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12話

ー/ー



別れがあるからこそ、人はその一瞬一瞬を精一杯生きるのかもしれない。
 
 勇が転校してきてから半年以上がが経った三月。二年生へと進級するものかと思っていたが、別れの日は突然やってきた。

「実はさ、俺、また転校するんだ」勇は頭を掻き、気まずそうに打ち明けた。

 部活動が休みの日である二月の水曜日。僕と田中と勇は一緒に帰宅をしていたところだ。僕と田中は自転車を引き、勇は歩いている。

「え?転校するの?」僕と田中の声が重なった。
「あぁ、父親の転勤でな」そう話す勇の声は寂しさが滲んでいる。

 田中と勇はこの半年間で仲良くなった。初めは傷の件で遠巻きにしていたが、話しているうちに自然と打ち解けるようになり、今では三人で遊び、学校を帰宅するほどの仲となっている。

 高橋と金谷との関係性も変わり始めた。いじめというものはなくなり、部活はもちろん、教室でも会話を交わすようになった。

 彼らの事情や内側を知ることで見方が変わったように思える。部活終了後に一緒に帰り、練習での反省点や、昨日見たテレビの話など、他愛もないことを話せるようになった。二人とこのように話す時が来るなんて、去年の僕に伝えたら「馬鹿なことを言うな」と一蹴することだろう。

 僕が変われたのは間違えなく勇のおかげだ。感謝してもしきれない。だからこそ衝撃は大きかった。
 
 春休みを目前に控えた三月の中旬に勇は引っ越してしまうらしい。私たちは最後の日にクラス総出でお別れ会を開き、勇の門出を祝福した。クラスでの寄せ書きを渡した時には勇は泣いていた。勇が最後に「この数ヶ月間、本当に楽しかった。みんなと会えて本当によかった。今までありがとうございました」と頭を下げた時には、僕も涙ぐんでいた。
 
 翌日、教室に入ると当たり前だが、勇の姿は見当たらない。もうお別れなのだな、と実感し寂しい気持ちになる。

 勇は今日の午後、お昼過ぎにはこの街を出ると言っていた。見送りに行きたいが、学校があるため行けないのが名残惜しい。

 ふと気になり、僕は勇の席へ近づいていた。机の中を覗き込むと、ペンケースが入ったままのことに気づき、僕は取り出した。

 青色で、革製のペンケース。勇はこのペンケースを大事そうに使っていた。「お気に入りなのか?」と僕が尋ねると、勇は、中学校に上がった時に両親からプレゼントされたものだと説明してくれた。「おしゃれで長い間使えるように」と奮発してくれたようで、きっと両親も勇が少しでも学校生活を楽しんでもらえるように張り切ったのだろう。そう思うと心が温かい気持ちになった。

 教科書類は会の前に大きな手提げ鞄に一式入れていたが、ペンは使うため、机の中に入れておいたのだろう。会に夢中になり、プレゼントなどを受け取っているうちに忘れてしまったのかもしれない。

