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一章 安藤夏生 2

ー/ー



午前の授業を終え、それぞれが弁当を広げたり友人達が集まり始める。お昼休みだ。
「お昼だー!」秋菜が椅子を持ってきて夏生の机に弁当箱を置いた。母親が作ってくれたのだろう。彼女は母親の実家で祖父、祖母と一緒に暮らしている。
小学三年生の頃にこの街へ引っ越してきた。幼い頃の記憶は曖昧だが、初めて出会ったのは公園だったはずだ。気がつけば一緒に遊ぶようになっていた。
当時、夏生の母親が「離婚して戻ってきたらしいわよ」と父親と話していたのは鮮明に覚えている。トイレで起きた時に偶然、聞いてしまったのだ。
「うん、食べようか」夏生も机に弁当を広げる。
「自分で作ってくるなんてすごいよね」秋菜が感心する。
「基本的には残り物を詰めたりするだけだよ。すごいことじゃないって」夏生は弁当は自分で作っている。
家族三人で暮らしていた自宅は夏生ひとりで過ごすには有り余る。全てを祖父母の世話になるわけにはいかないし、キッチンを使わなくなるのも寂しい。だからこそ、弁当だけは、と自身で作っているのだ。
「二人とも仲良いねえ」中村春奈(なかむらはるな)が声をかけてくる。隣の柴田真冬(しばたまふゆ)が「キーホルダーもお揃いで可愛いよね」と東京にある遊園地の名前を口にする。春奈と真冬は同じ中学校から進学してきたらしい。
「うん、前に二人で行ったことがあって買ったんだ」秋菜が嬉しそうに鞄を持ち上げるとクマのキーホルダーが揺れる。
 両親が亡くなって三ヶ月が経ったころ、秋菜の母親が遊園地に連れて行ってくれたのだ。その時に購入をしたものだ。
「いいなあ」真冬が朗らかに言う。
「東京じゃなくてもさ、どっかに遊び行きたいよね」春奈が提案する。
「今週末、よかったら安藤さん達もどうかな?」真冬が誘ってきた。
「あ、私は週末に予定があるんだ」夏生は断った。
「そっか。急だもんね」真冬が謝る。「松原さんも予定、あるよね」と秋菜へ目を向けた。
「うん、その日は塾があるんだ」ごめん!と秋菜は手を合わせる。
「松原さん、もう塾に通ってるの?入学したばかりなのに?」と春奈が驚く。
「うん、ウチはお母さんが一人だから、少しでも楽させたいと思ってさ、無理言って通わせてもらっているんだ」秋菜が説明した。
「親思いのいい子」と春奈は感心している。「授業中にウトウトしているあたしとは大違いだ」
「春奈はしっかり授業を受けてもっと親に感謝した方がいい」真冬がため息をつく。
「真冬は真面目だなあ」春奈が茶化す。
「ノート見せてやらないからね」真冬がぴしゃりと言い放つ。
「嘘嘘、冗談だから許して」
「はいはい」と春奈をあしらいつつ夏生と秋菜の方へ向き、「二人とも急にごめんね。今度は前もって誘うよ」と伝えてきた。
「うん、そうしてくれると助かる。こっちこそごめんね」秋菜が返す。
 いくつか何気ない会話を交わし、二人が去っていく。
 その間、話をするのは秋菜だった。夏生は、へえ、そうなんだ、すごいね、と相槌を打っていた。理由があるとはいえ、一定の距離を保ち、立ち回るのには虚しさを感じる。
そして気を遣い、疲れてしまう。思わずため息をつきそうになる。
「二人と今度、遊びに行けたらいいね」
「うん、そうだね」返事をしつつ、果たして叶うだろうか、と夏生は考えていた。 
 
「今日、日直の仕事で遅くなるからさ、先に帰ってていいよ」放課後、秋菜がそう伝えてきた。
「わかった。じゃあ先に帰ってるね」夏生は学校を後にした。寂しさを感じるが、これは仕方のないことだ、と夏生は自分に言い聞かせる。
 夏生はバスを降り、河川敷を歩いていた。土手には野球部員達が走り込みをしている。
威勢の良い声が河川敷に響いていた。夏生は腰を下ろし、その光景を眺める。
 秋菜と合流しようと思ったのだ。やはり、一人で帰るのは寂しかった。他の友人がいないと尚更だ。夏生は当然、部活に入らず、仲間と共に一つの目標に向かって打ち込んだ経験もない。いつ超能力が暴発してしまうか分からないからだ。
 そういえば、西田も野球部だったな、と夏生は思い出す。同時に、得体の知れない人、として見られたあの時の表情も。小学生の頃、夏生は一度だけ超能力を見られてしまったことがある。


