一章 安藤夏生 10
ー/ー
「どう、考えてくれた?」独自のメニューをこなし、二人で休憩しているところだった。
秋菜はタイミングを見計らっていたのだろう。そわそわと、落ちつかない雰囲気を夏生は感じとっていた。空を見上げるといつの間にか雲が見え始めていた。
「何が?」夏生は知らないフリを装って尋ねる。
「周りとの、関わり方についてだよ」秋菜が目を見つめてくる。
秋菜が春奈と真冬を名前で呼びあっているのを夏生は最近知った。夏生が知らないところで交流し、仲良くなったのだろう。彼女らのことを話す秋菜は嬉しそうだ。
その表情を見るたびに夏生は胸に小さな嫉妬心、羨ましさを感じていた。
気づいた時には自身の器の小ささに落胆した。でも、これで良い、と夏生は思っている。私から離れて、新しい友人と仲良くしてくれればいい、それが秋菜や周りにとっての幸せに繋がる、と。
夏生はその目を見返した後で、「うん、私の考えは変わらないよ。いつ他の超能力者が秋菜や周りの人達に危害を加えるかわからないもの。リスクを考えると私と関わる人は減らした方がいい」と伝えた。
秋菜には他の超能力者の存在と懸念点を話している。その上で、秋菜の考えも変わらなかった。
「そっか」秋菜は寂しそうな表情を浮かべた。「だとしても、人と関わらない理由にはならないと思う。夏生が、両親を失って、もうこれ以上誰も失いたくないと考えるのは分かるよ。その上で私の考えを聞いてほしい。もし傷つけて酷いことを言ってしまったらごめんなさい」と秋菜は前置きをする。
「私は凡人だからさ、超能力が使える夏生の考えや心配が全てわかるわけじゃない。でもさ、それって交通事故や通り魔が怖いから誰とも関わらない、と言っているのと同じだと思う。生きていく上で仕方の……防ぎようのないことじゃないのかな?きっとご両親が今の夏生を見たら心配すると思うよ」
秋菜の言葉を受け、夏生は今の自分を俯瞰的に思い浮かべた。
ボロボロになったジャージを着て息の上がった女子高生。部活に精を出しているのではない。来るべき超能力者との戦いのために備えているのだ。
どう考えても普通じゃない。異常だ。そもそも修行とはなんだ。夏生は苛立っていく。街へ出ればおしゃれをし、友達や彼氏彼女と過ごす学生達。対して自分はボロボロのジャージだ。異常だ。
突き詰めれば他の超能力者の存在も夏生の憶測、妄想であり、ありもしないことに不安になっているだけである。やっていられない、と何度思ったことか。
空虚だ。虚しさを感じる。そして、その妄想に秋菜を付き合わせているのだ。夏生が、送りたかった学生生活をに思いを馳せるほど、当たり前の日常を過ごしている彼らに対し、妬みの感情が膨らみ、それをぶつけたくなる。私だけ不公平じゃないか、と。
そしてその妬みに比例してに秋菜を巻き込み、奪ってきたものの大きさと罪悪感に夏生は押し潰されそうになる。
両親と過ごした時間が如何に大切であり、もう二度と戻らないことであるかをその身をもって夏生は、知っている。それはモノやお金に代えられず、決して償えないものだ。
「心配してくれて、ありがとう。気持ちは伝わっているけど、そうすることはできない。秋菜はさっき、防ぎようのないこと、と言ったけれど事故の時、私が無意識に発動した超能力をお父さんとお母さんにも使えていたら、救うことはきっと、できたよ。ずっと、そう思っているの。だからこそあなたを、周りを、これ以上は巻き込めない」
夏生は感情的ではなく、諭すように、一言一言噛み締めるように伝えた。
「そうか。変わらないか」と秋菜は背伸びをし「ごめんね。最近、不機嫌な雰囲気を出しちゃってて。気まずかったでしょ」と軽い調子で話し始めた。
