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7話

ー/ー



次の日、昼休みの教室では相変わらず、勇の周囲には人が集まっていた。しかし、一日経過したからなのか、人数は少し減っているように思える。僕は授業の準備をしながら、その光景を眺めていた。

 すると最前列に座る金谷がトイレに行くためなのか立ち上がり、廊下へ出るのを僕は見た。

 気づいたのだろう。勇も立ち上がると、手を合わせ「ごめん、ちょっとトイレ」と言い、廊下へ出ようとした。
「俺も行くよ」と一人の生徒がついていこうとしたが勇は「大きい方なんだよ。臭いから来るな」と両手を払い(おど)けた様子を見せる。

 彼らは笑って勇を見送る様子を見て僕は彼の煙に巻く能力に感心していた。断るが誰も不快にせず、笑いに変えるのは簡単なことではない。場の空気を読みながらも安請け合いはしない。勇が転向する中で身につけたの処世術なのだろうか。
 
 次の日、勇の周りには嘘のように人がいなくなっており驚いた。想像以上の効果である。僕は帰り道での会話を思い返す。
 
「人は自分が信じたい情報を信じるんだ」
 僕が勇と帰宅した時だ。彼はそう言った。

「どういうこと?」と僕は質問をする。

 勇は「例えば、好きな芸能人にあるニュースが流れるんだ」と言い、「まあありがちだけど」と前置きをした上で「一つは『不倫が判明した』というニュースで、もう一つは『芸能人と不倫関係が疑われている女性が否定した』というニュースだ」と説明した。

「透はどちらを信じる?」と勇は質問をしてくる。

「うーんどっちだろうか」僕は悩んだ。

「質問を変えよう。どちらを人に話したい?」

「それだったら『不倫が判明した』ニュースかな」

「どうしてだ?」

「そりゃ、不倫が判明したショックを共有できるし、話が盛り上がりそうじゃないか」

「否定したニュースは?」

「うーん、真意は当人達にしか分からないし、『どちらでもいいじゃん』となりそうだから、あまり話したくはならないかな」

「結局はそうなんだよ。面白くて盛り上がりそうな内容、つまりその人にとって都合が良くて、信じたい情報を信じるんだ」

「なるほど」と頷き、はたと気づく。「ということはその傷はこれまでの学校でのケンカとかそういうことでできた傷というわけではないのかい?」

「そうだね。半分正解で半分ハズレかな」と言い「この傷は父親とケンカした時にできた傷さ」というので驚いた。

 僕には父親はいない。物心つく前に事故死をしてしまったと母から聞かれている。その後、母は女手一つで僕を育ててくれて、感謝が尽きない。

 だからこそ心配はかけたくはなく、、今の状況は話してはいないのだ。一般の父親像を知らないが、息子と縫合傷が出るほどのケンカをするようなケースは非常に稀なのではないだろうか。

「それは、大変だったね」予想外の答えに僕は返答に困り、ありきたりな相槌を打った。

「まあ、でも今の関係はそれなりに良好(りょうこう)さ」と勇は気にかけていない様子だ。
 
 何はともあれ、この状況を見ると、確かに人は情報に流されやすいのだなと僕は実感する。
 クラスメイトの声が聞こえてくる。「あいつ、前の学校で喧嘩をしたんだって?」「頭に縫合傷がついているらしい」「中途半端は時期に来ておかしいと思っていたんだ」言いたい放題のようだ。

「透、ちょっといいか?」田中から、呼び掛けられた。「ああ、いいよ」と僕は答えると、田中が廊下へと歩き出すので僕もついて行く。

「転校生、勇って奴、前の学校で問題を起こしたんだって?」田中は教室に目を向けながら呟いた。

「うーん、まぁそうみたいなんだ」僕は曖昧に答えるしかない。勇は父親と喧嘩をした時にできた傷だということ、つまり『本当の傷の理由を話さないで置いてくれ』と懇願されていたからだ。

「なんだよ?煮えたぎらないな」田中が訝しむ。

「この間、一緒に帰る機会があったんだけど、その時に聞いたんだ。勇は三回も転校を繰り返しているらしいんだ。だから、何があっても不思議じゃないなって」僕自身、勇と話す機会がなかったら、他のクラスメイトと同じように、憶測で噂を広めていただろう。
 少なくとも、今の僕は勇本人から過去を聞かない限りは信じることにした。どうも悪い人には思えないのだ。

