二章 松原秋菜 19
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また一緒に遊園地に行くんだ、その想いが秋菜を突き動かしていた。
動きはさらに激しさを増している。秋菜は身を守るので精一杯だった。嵐の中、一つだけ動きが違う物を秋菜は発見した。コンパスが、針をむき出しにして夏生の方を向く。まるで銃で標準を定めるかのようだ。
秋菜は息を呑む。そして、コンパスは投擲された槍のように夏生へと向かっていく。
「夏生、危ない!」そう叫ぶより先に、身体が動いていた。秋菜は臆せずに嵐の中に飛び込んだ。ガラスの破片が掠り、身体に切り傷ができるのを感じたが、とにかく飛び込んだ。無我夢中だった。
秋菜は飛び込んだ勢いをそのままに、夏生へと覆い被さるかたちになる。事切れたかのように浮遊していた物が音を立てて、床へと落下した。
コンパスは夏生のいた場所を通り過ぎ、床に転がっている。秋菜はホッと胸を撫で下ろした。「夏生、大丈夫?」と声をかける。
夏生は状況を理解できていないのか、何度も瞬きをし、周囲を見渡していた。「私は、大丈夫。怪我はない。それより秋菜こそ」
「よかった」秋菜は安心する。「私はガラスとかで軽く切っちゃったけど大丈夫だよ。大怪我はしていない」切り傷が身体中にできていたが心配をするほどではなかった。
予想外の出来事が立て続けに起こったから感覚が麻痺しているのかもしれない、と秋菜は軽口を叩く。
「全然大丈夫じゃないよ」夏生は心配した表情を見せ「救急箱、持ってくるから待ってて」と急いで立ち上がった。
秋菜は夏生の手を掴んだ。「どうしたの」と夏生が振り返る。「大丈夫。それより、話、聞かせて。夏生、何があったの?」秋菜は手を離し、周りのものを片付け、空いたスペースに腰を下ろす。改めて夏生の目を見つめて聞いた。「夏生、あなたは何者なの?」と。
夏生は一度は目を逸らしたが、意を決した表情で秋菜を見返した。
夏生はぽつりぽつりと少しずつ話し始める。遊園地から帰った夜、突然、超能力に目覚めたこと。超能力を制御するために学校を休んでいるということを。
夏生は話している途中に必死で涙を堪え、「ごめんね、酷いこと言ってごめんね」と謝り、頭を下げた。秋菜は『あんたに私の気持ちがわかる訳ないでしょ。放っておいてよ』と叫ぶ夏生の姿を思い返していた。あの言葉は、本心だったのだろう。
実際、両親を失い、超能力に目覚めた人の気持ちなど秋菜にはわからなかった。分かるはずもなかった。そうとは知らずに自分の思いだけを伝えたことに秋菜は反省する。「私も言い過ぎた。ごめんなさい」と頭を下げた。
「夏生、話してくれてありがとう」一通り聞いて、秋菜は決心をしていた。「ねえ、夏生、私も超能力の練習に付き合うよ」
「え、いいの?私、こんなにおかしいんだよ、普通じゃ、ないんだよ」と夏生は驚いた表情を浮かべた。秋菜は「もちろん」と頷く。あの日、秋菜自身が公園で助けられた時のように、困っている時は私が支えるのだ。
「夏生、超能力についてもっと教えて。あなたのこと、もっと私に教えて」と秋菜は夏生に手を伸ばす。「う……うん!」と夏生は目尻に残った涙を拭い、秋菜の手を掴んだ。
「その怪我、どうしたの?」帰宅したばかりの陽子は秋菜の姿を見て声を上げた。
あの後、夏生の祖父母が慌てて部屋に飛び込んできた。夏生が事情を説明し、その場は何とか納得してもらい、祖父母に頭を下げられながら秋菜は帰宅した。
「夏生が取り乱しちゃってさ、ちょっとケンカしちゃったんだ」秋菜は頭を掻く。
「ケンカと言ったって随分酷い怪我なんじゃないの?」陽子が心配する。確かに、シャワーを浴びた時にはお湯が傷口に染みた。鏡を見ると頬、腕や足周りに切り傷があった。茂みの中を歩き、枝が擦れることによって生じたような切り傷だった。幸い、表面のみで、深い傷跡はなかった。時間が経てば傷跡は見えなくだろう。
「うん、大丈夫。夏生も、もう少し休んだら学校に来るって言ってたからさ」
「そうなの?ならよかったわ。あんたが皆勤賞を蹴ってまで学校が休んだ甲斐があったわね」陽子が軽口を叩く。
「皆勤賞なんて別にいいよ。夏生が学校に来てくれればさ。一日分くらい取り戻せるよ」
「まあ、若い頃は友達とぶつかることもあるわよね。私の若い頃も」と誰も聞いていない昔話が始まりそうだったので秋菜は部屋へと避難した。
