二章 松原秋菜 12
ー/ー
「秋菜、おはよ」夏生が挨拶をする。学校へは徒歩とバスで通学している。
「夏生、おはよ」秋菜も挨拶を返す。夏生はストレートの髪型でポニーテール。ヘアゴムにはビー玉がついている。普通の女子高生であるが彼女は超能力者だ。
あらゆるものを手を触れずに自由自在に動かすことができる。初めて見た時は開いた口が塞がらなかったが、現在は見慣れた光景になっている。
夏生は誰に対しても物怖じしない性格だったが、超能力が覚醒して以来、対人関係において距離を置くようになってしまった。秋菜は次第にその姿が悲しく、見ていられなくなった。
お昼休み、弁当を食べていると中村春奈と柴田真冬が声をかけてきた。二人は同じ中学校を卒業したと話していた。
春奈がサバサバとした性格で長い髪型、真冬がおっとりとした性格でカールの巻いた髪型、と秋菜は覚えている。
「よかったら安藤さん達もどうかな?」と真冬が誘ってきた。夏生の対応を見ていると「私は週末に予定があるんだ」と断った。
秋菜は落胆する。せっかく遊ぶチャンスなのに、と。
秋菜も尋ねられたが「塾があるんだ」と断った。その日は夏生との修行があるからであるから嘘ではない。その後に塾へ行くのだから。
夏生からは他の予定を優先してよい、と話をされているが秋菜はそうしなかった。彼女が周りの人間を危険に巻き込みたくないから、と理由は承知している。
初めは同意していたが四年間を過ごしていく中で夏生の寂しい表情を見るのが辛くなっていったのだ。
夏生が自分で気づいているかは分からないが、感情が表に出やすいタイプだ。次第に秋菜は夏生の考えに不満を抱えるようになった。
春奈と真冬が会話をしている中、夏生は軽い相槌を打つだけで話題に入ることや、何かを質問することはなかった。
二人が去った後、「今度、遊びに行けたらいいね」と夏生に話したが「うん、そうだね」と頬杖をつきながら軽い返事をした。窓の先に映る青空を見ていてその表情は寂しそうだった。
校門を抜けていく夏生の後ろ姿を、教室から秋菜は見送った。
その日は秋菜が日直で、日誌をまとめなくてはならなかったため、夏生には先に帰ってもらったのだ。
促したのは秋菜だが「私も待ってるよ」と言わないのが少し腹立たしく、寂しくも感じる。
笑い声が聞こえ、振り向くと春奈と真冬が何かの話で盛り上がっていた。日誌をまとめ終えた秋菜は二人の元へ近づく。
「松原さん、勉強してたの?」気づいた真冬が声をかけてくる。
「ううん、日直だったし日誌を書いてたよ」
「ああ、そうだったね。お疲れ様」春奈が労いの言葉をかけてくる。「安藤さんは?」
「今日は先に帰っちゃった」
「早っ。授業終わってからまだ十分くらいしか経ってないのに」壁掛けの時計を見て春奈が驚く。
「ねえ、中村さん、柴田さん、今日はお誘いを断ってごめんね」と秋菜は謝った。
「そんな、わざわざ謝らなくていいって。だって、塾なんでしょ?」真冬が慌てる。
「そう、塾なんだけど、せっかく誘ってくれたのに悪いなあと思ってさ」
「真面目だなあ、別にいいのに」春奈が顔をしかめる。
「それとさ、夏生がそっけなかったんじゃないかなと思って」
「そんなことないよ」真冬が否定した後で「ただ、緊張してたのかな、とは思ったよ」と申し訳なさそうに伝えた。
「安藤さんは、人見知りなの?」春奈が質問する。
「ううん、昔は人見知りではなかったよ。むしろ物怖じしないで人と関わっていくようなタイプだった」と秋菜は答え、「物理的に」と付け足す。
「物理的ってなんだよ」春奈が指摘し、「活発な子だったんだね」と真冬が笑う。二人の反応はそれぞれ違っていて秋菜は可笑しさを感じる。
「そうなの」と秋菜は頷き「ただ、色々あってね、人と距離を置くようになっちゃったんだ」と伝える。
「ああ」と呻くように春奈と秋菜は気まずそうに互いの顔を見合わせる。
二人の様子を見て、秋菜はある程度の事情は理解しているのだと察した。噂で聞いたのだろう。
「安藤さん、辛かっただろうね」真冬が眉を下げる。
