14話
ー/ー
足を一歩、また一歩と踏み出し回転数を上げていく。踏み出すたびにグラウンドが小さく土煙を上げている。
残り十メートルといったところで背後から「お前達、何をやっているんだ!」と声が聞こえてきた。振り向けていないが声から推測するに木村先生だろう。
「やべっ!見つかった!」息を切らしながらも、田中はどこか楽しそうな表情だ。
気づかれたが、校門まではもう目と鼻の先だ。このまま突っ切るしかないだろう。
しかし「よし。お前達は先に行け」と高橋が提案した。
「どうして?」息を弾ませて僕は振り返る。
「木村先生は小柄だけど、陸上の選手だったんだぜ?お前達じゃ追い付かれてしまうぞ?」
初めて知った木村先生の情報に僕と田中はその瞬間は疲れを忘れて「陸上選手だったの?」と声を上げた。
「それに俺ならこの体格でなんとか止められるはずだ」と呟き、「そんなことを話している間に木村先生がやってきたぞ」と後ろを指差した。
昇降口を振り返れば、木村先生が靴を履き替えているところだ。どれほど早いのだろう、僕はチーターに襲われるシマウマの構図を思い浮かべ、末恐ろしい気持ちになる。
「勇によろしく伝えといてくれ。さあ、早く行け!」高橋は体を反転させると、昇降口へ向かって走り始めた。遠ざかる背中を見て「高橋!ありがとう!」と声をかけると、振り返らずに右手に拳を作り、高く掲げていた。
僕と田中は校門を乗り越えて学校の外へと出た。僕は言葉にできない背徳感を味わっていた。普段は学校にいるべき時間帯に外にいるからだろう。
気分を味わうのも束の間、僕達は勇の家がある方向へ走り始めた。しかし距離は遠く、どれだけ急いで走っても、三十分はかかってしまう。学校を出る時に、校舎の時計を確認したが十一時三十分を少し過ぎていた。
勇はお昼過ぎに街を出ると言っていたので、到着した頃にはすれ違ってしまう事もありえないことではない。「それに」と僕は田中に目を向ける。田中はふくよかな体型で、体力があまりあるわけではない。合わせながら走っていたら、間に合うものも間に合わないだろう。
田中は田中でなんとか必死で足を動かしている。
「なあ、透」肩を上下させて田中が話しかけてくる。
「どうした田中?」ちょっと休憩しよう、と提案されるのだろうか、と思っていたところ、田中の口から「一旦俺のウチに寄らないか?」というので驚いた。まさか自宅で休憩とは。
「田中の家で休むってことか?」僕は足を止めた。却下しようとしたが田中「そうじゃない」と言い、続ける。「母ちゃんのチャリを貸してやるよ」
「いいのか?」思わぬ提案ながらも、非常に魅力的だ。
「いいよ。どうせ今はお菓子食べてグータラしてるだろうしさ」と苦笑いし「それに俺の体力と足の速さじゃ間に合わないだろ?」と申し訳なさそうに頭を掻いた。
「そんなことはない」と僕は言い、「田中が提案してくれたからここまで形になったんだから」と励ました。
田中は「あれは冗談だったんだけどな」と笑っている。
「じゃあ、田中の家に行こうか」と僕は走り出す。
田中は僕の横に追いつき、並走する形となり、「こういうのって楽しいよな」と呟いた。息は少しずつ整い始めている。
「こういうのって?」
「学校抜け出して別なことしてることさ」
「ああ、分かるよ。気分が上がるよな」田中も同じ気分だったのか。僕は嬉しい気持ちになる。
「ほら、俺は気が弱い性格だからさ、あんまり人と違うことはやることは怖くてできないんだよ」と田中が話し始めた。
「今までの俺だったら、この話は自分だけは降りてきっと傍観してたと思うんだ」田中は僕の方を見た。
「でも、透や勇を見ていたら、『もっと自分から関わって変わっていかないと』って思うようになったんだ」
「そんな、僕は何もしていないさ。全部勇が」と言いかけたところで田中に遮られた。
「したじゃないか。透がいじめられていた頃に俺は話を聞くだけで何もできていなかったのに、勇がきてから、高橋と金谷に立ち向かった。そして今では透のために協力してくれるようになった。これは間違いなく透の力なんだよ」
「ありがとう、田中」僕はお礼を言い、続ける。「でもな、自分をそんなに卑下するんじゃない。確かに僕は勇のお陰で変わることができたよ。でも田中が話を聞いて寄り添ってくれたから学校に通えたんだ。もし田中がいなかったら一人で抱え込んで心が壊れて、勇が転校してきた頃には不登校になっていたかもしれない。そう思うんだ」
「そんなことは」田中は心配そうに僕を見ている。
「もう一度言うけれど、田中、自分を卑下するんじゃない。それは自分自身に一番失礼なことなんだ。僕はそれを身をもって知っているからさ」
「確かに、あの頃の透は見ていられなかったから、説得力があるなあ」田中が苦笑いを浮かべている。
僕は「そうだろ?」と答え、先へ走り始めた。背後からは「待ってくれよ」と田中の声が聞こえてきた。