けれど夏生には無理していることが分かる。秋菜が、嘘を見抜くことができるのと同じように彼女が平静を装っていることが夏生は分かるのだ。
頬に冷たさを感じ、空を見上げると暗雲が立ち込め、ぽつり、ぽつりと雨が降り始めてきた。「私も、夏生と同じように、気持ちは変わってないよ。ただ、この話はもうしない。お互い平行線だし、そもそも、夏生の人生だもんね。私が口出しすることじゃないよね」秋菜も空を見上げ、「雨降ってきたね。私は塾があるし、また学校で」と山を降りて行く。夏生はその後ろ姿を無言で見送る事しかできなかった。
『夏生の人生だもんね』という秋菜の言葉を、頭の中で反芻する。
夏生は胸の内に寂しさを感じていた。夏生の思いを尊重してくれたことが分かるが、同時に一線を引いたということだ。
一人で抱え込むから引き篭もるんだ、もっと周りを頼れ、と夏生を叱咤する秋菜。分別がつかない時期だからこそ伝わる言葉だってあるのだ。
あの時は鬱陶しく思い、売り言葉に買い言葉だったが、あの無神経さでぶつかってきて欲しかったのだと夏生は今になって気づく。
秋菜が一線を引く程に考えていたとは知らなかった。彼女の気持ちも知らずに一方的に話し過ぎていた、と夏生は反省する。
そしてお互いの言い分が、意地が衝突するばかりで着地点を見つけようとしなかった。週明けの学校で改めて話し合おう、と思い、夏生は山を降りて行く。
翌日、夏生は夕陽が沈む河川敷を、全力で走っていた。秋菜は学校を休んだ。体調不良だと、学校へ連絡があったらしい。
夏生には秋菜からの連絡の代わりに、ある男から連絡があった。
男は山岸と名乗った。松原秋菜を誘拐した、と。襲れていた事態が起こってしまった。
夏生は全身が凍ってしまうような感覚を覚える。最悪のケースが思い浮かび、必死に振り払う。どうか、無事でいてくれ、と夏生は祈り、息をつく間も無く走り続けた。
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秋菜はタイミングを見計らっていたのだろう。そわそわと、落ちつかない雰囲気を夏生は感じとっていた。空を見上げるといつの間にか雲が見え始めていた。
「何が?」夏生は知らないフリを装って尋ねる。
「周りとの、関わり方についてだよ」秋菜が目を見つめてくる。
秋菜が春奈と真冬を名前で呼びあっているのを夏生は最近知った。夏生が知らないところで交流し、仲良くなったのだろう。彼女らのことを話す秋菜は嬉しそうだ。
その表情を見るたびに夏生は胸に小さな嫉妬心、羨ましさを感じていた。
気づいた時には自身の器の小ささに落胆した。でも、これで良い、と夏生は思っている。私から離れて、新しい友人と仲良くしてくれればいい、それが秋菜や周りにとっての幸せに繋がる、と。
夏生はその目を見返した後で、「うん、私の考えは変わらないよ。いつ他の超能力者が秋菜や周りの人達に危害を加えるかわからないもの。リスクを考えると私と関わる人は減らした方がいい」と伝えた。
秋菜には他の超能力者の存在と懸念点を話している。その上で、秋菜の考えも変わらなかった。
「そっか」秋菜は寂しそうな表情を浮かべた。「だとしても、人と関わらない理由にはならないと思う。夏生が、両親を失って、もうこれ以上誰も失いたくないと考えるのは分かるよ。その上で私の考えを聞いてほしい。もし傷つけて酷いことを言ってしまったらごめんなさい」と秋菜は前置きをする。
「私は凡人だからさ、超能力が使える夏生の考えや心配が全てわかるわけじゃない。でもさ、それって交通事故や通り魔が怖いから誰とも関わらない、と言っているのと同じだと思う。生きていく上で仕方の……防ぎようのないことじゃないのかな?きっとご両親が今の夏生を見たら心配すると思うよ」
