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8話

ー/ー



何度目になるだろうか。放課後、部活が終了した後、部室で高橋と金谷と向き合っていた。僕は目を逸らしてはいない。

「なんだよ。生意気な目をしやがって」高橋が睨み返してくる。

 僕は怯み、声が震えそうになるが平静を装い「そんなことはないよ」と答える。

「勇と帰ってから何かあったのか?」金谷が質問をしてくる。鋭い。

「そういえばあいつ、前の学校で問題を起こしていたらしいな」高橋が鼻を鳴らす。
 しかしその姿は緊張した面持ちのようにも見える。僕は何も見ていなかったのだなと実感した。

 彼らは「安全だと認識」したから、僕をいじめているのだ。勇は掴みどころがなく、不穏な噂が流れているからこそ、迂闊に手が出せないのだ。

 教室では勇と関わらず、今この瞬間に陰口を話しているのはその証拠ではないだろうか。

「何もなかったし、勇の本当のことは何も分からない。勝手に判断することはやめた方がいいんじゃないか?」

「勇が言ってたぜ『前の学校にはむかつく奴が多かった』って。それで頭の傷を見せてきたんだ。つまりそういうことだよな」金谷は嬉々して話し出す。

 恐らく、先日の休み時間に金谷が教室からが出た際に勇が追いかけ、打ち明けられたのだろう。広めたのは金谷自身だなと僕は検討をつけた。

「ろくな奴じゃなかったんだな」と高橋が決めつけると、僕は頭の中が小さく沸騰したのを感じた。

「おい」僕の視線に気づいたのだろう。高橋が僕を突き飛ばしてきた。唐突だっため、僕は倒れ込み尻もちをついてしまう。

 その瞬間、私の強気だった感情は崩れ落ち、全身が怯えを見せ始める。

「いい加減にしろよ」高橋が僕の左脚を蹴ってきた。つま先が当たり、ズキズキと痛みが生じる。

 すると部室が勢いよく開く音がした。勇だった。つかつかと歩みを進め、高橋の前に立ち、僕に背中を向ける形になる。「作戦の時だ」と僕は気を引き締めた。

「なんだよ?」高橋は相手を威圧するような低い声だ。こうして向かい合う二人を見ると体格さは歴然としている。勇は明らかに、高橋より小さい。勇が高橋を見上げる形になる。

「高橋、お前は今何をやっていたんだ」勇は怯むこともせず、毅然とした態度で高橋と向き合う。

 高橋は勇の態度に戸惑いを見せながらも、隠すことを諦めたのだろう「見りゃ分かるだろ?お仕置きだよ」と答え、金谷が「透はチームの足を引っ張っているんだよ」と言いつつも、高橋と勇を交互に眺めている。どちらにつくべきか迷っているのだろう。

「お前は黙ってろ」勇が睨むと金谷はたじろぎ、黙り込む。

「もう限界だ。何が罰だ。何様だよ」と勇はため息を吐いた。唐突だった。彼は右腕を引き、高橋の顔面に拳を入れたのだ。 

 僕は呆然とし、金谷は目を見開いている。高橋はよろめきながらも、体制を立て直す。何が起きたのかわからず目を丸くしていたが、すぐに把握すると、鬼のような形相を浮かべ、勇を睨みつける。「勇、てめぇ、ぶっ殺すぞ」

 その表情に僕は恐怖を覚えた。勇は「隙を見て殴る」と言っていたが、それが今だったとは。勇に続けて僕も殴るという簡易的な作戦、というか作戦といっていいか分からないがその手筈だった。僕は立ち上がるが、すでに殴る気力もきっかけも失っている。

 勇は僕に背中を向けながらも、一瞬首を動かし、僕に目配せをする。その目は「早く動け」と訴えているのだろうが、動けない。

 高橋は勇に近づき、顔面を殴り返した。体格差があるからだろう。勇は壁に背中をつけ、僕の隣に倒れ込む。
 僕は立ちすくんでいたが、勇に目を向けると、鼻血が(したた)り落ちていた。それを見た瞬間、僕は頭が沸騰するのをはっきりと自覚した。

