4話
ー/ー
放課後になった。クラスメイト達はそれぞれ部活動に行く準備のために慌ただしく動く時間帯だ。
「透、今日は部活に遅れるなよ」高橋が席に近づき、声をかけてくる。友人の優しい言葉にも聞こえるが、手はポケットに入り、嗜虐的な笑みが張り付いている。
「遅れたらどうなってるか分かってるよな?」と金谷も意地の悪い笑みを浮かべ近づいてきた。おまけに僕の机を膝で軽く動かした。
僕は反射的に身体をびくっと動かし、今にも綻びそうな表情を浮かべ「あぁ遅れないようにするよ」と答えた。
「じゃあまた後でな」と二人は教室を後にした。僕は少し時間を置いてから教室を出た。
予感はしていたが、靴が再び消えていた。芸のない、と呆れながらも辛いものは辛い。今頃彼らは困った僕の姿を想像して笑っているのだろう。
僕は自分の下駄箱の前で立ち尽くしていると「この靴、君の?」と声をかけられた。僕は驚いて横を向く。
転校生、坂谷勇だ。彼の右手には僕の靴がある。
「坂谷君、ありがとう」面と向かって話すのは初めてだ。少々緊張しながらも、僕はお礼を言い靴を受け取ろうとするが、勇は右手を軽く上げたため受け取れない。
「勇」
「え?」
「勇、下の名前で呼んでくれよ」
「あ、ああ、ありがとう。勇」
勇は満足した表情を浮かべ、靴を渡してくる。「君は透君だっけ?」と尋ねてくる。
「うん、僕は遠山勇、よろしくね」と僕は答えながらも、勘付いてしまったかと内心穏やかではない。外靴がトイレにあるのは明らかに不自然だ。勇の表情や出方を伺いながら、「この靴はどこに?」と尋ねた。
勇は僕の靴に目をやりながら「そこのトイレに」と背後のトイレの扉に指を向けた。「そこにあったのか」と僕は言い、「今日の朝は急いで、トイレに駆け込んだからね、上履きを履いて、外靴を持ちながらトイレに行ったのかもしれない。僕は抜けてるからさ」と一息で捲し立てた。我ながら苦しすぎる言い訳だ。
勇は僕の目をじっと見つめてくる。僕は思わず目を逸らしたくなるが、必死に見つめ返した。逆に怪しまれるだろうか。
「いや、その理由は無理があるんじゃないか?」と勇は苦笑いをし、「見たんだよ」と続けた。「転校初日だからね。担任と職員室で話をしていたんだ。その帰りに、金谷と高橋がこそこそと透の靴を持ち出すのを目にしたんだ」と状況を説明する。
僕が「高橋達は勇がいたことには気づかなかったのかい?」と尋ねると、「彼らは急いでいたからね、俺が近くいたことには気づかなかったみたいだ」と答えた。
「そうだったのか」と僕は答えたが、何を話せば良いのか言葉に詰まってしまう。勇も何から尋ねるべきか迷っているように思える。
互いが出方を伺うかたちとなり、沈黙が続いている。先に口火を切ったのは勇だった。
「初対面の透に失礼な質問だと思うけれど」と前置きを置いた上で「高橋と金谷からいじめを受けているのか?」と単刀直入に聞いてきた。その目は真っ直ぐ僕を見つめていて、真剣そのものだ。
僕はその目に圧され、話すべきかと悩んだが、関係が浅く人柄も掴めていない、ましてや転校したばかりの人に巻き込むのは気が引けたため、「そんなことないよ。ちょっとした悪ふざけさ。大丈夫」と答えた。
これだけでは怪しまれると思い「二人とは小学生の頃から一緒なんだから」と付け足したが、過去の思い出が頭に浮かび、胸が痛んだ。
勇はそれ以上の深入りは諦めたのか、「そうか。変なこと聞いてごめんな」と頭を下げ、「人の事情に首を突っ込もうとするのは俺の悪い癖なんだ」と打ち明けてきた。
人に頭を下げる機会は数知れず、下げられる機会なんて滅多にない。僕は慌てて「頭を上げてくれ」と言い、周りを見渡した。この姿を誰かに見られたらどんな噂を立てられるか分かったものではない。気がつくと「そうだ、部活見学をするんだろ?バスケ部に見にきてくれよ」と口に出していた。
勇は顔を上げ「いいのか?」と嬉しそうな表情を浮かべたが、その後にバツの悪そうな表情に変わり、「悪いけど、サッカー部を見学行く先約があった」と思い出し、「バスケ部へは遅くなるかもしれないけど大丈夫か?」と尋ねてきた。
勇は正義感が強い人間なのだろうか。取り繕わず、単刀直入に質問をし、過ちを認め、頭を下げる。その律儀な姿を見ているだけでも裏表のない人柄というものは伝わってくる。
「もちろん。いつでも来てくれよ」と僕は頷き、体育館へと向かった。
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
おすすめ作品を読み込み中です…
この作品と似た作品
似た傾向の作品は見つかりませんでした。
