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一章 安藤夏生 9

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大岩が浮かび上がり、ズズン、と衝撃があたりに響く。「おお、すごい」と様子を見ていた秋菜が感嘆の声を上げる。
 照り付ける日差しに、秋菜は目を細めていた。今日は雲ひとつない晴天だ。
 河川敷の件から数週が経過した週末、夏生たちは裏山に居た。
 秋菜は塾もある中、時間を作って修行に付き合ってもらっている。あれ以来、表立って衝突することはないが、ぎこちない雰囲気が二人の間には漂っていた。
 大岩を浮き上がらせるのは体力の消耗が激しい。激しい運動をした後のように息が上がってしまう。
「ちょっと休憩」と秋菜の方を振り向くと、放物線を描いたペットボトルが夏生の頭上に落ちてきた。しかし頭に当たる寸前のところでペットボトルはその場で静止する。
 夏生の周囲には微弱なセンサーのようなものが張り巡らされているのだ。その範囲に入った対象物は静止する。
「大岩を浮かべて、飛んできた物の動きを止める。相変わらずすごい力だなあ」秋菜が感心している。「無敵じゃん」
「そんなことないよ。できないこともあるし」と夏生は返し「水や人を浮かせる事とかさ」と付け加えた。
 夏生は、手にしているペットボトルのラベルを剥がし、中の水に意識を集中させる。
 残りの水の量は全体のうちの二割程だ。注がれる水が逆再生されたかのように浮かび上がり、飲み口から外に出ていく。
 ペットボトルから出てからが本番だ。水は一点に集まり球体のような形を作り出していく。
 野球ボール程の大きさになり始めたところで球体はぷるぷると震え始めた。球体の間から、水が漏れ始めた。
 まるで穴の空いた袋のように水を辺りに撒き散らし、球体が飛散した。「ほらね」と夏生は肩を(すく)める。
「そうだとしても十分すごいって」秋菜が苦笑いを浮かべる。
 夏生の超能力は水に対しては作用させることは難しい。形が流動的で留めておくことができないからだ。
 かろうじて静止させることができても僅かにも動かせば形を維持できなくなり先程のように、飛散する。
 水であっても形が保たれている状態、氷を浮かせることは可能だ。また、超能力を人や動物、つまりは生き物に対し使うことはできない。
 秋菜に対し、試したことがある。意識を集中させ、外側の形状を捉えることまではできた。
 しかし浮遊させようとしたところ、金魚掬いのポイのように対象をすり抜けてしまったのだ。神経、臓器、筋肉、血液、複雑な構造をしている生き物に対しては超能力は使えない、というのが夏生の見立てである。
 約四年、夏生は超能力と共に生きてきた。複数の物に対し並行して超能力の使用ができるようになり、並大抵のことには動じない集中力を手に入れた。
 使いこなす程に、超能力は人を殺める力があることを夏生は実感する。秋菜に超能力を打ち明けたあの日、コンパスの針が彼女に向かっていたら……と何度考えたことか。
 いつしか世の中で起きている未解決の事件や、不可解な出来事の裏には超能力者が関わっていると夏生は考えるようになった。
 いつ、彼らの手が夏生の周りの人たちに及ぶのか分からない。他に超能力者がいると仮定すれば自分だけの力では守ることはできないだろう。
 あの頃は追い込まれたことで自暴自棄な考え方になり、秋菜と距離を置く選択をしたが今回は、直接的な危害を考えた上での選択だ。


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大岩が浮かび上がり、ズズン、と衝撃があたりに響く。「おお、すごい」と様子を見ていた秋菜が感嘆の声を上げる。
 照り付ける日差しに、秋菜は目を細めていた。今日は雲ひとつない晴天だ。
 河川敷の件から数週が経過した週末、夏生たちは裏山に居た。
 秋菜は塾もある中、時間を作って修行に付き合ってもらっている。あれ以来、表立って衝突することはないが、ぎこちない雰囲気が二人の間には漂っていた。
 大岩を浮き上がらせるのは体力の消耗が激しい。激しい運動をした後のように息が上がってしまう。
「ちょっと休憩」と秋菜の方を振り向くと、放物線を描いたペットボトルが夏生の頭上に落ちてきた。しかし頭に当たる寸前のところでペットボトルはその場で静止する。
 夏生の周囲には微弱なセンサーのようなものが張り巡らされているのだ。その範囲に入った対象物は静止する。
「大岩を浮かべて、飛んできた物の動きを止める。相変わらずすごい力だなあ」秋菜が感心している。「無敵じゃん」
「そんなことないよ。できないこともあるし」と夏生は返し「水や人を浮かせる事とかさ」と付け加えた。
 夏生は、手にしているペットボトルのラベルを剥がし、中の水に意識を集中させる。
 残りの水の量は全体のうちの二割程だ。注がれる水が逆再生されたかのように浮かび上がり、飲み口から外に出ていく。
 ペットボトルから出てからが本番だ。水は一点に集まり球体のような形を作り出していく。
 野球ボール程の大きさになり始めたところで球体はぷるぷると震え始めた。球体の間から、水が漏れ始めた。
 まるで穴の空いた袋のように水を辺りに撒き散らし、球体が飛散した。「ほらね」と夏生は肩を|竦《すく》める。
「そうだとしても十分すごいって」秋菜が苦笑いを浮かべる。
 夏生の超能力は水に対しては作用させることは難しい。形が流動的で留めておくことができないからだ。
 かろうじて静止させることができても僅かにも動かせば形を維持できなくなり先程のように、飛散する。
 水であっても形が保たれている状態、氷を浮かせることは可能だ。また、超能力を人や動物、つまりは生き物に対し使うことはできない。
 秋菜に対し、試したことがある。意識を集中させ、外側の形状を捉えることまではできた。
 しかし浮遊させようとしたところ、金魚掬いのポイのように対象をすり抜けてしまったのだ。神経、臓器、筋肉、血液、複雑な構造をしている生き物に対しては超能力は使えない、というのが夏生の見立てである。
 約四年、夏生は超能力と共に生きてきた。複数の物に対し並行して超能力の使用ができるようになり、並大抵のことには動じない集中力を手に入れた。
 使いこなす程に、超能力は人を殺める力があることを夏生は実感する。秋菜に超能力を打ち明けたあの日、コンパスの針が彼女に向かっていたら……と何度考えたことか。
 いつしか世の中で起きている未解決の事件や、不可解な出来事の裏には超能力者が関わっていると夏生は考えるようになった。
 いつ、彼らの手が夏生の周りの人たちに及ぶのか分からない。他に超能力者がいると仮定すれば自分だけの力では守ることはできないだろう。
 あの頃は追い込まれたことで自暴自棄な考え方になり、秋菜と距離を置く選択をしたが今回は、直接的な危害を考えた上での選択だ。