「そうなのか」田中は目を丸くする。「そりゃ、グレても仕方がないなぁ」と頷いている。

「あ、このことは内緒にしておいてくれ」勇自身も勝手に過去を話されるのは嫌だろう。田中に話したのは勇と気が合いそうだと思ったからだ。

「わかったよ」田中は頷き、「透、最近変わったよな」と言ってきた。

「え?どんな風に?」

「うーん、人の目を見るようになったし、自分の意見をはっきりと口にするようになった」

「それはつまり?」

「前はオドオドしていて、自信がなさそうに振舞っていたってことだ」

 僕は苦笑いしてしまう。確かに勇から「舐められたら終わり」という言葉を聞いてから、小さくても変わっている自分を感じていた。

「ただ、無理はするなよ」田中は心配そうな目を向けてくる。

「ああ、大丈夫だよ」
 授業の予鈴が鳴り、僕達は教室へと戻ることにする。


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次の日、昼休みの教室では相変わらず、勇の周囲には人が集まっていた。しかし、一日経過したからなのか、人数は少し減っているように思える。僕は授業の準備をしながら、その光景を眺めていた。
 すると最前列に座る金谷がトイレに行くためなのか立ち上がり、廊下へ出るのを僕は見た。
 気づいたのだろう。勇も立ち上がると、手を合わせ「ごめん、ちょっとトイレ」と言い、廊下へ出ようとした。
「俺も行くよ」と一人の生徒がついていこうとしたが勇は「大きい方なんだよ。臭いから来るな」と両手を払い|戯《おど》けた様子を見せる。
 彼らは笑って勇を見送る様子を見て僕は彼の煙に巻く能力に感心していた。断るが誰も不快にせず、笑いに変えるのは簡単なことではない。場の空気を読みながらも安請け合いはしない。勇が転向する中で身につけたの処世術なのだろうか。
 次の日、勇の周りには嘘のように人がいなくなっており驚いた。想像以上の効果である。僕は帰り道での会話を思い返す。
「人は自分が信じたい情報を信じるんだ」
 僕が勇と帰宅した時だ。彼はそう言った。
「どういうこと?」と僕は質問をする。
 勇は「例えば、好きな芸能人にあるニュースが流れるんだ」と言い、「まあありがちだけど」と前置きをした上で「一つは『不倫が判明した』というニュースで、もう一つは『芸能人と不倫関係が疑われている女性が否定した』というニュースだ」と説明した。
「透はどちらを信じる?」と勇は質問をしてくる。
「うーんどっちだろうか」僕は悩んだ。
「質問を変えよう。どちらを人に話したい?」
「それだったら『不倫が判明した』ニュースかな」
「どうしてだ?」
「そりゃ、不倫が判明したショックを共有できるし、話が盛り上がりそうじゃないか」
「否定したニュースは?」
「うーん、真意は当人達にしか分からないし、『どちらでもいいじゃん』となりそうだから、あまり話したくはならないかな」
「結局はそうなんだよ。面白くて盛り上がりそうな内容、つまりその人にとって都合が良くて、信じたい情報を信じるんだ」
「なるほど」と頷き、はたと気づく。「ということはその傷はこれまでの学校でのケンカとかそういうことでできた傷というわけではないのかい?」
「そうだね。半分正解で半分ハズレかな」と言い「この傷は父親とケンカした時にできた傷さ」というので驚いた。
 僕には父親はいない。物心つく前に事故死をしてしまったと母から聞かれている。その後、母は女手一つで僕を育ててくれて、感謝が尽きない。
 だからこそ心配はかけたくはなく、、今の状況は話してはいないのだ。一般の父親像を知らないが、息子と縫合傷が出るほどのケンカをするようなケースは非常に稀なのではないだろうか。
「それは、大変だったね」予想外の答えに僕は返答に困り、ありきたりな相槌を打った。
「まあ、でも今の関係はそれなりに|良好《りょうこう》さ」と勇は気にかけていない様子だ。
 何はともあれ、この状況を見ると、確かに人は情報に流されやすいのだなと僕は実感する。
 クラスメイトの声が聞こえてくる。「あいつ、前の学校で喧嘩をしたんだって?」「頭に縫合傷がついているらしい」「中途半端は時期に来ておかしいと思っていたんだ」言いたい放題のようだ。
「透、ちょっといいか?」田中から、呼び掛けられた。「ああ、いいよ」と僕は答えると、田中が廊下へと歩き出すので僕もついて行く。
「転校生、勇って奴、前の学校で問題を起こしたんだって?」田中は教室に目を向けながら呟いた。
「うーん、まぁそうみたいなんだ」僕は曖昧に答えるしかない。勇は父親と喧嘩をした時にできた傷だということ、つまり『本当の傷の理由を話さないで置いてくれ』と懇願されていたからだ。
「なんだよ?煮えたぎらないな」田中が訝しむ。
「この間、一緒に帰る機会があったんだけど、その時に聞いたんだ。勇は三回も転校を繰り返しているらしいんだ。だから、何があっても不思議じゃないなって」僕自身、勇と話す機会がなかったら、他のクラスメイトと同じように、憶測で噂を広めていただろう。
 少なくとも、今の僕は勇本人から過去を聞かない限りは信じることにした。どうも悪い人には思えないのだ。
「そうなのか」田中は目を丸くする。「そりゃ、グレても仕方がないなぁ」と頷いている。
「あ、このことは内緒にしておいてくれ」勇自身も勝手に過去を話されるのは嫌だろう。田中に話したのは勇と気が合いそうだと思ったからだ。
「わかったよ」田中は頷き、「透、最近変わったよな」と言ってきた。
「え?どんな風に?」
「うーん、人の目を見るようになったし、自分の意見をはっきりと口にするようになった」
「それはつまり?」
「前はオドオドしていて、自信がなさそうに振舞っていたってことだ」
 僕は苦笑いしてしまう。確かに勇から「舐められたら終わり」という言葉を聞いてから、小さくても変わっている自分を感じていた。
「ただ、無理はするなよ」田中は心配そうな目を向けてくる。
「ああ、大丈夫だよ」
 授業の予鈴が鳴り、僕達は教室へと戻ることにする。