「うん、当時は大変だったよ」しみじみと呟く。夏生の部屋で飛び交う文房具やノートの光景を思い出す。どうすればいいのか、と秋菜は肝を冷やしたものだ。
「安藤さんってさ、何か放って置けないんだよな」春奈が呟く。
「そうそう」真冬が同調する。「クールな感じがするけど、時々、羨ましそうっていういのか、寂しそうに周りを見ていることがある」
私だけでなく、二人も気づいていたのだ、と秋菜は嬉しくなる。
「あたしには幼稚園の弟と小学生の妹がいるんだけどさ」と春奈が話し始める。「くだらないことで喧嘩してるのよ。お菓子を食べられただの、叩かれただの。で、仲直りしたいのに『嫌い』と意地張っているように見える」
「なにその表現」秋菜は思わず吹き出してしまう。二人は夏生のことを心配して、気にかけてくれているのだ。
「二人とも、ありがとう。夏生はそっけないけど、どうか、懲りずに話しかけてくれると嬉しいな」
「もちろん」真冬が頷き、「言われなくても」と春奈が腕を組む。
「なんかさ、安藤さんのために謝って、仲を取り持つのって保護者さんみたいだね」真冬が何気なく口にする。
「あはは、そうだね」秋菜は愛想笑いをしつつ、内心、痛いところを突かれたな、と思う。夏生にとっては余計なお世話だろうか。
「あ、この事は夏生には内緒でお願い」秋菜は両手を合わせる。
「はいよ」春奈が答え、「それと苗字呼び止めようよ。あたしらも秋菜って呼ぶからさ、名前で呼んでよ」と提案してくる。
「いいの?えーと……春奈」秋菜は恐る恐る尋ねる。
「いーよ。えーと……秋菜」春奈はおどけている。
「よろしくね。秋菜」と真冬が微笑んだ。
些細な事なのに、名前を呼ばれただけで嬉しく、距離が縮まった気分になる。秋菜は浮き足立った。
「それじゃ、春奈、真冬、また明日」秋菜は日誌を持って教室を後にした。
帰り道、秋菜はバスに乗っていた。景色を眺めながら、名前で呼び合ったのはいつぶりだろう、と考える。夏生と初めて出会った以来だった。
引っ越してきたばかりの秋菜は近くの公園で遊んでいた。
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「夏生、おはよ」秋菜も挨拶を返す。夏生はストレートの髪型でポニーテール。ヘアゴムにはビー玉がついている。普通の女子高生であるが彼女は超能力者だ。
あらゆるものを手を触れずに自由自在に動かすことができる。初めて見た時は開いた口が塞がらなかったが、現在は見慣れた光景になっている。
夏生は誰に対しても物怖じしない性格だったが、超能力が覚醒して以来、対人関係において距離を置くようになってしまった。秋菜は次第にその姿が悲しく、見ていられなくなった。
お昼休み、弁当を食べていると中村春奈と柴田真冬が声をかけてきた。二人は同じ中学校を卒業したと話していた。
春奈がサバサバとした性格で長い髪型、真冬がおっとりとした性格でカールの巻いた髪型、と秋菜は覚えている。
「よかったら安藤さん達もどうかな?」と真冬が誘ってきた。夏生の対応を見ていると「私は週末に予定があるんだ」と断った。
秋菜は落胆する。せっかく遊ぶチャンスなのに、と。
秋菜も尋ねられたが「塾があるんだ」と断った。その日は夏生との修行があるからであるから嘘ではない。その後に塾へ行くのだから。
夏生からは他の予定を優先してよい、と話をされているが秋菜はそうしなかった。彼女が周りの人間を危険に巻き込みたくないから、と理由は承知している。
初めは同意していたが四年間を過ごしていく中で夏生の寂しい表情を見るのが辛くなっていったのだ。
夏生が自分で気づいているかは分からないが、感情が表に出やすいタイプだ。次第に秋菜は夏生の考えに不満を抱えるようになった。
春奈と真冬が会話をしている中、夏生は軽い相槌を打つだけで話題に入ることや、何かを質問することはなかった。
二人が去った後、「今度、遊びに行けたらいいね」と夏生に話したが「うん、そうだね」と頬杖をつきながら軽い返事をした。窓の先に映る青空を見ていてその表情は寂しそうだった。