 急いで立ち上がる勇だが、顔を抑えている。高橋が追撃を加えようと、勇に向かって行くため、僕は高橋へと飛びかかる。必死だった。勇にこれ以上怪我を負わせない。そのことしか頭になかった。

「んだ、テメェ離せ」僕は高橋の腰にしがみつき、動きを止める。

「嫌だ」

「いい加減にしろ」脇腹に拳を入れられ、僕は呻く。その隙に僕は投げ飛ばされ、背中を棚に打ち付けてしまう。肺の酸素が抜け落ちた感覚に陥り、僕は息苦しさを覚える。飾ってあるボールやトロフィーが崩れ落ちる音がした。

 僕は呼吸を整えていると、体制を立て直した勇が高橋へ向かい、再び拳を振るった。
 顔面に当たり、高橋が殴り返す。僕も急いで飛びかかり、高橋の動きを止める。高橋は僕を殴り、体を揺する。その繰り返しだ。

「なんなんだよ、お前ら」僕たちの執念に高橋は明らかに怯えを見せ始めていた。

「もう逃げないんだ」僕は殴られ、飛ばされるが、何度も高橋にしがみつき、呟いていた。

「もう、同じことを繰り返さない」勇はそう呟き、何度倒れても高橋に殴りかかる。 

 気がつけば、部室には荷物やボールが散乱していた。

 金谷が呼び出したのだろう。他の一年生の部員や先生二人が駆けつけてきて、僕たちは取り押さえられた。駆けつけた人の中に田中の姿が見えた。彼は「何があったんだ」と呆然としていた。


その後、僕と勇、高橋と金谷は呼び出され、生徒指導を受けた。僕たちは反省文と二週間の部活動停止を命じられ、勇は部活動見学の停止が言い渡された。

 当然、保護者にも連絡が行き渡り、僕は母親から「どうして話をしてくれなかったの?」と涙ながらに訴えられた時には胸が痛んだ。
 そして「一人で頑張ったのね」と言われた時には僕は子供のように泣きじゃくった。決壊したダムのように涙が止まらない。限界だったのだ。両手で目を擦り、必死で涙を拭い、「ごめんなさい、心配かけて、ごめんなさい」と何度も何度も謝り続けた。


