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二章 松原秋菜 11

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「秋菜、洗い物やってくれてありがとね」陽子が風呂から上がり、リビングへと入ってくる。
「いいよ。これくらい」松原秋菜は台所で食器を洗っていた。泡を流し、食器を水切りカゴへ置く。蛇口の水を閉める。
冷蔵庫の扉を開け、中からお茶を取り出した。食器棚からコップを手に取り、お茶を注ぐ。
 リビングでテレビを見る母の元へ歩き、「お茶、飲む?」と手渡した。
「うん、飲む」と陽子はコップを受け取った。
 自分に超能力が使えたなら、と秋菜は考える。食器洗いは手を濡らさずに終えられるし、冷蔵庫と食器棚の扉は勝手に開いてコップにお茶が注がれるのだろう。
 そしてお茶が入ったコップは母の元へと移動していくのだ。
 その時点で秋菜は一歩も動いていないし、何ならテーブルでスマホを触っているのかもしれない。
「至れり尽くせりだねえ」陽子が飲み干したコップを秋菜に手渡した。「いつもありがとね」
「お母さんはお仕事頑張ってるし私もこれくらいはね」両親の離婚により秋菜は小学三年生の頃から陽子の実家で生活している。
 この家に住むのは祖母を加えての三人だ。祖父は既に亡くなっている。専業主婦だったが離婚をしてからは正社員として就職。
 家事と仕事に追われながらも、秋菜との話す時間を忘れないことに尊敬を感じている。言われるまでもなく秋菜は自然と家の手伝いをするようになった。
「ところで、学校生活はどうなの?」陽子が質問する。
「うーん、まだ友達と呼べる人はいないかなあ」秋菜が腕を組み首を傾げる。頭の中に二人が浮かんできたが、友達と呼べるだろうか。
「あんたも早く友達作りなよ。最初が肝心なんだから。一ヶ月なんてあっという間に過ぎちゃうよ」
「う、うん」秋菜は交友関係が広い方ではない。小学、中学時代は青春とは程遠く、冴えない学生生活を過ごしてきた。
 それは秋菜自身が控えめで主張をしない性格が影響している。しかしそれ以上の理由が夏生は超能力者だったから、などと陽子に言えるがはずがない。「高校こそ楽しむよ。夏生も誘ってね」と秋菜は意気込む。
 ちなみに夏生に対しては取り繕うことのない自分の感情を出し、強く出ることができた。互いにぶつかりあってきたからだろうか。
「ほんと夏生ちゃんっ子ねえ」陽子が笑う。「私も夏生ちゃんにはいい学生生活を送ってもらいたいなあ」
「『には』って私は?」と秋菜は指摘する。
「あんたは知らん。まあ、なんとかなるでしょ。心配はしてないわ」陽子は投げ出した。
「もう」と秋菜はため息をつき、「じゃあ、私もお風呂に入ってくるね」と言い残し、風呂場へと向かう。
 洗面台で掌を歯ブラシに向けて、目を閉じる。意識を集中させ『浮かべ』と秋菜は念じてみる。目を開けたがそこには手を伸ばした自分の姿が鏡に映っていた。
 あまりの滑稽さに秋菜は思わず苦笑してしまう。「できるわけないか」と苦笑し、肩を落とした。
「忘れ物」と陽子が扉を開け、中に入ってきた。
「ちょっと、入る時はノックしてよ」と秋菜は抗議する。慌てて伸ばした方の手を下ろした。
「ごめんごめん」と陽子は軽い調子で謝る。忘れたであろう化粧品の小瓶を手に取り、洗面室から出て行こうとしたところで「ところでなに独り言をぶつぶつ言ってるのよ。それにポーズとってなかった?漫画の読みすぎよ」と言い捨てた。
 全身にブワッと鳥肌が立った。そして頬がカアッと熱くなるのを秋菜は感じた。「もう、次からは絶対ノックしてよね」とドアを開け、陽子へと叫んだ。