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午前の授業を終え、それぞれが弁当を広げたり友人達が集まり始める。お昼休みだ。
「お昼だー!」秋菜が椅子を持ってきて夏生の机に弁当箱を置いた。母親が作ってくれたのだろう。彼女は母親の実家で祖父、祖母と一緒に暮らしている。
小学三年生の頃にこの街へ引っ越してきた。幼い頃の記憶は曖昧だが、初めて出会ったのは公園だったはずだ。気がつけば一緒に遊ぶようになっていた。
当時、夏生の母親が「離婚して戻ってきたらしいわよ」と父親と話していたのは鮮明に覚えている。トイレで起きた時に偶然、聞いてしまったのだ。
「うん、食べようか」夏生も机に弁当を広げる。
「自分で作ってくるなんてすごいよね」秋菜が感心する。
「基本的には残り物を詰めたりするだけだよ。すごいことじゃないって」夏生は弁当は自分で作っている。
家族三人で暮らしていた自宅は夏生ひとりで過ごすには有り余る。全てを祖父母の世話になるわけにはいかないし、キッチンを使わなくなるのも寂しい。だからこそ、弁当だけは、と自身で作っているのだ。
「二人とも仲良いねえ」|中村春奈《なかむらはるな》が声をかけてくる。隣の|柴田真冬《しばたまふゆ》が「キーホルダーもお揃いで可愛いよね」と東京にある遊園地の名前を口にする。春奈と真冬は同じ中学校から進学してきたらしい。
「うん、前に二人で行ったことがあって買ったんだ」秋菜が嬉しそうに鞄を持ち上げるとクマのキーホルダーが揺れる。
 両親が亡くなって三ヶ月が経ったころ、秋菜の母親が遊園地に連れて行ってくれたのだ。その時に購入をしたものだ。
「いいなあ」真冬が朗らかに言う。
「東京じゃなくてもさ、どっかに遊び行きたいよね」春奈が提案する。
「今週末、よかったら安藤さん達もどうかな?」真冬が誘ってきた。
「あ、私は週末に予定があるんだ」夏生は断った。
「そっか。急だもんね」真冬が謝る。「松原さんも予定、あるよね」と秋菜へ目を向けた。
「うん、その日は塾があるんだ」ごめん!と秋菜は手を合わせる。
「松原さん、もう塾に通ってるの?入学したばかりなのに?」と春奈が驚く。
「うん、ウチはお母さんが一人だから、少しでも楽させたいと思ってさ、無理言って通わせてもらっているんだ」秋菜が説明した。
「親思いのいい子」と春奈は感心している。「授業中にウトウトしているあたしとは大違いだ」
「春奈はしっかり授業を受けてもっと親に感謝した方がいい」真冬がため息をつく。
「真冬は真面目だなあ」春奈が茶化す。
「ノート見せてやらないからね」真冬がぴしゃりと言い放つ。
「嘘嘘、冗談だから許して」
「はいはい」と春奈をあしらいつつ夏生と秋菜の方へ向き、「二人とも急にごめんね。今度は前もって誘うよ」と伝えてきた。
「うん、そうしてくれると助かる。こっちこそごめんね」秋菜が返す。
 いくつか何気ない会話を交わし、二人が去っていく。
 その間、話をするのは秋菜だった。夏生は、へえ、そうなんだ、すごいね、と相槌を打っていた。理由があるとはいえ、一定の距離を保ち、立ち回るのには虚しさを感じる。
そして気を遣い、疲れてしまう。思わずため息をつきそうになる。
「二人と今度、遊びに行けたらいいね」
「うん、そうだね」返事をしつつ、果たして叶うだろうか、と夏生は考えていた。 
「今日、日直の仕事で遅くなるからさ、先に帰ってていいよ」放課後、秋菜がそう伝えてきた。
「わかった。じゃあ先に帰ってるね」夏生は学校を後にした。寂しさを感じるが、これは仕方のないことだ、と夏生は自分に言い聞かせる。
 夏生はバスを降り、河川敷を歩いていた。土手には野球部員達が走り込みをしている。
威勢の良い声が河川敷に響いていた。夏生は腰を下ろし、その光景を眺める。
 秋菜と合流しようと思ったのだ。やはり、一人で帰るのは寂しかった。他の友人がいないと尚更だ。夏生は当然、部活に入らず、仲間と共に一つの目標に向かって打ち込んだ経験もない。いつ超能力が暴発してしまうか分からないからだ。
 そういえば、西田も野球部だったな、と夏生は思い出す。同時に、得体の知れない人、として見られたあの時の表情も。小学生の頃、夏生は一度だけ超能力を見られてしまったことがある。