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三章 山岸豊 32

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少年と別れ、山岸はノートに得た情報を書き出し、整理をしていた。激突する軌道だったボールが当たらない。慌てた様子の女子高生二人、ナツキとアキナ。お揃いのクマのキーホルダー。どうやって接触するべきか、と思案する。ふと窓を外を見ると、陽が傾き始めていた。
 真っ先に浮かんだのはアキナを誘拐することだった。恐らく、アキナは超能力のことを知っている人間だ。しかしナツキが超能力者ではなかった場合のリスクは高い。確固たる証拠が欲しかった。
 何かしらの情報を得られただけでも御の字だ、と自身に言い聞かせる。山岸は仕方なくファミレスを出た。それにしても遠慮がないな、と会計金額を見て山岸はため息をつく。少年はあの後にグラタンも頼んでいた。食べる順番がおかしい少年だった。
 出口の扉を開けると、帽子を被った男がスマートフォンを操作していた。よく見ると先ほどの高校生だった。誰かの待ち合わせだろうか。山岸が通り過ぎると「あ、あの」と呼び止められた。
 山岸は振り返り男の姿を見る。長身で体格がよく、軽い威圧感を感じさせた。男は帽子をとり、はにかんだ表情を見せる。
「あれ?たしかさっき近くに座ってたよね?」
「はい、そうです。あの、僕、西田と言います」西田は臆せず、堂々と話してくる。これまでにグループをまとめてきた人なのだろう、と山岸は思う。
「西田くんか。私は山岸。どうしたんだい?」
「あの、さっき同級生の名前を呼んでいるのを聞こえたんですけど、あなたは何者なんですか?」西田が申し訳なさそうに質問する。先ほどの少年と違い、警戒心を漂わせていた。
「私は、こういう者です」山岸は頭を下げ、名刺を差し出した。西田が名刺を受け取ると、出口から客が出てくるところだった。通行の妨げになっちゃうので、と西田が提案し、駐輪場へと移動する。
「超常現象研究会かあ」名刺を見て西田は(なお)も疑っている。「あ、調べてみてもいいですか?」
「うん、いいよ」
 西田はスマートフォンを操作する。「あ、あった」画面を見せてきた。そこには簡易的ではあるが活動記録を載せたページだった。「へえ、そうなんだ」と自身を納得させるように頷いている
 山岸はその様子を見て、平然を装いながらも笑いを堪えていた。サイトは金を積んで、専門の人間に作ってもらったものだった。検索結果の上位に表示されるよう調整してもらい、いかにもな内容に仕上がっている。説得力は誰が言うか、が大事だが今の時代はホームページやSNSがその重要さを占めていた。
「あー。よく年末とかに未確認生物をまとめた番組で研究者が出てくるけど、それみたいなものか」西田が呟く。
「耳が痛い」山岸が頭を掻く。それでも、胡散臭い人間というのは拭えないのだろう。けれど少しでも警戒心が緩んだのを感じる。「俺が待っていたのは、その、ナツキとアキナの同級生だったからです」西田は漢字を教えてくれた。
「そうなのか」山岸は内心でガッツポーズをとる。思わず大声を上げてしまいそうだった。「それで?」
「中学を最後に別の高校に進学してしまったけれど、見たことがあるんです。夏生が物を浮かしたところを」まるで教師に詰められて友人の悪事を告発するかのような表情だった。頷きながら山岸はメモをとる。
「周りに言ったんだけど誰も信じてくれなくて、何なら周りや秋菜がバカにしてきたからカッとなって言い合いになってました。それからは関わらないようになって忘れてたんだけど山岸さん?の話を聞いて思い出したんです」敬語と砕けた口調が入り混じっているのが幼さを感じさせた。
「なるほど。興味深い話をありがとう」山岸はペンを走らせる。
「あの、本当に超常現象ってあるんでしょうか?俺が見たものは、見間違えじゃないんでしょうか?」西田が縋るような目を向けてくる。自分が見たものを信じてもらえず嘲笑される。彼なりに苦しんできたのだろう。
