秋菜は楽させようと無理を言って塾に通い、勉強を頑張っている。
そんな秋菜が夜道を一人で往復していると聞いても、不思議ではなかった。ポケットのスマートフォンが着信音を鳴らす。張り詰め始めた空気にそぐわない愉快な音だった。取り出し、画面を見ると『松原秋菜』と表示されていた。アイコンはクマのキーホルダーだ。
「もしもし、秋菜?今どこにいるの」夏生は声を上げてしまう。
「お前が、安藤夏生だな?」男の声だった。夏生は胸に氷が刺さったような冷たさを感じる。遂に、恐れていたことが起きたのだ。
ふと陽子を見ると心配そうな表情で様子を見守っている。夏生は軽く会釈をし、玄関先から出て、陽子と距離を置いた。なんとなく、聞かれてはいけないような気がしたからだ。
「あなたは」夏生は言葉に詰まる。あなたは誰?秋菜はそこにいるの?秋菜とどういう関係?秋菜は無事なの?目的は?聞きたいことは山ほどあった。
「俺は山岸豊」電話口の男は山岸と名乗った。「夏生、あんたが探している秋菜だが、ここにいる。ちゃんと無事だ」
「本当なの?声を聞かせて」口だけなら何とでもでも言える。声を聞かないと安心ができなかった。
「ちょっと待ってろ」ガサガサと雑音が聞こえ、「夏生?ごめん」と泣きそうな声がした。
「秋菜!」思わず声を出してしまう。第一声がごめん、とは彼女らしかった。他に言うべきことがあるだろう。
「私、間違ってた。夏生が正しかった。この男は、超能力者だった。目的は、あなた。こうなったのは夏生の言うことを聞かなかった私の責任。だから」秋菜の声が震えていた。言葉が詰まりながらも、絞り出すように続ける。「だから、私のことは放っておいて。大丈夫だから」
「そんなこと、できるわけないでしょ」夏生が声を張り上げる。今すぐ、電話口へ飛び込みたい衝動に駆られた。懸念していたにも関わらず、他の超能力者への対策を怠った自分が悪い、と夏生は自身を責めたくなる。しかし、今はそのようなことをしている場合ではなかった。
「おおっと、言われてしまったな」雑音の後に山岸の声が聞こえる。茶番じみた口調は挑発のつもりだろうか。あからさまに夏生の神経を逆撫でしてくる。「秋菜の言った通り、俺は超能力者だ。夏生、お前も同じだろう?今から指定する場所に来い。わかっていると思うが、誰かに漏らせばこいつの命はない」
「わ、わかった」夏生は従うことしかできなかった。決定権は向こうにある。迂闊な行動はできない。「目的は何?」
「目的?超能力者と戦いたいからだよ。お前だって思ってるんだろ?能力を使いたくて堪らないって。溜め込むのはストレスだよなあ」山岸は饒舌だった。
夏生は言葉に詰まるが「意味が、分からない」と平然を装う。
「まあいい。長電話は嫌いなんだ。後で話そう。とにかく待ってるからな」山岸は電話を切ろうとする寸前で「夏生、来ないで」と秋菜の切実な叫びが聞こえた。切断音が無常に響く。
夏生は全身の力が抜け、その場にへたり込みそうになった。今すぐ動かなくてはいけない。休んでいる暇はなかった。夏生は陽子に事情を説明しようと玄関へ戻る。ドアの前で深呼吸をし、表情を整えた。
がちゃり、とドアを開けると陽子が玄関口で座っていた。まるで石像のように電話前と同じ姿勢だっため、一瞬、時間が止まっていたのではないかと錯覚しそうになる。
「電話はあの子だった?」と縋るような声色だ。陽子の表情を見て、夏生は全てを打ち明けたい衝動に駆られたが必死に抑え込む。
「はい、秋菜でした」努めて平静な表情を作る。「実は、秋菜、先輩と付き合い始めたんですよね。ほら、親に言いづらいでしょう?喧嘩したみたいで私にかけてきました。なのでこれから会いに行ってきます」
「あの子は、秋菜はどこにいるの?」
「えーと、先輩の家、みたいです」
「そうなのね」陽子は息を吐き、夏生の目をじっと見つめた。「わかったわ。夏生ちゃんよろしくね。帰ってきたらこっぴどく言っておかないと」
「はい。学校のみんなも陽子さんも心配していたと伝えておきます」夏生が殊勝に返事をする。「それじゃあ、連れ戻してきます」と、身を翻し秋菜の家を後にした。陽子は何か言いたげだったが、気づかないふりをした。ボロが出てしまいそうで怖かったからだ。
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「昨日は夏生ちゃんの家に泊まるって連絡がきてたけど」
陽子がメッセージアプリの画面を見せてくる。陽子にメッセージが送られた時間は二十一時を回っていた。帰り道の途中だろうか。
