三章 山岸豊 28
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『公園で謎の焼死体が発見される』翌日のニュースでは、そのように報道されていた。指紋を検出できる状態ではなかったらしい。付近の防犯カメラなど元に捜査をするとのことだった。
あの後、山岸は歩いて自宅へ帰った。大怪我をした状態では電車に乗れなかったからだ。鼻血を出し、顔面が腫れている男など、確実に怪しまれてしまう。
あのまま、田川に攻撃され続ければ確実に殺されていた。だから正当防衛だ。山岸は自分に言い聞かせていた。自分は悪くない、と。認めてしまえば殺人犯だ。昨夜は布団の中で怯え、一睡もできなかった。
防犯カメラに田川に連れられて歩く山岸の姿が映っている可能性もある。今すぐにでも警察がこのアパートにやってきてもおかしくはない。躊躇している時間はなかった。
財布、服、時計など、必要最低限の物をリュックに詰め込みアパートを出た。スマホは実家の両親から連絡が入り、位置情報が特定される可能性がある。山岸は思い切って川へと投げ捨てた。
行き先は、考えていない。とにかく離れることが先決だ。電車に乗り、北へと向かうことにした。道中のお金は貯金を切り崩したが毎日ホテルに泊まっていればあっという間に底をついてしまう。
追い詰められた山岸は駅で泥酔しているサラリーマンの財布から金を抜き取ったり、超能力で路地裏の人間を恐喝するなどして日々を乗り切っていた。身分証を写真で撮り、警察に漏らしたら家や、家族を人質に口止めをした。当然、そのような生活をしていれば裏社会の人間から目をつけられる。
その日、山岸は駅前のベンチでカモになりそうな人間を探していた。隣に中年くらいの男が腰掛ける。ちら、と男の身なりに目を向けた。黒のスーツでサングラスをかけており、裕福な顔には髭を蓄えていた。つけている腕時計の金額は百万円は超える代物だ。狙うべきかどうか思案する。
山岸はこれまで、気弱な性格だった。しかし、超能力の覚醒と田川への復讐がきっかけで目的のためには手段を選ばない人間へと変貌していた。
道ゆく人から金を巻き上げる際も、手当たり次第に声をかけているわけではない。身なり、服装、性格、持ち物などから判断し因縁をふっかける。皮肉にも脅し文句や有無を言わさない雰囲気、詰め方などは田川を参考にしたものだ。脳裏に焼きついているからこそ、自身に取り入れるのは容易だった。
山岸の目は据わり、獲物を探すハイエナのようだった。逃亡生活のためにはなりふり構っていられないのだ。
「あんたが不思議な力を使う男か?」男が山岸に声をかけてきた。あくまでその目は人ごみに向けられており、何気ない世間話のようだった。山岸は身構える。すぐにでも人目のつかない場所へと連れてくべきか。
「そう警戒なさんな、山岸さん。別にあんたを煮て焼いて食おうとしているわけじゃない」男は両手を上げて無抵抗の意志を示す。
「あんたは何者だ?誰から聞いた?」名前だけならまだしも超能力のことまで知っている。明らかに一般社会で生きる人間ではなかった。
「特定の誰かから聞いたわけじゃない。この生業を続けていれば自然と耳に入ってくるもんだ」男は両手を下ろし、平然と口にする。超能力のことを知っていても動じていない。「山岸さん、追われているんだろう?どうだ。うちに来ないか?」
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『公園で謎の焼死体が発見される』翌日のニュースでは、そのように報道されていた。指紋を検出できる状態ではなかったらしい。付近の防犯カメラなど元に捜査をするとのことだった。
あの後、山岸は歩いて自宅へ帰った。大怪我をした状態では電車に乗れなかったからだ。鼻血を出し、顔面が腫れている男など、確実に怪しまれてしまう。
あのまま、田川に攻撃され続ければ確実に殺されていた。だから正当防衛だ。山岸は自分に言い聞かせていた。自分は悪くない、と。認めてしまえば殺人犯だ。昨夜は布団の中で怯え、一睡もできなかった。
防犯カメラに田川に連れられて歩く山岸の姿が映っている可能性もある。今すぐにでも警察がこのアパートにやってきてもおかしくはない。|躊躇《ちゅうちょ》している時間はなかった。
財布、服、時計など、必要最低限の物をリュックに詰め込みアパートを出た。スマホは実家の両親から連絡が入り、位置情報が特定される可能性がある。山岸は思い切って川へと投げ捨てた。
行き先は、考えていない。とにかく離れることが先決だ。電車に乗り、北へと向かうことにした。道中のお金は貯金を切り崩したが毎日ホテルに泊まっていればあっという間に底をついてしまう。
追い詰められた山岸は駅で泥酔しているサラリーマンの財布から金を抜き取ったり、超能力で路地裏の人間を恐喝するなどして日々を乗り切っていた。身分証を写真で撮り、警察に漏らしたら家や、家族を人質に口止めをした。当然、そのような生活をしていれば裏社会の人間から目をつけられる。
その日、山岸は駅前のベンチでカモになりそうな人間を探していた。隣に中年くらいの男が腰掛ける。ちら、と男の身なりに目を向けた。黒のスーツでサングラスをかけており、裕福な顔には髭を蓄えていた。つけている腕時計の金額は百万円は超える代物だ。狙うべきかどうか思案する。
山岸はこれまで、気弱な性格だった。しかし、超能力の覚醒と田川への復讐がきっかけで目的のためには手段を選ばない人間へと変貌していた。
道ゆく人から金を巻き上げる際も、手当たり次第に声をかけているわけではない。身なり、服装、性格、持ち物などから判断し因縁をふっかける。皮肉にも脅し文句や有無を言わさない雰囲気、詰め方などは田川を参考にしたものだ。脳裏に焼きついているからこそ、自身に取り入れるのは容易だった。
山岸の目は据わり、獲物を探すハイエナのようだった。逃亡生活のためにはなりふり構っていられないのだ。
「あんたが不思議な力を使う男か?」男が山岸に声をかけてきた。あくまでその目は人ごみに向けられており、何気ない世間話のようだった。山岸は身構える。すぐにでも人目のつかない場所へと連れてくべきか。
「そう警戒なさんな、山岸さん。別にあんたを煮て焼いて食おうとしているわけじゃない」男は両手を上げて無抵抗の意志を示す。
「あんたは何者だ?誰から聞いた?」名前だけならまだしも超能力のことまで知っている。明らかに一般社会で生きる人間ではなかった。
「特定の誰かから聞いたわけじゃない。この|生業《なりわい》を続けていれば自然と耳に入ってくるもんだ」男は両手を下ろし、平然と口にする。超能力のことを知っていても動じていない。「山岸さん、追われているんだろう?どうだ。うちに来ないか?」