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残り十メートルといったところで背後から「お前達、何をやっているんだ!」と声が聞こえてきた。振り向けていないが声から推測するに木村先生だろう。
「やべっ!見つかった!」息を切らしながらも、田中はどこか楽しそうな表情だ。
気づかれたが、校門まではもう目と鼻の先だ。このまま突っ切るしかないだろう。
しかし「よし。お前達は先に行け」と高橋が提案した。
「どうして?」息を弾ませて僕は振り返る。
「木村先生は小柄だけど、陸上の選手だったんだぜ?お前達じゃ追い付かれてしまうぞ?」
初めて知った木村先生の情報に僕と田中はその瞬間は疲れを忘れて「陸上選手だったの?」と声を上げた。
「それに俺ならこの体格でなんとか止められるはずだ」と呟き、「そんなことを話している間に木村先生がやってきたぞ」と後ろを指差した。
昇降口を振り返れば、木村先生が靴を履き替えているところだ。どれほど早いのだろう、僕はチーターに襲われるシマウマの構図を思い浮かべ、末恐ろしい気持ちになる。
「勇によろしく伝えといてくれ。さあ、早く行け!」高橋は体を反転させると、昇降口へ向かって走り始めた。遠ざかる背中を見て「高橋!ありがとう!」と声をかけると、振り返らずに右手に拳を作り、高く掲げていた。
僕と田中は校門を乗り越えて学校の外へと出た。僕は言葉にできない背徳感を味わっていた。普段は学校にいるべき時間帯に外にいるからだろう。
気分を味わうのも束の間、僕達は勇の家がある方向へ走り始めた。しかし距離は遠く、どれだけ急いで走っても、三十分はかかってしまう。学校を出る時に、校舎の時計を確認したが十一時三十分を少し過ぎていた。
勇はお昼過ぎに街を出ると言っていたので、到着した頃にはすれ違ってしまう事もありえないことではない。「それに」と僕は田中に目を向ける。田中はふくよかな体型で、体力があまりあるわけではない。合わせながら走っていたら、間に合うものも間に合わないだろう。
田中は田中でなんとか必死で足を動かしている。
「なあ、透」肩を上下させて田中が話しかけてくる。
「どうした田中?」ちょっと休憩しよう、と提案されるのだろうか、と思っていたところ、田中の口から「一旦俺のウチに寄らないか?」というので驚いた。まさか自宅で休憩とは。
「田中の家で休むってことか?」僕は足を止めた。却下しようとしたが田中「そうじゃない」と言い、続ける。「母ちゃんのチャリを貸してやるよ」
「いいのか?」思わぬ提案ながらも、非常に魅力的だ。
「いいよ。どうせ今はお菓子食べてグータラしてるだろうしさ」と苦笑いし「それに俺の体力と足の速さじゃ間に合わないだろ?」と申し訳なさそうに頭を掻いた。
「そんなことはない」と僕は言い、「田中が提案してくれたからここまで形になったんだから」と励ました。
田中は「あれは冗談だったんだけどな」と笑っている。
「じゃあ、田中の家に行こうか」と僕は走り出す。
田中は僕の横に追いつき、並走する形となり、「こういうのって楽しいよな」と呟いた。息は少しずつ整い始めている。
「こういうのって?」
「学校抜け出して別なことしてることさ」
「ああ、分かるよ。気分が上がるよな」田中も同じ気分だったのか。僕は嬉しい気持ちになる。
「ほら、俺は気が弱い性格だからさ、あんまり人と違うことはやることは怖くてできないんだよ」と田中が話し始めた。
「今までの俺だったら、この話は自分だけは降りてきっと傍観してたと思うんだ」田中は僕の方を見た。
「でも、透や勇を見ていたら、『もっと自分から関わって変わっていかないと』って思うようになったんだ」
「そんな、僕は何もしていないさ。全部勇が」と言いかけたところで田中に遮られた。
「したじゃないか。透がいじめられていた頃に俺は話を聞くだけで何もできていなかったのに、勇がきてから、高橋と金谷に立ち向かった。そして今では透のために協力してくれるようになった。これは間違いなく透の力なんだよ」
「ありがとう、田中」僕はお礼を言い、続ける。「でもな、自分をそんなに卑下するんじゃない。確かに僕は勇のお陰で変わることができたよ。でも田中が話を聞いて寄り添ってくれたから学校に通えたんだ。もし田中がいなかったら一人で抱え込んで心が壊れて、勇が転校してきた頃には不登校になっていたかもしれない。そう思うんだ」
「そんなことは」田中は心配そうに僕を見ている。
「もう一度言うけれど、田中、自分を卑下するんじゃない。それは自分自身に一番失礼なことなんだ。僕はそれを身をもって知っているからさ」
「確かに、あの頃の透は見ていられなかったから、説得力があるなあ」田中が苦笑いを浮かべている。
僕は「そうだろ?」と答え、先へ走り始めた。背後からは「待ってくれよ」と田中の声が聞こえてきた。