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動きはさらに激しさを増している。秋菜は身を守るので精一杯だった。嵐の中、一つだけ動きが違う物を秋菜は発見した。コンパスが、針をむき出しにして夏生の方を向く。まるで銃で標準を定めるかのようだ。
秋菜は息を呑む。そして、コンパスは|投擲《とうてき》された槍のように夏生へと向かっていく。
「夏生、危ない!」そう叫ぶより先に、身体が動いていた。秋菜は臆せずに嵐の中に飛び込んだ。ガラスの破片が|掠《かす》り、身体に切り傷ができるのを感じたが、とにかく飛び込んだ。無我夢中だった。
秋菜は飛び込んだ勢いをそのままに、夏生へと覆い被さるかたちになる。事切れたかのように浮遊していた物が音を立てて、床へと落下した。
コンパスは夏生のいた場所を通り過ぎ、床に転がっている。秋菜はホッと胸を撫で下ろした。「夏生、大丈夫?」と声をかける。
夏生は状況を理解できていないのか、何度も瞬きをし、周囲を見渡していた。「私は、大丈夫。怪我はない。それより秋菜こそ」
「よかった」秋菜は安心する。「私はガラスとかで軽く切っちゃったけど大丈夫だよ。大怪我はしていない」切り傷が身体中にできていたが心配をするほどではなかった。
予想外の出来事が立て続けに起こったから感覚が麻痺しているのかもしれない、と秋菜は軽口を叩く。
「全然大丈夫じゃないよ」夏生は心配した表情を見せ「救急箱、持ってくるから待ってて」と急いで立ち上がった。
秋菜は夏生の手を掴んだ。「どうしたの」と夏生が振り返る。「大丈夫。それより、話、聞かせて。夏生、何があったの?」秋菜は手を離し、周りのものを片付け、空いたスペースに腰を下ろす。改めて夏生の目を見つめて聞いた。「夏生、あなたは何者なの?」と。
夏生は一度は目を逸らしたが、意を決した表情で秋菜を見返した。
夏生はぽつりぽつりと少しずつ話し始める。遊園地から帰った夜、突然、超能力に目覚めたこと。超能力を制御するために学校を休んでいるということを。
夏生は話している途中に必死で涙を堪え、「ごめんね、酷いこと言ってごめんね」と謝り、頭を下げた。秋菜は『あんたに私の気持ちがわかる訳ないでしょ。放っておいてよ』と叫ぶ夏生の姿を思い返していた。あの言葉は、本心だったのだろう。
実際、両親を失い、超能力に目覚めた人の気持ちなど秋菜にはわからなかった。分かるはずもなかった。そうとは知らずに自分の思いだけを伝えたことに秋菜は反省する。「私も言い過ぎた。ごめんなさい」と頭を下げた。
「夏生、話してくれてありがとう」一通り聞いて、秋菜は決心をしていた。「ねえ、夏生、私も超能力の練習に付き合うよ」
「え、いいの?私、こんなにおかしいんだよ、普通じゃ、ないんだよ」と夏生は驚いた表情を浮かべた。秋菜は「もちろん」と頷く。あの日、秋菜自身が公園で助けられた時のように、困っている時は私が支えるのだ。
「夏生、超能力についてもっと教えて。あなたのこと、もっと私に教えて」と秋菜は夏生に手を伸ばす。「う……うん!」と夏生は目尻に残った涙を拭い、秋菜の手を掴んだ。
「その怪我、どうしたの?」帰宅したばかりの陽子は秋菜の姿を見て声を上げた。
あの後、夏生の祖父母が慌てて部屋に飛び込んできた。夏生が事情を説明し、その場は何とか納得してもらい、祖父母に頭を下げられながら秋菜は帰宅した。
「夏生が取り乱しちゃってさ、ちょっとケンカしちゃったんだ」秋菜は頭を掻く。
「ケンカと言ったって随分酷い怪我なんじゃないの?」陽子が心配する。確かに、シャワーを浴びた時にはお湯が傷口に染みた。鏡を見ると頬、腕や足周りに切り傷があった。茂みの中を歩き、枝が擦れることによって生じたような切り傷だった。幸い、表面のみで、深い傷跡はなかった。時間が経てば傷跡は見えなくだろう。
「うん、大丈夫。夏生も、もう少し休んだら学校に来るって言ってたからさ」
「そうなの?ならよかったわ。あんたが皆勤賞を蹴ってまで学校が休んだ甲斐があったわね」陽子が軽口を叩く。
「皆勤賞なんて別にいいよ。夏生が学校に来てくれればさ。一日分くらい取り戻せるよ」
「まあ、若い頃は友達とぶつかることもあるわよね。私の若い頃も」と誰も聞いていない昔話が始まりそうだったので秋菜は部屋へと避難した。