表示設定
表示設定
目次 目次




商談12 うどんの秘密

ー/ー



俺は無我夢中でうどんを噛み切ろうとするが......弾力があって噛み切れない! 俺は今、空前絶後のもちもち麺と相まみえている。これまでの人生において、たかが麺一本にここまで苦戦することなどあっただろうか?
「お父さんは学歴が全てだと言っていました。けれど、私にとってはうどんだって立派な学歴なんです! この麺には、私の人生の全てを打ち込んでいるのです!」
 凪さんは熱弁を奮うが、今の俺はそれどころではない。とにかく、この麺はしなやかで頑丈。いっそのこと、現代工学にでも転用したらどうだろうか?
「しかしながら、一本うどんはあまりにもしなやかで私自身も苦戦しました。そこで私は、この麺にあるトリックを組み込んだのです」
 そういうと凪さんは、うどんに添えていたくし切りレモンをナイフの如くうどんへ押し当てる。するとどうだろうか? あれほど丈夫でしなやかだった麺が、布切れのように容易く切断されたではないか!?
「不思議でしょう? これも企業秘密です」
 凪さんは自慢げに語る。おそらく、強い酸性反応を示すレモンの果汁がうどんへ何かしら作用しているのだろうが、素人である俺にそれ以上のことを推し量ることは出来ない。というより、ここまで科学に精通してもなお彼女が頑なにうどん屋にこだわる理由は何なのだろうか? 俺はむしろそちらの方が気になってしまう。
 要領を得た俺は麺を細切れにしていく。一口に収まる長さとなった麺を、俺は今一度噛み締める。麺は強い弾力を持ちながらも小麦の香りが心地よく感じられる。こんな麺を発明した彼女にはノーベル賞を贈呈したいところだ。いや、正確にはイグノーベル賞(・・・・・・・)か?
「......そうそう! 付け合わせは赤ワインで煮込んだ猪肉なんです! こちらも是非ご賞味あれ!」
 凪さんは、ここぞとばかりにうどんの魅力をアピールする。確かに肉うどんというものもあるが、それは牛肉であることが多い。果たして、猪肉のお味はどうだろうか?
「......んんっ!?」
 俺の口内で、野性味あふれるイノシシが駆け巡る。そんなイノシシをマタドールがムレータ(赤いマント)で翻弄する。それはさながら猪肉と赤ワインの共演、とても情熱的だ。マタドールの相手は牛じゃないかって? そんな指摘は野暮というもの、俺の心は猪突猛進だ!


スタンプを贈って作者を応援しよう!

次のエピソードへ進む 商談13 山鯨


みんなのリアクション



おすすめ作品を読み込み中です…



俺は無我夢中でうどんを噛み切ろうとするが......弾力があって噛み切れない! 俺は今、空前絶後のもちもち麺と相まみえている。これまでの人生において、たかが麺一本にここまで苦戦することなどあっただろうか?
「お父さんは学歴が全てだと言っていました。けれど、私にとってはうどんだって立派な学歴なんです! この麺には、私の人生の全てを打ち込んでいるのです!」
 凪さんは熱弁を奮うが、今の俺はそれどころではない。とにかく、この麺はしなやかで頑丈。いっそのこと、現代工学にでも転用したらどうだろうか?
「しかしながら、一本うどんはあまりにもしなやかで私自身も苦戦しました。そこで私は、この麺にあるトリックを組み込んだのです」
 そういうと凪さんは、うどんに添えていたくし切りレモンをナイフの如くうどんへ押し当てる。するとどうだろうか? あれほど丈夫でしなやかだった麺が、布切れのように容易く切断されたではないか!?
「不思議でしょう? これも企業秘密です」
 凪さんは自慢げに語る。おそらく、強い酸性反応を示すレモンの果汁がうどんへ何かしら作用しているのだろうが、素人である俺にそれ以上のことを推し量ることは出来ない。というより、ここまで科学に精通してもなお彼女が頑なにうどん屋にこだわる理由は何なのだろうか? 俺はむしろそちらの方が気になってしまう。
 要領を得た俺は麺を細切れにしていく。一口に収まる長さとなった麺を、俺は今一度噛み締める。麺は強い弾力を持ちながらも小麦の香りが心地よく感じられる。こんな麺を発明した彼女にはノーベル賞を贈呈したいところだ。いや、正確には|イグノーベル賞《・・・・・・・》か?
「......そうそう! 付け合わせは赤ワインで煮込んだ猪肉なんです! こちらも是非ご賞味あれ!」
 凪さんは、ここぞとばかりにうどんの魅力をアピールする。確かに肉うどんというものもあるが、それは牛肉であることが多い。果たして、猪肉のお味はどうだろうか?
「......んんっ!?」
 俺の口内で、野性味あふれるイノシシが駆け巡る。そんなイノシシをマタドールが|ムレータ《赤いマント》で翻弄する。それはさながら猪肉と赤ワインの共演、とても情熱的だ。マタドールの相手は牛じゃないかって? そんな指摘は野暮というもの、俺の心は猪突猛進だ!