3話
ー/ー
「近いうちに転校生が来るらしいぜ」走って教室に入るや否や、話好きの金谷がクラスメイトに大声でそう伝えた。
朝のホームルームが始まるまでの時間だ。それぞれのグループで会話をする生徒、机に突っ伏して寝る生徒、授業の準備をする生徒、それらが注目して金谷を見た。ちなみに僕は机に突っ伏していた。
「金谷、それは本当の話?」学級委員の遠藤翔太が真面目な面持ちで質問をする。
「ああ本当だ。母さんがそう言っていたんだ」と胸を張る。金谷の母親は別な学校で教員をしており、情報が入ってきたのだろう。
「でも今日まで誰もも知らないっておかしくない?」机に教科書の準備をしていた高木亜美が眉を潜める。
「なんか事情があってギリギリになったみたいだよ」
「それって私達に言っていいわけ?」
金谷は「あっ」と両手で口を覆い、「今のは忘れてくれ」と手を合わせて懇願した。
忘れることなどできるはずがなく、突然の転校生にクラスメイトは驚きと興奮を隠せない。もちろん僕も例外ではない。どんな人が来るのだろう、と心を踊らせた。
「坂谷勇です。親の転勤で引っ越してきました。よろしくお願いします」
それから数日が経ち、七月に入りかける中途半端な時期に坂谷勇は転校してきた。
中肉中背な体型で、平均身長の僕より少し低いくらいだろうか。さっぱりとした短髪で爽やかなスポーツマン然とした雰囲気を醸し出している。
クラスメイト達が不思議そうな表情で転校生を見ている。どんな人なのか品定めをしているのだろう。
「前はどこに住んでたの?」持ち前の素直さで金谷が質問をする。「あ、俺金谷ね」と名乗るのも忘れていない。
「金谷君、よろしく」と前置きした上で「東京に住んでいました」と答えた。
僕を含むクラスメイト達は驚いた。僕の住む街はショッピングモールができるだけでも大騒ぎになるような田舎なのだ。まさか、そのような都会から来るとは思っていなかったのである。
「部活は何に入るの?」高橋が質問する。
「まだ決めてません。数日間見学してから決めようと思います」と勇は丁寧に答えた。
いくつかの質問に答えた後、勇は指定された席についた。後ろの窓際に座る私からは正反対。廊下側だ。
案の定というべきか、休み時間に勇はクラスメイトから質問責めにあっていた。
僕も勇のところへ行きたかったが、高橋と、金谷がいたため、辞めた。僕は部活以外で二人と関わるのを避けるようになった。小学生の頃には気兼ねなく遊んでいたはずなのにどうしてこうなってしまったのだろう。
「透、トイレ行こうぜ」と田中康明から声をかけられ、僕は顔を上げる。田中とは小学校の頃から気の合う友人でよくお互いの家に遊びに行く仲なのだ。僕の家にはゲームがないので、よく遊びに行っては、惨敗し唇を噛み締めている。僕は席を立ち、田中とトイレへ向かう。
用を足し、手を洗っていると、田中は「透、最近大丈夫か?」と心配してきた。
田中は僕が今置かれている状況を知っている。彼らと同じ教室にいるのは気が揉んでしまうと察しての行動だろうか。温厚な田中なりの優しさが伝わってくる。
僕は、靴が隠されたこと、それによって「遅刻だ」と難癖をつけてきたことを話した。 田中は目を三角にし「あいつら、アホじゃないのか?」とまくしたて「練習後に時間あったら自主練習でもしてろ」と吐き捨てた。
その姿を見ていると、もし田中がいなかったら、と僕は考える。もしかしたら不登校になっていたのかもしれない。何かが解決しなくとも、話を親身に聴き、感情に寄り添ってくれる人がいるだけでも励みになるものだ。僕は嬉しくなり「ありがとう」と口に出していた。
田中は目を丸くし「いや、感謝されるほどのことはしてないよ」と首を振る。「むしろごめんよ。本当は俺がガツンと言ったり、腕っぷしで言うことを聞かせられればいいんだけどな」と申し訳なさを浮かべた。
田中は普段から温厚で人前に出るタイプではない。だからといって不貞腐れて何もしないのではなく、自分なりにできることを探し、実行する姿に私は勇気づけられている。田中がいたから、僕は部活に通い続けることができているのだ。
「話を聞いてくれるだけでもずいぶん助かってるよ」そう伝えると「そうか」と田中は表情を和らげた。
僕は照れ臭くなり「そういえば」と口に出していた。「この間、田中の母親がスーパー行くときにすれ違ったぞ『いつも遊びに来てくれてありがとね』ってお礼を言われたよ」
「まじか」田中は眉を潜め「クラスメイトに声をかけるなって言ってるのに」と頭を掻いた。
田中の母親が自転車でスーパーへ買い物へ行くのはこの街の名物だ。それは色々なクラスメイトに声をかけるからだ。その度に息子である田中は頭を抱えているのだ。
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
おすすめ作品を読み込み中です…
この作品と似た作品
似た傾向の作品は見つかりませんでした。
この作品を読んだ人が読んでいる作品