 自分の机に戻り、どうするべきか悩んでいると、田中が「それ、勇の筆箱じゃない?」と話しかけてきた。

「ああ、そうなんだ。きっと会に夢中で忘れてしまったんだろうな」

「勇のところへ届けに行くか?」冗談交じりに提案をしてくる。

「学校を抜け出すのか?」僕は戸惑う。自慢ではないが真面目一辺倒で生きてきた男だ。学校を抜け出すなんてもってのほかだ。

「なんだ?面白そうな話をしてるじゃないか」高橋が僕の席に近づいてきた。金谷も一緒だ。
「いいじゃん。面白そうじゃないか。やろうぜ透」金谷が(はや)し立ててくる。

「でもどうやって?」提案した当人である田中が尋ねている。

「それはだな」高橋がひそひそと秘密の話をするように声を潜め、右手を自身の顔の横に当てる。僕達は自然と耳を(そばだ)てる形になる。

 聴き終えた僕は、不安と同時に高揚する気持ちを感じていた。けれどもそもそもの疑問を僕は口にする。「どうしてそこまで協力してくれるんだ?」

「透が言ったんじゃないか」金谷が眉を潜め「人を喜ばせることをしろってさ」と高橋が言葉の跡を継いだ。


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別れがあるからこそ、人はその一瞬一瞬を精一杯生きるのかもしれない。
 勇が転校してきてから半年以上がが経った三月。二年生へと進級するものかと思っていたが、別れの日は突然やってきた。
「実はさ、俺、また転校するんだ」勇は頭を掻き、気まずそうに打ち明けた。
 部活動が休みの日である二月の水曜日。僕と田中と勇は一緒に帰宅をしていたところだ。僕と田中は自転車を引き、勇は歩いている。
「え?転校するの?」僕と田中の声が重なった。
「あぁ、父親の転勤でな」そう話す勇の声は寂しさが滲んでいる。
 田中と勇はこの半年間で仲良くなった。初めは傷の件で遠巻きにしていたが、話しているうちに自然と打ち解けるようになり、今では三人で遊び、学校を帰宅するほどの仲となっている。
 高橋と金谷との関係性も変わり始めた。いじめというものはなくなり、部活はもちろん、教室でも会話を交わすようになった。
 彼らの事情や内側を知ることで見方が変わったように思える。部活終了後に一緒に帰り、練習での反省点や、昨日見たテレビの話など、他愛もないことを話せるようになった。二人とこのように話す時が来るなんて、去年の僕に伝えたら「馬鹿なことを言うな」と一蹴することだろう。
 僕が変われたのは間違えなく勇のおかげだ。感謝してもしきれない。だからこそ衝撃は大きかった。
 春休みを目前に控えた三月の中旬に勇は引っ越してしまうらしい。私たちは最後の日にクラス総出でお別れ会を開き、勇の門出を祝福した。クラスでの寄せ書きを渡した時には勇は泣いていた。勇が最後に「この数ヶ月間、本当に楽しかった。みんなと会えて本当によかった。今までありがとうございました」と頭を下げた時には、僕も涙ぐんでいた。
 翌日、教室に入ると当たり前だが、勇の姿は見当たらない。もうお別れなのだな、と実感し寂しい気持ちになる。
 勇は今日の午後、お昼過ぎにはこの街を出ると言っていた。見送りに行きたいが、学校があるため行けないのが名残惜しい。
 ふと気になり、僕は勇の席へ近づいていた。机の中を覗き込むと、ペンケースが入ったままのことに気づき、僕は取り出した。
 青色で、革製のペンケース。勇はこのペンケースを大事そうに使っていた。「お気に入りなのか?」と僕が尋ねると、勇は、中学校に上がった時に両親からプレゼントされたものだと説明してくれた。「おしゃれで長い間使えるように」と奮発してくれたようで、きっと両親も勇が少しでも学校生活を楽しんでもらえるように張り切ったのだろう。そう思うと心が温かい気持ちになった。
 教科書類は会の前に大きな手提げ鞄に一式入れていたが、ペンは使うため、机の中に入れておいたのだろう。会に夢中になり、プレゼントなどを受け取っているうちに忘れてしまったのかもしれない。
 自分の机に戻り、どうするべきか悩んでいると、田中が「それ、勇の筆箱じゃない?」と話しかけてきた。
「ああ、そうなんだ。きっと会に夢中で忘れてしまったんだろうな」
「勇のところへ届けに行くか?」冗談交じりに提案をしてくる。
「学校を抜け出すのか?」僕は戸惑う。自慢ではないが真面目一辺倒で生きてきた男だ。学校を抜け出すなんてもってのほかだ。
「なんだ?面白そうな話をしてるじゃないか」高橋が僕の席に近づいてきた。金谷も一緒だ。
「いいじゃん。面白そうじゃないか。やろうぜ透」金谷が囃《はや》し立ててくる。
「でもどうやって?」提案した当人である田中が尋ねている。
「それはだな」高橋がひそひそと秘密の話をするように声を潜め、右手を自身の顔の横に当てる。僕達は自然と耳を|欹《そばだ》てる形になる。
 聴き終えた僕は、不安と同時に高揚する気持ちを感じていた。けれどもそもそもの疑問を僕は口にする。「どうしてそこまで協力してくれるんだ?」
「透が言ったんじゃないか」金谷が眉を潜め「人を喜ばせることをしろってさ」と高橋が言葉の跡を継いだ。