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二章 松原秋菜 14

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秋菜はバスを降り、河川敷を歩く。夏生が草原に腰掛け、野球の風景を眺めているのを発見した。
 待っていてくれたのだろうか。その横顔を見て、秋菜は切ない気持ちになる。いつまで夏生は我慢するのだろう、と。
 両親を亡くし、超能力に目覚めたこと、それらは夏生が意図的に起こした出来事ではないし、当然、望んだことでもない。
 どちらも、突然その身に降りかかった出来事だった。彼女には背負うものが多く、大きすぎる。比べるものではないが、秋菜の両親の離婚など、些細なことだと思ってしまう。
 凡人の自分にできることは夏生の隣で支え、笑顔になってもらうことだ。そのためだったらなんだってする、秋菜はそう決意していた。
 深呼吸をし、夏生の元へと歩いていく。「あれ?夏生、まだ帰ってなかったんだ?」秋菜は今、気づいた風を装って話しかけた。
 
「今日はどうだった?」食器を洗っていると陽子が声をかけてきた。「食器洗い、いつもありがとね」と礼を言う。
「親想いのいい子、らしいので」と秋菜はおどけてみせる。今日友達ができたのだ、と話す。
「あら、よかったじゃない」陽子が喜ぶ「ほら、なんとかなったでしょ」と。
「でも、夏生は友達になってないんだよね。まあ、これからなってもらうつもりなんだけど」
 陽子が怪訝そうに眉を潜める。「ねえ、秋菜。昨日唆した私が言う事じゃないんだけどさ、友達を作る、作らないは本人次第なんじゃないの?」
「それは、そうなんだけど」河川敷で腰掛けていた夏生の表情は寂しそうだった。
「何かあったの?」
「ちょっとね。最近、夏生とは関係が上手くいかないんだ」
「そりゃそうよ。夏生ちゃんのペースがあるのに、友達作りな、と急かされたら誰でも嫌になっちゃうよ。うんざりするね」陽子がため息をつく。「まあ、あんたは昔っから世話焼きな性格だったからね」
「え、そうかな?」
「夏生ちゃんがご両親を亡くした時に、『遊園地に行きたい』ってせがんだり、学校休むのが続いた時に『私も休んで様子を見に行く』ってきかなかったじゃない」
「友達が落ち込んでたら、助けるのは当然のことでしょ」
「それを世話焼きって言うの」と陽子が笑う。「そして一度不機嫌になったら中々治らないところとかね」
「う」と秋菜は苦虫を噛み潰したような表情をしてしまう。その悪い癖で夏生に超能力を使わせてしまったからだ。
 夏生の強情さに呆れてしまい、気が立っていた。『私がこんなにやってるのに気づいてくれないの?』と。その結果、飛んでくるボールに気づけなかったのだ。
 不機嫌になると周りが見えなくなってしまうのは良くない。気をつけよう、と秋菜は反省する。
「夏生ちゃんも、どうしたもんかねえ」と陽子は頭を悩ませていた。洗濯が終わった音が聞こえ「はいはい、今行きますよぉ」と呟き、洗面室へと向かう。
『あんたは昔っから世話焼きな性格』という陽子の言葉を反芻する。彼女の言う通り、夏生が両親を亡くし、三ヶ月が経過した頃、秋菜は陽子に遊園地に行きたい、とせがんだ。当時の事を思い返す。


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秋菜はバスを降り、河川敷を歩く。夏生が草原に腰掛け、野球の風景を眺めているのを発見した。
 待っていてくれたのだろうか。その横顔を見て、秋菜は切ない気持ちになる。いつまで夏生は我慢するのだろう、と。
 両親を亡くし、超能力に目覚めたこと、それらは夏生が意図的に起こした出来事ではないし、当然、望んだことでもない。
 どちらも、突然その身に降りかかった出来事だった。彼女には背負うものが多く、大きすぎる。比べるものではないが、秋菜の両親の離婚など、些細なことだと思ってしまう。
 凡人の自分にできることは夏生の隣で支え、笑顔になってもらうことだ。そのためだったらなんだってする、秋菜はそう決意していた。
 深呼吸をし、夏生の元へと歩いていく。「あれ?夏生、まだ帰ってなかったんだ?」秋菜は今、気づいた風を装って話しかけた。
「今日はどうだった?」食器を洗っていると陽子が声をかけてきた。「食器洗い、いつもありがとね」と礼を言う。
「親想いのいい子、らしいので」と秋菜はおどけてみせる。今日友達ができたのだ、と話す。
「あら、よかったじゃない」陽子が喜ぶ「ほら、なんとかなったでしょ」と。
「でも、夏生は友達になってないんだよね。まあ、これからなってもらうつもりなんだけど」
 陽子が怪訝そうに眉を潜める。「ねえ、秋菜。昨日唆した私が言う事じゃないんだけどさ、友達を作る、作らないは本人次第なんじゃないの?」
「それは、そうなんだけど」河川敷で腰掛けていた夏生の表情は寂しそうだった。
「何かあったの?」
「ちょっとね。最近、夏生とは関係が上手くいかないんだ」
「そりゃそうよ。夏生ちゃんのペースがあるのに、友達作りな、と急かされたら誰でも嫌になっちゃうよ。うんざりするね」陽子がため息をつく。「まあ、あんたは昔っから世話焼きな性格だったからね」
「え、そうかな?」
「夏生ちゃんがご両親を亡くした時に、『遊園地に行きたい』ってせがんだり、学校休むのが続いた時に『私も休んで様子を見に行く』ってきかなかったじゃない」
「友達が落ち込んでたら、助けるのは当然のことでしょ」
「それを世話焼きって言うの」と陽子が笑う。「そして一度不機嫌になったら中々治らないところとかね」
「う」と秋菜は苦虫を噛み潰したような表情をしてしまう。その悪い癖で夏生に超能力を使わせてしまったからだ。
 夏生の強情さに呆れてしまい、気が立っていた。『私がこんなにやってるのに気づいてくれないの?』と。その結果、飛んでくるボールに気づけなかったのだ。
 不機嫌になると周りが見えなくなってしまうのは良くない。気をつけよう、と秋菜は反省する。
「夏生ちゃんも、どうしたもんかねえ」と陽子は頭を悩ませていた。洗濯が終わった音が聞こえ「はいはい、今行きますよぉ」と呟き、洗面室へと向かう。
『あんたは昔っから世話焼きな性格』という陽子の言葉を反芻する。彼女の言う通り、夏生が両親を亡くし、三ヶ月が経過した頃、秋菜は陽子に遊園地に行きたい、とせがんだ。当時の事を思い返す。