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「秋菜、洗い物やってくれてありがとね」陽子が風呂から上がり、リビングへと入ってくる。
「いいよ。これくらい」松原秋菜は台所で食器を洗っていた。泡を流し、食器を水切りカゴへ置く。蛇口の水を閉める。
冷蔵庫の扉を開け、中からお茶を取り出した。食器棚からコップを手に取り、お茶を注ぐ。
 リビングでテレビを見る母の元へ歩き、「お茶、飲む?」と手渡した。
「うん、飲む」と陽子はコップを受け取った。
 自分に超能力が使えたなら、と秋菜は考える。食器洗いは手を濡らさずに終えられるし、冷蔵庫と食器棚の扉は勝手に開いてコップにお茶が注がれるのだろう。
 そしてお茶が入ったコップは母の元へと移動していくのだ。
 その時点で秋菜は一歩も動いていないし、何ならテーブルでスマホを触っているのかもしれない。
「至れり尽くせりだねえ」陽子が飲み干したコップを秋菜に手渡した。「いつもありがとね」
「お母さんはお仕事頑張ってるし私もこれくらいはね」両親の離婚により秋菜は小学三年生の頃から陽子の実家で生活している。
 この家に住むのは祖母を加えての三人だ。祖父は既に亡くなっている。専業主婦だったが離婚をしてからは正社員として就職。
 家事と仕事に追われながらも、秋菜との話す時間を忘れないことに尊敬を感じている。言われるまでもなく秋菜は自然と家の手伝いをするようになった。
「ところで、学校生活はどうなの?」陽子が質問する。
「うーん、まだ友達と呼べる人はいないかなあ」秋菜が腕を組み首を傾げる。頭の中に二人が浮かんできたが、友達と呼べるだろうか。
「あんたも早く友達作りなよ。最初が肝心なんだから。一ヶ月なんてあっという間に過ぎちゃうよ」
「う、うん」秋菜は交友関係が広い方ではない。小学、中学時代は青春とは程遠く、冴えない学生生活を過ごしてきた。
 それは秋菜自身が控えめで主張をしない性格が影響している。しかしそれ以上の理由が夏生は超能力者だったから、などと陽子に言えるがはずがない。「高校こそ楽しむよ。夏生も誘ってね」と秋菜は意気込む。
 ちなみに夏生に対しては取り繕うことのない自分の感情を出し、強く出ることができた。互いにぶつかりあってきたからだろうか。
「ほんと夏生ちゃんっ子ねえ」陽子が笑う。「私も夏生ちゃんにはいい学生生活を送ってもらいたいなあ」
「『には』って私は?」と秋菜は指摘する。
「あんたは知らん。まあ、なんとかなるでしょ。心配はしてないわ」陽子は投げ出した。
「もう」と秋菜はため息をつき、「じゃあ、私もお風呂に入ってくるね」と言い残し、風呂場へと向かう。
 洗面台で掌を歯ブラシに向けて、目を閉じる。意識を集中させ『浮かべ』と秋菜は念じてみる。目を開けたがそこには手を伸ばした自分の姿が鏡に映っていた。
 あまりの滑稽さに秋菜は思わず苦笑してしまう。「できるわけないか」と苦笑し、肩を落とした。
「忘れ物」と陽子が扉を開け、中に入ってきた。
「ちょっと、入る時はノックしてよ」と秋菜は抗議する。慌てて伸ばした方の手を下ろした。
「ごめんごめん」と陽子は軽い調子で謝る。忘れたであろう化粧品の小瓶を手に取り、洗面室から出て行こうとしたところで「ところでなに独り言をぶつぶつ言ってるのよ。それにポーズとってなかった?漫画の読みすぎよ」と言い捨てた。
 全身にブワッと鳥肌が立った。そして頬がカアッと熱くなるのを秋菜は感じた。「もう、次からは絶対ノックしてよね」とドアを開け、陽子へと叫んだ。