読者の傾向からおすすめできる作品がありませんでした。
おすすめ作品は現在準備中です。
おすすめ作品の取得に失敗しました。時間をおいて再度お試しください。
「近いうちに転校生が来るらしいぜ」走って教室に入るや否や、話好きの金谷がクラスメイトに大声でそう伝えた。
朝のホームルームが始まるまでの時間だ。それぞれのグループで会話をする生徒、机に突っ伏して寝る生徒、授業の準備をする生徒、それらが注目して金谷を見た。ちなみに僕は机に突っ伏していた。
「金谷、それは本当の話?」学級委員の遠藤翔太が真面目な面持ちで質問をする。
「ああ本当だ。母さんがそう言っていたんだ」と胸を張る。金谷の母親は別な学校で教員をしており、情報が入ってきたのだろう。
「でも今日まで誰もも知らないっておかしくない?」机に教科書の準備をしていた高木亜美が眉を潜める。
「なんか事情があってギリギリになったみたいだよ」
「それって私達に言っていいわけ?」
金谷は「あっ」と両手で口を覆い、「今のは忘れてくれ」と手を合わせて懇願した。
忘れることなどできるはずがなく、突然の転校生にクラスメイトは驚きと興奮を隠せない。もちろん僕も例外ではない。どんな人が来るのだろう、と心を踊らせた。
「|坂谷勇《さかたにいさむ》です。親の転勤で引っ越してきました。よろしくお願いします」
それから数日が経ち、七月に入りかける中途半端な時期に坂谷勇は転校してきた。
|中肉中背《ちゅうにくちゅうぜい》な体型で、平均身長の僕より少し低いくらいだろうか。さっぱりとした短髪で爽やかなスポーツマン然とした雰囲気を醸し出している。
クラスメイト達が不思議そうな表情で転校生を見ている。どんな人なのか品定めをしているのだろう。
「前はどこに住んでたの?」持ち前の素直さで金谷が質問をする。「あ、俺金谷ね」と名乗るのも忘れていない。
「金谷君、よろしく」と前置きした上で「東京に住んでいました」と答えた。
僕を含むクラスメイト達は驚いた。僕の住む街はショッピングモールができるだけでも大騒ぎになるような田舎なのだ。まさか、そのような都会から来るとは思っていなかったのである。
「部活は何に入るの?」高橋が質問する。
「まだ決めてません。数日間見学してから決めようと思います」と勇は丁寧に答えた。
いくつかの質問に答えた後、勇は指定された席についた。後ろの窓際に座る私からは正反対。廊下側だ。
案の定というべきか、休み時間に勇はクラスメイトから質問責めにあっていた。
僕も勇のところへ行きたかったが、高橋と、金谷がいたため、辞めた。僕は部活以外で二人と関わるのを避けるようになった。小学生の頃には気兼ねなく遊んでいたはずなのにどうしてこうなってしまったのだろう。
「透、トイレ行こうぜ」と|田中康明《たなかやすあき》から声をかけられ、僕は顔を上げる。田中とは小学校の頃から気の合う友人でよくお互いの家に遊びに行く仲なのだ。僕の家にはゲームがないので、よく遊びに行っては、惨敗し唇を噛み締めている。僕は席を立ち、田中とトイレへ向かう。
用を足し、手を洗っていると、田中は「透、最近大丈夫か?」と心配してきた。
田中は僕が今置かれている状況を知っている。彼らと同じ教室にいるのは気が揉んでしまうと察しての行動だろうか。温厚な田中なりの優しさが伝わってくる。
僕は、靴が隠されたこと、それによって「遅刻だ」と難癖をつけてきたことを話した。 田中は目を三角にし「あいつら、アホじゃないのか?」とまくしたて「練習後に時間あったら自主練習でもしてろ」と吐き捨てた。
その姿を見ていると、もし田中がいなかったら、と僕は考える。もしかしたら不登校になっていたのかもしれない。何かが解決しなくとも、話を親身に聴き、感情に寄り添ってくれる人がいるだけでも励みになるものだ。僕は嬉しくなり「ありがとう」と口に出していた。
田中は目を丸くし「いや、感謝されるほどのことはしてないよ」と首を振る。「むしろごめんよ。本当は俺がガツンと言ったり、腕っぷしで言うことを聞かせられればいいんだけどな」と申し訳なさを浮かべた。
田中は普段から温厚で人前に出るタイプではない。だからといって不貞腐れて何もしないのではなく、自分なりにできることを探し、実行する姿に私は勇気づけられている。田中がいたから、僕は部活に通い続けることができているのだ。
「話を聞いてくれるだけでもずいぶん助かってるよ」そう伝えると「そうか」と田中は表情を和らげた。
僕は照れ臭くなり「そういえば」と口に出していた。「この間、田中の母親がスーパー行くときにすれ違ったぞ『いつも遊びに来てくれてありがとね』ってお礼を言われたよ」
「まじか」田中は眉を潜め「クラスメイトに声をかけるなって言ってるのに」と頭を掻いた。
田中の母親が自転車でスーパーへ買い物へ行くのはこの街の名物だ。それは色々なクラスメイトに声をかけるからだ。その度に息子である田中は頭を抱えているのだ。