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1話

ー/ー



身長や体格、声色、どうして人は他人より優れているところがあると、人を虐げ(しいた)、傷つけることに利用するのだろう。
 
「なんで呼び出されたか分かるよな?」高橋将也(たかはしまさや)が僕に顔を近づけてくる。
 部活動終了後、ボールや靴、ジャージなどが散乱している部室に僕は居た。大柄な高橋と、僕より身長が僅かに高い、金谷貴志(かねやたかし)と向き合っている。
 彼らは嗜虐的(しぎゃくてき)な笑みを浮かべ、金谷が「なぁ答えろよ」と僕の左肩を突き飛ばしてくる。
 僕はよろめきつつ、平静を装って「部活の時間に遅れたことだろう?」と答え、「たった一分じゃないか」と言った。
「なんで遅れたんだよ?」高橋は腕を組み、顎を突き出しながら質問をしてくる。その態度と表情は自分が犯人だと伝えているようなものだった。
「靴がなかったんだ」と僕は答える。

 僕の通う学校は昇降口を出て、外靴に履き替えないと体育館には行けないようになっている。放課後、外靴に履き替えようとしたところ、靴が見当たらないのだ。僕はうんざりし、ため息をついてしまう。下駄箱の上や、他の生徒のロッカー、果てはゴミ箱まで探したが、見つからず、近くにある掃除用具入れを開けると無造作に僕の靴が投げられていた。
 
「そんな酷いことをする人がいるのか」と高橋は芝居ががった表情を浮かべ、儀礼的に同情をする。
「君達がやったんじゃないか」と僕は言うが、その声は今にも消え入りそうになっている。「(とおる)は俺達を疑っているのか」金谷は嘆き「俺たちは真っ直ぐ体育館に向かったのに、酷いよな?傷ついたよ」と高橋に目を向けた。

「あぁ傷ついた」高橋は腕を組んだまま頷く。「それじゃあ?」金谷は今か今かと待ち望んだ表情を浮かべている。
「慰謝料の代わりに罰を受けてもらおう」高橋の表情が歪んでいる。
 僕は無力感に苛まれながらも、きっかけを思い出し、溜息をつく。
  
 三年生の先輩が引退をし、新しい世代での部活がスタートする六月半ば。きっかけは貴志の「透って下手くそだよな」という一言だった。
 バスケットボール部に所属した僕は、慣れないながらも、少しずつ成長していく自分にやりがいを見出し、楽しんで活動をしていた。

 フリースローを決まった線から打つ練習中だった。部長の(せき)先輩を含む五人の先輩、高橋、金谷が小気味良い音を立て、シュートを決めたところで僕の順番が回ってきた。軽くドリブルをしながら、顔の前あたりにボールを持ち上げる。左手をボールに軽く添えて、膝を曲げ、右手首のスナップを使いシュートを打つ。

ボールは綺麗な放物線を描く。「軌道はバッチリだ」と僕は一安心したが、ゴールの手前でボールは急降下し、床に弾んで大きな音を立てた。
「透って下手くそだよな」と金谷はため息をついてそう言った。
 金谷は遠慮や配慮という言葉を知らない。思ったことはすぐに口に出すタイプで、度々周囲を困らせる。良く言えば素直だが、悪く言えば空気が読めない。授業中に先生の揚げ足をとり進行を遅らせるなど、クラスメイトも辟易としているのだ。
しかし本人はどこ吹く風と言わんばかりに気にする様子はない。運動神経は万能で部活動でもレギュラーを獲得した。

 彼はそのような性格のため、今回の発言も珍しいものではない。しかし僕が足を引っ張っているのは事実。ボールを回収した後で、部員達の方へ振り返り、「ごめん」と謝り「次は気をつけます」と頭を下げた。
「謝ればそれで終わりなのか?」と高橋が言ってくるため、僕は言葉に詰まってしまう。
 関先輩は見かねたのか「金谷、高橋、言い過ぎだ」と(たしな)め、戻ってきた僕に「気にするな。狙いはよかったんだ。後はしっかり飛ばせれば大丈夫さ」とフォローを入れてくれた。

 僕は「ありがとうございます」と頭を下げ、不甲斐なさや悔しさが入り混じった思いで唇を噛み締めた。「期待に応えよう」次こそはと意気込んだ。
 高橋は「すいません」と言いながらも不満げに唇を突き出している。金谷は露骨に僕を睨んできたため、思わず目を逸らしてしまう。練習は再開されたが、叱られたのが気に食わなかったのだろう。

「鍵返すの忘れるなよ」と先輩たちが部室を後にしたところで、二人は文句を言い始めた。まるで僕はその場にいないと言わんばかりに「本当、下手くそで邪魔だよな」と二人は言い合っていた。他の同級生の部員たちは同意を求められ、曖昧に頷いている。深入りしたくはないのだろう。関係の深くない人から同情をされることほど腹立たしく、辛い事はない。深入りをしないこと。その方が僕には好都合だった。