「ああ、あるよ。世の中には言葉では説明できないことが沢山起こる。未確認飛行物体だってそうだ。あれだけ目撃情報があるんだ。例え大半が嘘だとしても一握りは本当だと私は思っている。だからね、人間にもそのような力を持っていたってなんら不思議じゃないと思うんだ」山岸は力説する。本心だった。
「ですよね」西田は安心した表情を浮かべる。その様子を見て山岸は踏み込んだ質問をすることにした。
「その、秋菜ちゃんは部活や習い事をしていたりはするのかな?」一人になる時間帯があるのか知らなくてはならない。そうでなければ誘拐を決行することはできなかった。
「部活は、二人揃って中学の頃に入っていなかっし、今も同じだと思います。習い事だと、塾は通ってるはずですね」
「なるほど」山岸は頷いた。「ちなみになんだけど、直接会って近況を聞くことはできるかい?」
「いや、今更会うのはちょっと」合わす顔がないというか、と西田が言葉を濁す。
 何か理由でもあるのだろうか。「どうしてそこまで?」警戒心を再度漂わせ始めた。当然だろう。成人済みの男性が根掘り葉掘り、女子高生の個人情報を聞き出そうとしているのだ。怪しまれないわけがない。このままでは別れた後に通報されることも有り得る。
 引き下がることもできるが身近な人から得られる情報を手放すことはできなかった。好奇心と欲は抑えきれない。
「二人に今度インタビューをしてみようと思ってね。できるだけ情報を知っておきたかったんだ。もちろん報酬はたんまり払う」山岸はお金のマークを指で作る。
「そう、ですか」西田の表情があからさまに引き攣り、一歩後退(あとずさ)りをした。「あ、俺、もう帰らなきゃなんで」と近くにあったオートバイに鍵を差し込もうとする。山岸は意識を集中させた。対象は西田だった。「あれ?」西田は頭を抑えながらふらつき始める。山岸は西田に肩を回し、「大丈夫か?」と心配するそぶりを見せた。「なんか急に体調が悪くなって……身体が熱いです」
「病院に連れて行くよ」山岸は車に西田を乗せて、ファミレスを後にした。


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少年と別れ、山岸はノートに得た情報を書き出し、整理をしていた。激突する軌道だったボールが当たらない。慌てた様子の女子高生二人、ナツキとアキナ。お揃いのクマのキーホルダー。どうやって接触するべきか、と思案する。ふと窓を外を見ると、陽が傾き始めていた。
 真っ先に浮かんだのはアキナを誘拐することだった。恐らく、アキナは超能力のことを知っている人間だ。しかしナツキが超能力者ではなかった場合のリスクは高い。確固たる証拠が欲しかった。
 何かしらの情報を得られただけでも御の字だ、と自身に言い聞かせる。山岸は仕方なくファミレスを出た。それにしても遠慮がないな、と会計金額を見て山岸はため息をつく。少年はあの後にグラタンも頼んでいた。食べる順番がおかしい少年だった。
 出口の扉を開けると、帽子を被った男がスマートフォンを操作していた。よく見ると先ほどの高校生だった。誰かの待ち合わせだろうか。山岸が通り過ぎると「あ、あの」と呼び止められた。
 山岸は振り返り男の姿を見る。長身で体格がよく、軽い威圧感を感じさせた。男は帽子をとり、はにかんだ表情を見せる。
「あれ?たしかさっき近くに座ってたよね?」
「はい、そうです。あの、僕、西田と言います」西田は臆せず、堂々と話してくる。これまでにグループをまとめてきた人なのだろう、と山岸は思う。
「西田くんか。私は山岸。どうしたんだい?」
「あの、さっき同級生の名前を呼んでいるのを聞こえたんですけど、あなたは何者なんですか?」西田が申し訳なさそうに質問する。先ほどの少年と違い、警戒心を漂わせていた。
「私は、こういう者です」山岸は頭を下げ、名刺を差し出した。西田が名刺を受け取ると、出口から客が出てくるところだった。通行の妨げになっちゃうので、と西田が提案し、駐輪場へと移動する。
