王都ロディアスへの凱旋は、正に英雄達を迎え入れるが如く盛大に行われた。
花道を歩くこそばゆさとは反面、グウェスを失ったことへの喪失感と悲しさ。
乗り越えなくてはならないと思いつつも、数日でキレイに切り替えられる程簡単な問題ではない。
「今は胸を張れ、ライル君。
俺達は大きな犠牲を出しつつも、皆の期待に応え帰って来た。酷だとは分かっている。
だが、送り出して帰りを待つ者達へまずすべきことは、俺達の勝利の立ち姿を見せることだ」
そうしてイラルドは隊列を止め、民衆に囲まれる中、剣を空へと掲げる。
「大きな犠牲を強いられた、強大な敵であった。
だが、我らは、かの赤龍を討ち取ったッ!!
もう怯えることは無い! 苦しむことは無い!
我々は、ロデナスは不滅なり!
ロデナスに生きる全ての者へ栄光あれッ!!」
イラルドの高らかな凱旋の言葉に、民衆からは歓喜と祝福の声が挙がる。
『凱剣』、それがイラルドの異名。
その本当の意味が、今分かった。
これまで多くの死線をくぐり抜け、勝利し帰って来た彼も、数々の犠牲を払ってきたことだろう。
それでも気丈に振る舞い、信じて待つ者達へ勝利の吉報を届ける。
それがどれだけ困難で、どれだけ強いことか。
グウェスやゼール、イラルドにレギンやハルシィ達。
多くの先達を見て、もっと学びたいと、吸収して強くなりたいと思う自分がいる。
民衆からの声を背に、王城へと帰還し、各自用意された部屋へと休息を取りに行く。
王への報告はイラルドが済ませてくれるらしく、後日改めて全員への報酬が支給されるとのことだ。
俺とルコン、ゼールは揃って一つの部屋へと集まる。
二人に、話したいことがある。
「改まってどうしたの?」
「あの、実は……大変言いにくいんですけど……」
「おにいちゃん?」
俺は今から、とんでもなく自分勝手な願いを口にすることになる。
絶対休めない大事な会議がある日に、有休を取ろうとするくらい、というよりも無謀すぎる願いだ。
いや、言うんだ、言える、言え!
「あと二年程、ロディアスで色々と学べないかな〜……なんて……あは、ハハハ……」
あぁ、人間って困ったり動揺したら乾いた笑いが出てしまうんだな。
てか、ゼールの目が見れない。
怖い、怖いのだ。
ゼールが受けている俺の護衛依頼の期限は丸二年。
残りの猶予はおよそ一年半。
つまり俺は身勝手にも、『まだやりたい事があるから依頼は放棄してね!』なんて言っているのだ。
「いいわよ、好きになさい」
なんで?
「なんで!?」
「なんでもなにも、あなたの自由にすればいいわ。
若いうちの思い付きや考えは悔いが無いよう、やりきってしまいなさい」
「いや、そう言ってもらえるのは嬉しいんですけど!