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身長や体格、声色、どうして人は他人より優れているところがあると、人を|虐げ《しいた》、傷つけることに利用するのだろう。
「なんで呼び出されたか分かるよな?」|高橋将也《たかはしまさや》が僕に顔を近づけてくる。
 部活動終了後、ボールや靴、ジャージなどが散乱している部室に僕は居た。大柄な高橋と、僕より身長が僅かに高い、|金谷貴志《かねやたかし》と向き合っている。
 彼らは|嗜虐的《しぎゃくてき》な笑みを浮かべ、金谷が「なぁ答えろよ」と僕の左肩を突き飛ばしてくる。
 僕はよろめきつつ、平静を装って「部活の時間に遅れたことだろう?」と答え、「たった一分じゃないか」と言った。
「なんで遅れたんだよ?」高橋は腕を組み、顎を突き出しながら質問をしてくる。その態度と表情は自分が犯人だと伝えているようなものだった。
「靴がなかったんだ」と僕は答える。
 僕の通う学校は昇降口を出て、外靴に履き替えないと体育館には行けないようになっている。放課後、外靴に履き替えようとしたところ、靴が見当たらないのだ。僕はうんざりし、ため息をついてしまう。下駄箱の上や、他の生徒のロッカー、果てはゴミ箱まで探したが、見つからず、近くにある掃除用具入れを開けると無造作に僕の靴が投げられていた。
「そんな酷いことをする人がいるのか」と高橋は芝居ががった表情を浮かべ、儀礼的に同情をする。
「君達がやったんじゃないか」と僕は言うが、その声は今にも消え入りそうになっている。「|透《とおる》は俺達を疑っているのか」金谷は嘆き「俺たちは真っ直ぐ体育館に向かったのに、酷いよな?傷ついたよ」と高橋に目を向けた。
「あぁ傷ついた」高橋は腕を組んだまま頷く。「それじゃあ?」金谷は今か今かと待ち望んだ表情を浮かべている。
「慰謝料の代わりに罰を受けてもらおう」高橋の表情が歪んでいる。
 僕は無力感に苛まれながらも、きっかけを思い出し、溜息をつく。
 三年生の先輩が引退をし、新しい世代での部活がスタートする六月半ば。きっかけは貴志の「透って下手くそだよな」という一言だった。
 バスケットボール部に所属した僕は、慣れないながらも、少しずつ成長していく自分にやりがいを見出し、楽しんで活動をしていた。
 フリースローを決まった線から打つ練習中だった。部長の|関《せき》先輩を含む五人の先輩、高橋、金谷が小気味良い音を立て、シュートを決めたところで僕の順番が回ってきた。軽くドリブルをしながら、顔の前あたりにボールを持ち上げる。左手をボールに軽く添えて、膝を曲げ、右手首のスナップを使いシュートを打つ。
ボールは綺麗な放物線を描く。「軌道はバッチリだ」と僕は一安心したが、ゴールの手前でボールは急降下し、床に弾んで大きな音を立てた。
「透って下手くそだよな」と金谷はため息をついてそう言った。
 金谷は遠慮や配慮という言葉を知らない。思ったことはすぐに口に出すタイプで、度々周囲を困らせる。良く言えば素直だが、悪く言えば空気が読めない。授業中に先生の揚げ足をとり進行を遅らせるなど、クラスメイトも辟易としているのだ。
しかし本人はどこ吹く風と言わんばかりに気にする様子はない。運動神経は万能で部活動でもレギュラーを獲得した。
 彼はそのような性格のため、今回の発言も珍しいものではない。しかし僕が足を引っ張っているのは事実。ボールを回収した後で、部員達の方へ振り返り、「ごめん」と謝り「次は気をつけます」と頭を下げた。
「謝ればそれで終わりなのか?」と高橋が言ってくるため、僕は言葉に詰まってしまう。
 関先輩は見かねたのか「金谷、高橋、言い過ぎだ」と嗜《たしな》め、戻ってきた僕に「気にするな。狙いはよかったんだ。後はしっかり飛ばせれば大丈夫さ」とフォローを入れてくれた。
 僕は「ありがとうございます」と頭を下げ、不甲斐なさや悔しさが入り混じった思いで唇を噛み締めた。「期待に応えよう」次こそはと意気込んだ。
 高橋は「すいません」と言いながらも不満げに唇を突き出している。金谷は露骨に僕を睨んできたため、思わず目を逸らしてしまう。練習は再開されたが、叱られたのが気に食わなかったのだろう。
「鍵返すの忘れるなよ」と先輩たちが部室を後にしたところで、二人は文句を言い始めた。まるで僕はその場にいないと言わんばかりに「本当、下手くそで邪魔だよな」と二人は言い合っていた。他の同級生の部員たちは同意を求められ、曖昧に頷いている。深入りしたくはないのだろう。関係の深くない人から同情をされることほど腹立たしく、辛い事はない。深入りをしないこと。その方が僕には好都合だった。