「超常現象研究会かあ」名刺を見て西田は|尚《なお》も疑っている。「あ、調べてみてもいいですか?」
「うん、いいよ」
 西田はスマートフォンを操作する。「あ、あった」画面を見せてきた。そこには簡易的ではあるが活動記録を載せたページだった。「へえ、そうなんだ」と自身を納得させるように頷いている
 山岸はその様子を見て、平然を装いながらも笑いを堪えていた。サイトは金を積んで、専門の人間に作ってもらったものだった。検索結果の上位に表示されるよう調整してもらい、いかにもな内容に仕上がっている。説得力は誰が言うか、が大事だが今の時代はホームページやSNSがその重要さを占めていた。
「あー。よく年末とかに未確認生物をまとめた番組で研究者が出てくるけど、それみたいなものか」西田が呟く。
「耳が痛い」山岸が頭を掻く。それでも、胡散臭い人間というのは拭えないのだろう。けれど少しでも警戒心が緩んだのを感じる。「俺が待っていたのは、その、ナツキとアキナの同級生だったからです」西田は漢字を教えてくれた。
「そうなのか」山岸は内心でガッツポーズをとる。思わず大声を上げてしまいそうだった。「それで?」
「中学を最後に別の高校に進学してしまったけれど、見たことがあるんです。夏生が物を浮かしたところを」まるで教師に詰められて友人の悪事を告発するかのような表情だった。頷きながら山岸はメモをとる。
「周りに言ったんだけど誰も信じてくれなくて、何なら周りや秋菜がバカにしてきたからカッとなって言い合いになってました。それからは関わらないようになって忘れてたんだけど山岸さん?の話を聞いて思い出したんです」敬語と砕けた口調が入り混じっているのが幼さを感じさせた。
「なるほど。興味深い話をありがとう」山岸はペンを走らせる。
「あの、本当に超常現象ってあるんでしょうか?俺が見たものは、見間違えじゃないんでしょうか?」西田が縋るような目を向けてくる。自分が見たものを信じてもらえず嘲笑される。彼なりに苦しんできたのだろう。
「ああ、あるよ。世の中には言葉では説明できないことが沢山起こる。未確認飛行物体だってそうだ。あれだけ目撃情報があるんだ。例え大半が嘘だとしても一握りは本当だと私は思っている。だからね、人間にもそのような力を持っていたってなんら不思議じゃないと思うんだ」山岸は力説する。本心だった。
「ですよね」西田は安心した表情を浮かべる。その様子を見て山岸は踏み込んだ質問をすることにした。
「その、秋菜ちゃんは部活や習い事をしていたりはするのかな?」一人になる時間帯があるのか知らなくてはならない。そうでなければ誘拐を決行することはできなかった。
「部活は、二人揃って中学の頃に入っていなかっし、今も同じだと思います。習い事だと、塾は通ってるはずですね」
「なるほど」山岸は頷いた。「ちなみになんだけど、直接会って近況を聞くことはできるかい?」
「いや、今更会うのはちょっと」合わす顔がないというか、と西田が言葉を濁す。
 何か理由でもあるのだろうか。「どうしてそこまで?」警戒心を再度漂わせ始めた。当然だろう。成人済みの男性が根掘り葉掘り、女子高生の個人情報を聞き出そうとしているのだ。怪しまれないわけがない。このままでは別れた後に通報されることも有り得る。
 引き下がることもできるが身近な人から得られる情報を手放すことはできなかった。好奇心と欲は抑えきれない。
「二人に今度インタビューをしてみようと思ってね。できるだけ情報を知っておきたかったんだ。もちろん報酬はたんまり払う」山岸はお金のマークを指で作る。
「そう、ですか」西田の表情があからさまに引き攣り、一歩|後退《あとずさ》りをした。「あ、俺、もう帰らなきゃなんで」と近くにあったオートバイに鍵を差し込もうとする。山岸は意識を集中させた。対象は西田だった。「あれ?」西田は頭を抑えながらふらつき始める。山岸は西田に肩を回し、「大丈夫か?」と心配するそぶりを見せた。「なんか急に体調が悪くなって……身体が熱いです」
「病院に連れて行くよ」山岸は車に西田を乗せて、ファミレスを後にした。