校門を抜けていく夏生の後ろ姿を、教室から秋菜は見送った。
その日は秋菜が日直で、日誌をまとめなくてはならなかったため、夏生には先に帰ってもらったのだ。
促したのは秋菜だが「私も待ってるよ」と言わないのが少し腹立たしく、寂しくも感じる。
笑い声が聞こえ、振り向くと春奈と真冬が何かの話で盛り上がっていた。日誌をまとめ終えた秋菜は二人の元へ近づく。
「松原さん、勉強してたの?」気づいた真冬が声をかけてくる。
「ううん、日直だったし日誌を書いてたよ」
「ああ、そうだったね。お疲れ様」春奈が労いの言葉をかけてくる。「安藤さんは?」
「今日は先に帰っちゃった」
「早っ。授業終わってからまだ十分くらいしか経ってないのに」壁掛けの時計を見て春奈が驚く。
「ねえ、中村さん、柴田さん、今日はお誘いを断ってごめんね」と秋菜は謝った。
「そんな、わざわざ謝らなくていいって。だって、塾なんでしょ?」真冬が慌てる。
「そう、塾なんだけど、せっかく誘ってくれたのに悪いなあと思ってさ」
「真面目だなあ、別にいいのに」春奈が顔をしかめる。
「それとさ、夏生がそっけなかったんじゃないかなと思って」
「そんなことないよ」真冬が否定した後で「ただ、緊張してたのかな、とは思ったよ」と申し訳なさそうに伝えた。
「安藤さんは、人見知りなの?」春奈が質問する。
「ううん、昔は人見知りではなかったよ。むしろ物怖じしないで人と関わっていくようなタイプだった」と秋菜は答え、「物理的に」と付け足す。
「物理的ってなんだよ」春奈が指摘し、「活発な子だったんだね」と真冬が笑う。二人の反応はそれぞれ違っていて秋菜は可笑しさを感じる。
「そうなの」と秋菜は頷き「ただ、色々あってね、人と距離を置くようになっちゃったんだ」と伝える。
「ああ」と呻くように春奈と秋菜は気まずそうに互いの顔を見合わせる。
二人の様子を見て、秋菜はある程度の事情は理解しているのだと察した。噂で聞いたのだろう。
「安藤さん、辛かっただろうね」真冬が眉を下げる。
「うん、当時は大変だったよ」しみじみと呟く。夏生の部屋で飛び交う文房具やノートの光景を思い出す。どうすればいいのか、と秋菜は肝を冷やしたものだ。
「安藤さんってさ、何か放って置けないんだよな」春奈が呟く。
「そうそう」真冬が同調する。「クールな感じがするけど、時々、羨ましそうっていういのか、寂しそうに周りを見ていることがある」
私だけでなく、二人も気づいていたのだ、と秋菜は嬉しくなる。
「あたしには幼稚園の弟と小学生の妹がいるんだけどさ」と春奈が話し始める。「くだらないことで喧嘩してるのよ。お菓子を食べられただの、叩かれただの。で、仲直りしたいのに『嫌い』と意地張っているように見える」
「なにその表現」秋菜は思わず吹き出してしまう。二人は夏生のことを心配して、気にかけてくれているのだ。
「二人とも、ありがとう。夏生はそっけないけど、どうか、懲りずに話しかけてくれると嬉しいな」
「もちろん」真冬が頷き、「言われなくても」と春奈が腕を組む。
「なんかさ、安藤さんのために謝って、仲を取り持つのって保護者さんみたいだね」真冬が何気なく口にする。
「あはは、そうだね」秋菜は愛想笑いをしつつ、内心、痛いところを突かれたな、と思う。夏生にとっては余計なお世話だろうか。
「あ、この事は夏生には内緒でお願い」秋菜は両手を合わせる。
「はいよ」春奈が答え、「それと苗字呼び止めようよ。あたしらも秋菜って呼ぶからさ、名前で呼んでよ」と提案してくる。
「いいの?えーと……春奈」秋菜は恐る恐る尋ねる。
「いーよ。えーと……秋菜」春奈はおどけている。
「よろしくね。秋菜」と真冬が微笑んだ。
些細な事なのに、名前を呼ばれただけで嬉しく、距離が縮まった気分になる。秋菜は浮き足立った。
「それじゃ、春奈、真冬、また明日」秋菜は日誌を持って教室を後にした。
帰り道、秋菜はバスに乗っていた。景色を眺めながら、名前で呼び合ったのはいつぶりだろう、と考える。夏生と初めて出会った以来だった。
引っ越してきたばかりの秋菜は近くの公園で遊んでいた。