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三章 山岸豊 30

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矢吹から廃倉庫を与えられた。施設内は耐火性能に優れており、ちょっとやそっとの爆風で壊れることはない。特注で作ってもらったらしい。
 矢吹は廃倉庫の中で、人目を身にせずに超能力を試すことができた。アパート内で引火させてしまわないよう、恐る恐る試していた頃とは大違いだ。
 修行と実践を繰り返していく中で山岸は、炎自体を操ることもできるようになった。燃えている炎から火球を生成し、放つことができる。超能力を着実に手足のように使いこなし始めていた。
 次第に力を持て余すようになった山岸の欲求は次の段階へと向かう。超能力者と戦いたい、と。恐らく他にも超能力が使える人間がいるはずだ。自分だけに与えられた力ではない、と山岸は思うようになっていた。
「組織を抜けたい?バカ言ってんじゃねえ」矢吹の怒号が響く。山岸は絵画や高級そうな壺が飾られた煌びやかな部屋で、矢吹と向かい合っていた。山岸の申し出に矢吹は面倒そうに眉を顰めた。山岸が脱退を伝えた時には組織に入り、一年が経過した頃だった。
「どうしても、やりたいことがあるんです」
「なんだ?話してみろ」
「他の超能力者と戦いたいからです」口にして山岸は全身の血液が沸騰するのを感じた。少年漫画のような台詞ではないか、と。
「そうか」矢吹は茶化さずに頷いた。そして近くにいたボディガードから二丁のリボルバーを受け取った。「はいそうですか、と抜けさせるわけにはいかない。慈善事業じゃねぇんだ。こっちにだってリスクがある。どうしてもって言うんだったら落とし前、覚悟を見せな」
 気がつけば背後にいたボディーガードの男たちに拳銃を向けられていた。数は三人、部屋の入り口には二人いた。窓の外からも狙われている可能性もある。山岸の超能力を持ってしても抜けることは困難そうだった。
 矢吹はリボルバーを差し出した。山岸は震える手でそれを受け取った。噂は本当だった、と山岸は実感する。『組を抜ける者は運を試される』と組織の中では噂されていたのだ。
「ロシアンルーレットだ」矢吹は言った。「一発入れて回していくのが通例だが二発玉を込めた。引き金を引いてみせろ」
 山岸はゆっくりと頷いた。口の中がカラカラに乾いている。
「だが命を張るのはお前だけじゃつまらないだろう。だから俺も賭けるんだ」矢吹はもう一丁のリボルバーを掲げた。「シリンダーを回転させて相手に渡す。そして互いの額に銃口を向ける。これで不正はできずに同条件だ。やるか?」
 神妙な面持ちで山岸は再び頷いた。もうまともな生活は送れない人生だ。ならば悔いが残らないよう生きていくしかない。
 山岸はシリンダーを回転させた。リボルバーが回転音と装填音を鳴らす。矢吹に差し出した。互いにリボルバーを交換し、銃口を額に向ける。矢吹は汗一つかかずに、飄々とした表情を浮かべていた。反対に山岸は額の汗と手汗、動悸が止まらなかった。リボルバーが滑り、落としてしまいそうになる。
 きっと矢吹は、数々の組員に同じことを行ってきたのだろう。飄々とした表情はそれらを乗り越えてきたことの証明だった。
「これをやる度にね、生きてることを実感するんだ」矢吹は雑談をするような調子で話し始めた。山岸の全身に怖気が走る。「多くの人間は明日も明後日も自分が生きていると信じている、だから平気で無駄な時間を浪費する。そして晩年には『こんな人生じゃなかった』と嘆くんだ。私には不思議でならない。いつ死ぬかなんてわからないのに。きっとこの感情は命を賭けたものにしかわからないのだろうな」
「それが矢吹さん、あなたの遺言ですか?」山岸は、震える声で口にした。冷や汗が額から流れるのを感じる。「俺は、矢吹さんの言う、時間を浪費してきた人間でした。初めて田川を殺したあの日から、彼に縛られた自分が解放されて、本当の人生が始まりました。あなたのおかげで自分が何をするべきかを見つけることができました。感謝しています。ここで命を失っても悔いはありません」