この作品を読んだ人が読んでいる作品
読者の傾向からおすすめできる作品がありませんでした。
おすすめ作品は現在準備中です。
おすすめ作品の取得に失敗しました。時間をおいて再度お試しください。
放課後になった。クラスメイト達はそれぞれ部活動に行く準備のために慌ただしく動く時間帯だ。
「透、今日は部活に遅れるなよ」高橋が席に近づき、声をかけてくる。友人の優しい言葉にも聞こえるが、手はポケットに入り、嗜虐的な笑みが張り付いている。
「遅れたらどうなってるか分かってるよな?」と金谷も意地の悪い笑みを浮かべ近づいてきた。おまけに僕の机を膝で軽く動かした。
僕は反射的に身体をびくっと動かし、今にも綻びそうな表情を浮かべ「あぁ遅れないようにするよ」と答えた。
「じゃあまた後でな」と二人は教室を後にした。僕は少し時間を置いてから教室を出た。
予感はしていたが、靴が再び消えていた。芸のない、と呆れながらも辛いものは辛い。今頃彼らは困った僕の姿を想像して笑っているのだろう。
僕は自分の下駄箱の前で立ち尽くしていると「この靴、君の?」と声をかけられた。僕は驚いて横を向く。
転校生、坂谷勇だ。彼の右手には僕の靴がある。
「坂谷君、ありがとう」面と向かって話すのは初めてだ。少々緊張しながらも、僕はお礼を言い靴を受け取ろうとするが、勇は右手を軽く上げたため受け取れない。
「勇」
「え?」
「勇、下の名前で呼んでくれよ」
「あ、ああ、ありがとう。勇」
勇は満足した表情を浮かべ、靴を渡してくる。「君は透君だっけ?」と尋ねてくる。
「うん、僕は|遠山勇《とおやまとおる》、よろしくね」と僕は答えながらも、勘付いてしまったかと内心穏やかではない。外靴がトイレにあるのは明らかに不自然だ。勇の表情や出方を伺いながら、「この靴はどこに?」と尋ねた。
勇は僕の靴に目をやりながら「そこのトイレに」と背後のトイレの扉に指を向けた。「そこにあったのか」と僕は言い、「今日の朝は急いで、トイレに駆け込んだからね、上履きを履いて、外靴を持ちながらトイレに行ったのかもしれない。僕は抜けてるからさ」と一息で捲し立てた。我ながら苦しすぎる言い訳だ。
勇は僕の目をじっと見つめてくる。僕は思わず目を逸らしたくなるが、必死に見つめ返した。逆に怪しまれるだろうか。
「いや、その理由は無理があるんじゃないか?」と勇は苦笑いをし、「見たんだよ」と続けた。「転校初日だからね。担任と職員室で話をしていたんだ。その帰りに、金谷と高橋がこそこそと透の靴を持ち出すのを目にしたんだ」と状況を説明する。
僕が「高橋達は勇がいたことには気づかなかったのかい?」と尋ねると、「彼らは急いでいたからね、俺が近くいたことには気づかなかったみたいだ」と答えた。
「そうだったのか」と僕は答えたが、何を話せば良いのか言葉に詰まってしまう。勇も何から尋ねるべきか迷っているように思える。
互いが出方を伺うかたちとなり、沈黙が続いている。先に口火を切ったのは勇だった。
「初対面の透に失礼な質問だと思うけれど」と前置きを置いた上で「高橋と金谷からいじめを受けているのか?」と単刀直入に聞いてきた。その目は真っ直ぐ僕を見つめていて、真剣そのものだ。
僕はその目に圧され、話すべきかと悩んだが、関係が浅く人柄も掴めていない、ましてや転校したばかりの人に巻き込むのは気が引けたため、「そんなことないよ。ちょっとした悪ふざけさ。大丈夫」と答えた。
これだけでは怪しまれると思い「二人とは小学生の頃から一緒なんだから」と付け足したが、過去の思い出が頭に浮かび、胸が痛んだ。
勇はそれ以上の深入りは諦めたのか、「そうか。変なこと聞いてごめんな」と頭を下げ、「人の事情に首を突っ込もうとするのは俺の悪い癖なんだ」と打ち明けてきた。
人に頭を下げる機会は数知れず、下げられる機会なんて滅多にない。僕は慌てて「頭を上げてくれ」と言い、周りを見渡した。この姿を誰かに見られたらどんな噂を立てられるか分かったものではない。気がつくと「そうだ、部活見学をするんだろ?バスケ部に見にきてくれよ」と口に出していた。
勇は顔を上げ「いいのか?」と嬉しそうな表情を浮かべたが、その後にバツの悪そうな表情に変わり、「悪いけど、サッカー部を見学行く先約があった」と思い出し、「バスケ部へは遅くなるかもしれないけど大丈夫か?」と尋ねてきた。
勇は正義感が強い人間なのだろうか。取り繕わず、単刀直入に質問をし、過ちを認め、頭を下げる。その律儀な姿を見ているだけでも裏表のない人柄というものは伝わってくる。
「もちろん。いつでも来てくれよ」と僕は頷き、体育館へと向かった。