二章 松原秋菜 21
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「超能力が怖い」公園でブランコに乗りながら夏生は呟いた。中学二年生の頃だった。小学校で西田が撒いた噂と、両親を亡くした件が重なり、夏生に近づく人はほとんどいなかった。一緒にいる秋菜も同様である。
「どうしたの、突然?」尋ねながらも秋菜は、最近の夏生の様子がおかしいことに気づいていた。話しかけてもどこか上の空で「なんの話だっけ?」と聞いてくる時が何度かあったのだ。何より表情が思い詰めていた。
夏生は顔を手で覆い「ごめん、何があったかは言えない」と呟いた。「ただただ、自分が恐ろしい。超能力と付き合っていくこれからの人生に対して、不安が止まらなかったの」
「最近の様子がおかしかったのは、そのせいだったのね」秋菜は深い詮索をしなかった。そっとしてほしいことは誰しもあるはずだ。詳しいことは夏生が話せる時を待てばいい、と秋菜は思っていた。
「え、そうだった?」
「そうだよ。何を話しても上の空でぼーっとしてたよ」
「嘘、覚えていない」
「相当、思い詰めていたんだね」
夏生は静かに頷いた。「秋菜はさ、超能力が羨ましいとよく言うけどさ、この力はそんなに生易しいものじゃないよ」
「なんの話?」唐突に引き合いに出され、秋菜はムッとする。
夏生はポケットからスマートフォンを取り出す。「例えばスマホで調べ物や動画を見るのが当たり前に、なったでしょ?取り上げられてこれからはパソコンをを使ってください、と言われたらどうする?ストレスが溜まると思わない?」
秋菜は腕を組み、考える。夏生と秋菜は二人とも、中学に上がると同時にスマホを持つようになった。それまでは調べ物といえば図書館へ足を運んだり、家のパソコンを使うことが当たり前でそこに不満を感じることはなかった。
しかしスマホを持ち始めてからは気になったことはすぐに調べられるようになり、動画なども閲覧するようになった。スマホが使えない生活にはもう戻れないだろう。「うん、そうなったら、途轍もないストレスだと思う」
「それと同じ。超能力があればできることを常に制限されているの。でも使えば小学校の頃の西田との件がまた起こる。奇異な目で見られるし、周りを巻き込んでしまう」
「自分の中で当たり前になっていることを制限されるのは、ストレスよね」秋菜は同意することしかできない。超能力者の抱える問題に対して、助言できることはなかった。
「西田との件以来考えてた。どうすればいいんだろうって。それでも浮かぶことは制御して抑えることだけだった。でも制限をされるのは正直、辛い。加えて、いつ暴発させてしまうか分からない緊張感と恐怖と常に隣り合わせなんだもの」夏生は俯き、「危なかった……」と呟いた。
「危なかったって……何か、あったの?」胸騒ぎと、夏生が遠くに行ってしまうような感覚を覚えた。
「ううん」夏生は首を振る。「大丈夫」と笑うがその表情は弱々しい。表情には疲れが見えている。しかし秋菜を見つめるその目はまっすぐだった。相当、思い悩んだのだろう。
「そう言うけれど、夏生の大丈夫は大丈夫じゃないから心配だよ」秋菜はそう答える。実際、夏生は抱え込みやすく、心配事が絶えないのだ。
「信用が、ないなあ」夏生が短く笑う。
「まあ、でもさ、『人は何かの目的を持って生まれてきた』って言うじゃん。夏生のその力もさ、役に立つ時がきっとくるよ」
「そんなのは綺麗事だよ」夏生の語気が荒くなるのを感じた。「言うだけなら簡単だけど、達成しないと、どんどん信用を失っていくし自己嫌悪が酷くなっていくよ」夏生はブランコを漕ぎ始めた。
「そ、そうね」秋菜は頭を掻く。「どうしたの夏生?」
「それとさ、秋菜」勢いが、増していく。
「何?」
「その言葉だけどさ、漫画の読みすぎじゃない?恥ずかしくないの?」
「せっかく励ましたのに」と秋菜は憤慨する。
「でも、その通りだよね。『周りを巻き込まない』と決めたからには何があってもその綺麗事を貫くしかない。うん。これからも、頑張るよ」夏生はブランコから手を離し、ジャンプした。「秋菜に何かあったら私が助けるから」その表情は哀愁を漂わせていた。
