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二章 松原秋菜 20

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「あれ?松原じゃん。久しぶりだな。元気?」オートバイの急ブレーキ音が夜道に響く。
 夏生との河川敷の一件から一週間が経ち、塾を終えた帰り道だった。フルフェイスのヘルメット男が声をかけてきたのだ。
 秋菜は警戒し、硬直する。ヘルメットを外した顔を見て秋菜は「げ」と露骨に声を出してしまう。
 男は笑い、オートバイを降りた。緊張しているのか、どこか演技じみた様子だった。「おいおい、俺は嫌われてんのかよ」
「久しぶりね。西田。元気そうでなによりだわ」西田と会うのは中学卒業以来だった。実験の授業で夏生が超能力を目撃したクラスメイトだ。秋菜は肩にかけている手提げカバンに両手で掴み、強く握った。
「確か中学卒業以来だよな」
「そうね」秋菜はそっけない対応を心がける。
「こんな時間に何してるの?」西田が聞いてくる。時間は九時を回っていた。
「塾だったのよ」
「塾、通ってるんだったな。昔から松原は頭良かったもんな」
「週何回通ってんの?」
「週に三回かな」秋菜は曜日も伝える。
「へえ、そうなんだ」西田は関心がなさそうに答え、頬を掻いている。 
「西田こそ、こんな時間に何してるの?」
「ああ、俺?」西田は一瞬目を逸らし「野球の練習してたんだよ。遅くまでやってるからさ、帰る頃にはこの時間になるんだよ」
 西田の通う高校は秋菜とは別だったが同じ市内だ。偶然鉢合わせてしまうことも珍しくないのだろう。「そうなんだ。お疲れ様」
「なぁ、安藤は元気か?」
「西田がいなくてのびのびとしてるわよ」
 痛いところを突かれたのか、西田が顔を顰める。「あの時はごめんな。変なこと言って、気持ち悪いとか言ってさ」
「今更謝られても困る。こっちは変な噂をされて大変だったんだからね」実際、小学生の頃の噂によって秋菜と夏生は孤立した。夏生は「超能力のことが漏れないなら好都合だよ」と言って強がっていたが、内心は辛かったのだろう。今の夏生の表情が物語っていた。
「う、悪い」西田が頭を下げる。「あの頃は調子乗ってたわ。自分が見たものが正しいと思ってつい、さ。周りも信じてくれないから、カッとなってしまった。秋菜も『気のせいだ』って言ってたもんな」
「落下するビーカーが止まるなんてあるわけないでしょ」
「だよな」西田が頭を掻く。「超能力なんて、あるわけないよな」
 秋菜は心拍数が上がるのを感じる。「超能力?あるわけないでしょ。高校生にもなって恥ずかしくないの?それこそ、漫画の読み過ぎだって」
「わり、変なこと聞いたわ。松原も学校頑張れよ。安藤にもよろしく伝えといてくれ」西田はオートバイに乗り、帰ろうとする。
「あ、待って」秋菜は西田を止めた。「何?」とオートバイに跨った西田が振り向く。
「大変だったとは言ったけど、夏生も思うところがあって、話し合うきっかけになったのよ。そこは、感謝してる。ありがとう」
 西田は鳩が豆鉄砲を喰らったような表情を浮かべ「え、あ、おう」と要領の得ない返事をする。
「夏生はあんたに会いたくないと思ってるけど、もし本当にそうしたいのなら謝っておきなよ」
「わ、わかった」西田はオートバイのエンジンをかけ、去っていく。
「あの偉そうだった西田も変わったんだなあ」秋菜は遠ざかる背中に呟いた。当時のことを秋菜は思い出す。


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「あれ?松原じゃん。久しぶりだな。元気?」オートバイの急ブレーキ音が夜道に響く。
 夏生との河川敷の一件から一週間が経ち、塾を終えた帰り道だった。フルフェイスのヘルメット男が声をかけてきたのだ。
 秋菜は警戒し、硬直する。ヘルメットを外した顔を見て秋菜は「げ」と露骨に声を出してしまう。
 男は笑い、オートバイを降りた。緊張しているのか、どこか演技じみた様子だった。「おいおい、俺は嫌われてんのかよ」
「久しぶりね。西田。元気そうでなによりだわ」西田と会うのは中学卒業以来だった。実験の授業で夏生が超能力を目撃したクラスメイトだ。秋菜は肩にかけている手提げカバンに両手で掴み、強く握った。
「確か中学卒業以来だよな」
「そうね」秋菜はそっけない対応を心がける。
「こんな時間に何してるの?」西田が聞いてくる。時間は九時を回っていた。
「塾だったのよ」
「塾、通ってるんだったな。昔から松原は頭良かったもんな」
「週何回通ってんの?」
「週に三回かな」秋菜は曜日も伝える。
「へえ、そうなんだ」西田は関心がなさそうに答え、頬を掻いている。 
「西田こそ、こんな時間に何してるの?」
「ああ、俺?」西田は一瞬目を逸らし「野球の練習してたんだよ。遅くまでやってるからさ、帰る頃にはこの時間になるんだよ」
 西田の通う高校は秋菜とは別だったが同じ市内だ。偶然鉢合わせてしまうことも珍しくないのだろう。「そうなんだ。お疲れ様」
「なぁ、安藤は元気か?」
「西田がいなくてのびのびとしてるわよ」
 痛いところを突かれたのか、西田が顔を顰める。「あの時はごめんな。変なこと言って、気持ち悪いとか言ってさ」
「今更謝られても困る。こっちは変な噂をされて大変だったんだからね」実際、小学生の頃の噂によって秋菜と夏生は孤立した。夏生は「超能力のことが漏れないなら好都合だよ」と言って強がっていたが、内心は辛かったのだろう。今の夏生の表情が物語っていた。
「う、悪い」西田が頭を下げる。「あの頃は調子乗ってたわ。自分が見たものが正しいと思ってつい、さ。周りも信じてくれないから、カッとなってしまった。秋菜も『気のせいだ』って言ってたもんな」
「落下するビーカーが止まるなんてあるわけないでしょ」
「だよな」西田が頭を掻く。「超能力なんて、あるわけないよな」
 秋菜は心拍数が上がるのを感じる。「超能力?あるわけないでしょ。高校生にもなって恥ずかしくないの?それこそ、漫画の読み過ぎだって」
「わり、変なこと聞いたわ。松原も学校頑張れよ。安藤にもよろしく伝えといてくれ」西田はオートバイに乗り、帰ろうとする。
「あ、待って」秋菜は西田を止めた。「何?」とオートバイに跨った西田が振り向く。
「大変だったとは言ったけど、夏生も思うところがあって、話し合うきっかけになったのよ。そこは、感謝してる。ありがとう」
 西田は鳩が豆鉄砲を喰らったような表情を浮かべ「え、あ、おう」と要領の得ない返事をする。
「夏生はあんたに会いたくないと思ってるけど、もし本当にそうしたいのなら謝っておきなよ」
「わ、わかった」西田はオートバイのエンジンをかけ、去っていく。
「あの偉そうだった西田も変わったんだなあ」秋菜は遠ざかる背中に呟いた。当時のことを秋菜は思い出す。