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二章 松原秋菜 22

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河川敷での件から数週間後、秋菜は夏生の家の裏山で修行の手伝いをしていた。『修行』と呼び始めたのは秋菜だった。夏生は「ダサい」と一蹴したが、秋菜が「漫画みたいでかっこいいじゃん」と持ち前の強引さで押し切ったのだ。
 夏生は山の外周を走っている。秋菜はそれを見ながらノートに今日の出来事を書き込んでいた。
 超能力の特性や弱点、使い方などがまとめられている。夏生の超能力を見ていく中で分かったことは底上げには体力が不可欠ということだ。
 体力がなければすぐに息切れをし、集中力が途切れてしまう。だから夏生は基礎トレーニングのランニングを欠かさず行っているのだ。ちなみに、秋菜は足の速さで夏生に勝ったことはない。
 夏生との関係が上手くいかない。最近はそのことで秋菜の頭がいっぱいだった。やはり、夏生の人生だ、と一線を引き、距離を置くべきなのだろうか。「どう?考えてくれた?」秋菜はタイミングを見計らって質問した。
 夏生は冷静に答えた。超能力者からの危害について考えたら難しい、なので人と関わらない、と話す。秋菜にとっては予想通りの回答だった。
 特段、驚いたり、残念な気持ちになることはなかった。「そっか」と力ない返事をすることしかできない。虚しさだけが胸の内に残る。秋菜は最後に、気持ちだけは伝えようと決めた。
「だとしても、学生生活を送らない理由にはならないと思う。夏生が、両親を失って、もうこれ以上は誰も失いたくないと考えるのは分かるよ」
 秋菜は一呼吸置く。夏生は一人で抱え込み、一人で問題と向き合ってきた。だからこそ、どうしようもない時は人を頼ってほしいのだ。だから秋菜は伝える決心をした。それで無理なら諦めるつもりだった。
「その上で私の考えを聞いてほしい。もし、傷つけて酷いことを言ってしまったらごめんなさい」秋菜は前置きをする。夏生は頷き、秋菜に話を促す仕草をする。
「私は凡人だからさ、超能力が使える夏生の考えや心配が全てわかるわけじゃない。でもさ、それって交通事故や通り魔が怖いから誰とも関わらない、と言っているのと同じだと思う。生きていく上で仕方の……防ぎようのないことじゃないのかな?きっと、ご両親が今の夏生を見たら心配すると思うよ」
 木々が、風に吹かれてゆらゆらと揺れる。暗雲が立ち込めていた。葉が、かさかさと飛んでいく。まるで、打ち明けた秋菜に対し称賛しているかのようだった。
 夏生は、唇を噛み締め、俯いた。秋菜はその様子を見守る。話してくれるまで待つつもりだった。
 夏生は意を決したように吸い込んだ息を吐き出した。「心配してくれて、ありがとう。気持ちは伝わっているけど、そうすることはできない。秋菜はさっき、防ぎようがないこと、と言ったけれど、事故の時、私が無意識に発動した超能力をお父さんとお母さんにも使えていたら、救うことは、きっと、できたよ。ずっと、そう思っているの。だからこそ秋菜を、周りを、これ以上は巻き込めない」
 秋菜は思い違いをしていた、と納得する。夏生はずっと、責めてきたのだろう。自分だけが生き残ってしまったことを。超能力が暴走したあの日、コンパスは制御され、明らかに彼女自身の意思で飛んでいた。
 両親の件と超能力、受け入れられずそのような行為に及んだと思っていたが、それ以上に罪の意識があったことを秋菜は初めて知った。
 自分だったら、と秋菜は考える。自分だったらきっと耐えきれず夏生と同じで死を選ぶか、私利私欲のために超能力を悪用するだろう。夏生は前者を選び、超能力を悪用せず、ひたすら周りのために備えてきた。
 中学の頃に話していた『綺麗事を貫く覚悟』について秋菜は思い出す。その覚悟、意思の強さは誰かに言われて身につくものではなく、簡単に曲げられるものでもない。夏生の考えを聞いて、秋菜も腹を決める。
「そうか。変わらないか」秋菜は立ち上がり、身体を伸ばす。「ごめんね。最近、不機嫌な雰囲気を出しちゃってて、気まずかったでしょ」
 秋菜は陽子の『友達を作る、作らないは本人の意思次第』という言葉を思い出していた。「私も、夏生と同じように、気持ちは変わってないよ。ただ、この話はもうしない。お互い平行線だし、そもそも、夏生の人生だもんね。私が口出しすることじゃないよね」
 雨が、降り始めてきた。秋菜は夏生の返事も聞かずに「雨降ってきたね。私は塾があるし、また学校で」と言い、急いで走り出す。雨も塾も、その場から離れるための口実で、自分の弱さに秋菜は嫌気がさしていた。明日、春奈と冬美には改めて伝えよう、そう考えながら、秋菜は振り返らずに山を降りていく。


