三章 山岸豊 26
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それから三年間、田川達と共に三年間の学生生活を過ごした。当然、友達などもできるはずがないまま高校を卒業し、大学へと進学した。大学でいじめられることはなかったが、三年間の人間不信は尾を引きずり卒業まで馴染むことはできなかった。
吐瀉物をトイレに流し、山岸は便器に座る。しばらくは動けそうにない。次の電車が来るまでは三十分以上ある。そもそも山岸の最寄駅はここから四駅も先だ。場の空気に耐えられず嘘をつき、降りてしまった。
声をかけられた時の田川の幸せそうな表情を思い出す。美人な妻と可愛い盛りの男の子、そして遊園地帰り、どこからどう見ても幸せな家族の象徴だった。しかし山岸は口が裂けても祝福の言葉を告げることはできなかった。
山岸は人間不信を引きずり、社会に出てからも苦労をした。目を合わせて話すことができなくなっていたのだ。
日々の残業、休日出勤、貯まらないお金、将来への不安、考えれば考えるほど、山岸の人生は安定とは程遠かった。
反対に田川は一流企業に勤め、結婚をし、幸せな日々を謳歌している。山岸をいじめていた過去などなかったかのように涼しい顔をして社会に溶け込んでいる。不公平だ。納得がいかなかった。記憶の底に沈めて思い出さないようにしていたが、今日、あの姿を見て理解した。憎悪は減るどころか何日も放置した生ゴミのように異臭を漂わせ、爆発した。臭いものに蓋をしても問題は消えなかった。許せるはずがなかった。
山岸の呼吸は荒くなり、個室の壁に寄りかかる。持っていたカバンを落とし、床に資料が散らばった。しゃがみ込み、修正点を赤ペンで添削された用紙を手に取る。村岡の表情が思い出され、惨めさに比例して、憎悪が込み上げてきた。頭痛と貧血、心拍数の上昇を山岸は感じる。
日々の疲れだろうか、明らかに身体が不調を起こしていた。体内が、燃えるように熱い、汗が、滝のように止まらなくなる。あの頃と同じようにトイレの床に尻餅をつき、壁に背中をつける形になる。光景がフラッシュバックする。身体が、覚えていた。このままでは死んでしまうのではないか、山岸は半ば本気で思った。
目の前に映っているのは高笑いを上げて拳を振るう田川の姿。遠のく意識を必死に保たせていたのは皮肉にも彼への憎悪だった。死んでたまるか。ここで死ぬわけにはいかない。山岸は必死に自分へと言い聞かせた。死ね、殺す、復讐する、その事が頭に巡り、止まらなかった。
熱さ、痛みに耐えかね叫び出そうとしたその時、両手が燃えた。用紙がめらめらと燃え、灰になっていく。それが、山岸に超能力が発現した瞬間だった。
山岸は電車に乗らず、徒歩でアパートへ帰宅した。当たりを見渡して歩く姿は、通行人からすれば挙動不審に映ったのだろう。
山岸は自室の扉の前で立ち止まる。恐る恐る、ドアノブに手をかけた。ひんやりと冷たさを感じるが特に何かが起こるわけでもない。玄関に入り、内側から鍵をかける。山岸は息を吐き、頭を整理する。
突然、両手が燃えた。その途端、直前までにあった身体が焼けるような熱さや痛みはなくなった。灰になった用紙を見ていると次第に炎が消えていった。嘘みたいな話だがこれが現実だ。
山岸はリビングへ向かい、プリンターの紙を一枚取り出した。山岸は風呂場で紙と向かい合う。心臓を起点に全身に血液が巡る経路を想像する。その血液は熱を持っており、全身を巡っていく。血液の終着点を両手にし、熱くなっていく。そして、両手が燃えた。身体に、熱がこもっているのを感じるが皮膚が火傷することはない。衣服や身につけているものが燃えることもなかった。しかし手に持っている紙は燃えている。