秋菜の言葉を受け、夏生は今の自分を俯瞰的に思い浮かべた。
ボロボロになったジャージを着て息の上がった女子高生。部活に精を出しているのではない。来るべき超能力者との戦いのために備えているのだ。
どう考えても普通じゃない。異常だ。そもそも修行とはなんだ。夏生は苛立っていく。街へ出ればおしゃれをし、友達や彼氏彼女と過ごす学生達。対して自分はボロボロのジャージだ。異常だ。
突き詰めれば他の超能力者の存在も夏生の憶測、妄想であり、ありもしないことに不安になっているだけである。やっていられない、と何度思ったことか。
空虚だ。虚しさを感じる。そして、その妄想に秋菜を付き合わせているのだ。夏生が、送りたかった学生生活をに思いを馳せるほど、当たり前の日常を過ごしている彼らに対し、妬みの感情が膨らみ、それをぶつけたくなる。私だけ不公平じゃないか、と。
そしてその妬みに比例してに秋菜を巻き込み、奪ってきたものの大きさと罪悪感に夏生は押し潰されそうになる。
両親と過ごした時間が|如何《いか》に大切であり、もう二度と戻らないことであるかをその身をもって夏生は、知っている。それはモノやお金に代えられず、決して償えないものだ。
「心配してくれて、ありがとう。気持ちは伝わっているけど、そうすることはできない。秋菜はさっき、防ぎようのないこと、と言ったけれど事故の時、私が無意識に発動した超能力をお父さんとお母さんにも使えていたら、救うことはきっと、できたよ。ずっと、そう思っているの。だからこそあなたを、周りを、これ以上は巻き込めない」
夏生は感情的ではなく、諭すように、一言一言噛み締めるように伝えた。
「そうか。変わらないか」と秋菜は背伸びをし「ごめんね。最近、不機嫌な雰囲気を出しちゃってて。気まずかったでしょ」と軽い調子で話し始めた。
けれど夏生には無理していることが分かる。秋菜が、嘘を見抜くことができるのと同じように彼女が平静を装っていることが夏生は分かるのだ。
頬に冷たさを感じ、空を見上げると暗雲が立ち込め、ぽつり、ぽつりと雨が降り始めてきた。「私も、夏生と同じように、気持ちは変わってないよ。ただ、この話はもうしない。お互い平行線だし、そもそも、夏生の人生だもんね。私が口出しすることじゃないよね」秋菜も空を見上げ、「雨降ってきたね。私は塾があるし、また学校で」と山を降りて行く。夏生はその後ろ姿を無言で見送る事しかできなかった。
『夏生の人生だもんね』という秋菜の言葉を、頭の中で|反芻《はんすう》する。
夏生は胸の内に寂しさを感じていた。夏生の思いを尊重してくれたことが分かるが、同時に一線を引いたということだ。
一人で抱え込むから引き篭もるんだ、もっと周りを頼れ、と夏生を叱咤する秋菜。分別がつかない時期だからこそ伝わる言葉だってあるのだ。
あの時は|鬱陶《うっとう》しく思い、売り言葉に買い言葉だったが、あの無神経さでぶつかってきて欲しかったのだと夏生は今になって気づく。
秋菜が一線を引く程に考えていたとは知らなかった。彼女の気持ちも知らずに一方的に話し過ぎていた、と夏生は反省する。
そしてお互いの言い分が、意地が衝突するばかりで着地点を見つけようとしなかった。週明けの学校で改めて話し合おう、と思い、夏生は山を降りて行く。
翌日、夏生は夕陽が沈む河川敷を、全力で走っていた。秋菜は学校を休んだ。体調不良だと、学校へ連絡があったらしい。
夏生には秋菜からの連絡の代わりに、ある男から連絡があった。
男は山岸と名乗った。松原秋菜を誘拐した、と。襲れていた事態が起こってしまった。
夏生は全身が凍ってしまうような感覚を覚える。最悪のケースが思い浮かび、必死に振り払う。どうか、無事でいてくれ、と夏生は祈り、息をつく間も無く走り続けた。