「そうか。それはよかった」矢吹は微笑んだ。「それじゃあ始めようか」
 互いに引き金を引いた。


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矢吹から廃倉庫を与えられた。施設内は耐火性能に優れており、ちょっとやそっとの爆風で壊れることはない。特注で作ってもらったらしい。
 矢吹は廃倉庫の中で、人目を身にせずに超能力を試すことができた。アパート内で引火させてしまわないよう、恐る恐る試していた頃とは大違いだ。
 修行と実践を繰り返していく中で山岸は、炎自体を操ることもできるようになった。燃えている炎から火球を生成し、放つことができる。超能力を着実に手足のように使いこなし始めていた。
 次第に力を持て余すようになった山岸の欲求は次の段階へと向かう。超能力者と戦いたい、と。恐らく他にも超能力が使える人間がいるはずだ。自分だけに与えられた力ではない、と山岸は思うようになっていた。
「組織を抜けたい?バカ言ってんじゃねえ」矢吹の怒号が響く。山岸は絵画や高級そうな壺が飾られた煌びやかな部屋で、矢吹と向かい合っていた。山岸の申し出に矢吹は面倒そうに眉を顰めた。山岸が脱退を伝えた時には組織に入り、一年が経過した頃だった。
「どうしても、やりたいことがあるんです」
「なんだ?話してみろ」
「他の超能力者と戦いたいからです」口にして山岸は全身の血液が沸騰するのを感じた。少年漫画のような台詞ではないか、と。
「そうか」矢吹は茶化さずに頷いた。そして近くにいたボディガードから二丁のリボルバーを受け取った。「はいそうですか、と抜けさせるわけにはいかない。慈善事業じゃねぇんだ。こっちにだってリスクがある。どうしてもって言うんだったら落とし前、覚悟を見せな」
 気がつけば背後にいたボディーガードの男たちに拳銃を向けられていた。数は三人、部屋の入り口には二人いた。窓の外からも狙われている可能性もある。山岸の超能力を持ってしても抜けることは困難そうだった。
 矢吹はリボルバーを差し出した。山岸は震える手でそれを受け取った。噂は本当だった、と山岸は実感する。『組を抜ける者は運を試される』と組織の中では噂されていたのだ。
「ロシアンルーレットだ」矢吹は言った。「一発入れて回していくのが通例だが二発玉を込めた。引き金を引いてみせろ」
 山岸はゆっくりと頷いた。口の中がカラカラに乾いている。
「だが命を張るのはお前だけじゃつまらないだろう。だから俺も賭けるんだ」矢吹はもう一丁のリボルバーを掲げた。「シリンダーを回転させて相手に渡す。そして互いの額に銃口を向ける。これで不正はできずに同条件だ。やるか?」
 神妙な面持ちで山岸は再び頷いた。もうまともな生活は送れない人生だ。ならば悔いが残らないよう生きていくしかない。
 山岸はシリンダーを回転させた。リボルバーが回転音と装填音を鳴らす。矢吹に差し出した。互いにリボルバーを交換し、銃口を額に向ける。矢吹は汗一つかかずに、飄々とした表情を浮かべていた。反対に山岸は額の汗と手汗、動悸が止まらなかった。リボルバーが滑り、落としてしまいそうになる。
 きっと矢吹は、数々の組員に同じことを行ってきたのだろう。飄々とした表情はそれらを乗り越えてきたことの証明だった。
「これをやる度にね、生きてることを実感するんだ」矢吹は雑談をするような調子で話し始めた。山岸の全身に怖気が走る。「多くの人間は明日も明後日も自分が生きていると信じている、だから平気で無駄な時間を浪費する。そして晩年には『こんな人生じゃなかった』と嘆くんだ。私には不思議でならない。いつ死ぬかなんてわからないのに。きっとこの感情は命を賭けたものにしかわからないのだろうな」
「それが矢吹さん、あなたの遺言ですか?」山岸は、震える声で口にした。冷や汗が額から流れるのを感じる。「俺は、矢吹さんの言う、時間を浪費してきた人間でした。初めて田川を殺したあの日から、彼に縛られた自分が解放されて、本当の人生が始まりました。あなたのおかげで自分が何をするべきかを見つけることができました。感謝しています。ここで命を失っても悔いはありません」
「そうか。それはよかった」矢吹は微笑んだ。「それじゃあ始めようか」
 互いに引き金を引いた。