でも先生の依頼の期限とか、先生だってアトラに向かうついでだって……」
「依頼の報酬金なら気にしなくてもいいわ。
元々お金が目当てで引き受けた依頼ではないもの。
それにアトラへ向かうついでとは言ったけれど、急ぐ様なことではないの」
「本当ですか? 俺に気を使ってくれてるんじゃないですか?」
「全て本当よ。本当に、急ぐ様なことではないの……」
「? じゃあその、本当にロディアスに残ってもいいんですか?」
「えぇ、構わないわ」
「ルコンもそれでいいか? あと二年、学校に行くの待ってくれないか?」
「ルコンはおにいちゃんと先生と一緒なら大丈夫です! それに、ロディアスでお友達をいっぱい作ります!」
「二人共……ありがとう」
深々と頭を下げ、今の自分に出来る最大限の謝意を伝える。
なんて身勝手な願いを聞き入れてもらえたのだろうか。
俺はつくづく人に恵まれている、そう思わずにはいられない。
「ところで、いったい何を学びたいというの?」
「このまま王都に向かって魔術学校に通うのは俺自身が望んだ事なんですけど……
こうしてロディアスでイラルドさん達との繋がりを築いて、色んな事を経験して、思ったんです。
この繋がりを活かさないのは勿体ない、もっともっとここで力に出来ることがあるんじゃないかって。
ロディアスは王都なだけあって、日々たくさんの依頼が舞い込んで経験を積むのにもうってつけですし、レギンさんやハルシィさん、時間や都合が良ければですけどイラルドさんにも教われる事がたくさんあると思うんです。
それにほら、ルコンもいきなり学校で大勢の人に囲まれるよりは王都で慣れさせた方が良いかなって。
その、先生の都合は一切無視してるんですけど……」
「いえ、あなたの言いたいことは理解したわ。
二年という明確な期間の理由は?」
「一年目で繋がりの強化と教わりたい事の基礎固めを。
二年目でそれらの発展と応用を出来ればと」
勿論本心である。
修行期間は二、三年が相場! なんて口が裂けても言える訳がない。
「ほぇ〜……おにいちゃん、凄いです!」
関心するルコンの頭をありがとね〜と撫でてあげる。
「あなたなりに考えた結論なのね。
いいわ、ならやってみなさい。悔いが無いように」
「はい! ありがとうございます!
それでその、最初にやりたいことがあって――」
――――
「ライル君達が残る?」
「はい、まだロディアスで学びたいことがあるからと」
「そうか……強いな、あの子は」
「えぇ、まったくです」
「よし! 時間がある時にでも、騎士団総出で鍛えてやるとするか!
もうじきパルヴァス殿下もお戻りになるし、そうすれば多少は余裕も出来る。良い経験を積ませてやれるだろう」
「団長はその、随分とあの少年に入れ込んでおられるようですが……」
「なんだ、嫉妬か?」
「いえ、全く」
「可愛げが無いな、お前も。俺は、あの子に『未来』を感じている。
事実、彼を足がかりに半魔共生へと国が、世界が動き出している。王も常々仰っているが、何かを変えるには『力』が必要だ。
彼が『力』を望むなら、喜んで手を貸そう、喜んで試練を課そう! 彼を起点に動く世界に、『未来』に、俺は期待しているんだよ」
「『未来』、ですか……フフ、楽しみですな」
「よし、そうと決まれば今すぐパーザも連れて鍛錬を付けに行ってやろう!
今日は俺達も王都の巡回、アイツもその辺にいるだろう。ウルガド、お前も副団長としての威厳を取り戻す良いチャンスだぞ?」
「お言葉ですが、彼らは王都にいませんよ。
なんでも――」
――――
「ただいま」
心地よい風が優しく頬を撫で、穏やかな陽射しが降り注ぐ日。
半年以上離れた生家へと帰郷し、母の墓前で膝をつく。
家は留守の間に荒らされた様子も無く、花壇には雑草が伸び始めている。
「父さんとはそっちで話したかな。
ごめん、俺はまた……守れなかった。本当に、ほん、とに……ごめ――」
風が一層強く吹き、頬を叩く。
伝う涙を拭い去る様に。
『おかえり、ライル』
聞こえる訳が無い。
きっとこれは、俺の願望だ。妄想だ。
そうあってほしいと、言ってほしいと願う理想だ。
でも、それでも。
『頑張ったね。少し休んで、またいってらっしゃい』
「――ありがとう、母さん」
土を掘り起こし、サラを埋めたすぐ横にグウェスの遺灰を埋める。
これで、二人はまた一緒にいられる。
これが、せめてもの親孝行だ。
「これは俺が付けさせてもらうよ。二人との、繋がりだから。大事にする」
二つの指輪が括られたネックレスは首元に、大事に、離れないように。
「そうだ、コレも変えないとな……」
大事な事を忘れるところだった。
「なんだか懐かしい匂いがします……優しい、安心できる匂いです!」
「えぇ……良い家ね」
「すみません、待たせちゃって。
じゃあ、ようこそ我が家へ。数日だけですけど、ゆっくりしていって下さい」
『愛しき家族
グウェス・ガースレイ サラ・ガースレイ ここに眠る』
――――――完――――――