山岸は戸惑っていたが、同時に高揚感を感じていた。暗闇から抜け出せる、一筋の光を見た気分だった。この力があれば田川に復讐ができる、と。
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吐瀉物をトイレに流し、山岸は便器に座る。しばらくは動けそうにない。次の電車が来るまでは三十分以上ある。そもそも山岸の最寄駅はここから四駅も先だ。場の空気に耐えられず嘘をつき、降りてしまった。
声をかけられた時の田川の幸せそうな表情を思い出す。美人な妻と可愛い盛りの男の子、そして遊園地帰り、どこからどう見ても幸せな家族の象徴だった。しかし山岸は口が裂けても祝福の言葉を告げることはできなかった。
山岸は人間不信を引きずり、社会に出てからも苦労をした。目を合わせて話すことができなくなっていたのだ。
日々の残業、休日出勤、貯まらないお金、将来への不安、考えれば考えるほど、山岸の人生は安定とは程遠かった。
反対に田川は一流企業に勤め、結婚をし、幸せな日々を謳歌している。山岸をいじめていた過去などなかったかのように涼しい顔をして社会に溶け込んでいる。不公平だ。納得がいかなかった。記憶の底に沈めて思い出さないようにしていたが、今日、あの姿を見て理解した。憎悪は減るどころか何日も放置した生ゴミのように異臭を漂わせ、爆発した。臭いものに蓋をしても問題は消えなかった。許せるはずがなかった。
山岸の呼吸は荒くなり、個室の壁に寄りかかる。持っていたカバンを落とし、床に資料が散らばった。しゃがみ込み、修正点を赤ペンで添削された用紙を手に取る。村岡の表情が思い出され、惨めさに比例して、憎悪が込み上げてきた。頭痛と貧血、心拍数の上昇を山岸は感じる。
日々の疲れだろうか、明らかに身体が不調を起こしていた。体内が、燃えるように熱い、汗が、滝のように止まらなくなる。あの頃と同じようにトイレの床に尻餅をつき、壁に背中をつける形になる。光景がフラッシュバックする。身体が、覚えていた。このままでは死んでしまうのではないか、山岸は半ば本気で思った。
目の前に映っているのは高笑いを上げて拳を振るう田川の姿。遠のく意識を必死に保たせていたのは皮肉にも彼への憎悪だった。死んでたまるか。ここで死ぬわけにはいかない。山岸は必死に自分へと言い聞かせた。死ね、殺す、復讐する、その事が頭に巡り、止まらなかった。
熱さ、痛みに耐えかね叫び出そうとしたその時、両手が燃えた。用紙がめらめらと燃え、灰になっていく。それが、山岸に超能力が発現した瞬間だった。
山岸は電車に乗らず、徒歩でアパートへ帰宅した。当たりを見渡して歩く姿は、通行人からすれば挙動不審に映ったのだろう。
山岸は自室の扉の前で立ち止まる。恐る恐る、ドアノブに手をかけた。ひんやりと冷たさを感じるが特に何かが起こるわけでもない。玄関に入り、内側から鍵をかける。山岸は息を吐き、頭を整理する。
突然、両手が燃えた。その途端、直前までにあった身体が焼けるような熱さや痛みはなくなった。灰になった用紙を見ていると次第に炎が消えていった。嘘みたいな話だがこれが現実だ。
山岸はリビングへ向かい、プリンターの紙を一枚取り出した。山岸は風呂場で紙と向かい合う。心臓を起点に全身に血液が巡る経路を想像する。その血液は熱を持っており、全身を巡っていく。血液の終着点を両手にし、熱くなっていく。そして、両手が燃えた。身体に、熱がこもっているのを感じるが皮膚が火傷することはない。衣服や身につけているものが燃えることもなかった。しかし手に持っている紙は燃えている。
山岸は戸惑っていたが、同時に高揚感を感じていた。暗闇から抜け出せる、一筋の光を見た気分だった。この力があれば田川に復讐ができる、と。