2話
ー/ー
ストレスを発散できればなんでもよかったのだろう。彼らは「足を引っ張っている」「練習に来るのが遅い」と理由をつけ、突き飛ばし、身体を殴り、ボールを投げつけた。
僕も初めのうちは「いい加減にしろ」と憤慨し抵抗をしたが、身長と体格が頭ひとつ抜けている高橋にねじ伏せられ、金谷に「やられてんじゃん」と指を刺し、嘲笑されているうちに抵抗する気力が失われていった。
以前、「学習性無力感」をテーマにしたテレビ番組を見たことがある。その内容は。まず二匹の犬を電流の流れる部屋に入れる。一方の部屋には電流が止まるスイッチを用意し、もう一方の部屋には電流が止まらない。前者の犬はスイッチを押すと電流が止まることを学習し、後者の犬は次第に抵抗をしなくなっていく。
その後、柵を飛び越えるだけで脱出が可能な部屋に移したところ、前者の犬は難なく脱出し、後者の犬は何も行動を起こさなかったという実験である。
まさに僕は動かない犬と同じだった。僕に唯一できることといえば、嵐が過ぎ去るのを待つだけだった。
「次は遅れるなよ」高橋と金谷は顔を見合わせ、笑いながら部室を出て行った。
痛む節々に僕は顔をしかめる。「まだダメだ」と自分に言い聞かせ、体育館内のトイレへと僕は向かう。
洗面台に三部丈の体操着を着る僕の姿が映し出される。目立つ傷や痣は見当たらないが、左肩の袖を捲ると内出血を起こしたようで、黒い痣ができていた。触れると余計に痛む。彼らは明るみに出ないよう、他人の目に触れるところへの暴力は振るわない。狡猾だ。もちろん僕への口止めは済んでいるためばれないというわけだ。
腹立たしさ以上に、無抵抗で、嵐が過ぎ去るのを待つしかない自分自身に嫌悪感と不快感、何より情けなさを感じ、蓋をしていたものがこみ上げてくる。蛇口を捻り、何度も顔を洗う。何度も何度も。「自分は顔を洗っているだけだ」と何度も言い聞かせた。
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「次は遅れるなよ」高橋と金谷は顔を見合わせ、笑いながら部室を出て行った。
痛む節々に僕は顔をしかめる。「まだダメだ」と自分に言い聞かせ、体育館内のトイレへと僕は向かう。
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腹立たしさ以上に、無抵抗で、嵐が過ぎ去るのを待つしかない自分自身に嫌悪感と不快感、何より情けなさを感じ、蓋をしていたものがこみ上げてくる。蛇口を捻り、何度も顔を洗う。何度も何度も。「自分は顔を洗っているだけだ」と何度も言い聞かせた。