商談14 池と沼の違い
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ここは東京都沼袋、東京23区内に位置する歓楽街だ。最寄りは民間鉄道環状線沼袋駅で、この駅を境として東西の顔ぶれが違う。東口は商業施設が大半を占めているが、西口は居酒屋をはじめとした夜の街として有名だ。ここはまさに、東京の光と影を如実に映し出している街といえる。
「まあるい緑の環状線、真ん中通るは――」
なぜか分からないが、ここへ来ると大手家電量販店のあの歌を歌いたくなる。きっと、ここはそういう街なのだろう。沼袋は、大小さまざまな家電量販店がひしめき合っていることも大きな特徴だ。
......沼で思い出したが、秋子は昔こんなことを言っていたな。
「冬樹は『池と沼の違い、分かる?』かぁ......」
もう何年も前の話だから、正解など覚えていない。確か......河童がいるかどうかだったような? でも、何か違うような気もする。秋子は変なところで細かいから、ときおり面倒だと思ってしまう自分がいる。
そして、今回俺がここに来たのは仕事のためじゃない。高校時代の友人と数年ぶりに再会することになったからだ。スマートフォンの通話アプリケーションによるビデオ電話も悪くないが、やはり面と向かって会話することが何より嬉しい。
この話を聞いた当初、秋子は鬼の形相で憤怒していた。ただでさえ俺自身の売り上げが少ないのに、仕事もせずに友人のもとへ出掛けてしまうことに罪悪感がないわけじゃない。しかし、交友関係だって立派なビジネスチャンスだ。これをおろそかにしてはいけない。俺の妻ならば、そこはきちんと弁えてもらいたいところだ。
それと、前回ウツボに壊されたルアーについては、事情を正直に話してゆなに謝罪した。それを聞いたゆなは、寛容な心で許してくれた。秋子を反面教師としているのか、ゆなは人格者に育っているような気がする。俺が親バカであることは重々承知しているが、ゆなは将来大物になるような予感がしている。
おっと、待ち合わせ場所を確認していなかった。俺は今一度、スマートフォンに届いた友人からのメッセージを確認する。
「待ち合わせは『ええやん咖喱』か。懐かしい場所だな」
その店は、俺が大学時代に友人と足しげく通った場所だ。当時体育会系だった俺達は食べ盛りで、いくら飯を食っても腹が満たされなかった。ええやん咖喱は、そんな俺達の食欲を満たしてくれる特別な場所だった。
懐かしの場所で旧友との再会。いい歳をしたオヤジだが、俺は高鳴る胸の鼓動を抑えきれない。
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「まあるい緑の環状線、真ん中通るは――」
なぜか分からないが、ここへ来ると大手家電量販店のあの歌を歌いたくなる。きっと、ここはそういう街なのだろう。沼袋は、大小さまざまな家電量販店がひしめき合っていることも大きな特徴だ。
......沼で思い出したが、秋子は昔こんなことを言っていたな。
「冬樹は『池と沼の違い、分かる?』かぁ......」
もう何年も前の話だから、正解など覚えていない。確か......|河童がいるかどうか《・・・・・・・・・》だったような? でも、何か違うような気もする。秋子は変なところで細かいから、ときおり面倒だと思ってしまう自分がいる。
そして、今回俺がここに来たのは仕事のためじゃない。高校時代の友人と数年ぶりに再会することになったからだ。スマートフォンの通話アプリケーションによるビデオ電話も悪くないが、やはり面と向かって会話することが何より嬉しい。
この話を聞いた当初、秋子は鬼の形相で憤怒していた。ただでさえ俺自身の売り上げが少ないのに、仕事もせずに友人のもとへ出掛けてしまうことに罪悪感がないわけじゃない。しかし、交友関係だって立派なビジネスチャンスだ。これをおろそかにしてはいけない。俺の妻ならば、そこはきちんと|弁《わきま》えてもらいたいところだ。
それと、前回ウツボに壊されたルアーについては、事情を正直に話してゆなに謝罪した。それを聞いたゆなは、寛容な心で許してくれた。秋子を反面教師としているのか、ゆなは人格者に育っているような気がする。俺が親バカであることは重々承知しているが、ゆなは将来大物になるような予感がしている。
おっと、待ち合わせ場所を確認していなかった。俺は今一度、スマートフォンに届いた友人からのメッセージを確認する。
「待ち合わせは『ええやん|咖喱《カリー》』か。懐かしい場所だな」
その店は、俺が大学時代に友人と足しげく通った場所だ。当時体育会系だった俺達は食べ盛りで、いくら飯を食っても腹が満たされなかった。ええやん咖喱は、そんな俺達の食欲を満たしてくれる特別な場所だった。
懐かしの場所で旧友との再会。いい歳をしたオヤジだが、俺は高鳴る胸の鼓動を抑えきれない。