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「どうしたの、突然?」尋ねながらも秋菜は、最近の夏生の様子がおかしいことに気づいていた。話しかけてもどこか上の空で「なんの話だっけ?」と聞いてくる時が何度かあったのだ。何より表情が思い詰めていた。
夏生は顔を手で覆い「ごめん、何があったかは言えない」と呟いた。「ただただ、自分が恐ろしい。超能力と付き合っていくこれからの人生に対して、不安が止まらなかったの」
「最近の様子がおかしかったのは、そのせいだったのね」秋菜は深い詮索をしなかった。そっとしてほしいことは誰しもあるはずだ。詳しいことは夏生が話せる時を待てばいい、と秋菜は思っていた。
「え、そうだった?」
「そうだよ。何を話しても上の空でぼーっとしてたよ」
「嘘、覚えていない」
「相当、思い詰めていたんだね」
夏生は静かに頷いた。「秋菜はさ、超能力が羨ましいとよく言うけどさ、この力はそんなに生易しいものじゃないよ」
「なんの話?」唐突に引き合いに出され、秋菜はムッとする。
夏生はポケットからスマートフォンを取り出す。「例えばスマホで調べ物や動画を見るのが当たり前に、なったでしょ?取り上げられてこれからはパソコンをを使ってください、と言われたらどうする?ストレスが溜まると思わない?」
秋菜は腕を組み、考える。夏生と秋菜は二人とも、中学に上がると同時にスマホを持つようになった。それまでは調べ物といえば図書館へ足を運んだり、家のパソコンを使うことが当たり前でそこに不満を感じることはなかった。
しかしスマホを持ち始めてからは気になったことはすぐに調べられるようになり、動画なども閲覧するようになった。スマホが使えない生活にはもう戻れないだろう。「うん、そうなったら、途轍もないストレスだと思う」
「それと同じ。超能力があればできることを常に制限されているの。でも使えば小学校の頃の西田との件がまた起こる。奇異な目で見られるし、周りを巻き込んでしまう」
「自分の中で当たり前になっていることを制限されるのは、ストレスよね」秋菜は同意することしかできない。超能力者の抱える問題に対して、助言できることはなかった。
「西田との件以来考えてた。どうすればいいんだろうって。それでも浮かぶことは制御して抑えることだけだった。でも制限をされるのは正直、辛い。加えて、いつ暴発させてしまうか分からない緊張感と恐怖と常に隣り合わせなんだもの」夏生は俯き、「危なかった……」と呟いた。
「危なかったって……何か、あったの?」胸騒ぎと、夏生が遠くに行ってしまうような感覚を覚えた。
「ううん」夏生は首を振る。「大丈夫」と笑うがその表情は弱々しい。表情には疲れが見えている。しかし秋菜を見つめるその目はまっすぐだった。相当、思い悩んだのだろう。
「そう言うけれど、夏生の大丈夫は大丈夫じゃないから心配だよ」秋菜はそう答える。実際、夏生は抱え込みやすく、心配事が絶えないのだ。
「信用が、ないなあ」夏生が短く笑う。
「まあ、でもさ、『人は何かの目的を持って生まれてきた』って言うじゃん。夏生のその力もさ、役に立つ時がきっとくるよ」
「そんなのは綺麗事だよ」夏生の語気が荒くなるのを感じた。「言うだけなら簡単だけど、達成しないと、どんどん信用を失っていくし自己嫌悪が酷くなっていくよ」夏生はブランコを漕ぎ始めた。
「そ、そうね」秋菜は頭を掻く。「どうしたの夏生?」
「それとさ、秋菜」勢いが、増していく。
「何?」
「その言葉だけどさ、漫画の読みすぎじゃない?恥ずかしくないの?」
「せっかく励ましたのに」と秋菜は憤慨する。
「でも、その通りだよね。『周りを巻き込まない』と決めたからには何があってもその綺麗事を貫くしかない。うん。これからも、頑張るよ」夏生はブランコから手を離し、ジャンプした。「秋菜に何かあったら私が助けるから」その表情は哀愁を漂わせていた。