四章 超能力者達(夏生視点)34
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「松原さんは今日休み?」どうしたのかしら、と担任の伊藤が心配そうな表情を浮かべる。夏生は秋菜の席に目を向けてしまう。その席には誰もいない。
秋菜と喧嘩別れのようになってしまった翌日だった。「秋ちゃん遅いねえ」食器を洗いながら祖母が夏生に話しかける。「いつも来てる時間より十分も遅いわ」
「うーん、寝坊でもしたのかな」夏生は平然とした様子で答えたが内心は穏やかではなかった。心当たりしかなかったからだ。バスの時間を考慮すると待つのは十五分が限界だった。「行ってきます!」と言うと夏生は急いで母屋を出た。走りながらスマホを開く。秋菜からのメッセージは入っていない。だからといって自分から送るのも気まずさを感じたため、送らなかった。
秋菜がいないと一人で過ごすことが多くなる。普段は気にしていなかったが改めて秋菜に甘えていたのだな、と夏生は実感する。
お昼休みになり、机に弁当を広げる。秋菜が喜ぶかと思い、卵焼きを多めに作ってきたのだが完全に裏目に出てしまった。彼女好きな砂糖が多めの卵焼き。「甘い……」と呟き、一人寂しくお弁当を完食する。お腹より胸が苦しかった。
夏生は、自分一人で平凡な学生生活を送ろうと思っていたが、一日だけでも叶ってしまうとそれはそれで落ち着かなかった。何より張り合いがない。昨夜は秋菜に言い過ぎたと思っていたが、やはり夏生の考えは変わっていなかった。
「大丈夫だから」とたかを括り、事が起こってからでは遅い。悔いても悔やみ切ることはできない。だが秋菜の言葉で納得している事がある。それは「両親が今の夏生を見たら心配をする」ということだ。
夏生にとっては両親の存在は絶対で、自分が幸せに生きている方が安心させられることは分かっている。しかしそれを全て叶えることはできない。少なくとも学校に通うことは将来に繋がっているため、そつなく過ごすことに決めたのだ。
自分が楽しくなるために欲を開放し、周りが不幸になるより、自分がおとなしく過ごし、周りの幸せな日々が続いてくれる方がずっとよかった。
「ねえ、安藤さん、秋菜から連絡きた?」帰り支度をしている時、春奈から声をかけられた。隣には真冬もいる。
「ううん、連絡はないよ」夏生は首を振る。「二人には?」秋菜と名前を呼び合う仲だ。連絡先は知っているだろう。自分ではなく彼女らに連絡が入っていてもおかしくはない。嫉妬のような感情を抱く自分に夏生は嫌気がさす。
「私たちもきてないよ」真冬が答える。明らかに心配そうだ。「こっちから連絡したけど返事はなし。既読もついていない。何かあったのかな?」
「真冬は心配性だなあ」春奈が笑い、真冬の肩を叩く。「疲れて休んだんじゃないの?ほら、昨日は塾の日なんじゃなかったっけ?」
「うん、塾の日ではあったんだけど……」夏生は愛想笑いを浮かべ、言葉に詰まる。秋菜は疲れたからといって突然休むような人ではない。今まで一緒にいたからこそわかることだ。心当たりがあるとすれば、追い詰めてしまった私が原因だ、と夏生は暗い気持ちになる。
「もしかして、秋菜ちゃんと何かあった?」真冬が申し訳なさそうに聞いてきた。
「あっ、喧嘩したとか?」があっけらかんとしている。夏生は何も言えず顔が強張ってしまう。いつも愛想笑いをして乗り切っているのに、どうしてこういう時は誤魔化せないのか、と自分の不器用さにうんざりする。
夏生の様子を見て察したのか「バカっ」と真冬が嗜めた。
「合ってたのか、ごめん」と春奈は手を合わせた。ポーズとは裏腹に軽い調子は変わっていない。
「本当にデリカシーがないんだから、ごめんね、安藤さん。私たちも心配なの」真冬が謝る。