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河川敷での件から数週間後、秋菜は夏生の家の裏山で修行の手伝いをしていた。『修行』と呼び始めたのは秋菜だった。夏生は「ダサい」と一蹴したが、秋菜が「漫画みたいでかっこいいじゃん」と持ち前の強引さで押し切ったのだ。
 夏生は山の外周を走っている。秋菜はそれを見ながらノートに今日の出来事を書き込んでいた。
 超能力の特性や弱点、使い方などがまとめられている。夏生の超能力を見ていく中で分かったことは底上げには体力が不可欠ということだ。
 体力がなければすぐに息切れをし、集中力が途切れてしまう。だから夏生は基礎トレーニングのランニングを欠かさず行っているのだ。ちなみに、秋菜は足の速さで夏生に勝ったことはない。
 夏生との関係が上手くいかない。最近はそのことで秋菜の頭がいっぱいだった。やはり、夏生の人生だ、と一線を引き、距離を置くべきなのだろうか。「どう?考えてくれた?」秋菜はタイミングを見計らって質問した。
 夏生は冷静に答えた。超能力者からの危害について考えたら難しい、なので人と関わらない、と話す。秋菜にとっては予想通りの回答だった。
 特段、驚いたり、残念な気持ちになることはなかった。「そっか」と力ない返事をすることしかできない。虚しさだけが胸の内に残る。秋菜は最後に、気持ちだけは伝えようと決めた。
「だとしても、学生生活を送らない理由にはならないと思う。夏生が、両親を失って、もうこれ以上は誰も失いたくないと考えるのは分かるよ」
 秋菜は一呼吸置く。夏生は一人で抱え込み、一人で問題と向き合ってきた。だからこそ、どうしようもない時は人を頼ってほしいのだ。だから秋菜は伝える決心をした。それで無理なら諦めるつもりだった。
「その上で私の考えを聞いてほしい。もし、傷つけて酷いことを言ってしまったらごめんなさい」秋菜は前置きをする。夏生は頷き、秋菜に話を促す仕草をする。
「私は凡人だからさ、超能力が使える夏生の考えや心配が全てわかるわけじゃない。でもさ、それって交通事故や通り魔が怖いから誰とも関わらない、と言っているのと同じだと思う。生きていく上で仕方の……防ぎようのないことじゃないのかな?きっと、ご両親が今の夏生を見たら心配すると思うよ」
 木々が、風に吹かれてゆらゆらと揺れる。暗雲が立ち込めていた。葉が、かさかさと飛んでいく。まるで、打ち明けた秋菜に対し称賛しているかのようだった。
 夏生は、唇を噛み締め、俯いた。秋菜はその様子を見守る。話してくれるまで待つつもりだった。
 夏生は意を決したように吸い込んだ息を吐き出した。「心配してくれて、ありがとう。気持ちは伝わっているけど、そうすることはできない。秋菜はさっき、防ぎようがないこと、と言ったけれど、事故の時、私が無意識に発動した超能力をお父さんとお母さんにも使えていたら、救うことは、きっと、できたよ。ずっと、そう思っているの。だからこそ秋菜を、周りを、これ以上は巻き込めない」
 秋菜は思い違いをしていた、と納得する。夏生はずっと、責めてきたのだろう。自分だけが生き残ってしまったことを。超能力が暴走したあの日、コンパスは制御され、明らかに彼女自身の意思で飛んでいた。
 両親の件と超能力、受け入れられずそのような行為に及んだと思っていたが、それ以上に罪の意識があったことを秋菜は初めて知った。
 自分だったら、と秋菜は考える。自分だったらきっと耐えきれず夏生と同じで死を選ぶか、私利私欲のために超能力を悪用するだろう。夏生は前者を選び、超能力を悪用せず、ひたすら周りのために備えてきた。
 中学の頃に話していた『綺麗事を貫く覚悟』について秋菜は思い出す。その覚悟、意思の強さは誰かに言われて身につくものではなく、簡単に曲げられるものでもない。夏生の考えを聞いて、秋菜も腹を決める。
「そうか。変わらないか」秋菜は立ち上がり、身体を伸ばす。「ごめんね。最近、不機嫌な雰囲気を出しちゃってて、気まずかったでしょ」
 秋菜は陽子の『友達を作る、作らないは本人の意思次第』という言葉を思い出していた。「私も、夏生と同じように、気持ちは変わってないよ。ただ、この話はもうしない。お互い平行線だし、そもそも、夏生の人生だもんね。私が口出しすることじゃないよね」
 雨が、降り始めてきた。秋菜は夏生の返事も聞かずに「雨降ってきたね。私は塾があるし、また学校で」と言い、急いで走り出す。雨も塾も、その場から離れるための口実で、自分の弱さに秋菜は嫌気がさしていた。明日、春奈と冬美には改めて伝えよう、そう考えながら、秋菜は振り返らずに山を降りていく。