「何かに巻き込まれたのかしら?最近、忙しいから送り迎えは大丈夫だよ、っていうあの子の言葉に甘えてたわ」陽子が狼狽する。
秋菜から、日々の仕事の忙しさについて、夏生は話を聞いていた。だからこそ秋菜は楽させようと無理を言って塾に通い、勉強を頑張っている。
そんな秋菜が夜道を一人で往復していると聞いても、不思議ではなかった。ポケットのスマートフォンが着信音を鳴らす。張り詰め始めた空気にそぐわない愉快な音だった。取り出し、画面を見ると『松原秋菜』と表示されていた。アイコンはクマのキーホルダーだ。
「もしもし、秋菜?今どこにいるの」夏生は声を上げてしまう。
「お前が、安藤夏生だな?」男の声だった。夏生は胸に氷が刺さったような冷たさを感じる。遂に、恐れていたことが起きたのだ。
ふと陽子を見ると心配そうな表情で様子を見守っている。夏生は軽く会釈をし、玄関先から出て、陽子と距離を置いた。なんとなく、聞かれてはいけないような気がしたからだ。
「あなたは」夏生は言葉に詰まる。あなたは誰?秋菜はそこにいるの?秋菜とどういう関係?秋菜は無事なの?目的は?聞きたいことは山ほどあった。
「俺は山岸豊」電話口の男は山岸と名乗った。「夏生、あんたが探している秋菜だが、ここにいる。ちゃんと無事だ」
「本当なの?声を聞かせて」口だけなら何とでもでも言える。声を聞かないと安心ができなかった。
「ちょっと待ってろ」ガサガサと雑音が聞こえ、「夏生?ごめん」と泣きそうな声がした。
「秋菜!」思わず声を出してしまう。第一声がごめん、とは彼女らしかった。他に言うべきことがあるだろう。
「私、間違ってた。夏生が正しかった。この男は、超能力者だった。目的は、あなた。こうなったのは夏生の言うことを聞かなかった私の責任。だから」秋菜の声が震えていた。言葉が詰まりながらも、絞り出すように続ける。「だから、私のことは放っておいて。大丈夫だから」
「そんなこと、できるわけないでしょ」夏生が声を張り上げる。今すぐ、電話口へ飛び込みたい衝動に駆られた。懸念していたにも関わらず、他の超能力者への対策を怠った自分が悪い、と夏生は自身を責めたくなる。しかし、今はそのようなことをしている場合ではなかった。
「おおっと、言われてしまったな」雑音の後に山岸の声が聞こえる。茶番じみた口調は挑発のつもりだろうか。あからさまに夏生の神経を逆撫でしてくる。「秋菜の言った通り、俺は超能力者だ。夏生、お前も同じだろう?今から指定する場所に来い。わかっていると思うが、誰かに漏らせばこいつの命はない」
「わ、わかった」夏生は従うことしかできなかった。決定権は向こうにある。迂闊な行動はできない。「目的は何?」
「目的?超能力者と戦いたいからだよ。お前だって思ってるんだろ?能力を使いたくて堪らないって。溜め込むのはストレスだよなあ」山岸は饒舌だった。
夏生は言葉に詰まるが「意味が、分からない」と平然を装う。
「まあいい。長電話は嫌いなんだ。後で話そう。とにかく待ってるからな」山岸は電話を切ろうとする寸前で「夏生、来ないで」と秋菜の切実な叫びが聞こえた。切断音が無常に響く。
夏生は全身の力が抜け、その場にへたり込みそうになった。今すぐ動かなくてはいけない。休んでいる暇はなかった。夏生は陽子に事情を説明しようと玄関へ戻る。ドアの前で深呼吸をし、表情を整えた。
がちゃり、とドアを開けると陽子が玄関口で座っていた。まるで石像のように電話前と同じ姿勢だっため、一瞬、時間が止まっていたのではないかと錯覚しそうになる。
「電話はあの子だった?」と縋るような声色だ。陽子の表情を見て、夏生は全てを打ち明けたい衝動に駆られたが必死に抑え込む。
「はい、秋菜でした」努めて平静な表情を作る。「実は、秋菜、先輩と付き合い始めたんですよね。ほら、親に言いづらいでしょう?喧嘩したみたいで私にかけてきました。なのでこれから会いに行ってきます」
「あの子は、秋菜はどこにいるの?」
「えーと、先輩の家、みたいです」
「そうなのね」陽子は息を吐き、夏生の目をじっと見つめた。「わかったわ。夏生ちゃんよろしくね。帰ってきたらこっぴどく言っておかないと」
「はい。学校のみんなも陽子さんも心配していたと伝えておきます」夏生が|殊勝《しゅしょう》に返事をする。「それじゃあ、連れ戻してきます」と、身を翻し秋菜の家を後にした。陽子は何か言いたげだったが、気づかないふりをした。ボロが出てしまいそうで怖かったからだ。