「うん、わかってるよ。ありがとう。今日の帰りに寄ってみようと思っていたの。二人のことも話しておくね」
「よろしく。喧嘩なんて誰にでもあるし、しっかり話し合いなよ。お互いに溜め込んでたら相手のためにならないんだからさ」
「口にするのは簡単だけど、そう思ってもうまくいかないんだから」真冬がため息をつく。「本当にデリカシーがない」
「二回も言うな」春奈が抗議する。
「ううん」夏生は首を振る。「中村さんの言う通りだと思う。ずっとお互いに我慢してた」お互いが相手のためを思って深く踏み込まずに黙っていたが、抱え込んだ思いが爆発した。そして言わなくて良いことを言って相手を傷つけた。小出しにして話し合っておくべきだったと夏生は後悔に襲われる。「私、もう一度話合ってみるね」
「妹と弟が喧嘩しても翌日には何事もなかったかのように仲直りをしているのを見て、てそう思ったんだ。何があったかわからないけど、上手くいくことを祈ってるよ」春奈が笑う。この笑顔は元気をもらえるな、と夏生は暖かい気持ちになる。
「私も同じだよ。明日、四人でお昼食べようね」真冬が提案する。
ふと、二人が話しかけてくれるのはきっと秋菜が見えないところで取り持っているからだな、と夏生は理解した。そうでないと苗字だったり『二人は』などと一緒くたに呼び、露骨に距離をとっている夏生に近づこうとはしないだろう。
秋菜は夏生を思い、行動しているのに、頑なに意地を張る私に何を思ったのだろう。『夏生の人生だもんね』悲しそうに微笑んだ表情を思い出す。胸が締め付けられる気持ちになる。
相手のためを思って秋菜は春奈と冬美との仲を取り持ってくれたが夏生がしたことは距離を置くことだった。これでは超能力のことを打ち明けたあの日と同じだった。成長していない。どちらが相手のことを考えていたかは明白だった。「う、うん。一緒に食べようか」と返事をすると春奈と真冬は嬉しそうに顔を見合わせる。その反応で十分だった。
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秋菜と喧嘩別れのようになってしまった翌日だった。「秋ちゃん遅いねえ」食器を洗いながら祖母が夏生に話しかける。「いつも来てる時間より十分も遅いわ」
「うーん、寝坊でもしたのかな」夏生は平然とした様子で答えたが内心は穏やかではなかった。心当たりしかなかったからだ。バスの時間を考慮すると待つのは十五分が限界だった。「行ってきます!」と言うと夏生は急いで母屋を出た。走りながらスマホを開く。秋菜からのメッセージは入っていない。だからといって自分から送るのも気まずさを感じたため、送らなかった。
秋菜がいないと一人で過ごすことが多くなる。普段は気にしていなかったが改めて秋菜に甘えていたのだな、と夏生は実感する。
お昼休みになり、机に弁当を広げる。秋菜が喜ぶかと思い、卵焼きを多めに作ってきたのだが完全に裏目に出てしまった。彼女好きな砂糖が多めの卵焼き。「甘い……」と呟き、一人寂しくお弁当を完食する。お腹より胸が苦しかった。
夏生は、自分一人で平凡な学生生活を送ろうと思っていたが、一日だけでも叶ってしまうとそれはそれで落ち着かなかった。何より張り合いがない。昨夜は秋菜に言い過ぎたと思っていたが、やはり夏生の考えは変わっていなかった。
「大丈夫だから」とたかを括り、事が起こってからでは遅い。悔いても悔やみ切ることはできない。だが秋菜の言葉で納得している事がある。それは「両親が今の夏生を見たら心配をする」ということだ。
夏生にとっては両親の存在は絶対で、自分が幸せに生きている方が安心させられることは分かっている。しかしそれを全て叶えることはできない。少なくとも学校に通うことは将来に繋がっているため、そつなく過ごすことに決めたのだ。
