二章 松原秋菜 23
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街灯が、数メートルおきに設置されている。秋菜は薄暗さに恐怖を感じながら歩いていた。塾の帰り道は何度歩いても慣れなく、不気味なものだ。
鼻歌を歌い、少しでも気を紛らわせようとする。返事も聞かずに山を降りた秋菜。夏生は、力のない笑みを浮かべていたと思う。罪悪感で胸がいっぱいになり、一方的に伝えた状態で突き放してしまった。けれど私が深くまで入り込むことはできないのだ、と秋菜は自身に言い聞かせる。
夜道が、車のライトによって明るく、鮮明に照らされる。振り向くと白を基調としたハイエースだった。
秋菜は端に身体を寄せる。辺りは街灯に加え、住宅も少なく、多いのは田んぼだけだ。夜の九時を回りそうなため、外へ出る者はそういない。自然と足取りが早くなる。
ふと前方に目を向けると、サングラスをかけ、スーツを着ている男がこちらに向かって歩いてくることに気づく。
離れた距離でも身長が高いことがわかる。この時間にスーツ?出張帰りの父親だろうか、と秋菜は考えていると、いつの間にか距離が近づき、ぶつかりそうになる。
足早に歩いていたせいだ。秋菜は慌てて除け、すれ違う。背筋が弾かれたように伸び、背中から足先、頭のてっぺんまでに痺れが走る。意識が遠のく。平衡感覚を失い、手足に力が入らなくなる。「え」と秋菜が呟いた時にはスーツ男に背を預ける形になっていた。
手元には黒い電動シェーバーのような物が握られている。車のブレーキ音が響く。バックドアが開けられ、秋菜は乱暴に車内へと押し込まれた。揺れ動く視界。窓ガラスはスモークになっており、秋菜は自身の置かれている状況を理解した。全身が恐怖で支配される。
ドアが閉められ、車が発進する。アイマスクをつけられ、口にはガムテープを貼られた。手足がロープで固く結ばれた。
誰に誘拐され、どこに向かっているのか、これから何が起こるのか、秋菜には何もわからない。恐怖で身を捩らせるが手足は動かず、叫ぼうとしたが張り付いたガムテープにより、くぐもった声しか出せなかった。
再び、全身に電流が走る。意識が遠のく中、唯一、分かるのはラジオの時報が九時を知らせていたことだった。
バックドアが開く音が聞こえ、秋菜は意識を取り戻す。「よっ」と男の声が聞こえ、車内が揺れる。アイマスクが外された。
辺りは暗く、草木がゆらめく音が聞こえる。山の中だろうか。男の顔はぼんやりとしか見えない。
「よお」男は右手の人差し指を立てた。「俺は山岸豊。安藤夏生について教えてくれよ」男の人差し指には蝋燭のような炎が灯り、表情の陰影を明らかにする。山岸と名乗る男は不敵な笑みを浮かべ、秋菜は鳥肌が立つのを感じた。
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夜道が、車のライトによって明るく、鮮明に照らされる。振り向くと白を基調としたハイエースだった。
秋菜は端に身体を寄せる。辺りは街灯に加え、住宅も少なく、多いのは田んぼだけだ。夜の九時を回りそうなため、外へ出る者はそういない。自然と足取りが早くなる。
ふと前方に目を向けると、サングラスをかけ、スーツを着ている男がこちらに向かって歩いてくることに気づく。
離れた距離でも身長が高いことがわかる。この時間にスーツ?出張帰りの父親だろうか、と秋菜は考えていると、いつの間にか距離が近づき、ぶつかりそうになる。
足早に歩いていたせいだ。秋菜は慌てて除け、すれ違う。背筋が弾かれたように伸び、背中から足先、頭のてっぺんまでに痺れが走る。意識が遠のく。平衡感覚を失い、手足に力が入らなくなる。「え」と秋菜が呟いた時にはスーツ男に背を預ける形になっていた。
手元には黒い電動シェーバーのような物が握られている。車のブレーキ音が響く。バックドアが開けられ、秋菜は乱暴に車内へと押し込まれた。揺れ動く視界。窓ガラスはスモークになっており、秋菜は自身の置かれている状況を理解した。全身が恐怖で支配される。
ドアが閉められ、車が発進する。アイマスクをつけられ、口にはガムテープを貼られた。手足がロープで固く結ばれた。
誰に誘拐され、どこに向かっているのか、これから何が起こるのか、秋菜には何もわからない。恐怖で身を捩らせるが手足は動かず、叫ぼうとしたが張り付いたガムテープにより、くぐもった声しか出せなかった。
再び、全身に電流が走る。意識が遠のく中、唯一、分かるのはラジオの時報が九時を知らせていたことだった。
バックドアが開く音が聞こえ、秋菜は意識を取り戻す。「よっ」と男の声が聞こえ、車内が揺れる。アイマスクが外された。
辺りは暗く、草木がゆらめく音が聞こえる。山の中だろうか。男の顔はぼんやりとしか見えない。
「よお」男は右手の人差し指を立てた。「俺は山岸豊。安藤夏生について教えてくれよ」男の人差し指には蝋燭のような炎が灯り、表情の陰影を明らかにする。山岸と名乗る男は不敵な笑みを浮かべ、秋菜は鳥肌が立つのを感じた。