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何度目になるだろうか。放課後、部活が終了した後、部室で高橋と金谷と向き合っていた。僕は目を逸らしてはいない。
「なんだよ。生意気な目をしやがって」高橋が睨み返してくる。
 僕は怯み、声が震えそうになるが平静を装い「そんなことはないよ」と答える。
「勇と帰ってから何かあったのか?」金谷が質問をしてくる。鋭い。
「そういえばあいつ、前の学校で問題を起こしていたらしいな」高橋が鼻を鳴らす。
 しかしその姿は緊張した面持ちのようにも見える。僕は何も見ていなかったのだなと実感した。
 彼らは「安全だと認識」したから、僕をいじめているのだ。勇は掴みどころがなく、不穏な噂が流れているからこそ、迂闊に手が出せないのだ。
 教室では勇と関わらず、今この瞬間に陰口を話しているのはその証拠ではないだろうか。
「何もなかったし、勇の本当のことは何も分からない。勝手に判断することはやめた方がいいんじゃないか?」
「勇が言ってたぜ『前の学校にはむかつく奴が多かった』って。それで頭の傷を見せてきたんだ。つまりそういうことだよな」金谷は嬉々して話し出す。
 恐らく、先日の休み時間に金谷が教室からが出た際に勇が追いかけ、打ち明けられたのだろう。広めたのは金谷自身だなと僕は検討をつけた。
「ろくな奴じゃなかったんだな」と高橋が決めつけると、僕は頭の中が小さく沸騰したのを感じた。
「おい」僕の視線に気づいたのだろう。高橋が僕を突き飛ばしてきた。唐突だっため、僕は倒れ込み尻もちをついてしまう。
 その瞬間、私の強気だった感情は崩れ落ち、全身が怯えを見せ始める。
「いい加減にしろよ」高橋が僕の左脚を蹴ってきた。つま先が当たり、ズキズキと痛みが生じる。
 すると部室が勢いよく開く音がした。勇だった。つかつかと歩みを進め、高橋の前に立ち、僕に背中を向ける形になる。「作戦の時だ」と僕は気を引き締めた。
「なんだよ?」高橋は相手を威圧するような低い声だ。こうして向かい合う二人を見ると体格さは歴然としている。勇は明らかに、高橋より小さい。勇が高橋を見上げる形になる。
「高橋、お前は今何をやっていたんだ」勇は怯むこともせず、毅然とした態度で高橋と向き合う。
 高橋は勇の態度に戸惑いを見せながらも、隠すことを諦めたのだろう「見りゃ分かるだろ?お仕置きだよ」と答え、金谷が「透はチームの足を引っ張っているんだよ」と言いつつも、高橋と勇を交互に眺めている。どちらにつくべきか迷っているのだろう。
「お前は黙ってろ」勇が睨むと金谷はたじろぎ、黙り込む。
「もう限界だ。何が罰だ。何様だよ」と勇はため息を吐いた。唐突だった。彼は右腕を引き、高橋の顔面に拳を入れたのだ。 
 僕は呆然とし、金谷は目を見開いている。高橋はよろめきながらも、体制を立て直す。何が起きたのかわからず目を丸くしていたが、すぐに把握すると、鬼のような形相を浮かべ、勇を睨みつける。「勇、てめぇ、ぶっ殺すぞ」
 その表情に僕は恐怖を覚えた。勇は「隙を見て殴る」と言っていたが、それが今だったとは。勇に続けて僕も殴るという簡易的な作戦、というか作戦といっていいか分からないがその手筈だった。僕は立ち上がるが、すでに殴る気力もきっかけも失っている。
 勇は僕に背中を向けながらも、一瞬首を動かし、僕に目配せをする。その目は「早く動け」と訴えているのだろうが、動けない。
 高橋は勇に近づき、顔面を殴り返した。体格差があるからだろう。勇は壁に背中をつけ、僕の隣に倒れ込む。
 僕は立ちすくんでいたが、勇に目を向けると、鼻血が|滴《したた》り落ちていた。それを見た瞬間、僕は頭が沸騰するのをはっきりと自覚した。
 急いで立ち上がる勇だが、顔を抑えている。高橋が追撃を加えようと、勇に向かって行くため、僕は高橋へと飛びかかる。必死だった。勇にこれ以上怪我を負わせない。そのことしか頭になかった。
「んだ、テメェ離せ」僕は高橋の腰にしがみつき、動きを止める。
「嫌だ」
「いい加減にしろ」脇腹に拳を入れられ、僕は呻く。その隙に僕は投げ飛ばされ、背中を棚に打ち付けてしまう。肺の酸素が抜け落ちた感覚に陥り、僕は息苦しさを覚える。飾ってあるボールやトロフィーが崩れ落ちる音がした。
 僕は呼吸を整えていると、体制を立て直した勇が高橋へ向かい、再び拳を振るった。
 顔面に当たり、高橋が殴り返す。僕も急いで飛びかかり、高橋の動きを止める。高橋は僕を殴り、体を揺する。その繰り返しだ。
「なんなんだよ、お前ら」僕たちの執念に高橋は明らかに怯えを見せ始めていた。
「もう逃げないんだ」僕は殴られ、飛ばされるが、何度も高橋にしがみつき、呟いていた。
「もう、同じことを繰り返さない」勇はそう呟き、何度倒れても高橋に殴りかかる。 
 気がつけば、部室には荷物やボールが散乱していた。
 金谷が呼び出したのだろう。他の一年生の部員や先生二人が駆けつけてきて、僕たちは取り押さえられた。駆けつけた人の中に田中の姿が見えた。彼は「何があったんだ」と呆然としていた。
その後、僕と勇、高橋と金谷は呼び出され、生徒指導を受けた。僕たちは反省文と二週間の部活動停止を命じられ、勇は部活動見学の停止が言い渡された。
 当然、保護者にも連絡が行き渡り、僕は母親から「どうして話をしてくれなかったの?」と涙ながらに訴えられた時には胸が痛んだ。
 そして「一人で頑張ったのね」と言われた時には僕は子供のように泣きじゃくった。決壊したダムのように涙が止まらない。限界だったのだ。両手で目を擦り、必死で涙を拭い、「ごめんなさい、心配かけて、ごめんなさい」と何度も何度も謝り続けた。