自分が楽しくなるために欲を開放し、周りが不幸になるより、自分がおとなしく過ごし、周りの幸せな日々が続いてくれる方がずっとよかった。
「ねえ、安藤さん、秋菜から連絡きた?」帰り支度をしている時、春奈から声をかけられた。隣には真冬もいる。
「ううん、連絡はないよ」夏生は首を振る。「二人には?」秋菜と名前を呼び合う仲だ。連絡先は知っているだろう。自分ではなく彼女らに連絡が入っていてもおかしくはない。嫉妬のような感情を抱く自分に夏生は嫌気がさす。
「私たちもきてないよ」真冬が答える。明らかに心配そうだ。「こっちから連絡したけど返事はなし。既読もついていない。何かあったのかな?」
「真冬は心配性だなあ」春奈が笑い、真冬の肩を叩く。「疲れて休んだんじゃないの?ほら、昨日は塾の日なんじゃなかったっけ?」
「うん、塾の日ではあったんだけど……」夏生は愛想笑いを浮かべ、言葉に詰まる。秋菜は疲れたからといって突然休むような人ではない。今まで一緒にいたからこそわかることだ。心当たりがあるとすれば、追い詰めてしまった私が原因だ、と夏生は暗い気持ちになる。
「もしかして、秋菜ちゃんと何かあった?」真冬が申し訳なさそうに聞いてきた。
「あっ、喧嘩したとか?」があっけらかんとしている。夏生は何も言えず顔が強張ってしまう。いつも愛想笑いをして乗り切っているのに、どうしてこういう時は誤魔化せないのか、と自分の不器用さにうんざりする。
夏生の様子を見て察したのか「バカっ」と真冬が|嗜《たしな》めた。
「合ってたのか、ごめん」と春奈は手を合わせた。ポーズとは裏腹に軽い調子は変わっていない。
「本当にデリカシーがないんだから、ごめんね、安藤さん。私たちも心配なの」真冬が謝る。
「うん、わかってるよ。ありがとう。今日の帰りに寄ってみようと思っていたの。二人のことも話しておくね」
「よろしく。喧嘩なんて誰にでもあるし、しっかり話し合いなよ。お互いに溜め込んでたら相手のためにならないんだからさ」
「口にするのは簡単だけど、そう思ってもうまくいかないんだから」真冬がため息をつく。「本当にデリカシーがない」
「二回も言うな」春奈が抗議する。
「ううん」夏生は首を振る。「中村さんの言う通りだと思う。ずっとお互いに我慢してた」お互いが相手のためを思って深く踏み込まずに黙っていたが、抱え込んだ思いが爆発した。そして言わなくて良いことを言って相手を傷つけた。小出しにして話し合っておくべきだったと夏生は後悔に襲われる。「私、もう一度話合ってみるね」
「妹と弟が喧嘩しても翌日には何事もなかったかのように仲直りをしているのを見て、てそう思ったんだ。何があったかわからないけど、上手くいくことを祈ってるよ」春奈が笑う。この笑顔は元気をもらえるな、と夏生は暖かい気持ちになる。
「私も同じだよ。明日、四人でお昼食べようね」真冬が提案する。
ふと、二人が話しかけてくれるのはきっと秋菜が見えないところで取り持っているからだな、と夏生は理解した。そうでないと苗字だったり『二人は』などと一緒くたに呼び、露骨に距離をとっている夏生に近づこうとはしないだろう。
秋菜は夏生を思い、行動しているのに、頑なに意地を張る私に何を思ったのだろう。『夏生の人生だもんね』悲しそうに微笑んだ表情を思い出す。胸が締め付けられる気持ちになる。
相手のためを思って秋菜は春奈と冬美との仲を取り持ってくれたが夏生がしたことは距離を置くことだった。これでは超能力のことを打ち明けたあの日と同じだった。成長していない。どちらが相手のことを考えていたかは明白だった。「う、うん。一緒に食べようか」と返事をすると春奈と真冬は嬉しそうに顔を見合わせる。その反応で十分だった。